6:覇王、国の闇を知る。
「すべての始まりは、リンドウ様がお亡くなりになったとされた直後です」
「……俺が死んだ後か」
「はい。当時のアルセディアには、王族も貴族も存在しませんでした」
「だろうな」
技神国・アルセディアは、職人や冒険者、上位ランカーを目指す強者たちが集う国だった。
最初は俺が不労所得欲しさに作った場所だ。
それが世界一位を目指す俺に感化された奴らが集まって、やがて国となった。
覇王なんて言われていたが、実際に国を回してくれていたのは、俺を慕ってくれるサポーターたちだった。
『リンドウさんなら、世界一位だって夢じゃないですよ!』
『俺、リンドウさんみたいに強くなりたいっス!』
『国の運営は任せて下さい!世界を獲るだけの不労所得、絶対に作って見せますから!』
『リンドウさんの作る装備、私がレムオン一有名にして見せます!』
遠い昔のことだが、今でも鮮明にあいつらの言葉は思い出せる。
技術者、戦闘職、生産職……。
全員が団結して俺を世界一位まで導いてくれた。
懐かしいなぁ。
俺は自殺しちまったが、あいつらは『レムオン』が終わった後は別ゲーでもやってんのかねぇ……。
元気にしてっかなぁ……。
「で?王族も貴族もどっから生えてきたんだよ」
「それをこれからご説明しますね」
ミラは続ける。
「まず、リンドウ様や、当時の内政官の方々がお亡くなりになったあと、国をまとめ上げるため臨時に設けられたのが『2代目覇王』という統治職です。世界中で高度な技術を持った職人や、SSSランクの冒険者が一斉にお亡くなりになったのもこの時期でしたね」
なるほど、当時のプレイヤーは全員共通で死んだことになってるのか。
「そして、リンドウ様に代わって国を預かる者として、民主的な選挙によって選ばれたのが2代目の覇王様です」
「民主的ねぇ……まぁひとまず続けてくれ」
「はい。2代目様はとてもお優しい方でした。リンドウ様のご意思を継ぎ、教えを守り、この国のために尽くしてくださいました。2代目様は、混乱した国を立て直すため、各地に統治官を派遣し、一時的に大きな権限を与えました。また、ご自身の財産まで投じ、生活に困窮する民を支えたと伝わっています」
「ほぉーん、それでできたのが、今の王家ってことか?」
「いえ、違います」
「え?俺の後継の血筋が王族じゃねぇのか?」
「2代目様は公には病死、ということになっております」
「……つまり?」
「歴史から抹消された事実にはなりますが、2代目様は当時の復興事業によって地方で力を持つようになった統治官たちの手によって……。その……暗殺されています」
「……穏やかじゃねぇな」
「その後、3代目覇王になられた、ギルベルト・ラングレイの一族が、今の王家です」
「ちなみに2代目の治世は何年続いたんだ?」
「2代目様の治世は、およそ20年です。その間に、地方統治官たちは徐々に勢力を拡大していきました」
20年か、ということはその後の100年が重要ってことだな。
「とりあえず分かった。3代目のランなんちゃらが覇王を継いでからのことを教えてくれ」
おそらくここがターニングポイントのはずだ。
2代目暗殺から何かがあって、この国は衰退した。
「3代目覇王であったギルベルト・ラングレイは、国民ではなく、貴族が中心となって国を動かすべきだと仰られました」
おいおい……。これ所謂、エリート主義ってやつだよな?
社会は少数のエリートと多くの無能に分けられ、一部のエリートがその他大勢の無能を導いてやろう、とかいうクソッタレな思想だ。
「それからです。ラングレイ王は、アルセディアに残されていた高度な技術を保護するという名目で、『技術保護令』を制定しました」
「技術を保護する? それの何が悪い」
「当初は、設計図の散逸や技術者の国外流出を防ぐための法律だったと言われています」
「ってことはだ、今は違うんだな?」
「はい。現在、高位の鍛冶技術や魔導技術を学ぶには、王家か貴族の許可が必要です」
「ってぇことはアレか?この法律は技術を守ってるんじゃなく、自分たち貴族以外が強くならないように、知識や技術を秘匿したってことだな?」
「……そのとおりです」
ミラは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「さらに、三代目以降の王家は、国民へ次々と新しい重税を課しました」
ミラが並べた税は、俺のいた世界でいう所得税や住民税、固定資産税、消費税に近いものだった。
働けば、稼いだ金から『収入税』を取られる。
街に住めば『居住税』、家や土地を持てば『所有税』。
品物を売り買いするだけでも『取引税』がかかり、職人が工房を構えるには『工房税』と『営業許可税』まで納めなければならない。
冒険者も例外じゃない。
魔物を倒して報酬を得れば『討伐税』。
素材をギルドへ売れば『素材売却税』。
武器を所有するだけで『武装税』。
街へ入るたびに、俺が門で請求された『通行税』まで取られる。
名前や仕組みだけなら、俺のいた世界にも似たものはあった。
だが、問題はその数と税率だ。
「……待て待て。そんだけ毟り取られて、国民の手元にはどれだけ残るんだ?」
「職業や身分にもよりますが、手元に残るのは、多い方でも収入の半分ほどです」
「多い奴で半分?」
「貧しい方ですと、税を納めるために借金をしなければ生活できません……」
働いても、半分以上を持っていかれる。
足りなければ借りる。
借りた金にも利息がつき、返済できなければさらに借金が増える。
どう考えても、民を豊かにするための税じゃない。
逃げられないように首へ巻きつけた、ただの鎖だ。
♢
はぁ~…なるほどなぁ。色々聞いて、なんとなく話が見えてきたぞ。
俺が『レムオン』のアルセディアにいた頃は、プレイヤー人口も多かったし、かなり軽めの消費税くらいしか設定してなかったんだが……。
思ったよりこの国……腐ってやがる。
俺がげんなりしていても、ミラは話を続けた。
「税を納められなかった国民は、王家や貴族から金を借りることになります」
「返せなかったら?」
ミラは、しばらく答えなかった。
「本人、あるいは家族が、借金の担保となります」
「……はぁ?」
「現在のアルセディアでは、借金を返せない者は『借金奴隷』となり、奴隷商を通じて売買されます」
「なんつーか……ひっどいな」
それ以上の言葉が出てこなかった。
うわぁ……マジかよ。
結構へこむぞこれ……。
「そして借金は、本人が死んでも消えません」
「おいおい、それってまさかとは思うが……」
「子供へ相続されます」
「……マジか」
救いようがない、その一言に尽きる。
政に詳しくない俺でも分かる。
これじゃあ、この国がここまで衰退したのも当然だ。
このまま放っておけば、いずれ本当に滅ぶ。
少しの沈黙の後、ミラが口を開いた。
「冒険者ギルドも、現在は王家の管理下にあります」
「まぁ……これまでの話を聞いてりゃ、そうなんだろうなと思ったよ」
「天鯨に対する救援へ向かった100人は、全員が自ら望んで行ったわけではありません」
「……どういう意味だ?」
「王家からの強制依頼でした。拒否すれば冒険者資格を剥奪され、家族まで処罰されると」
「それで100人を、対抗手段も与えずに送ったってのか?」
「はい」
はぁ………。
重い。重すぎる。何をどう拗らせたらここまでの悪政ができるんだよ……。
「かつてアルセディアは、複数のSSSランクを擁する唯一の国でした」
「当然だろ。世界一位である俺の国だからな」
「ですが現在、アルセディアに所属するSSSランクは一人もいません」
おい、ちょっと待て。なんか嫌な予感がするぞ……。
「現在、この国には三名のSSランク冒険者がいます」
「ほぉ~少しは骨のあるやつもいたもんだ……。で、そいつらはまともなのか?」
「全員が爵位を持ち、王家直属の冒険者です。ですが、その実力以上に、平民に対する酷い横暴で知られています」
「……聞いた俺が馬鹿だったよ」
冒険者までこのザマとは、超大国アルセディアが聞いて呆れるな……。
「それから……もう一つ、申し上げなければならないことがございます」
ミラは言いづらそうにこちらを見る。
明らかに俺がキレそうな案件だ。
「……まだあるのか」
「『恐れるな。前を向け。立ち止まるな。進み続けろ』というリンドウ様が掲げられた鉄の掟は、現在では公に口にすることを禁じられています」
「……は?なんでだよ!?」
「身分を問わず学び、強さを求めるという思想は、現在の秩序を乱す危険思想だと……」
なんてこったい……。久々にキレちまいそうだよ。
頭の血管が何本かぷっつんしそうだ。
「王家は……。その……初代覇王がラングレイ家へ国を託したと教えています」
「託してねぇわ!」
「貴族へ従うことこそ、建国神への忠誠だと……」
「言ってねぇ!!」
「鉄の掟は、若き日の初代覇王が口にした未熟な言葉にすぎないと……」
「よし。そいつら全員ぶん殴りに行こう。今すぐにだ。やつらは全員地獄に叩き落す……!」
「お待ちください!リンドウ様!」
「いーや、待たないね!王族と貴族は全員俺の手で斬首刑で血祭に上げてやるんだ!!!」
「そうではなくて!先立つものはお持ちなのですか?」
「……」
「所持金は?」
「……0G」
「門兵へ立て替えていただいた通行税、20Gの返済もございます」
「今、国家を取り戻す話をしてたんだぞ?」
「無一文のFランク冒険者が、です」
「お前、さっきまで俺に抱きついて泣いてたよな?」
「それとこれとは別です」
そうだったよ、俺ってば今無一文じゃねぇかよ……。
それに通行税の20Gの借金まで……。
「通行税なら、私が立て替えておきます」
しれっとミラが財布を取り出す。
「初代覇王が、助けた子供から金なんか借りられるか!」
「現在は私のほうが、百歳以上年上ですが」
「ややこしいから黙ってろ!!」
♢
応接室には微妙な空気が漂っていた。
初代覇王が無一文なんて、ほんとに笑えねぇ冗談だよ……。
とりあえず、ミラのおかげで少しだけ冷静になれた。
レベル1の俺が王都に殴り込んだところで、一瞬でぷちゅんされて終わりだ。
となると、まずは俺自身の強化が必要だ。
「ミラ。この近くで採れる鉱石と、Fランクでも受けられそうな依頼を教えろ」
「何をなさるおつもりですか……?」
「まずは金を稼ぐ。その次に素材を集める。ついでにレベルを上げる」
指を一本ずつ立てる。
「それから、簡易鍛冶炉と武器を作る」
「鍛冶炉を……ご自身で作られるのですか?」
「ああ。街の外に仮拠点を作って、そこでしばらく鍛えるつもりだ」
「鍛冶場どころか、住居までご自身で作られるおつもりですか?」
「ああ。街の工房を借りる金なんてないからな」
ミラが何とも言えない顔をした。
「国を取り戻す話をしていた方が、街の外で野宿をなさるのですか?」
「うっせぇ、しょうがねぇだろ!金持ってねぇんだから!それにな、国家再建にも順序ってもんがある」
王家はこの手で必ず潰す。
奴隷制度を終わらせる。
奪われた技術を、民の手へ取り戻す。
やるべきことはいくらでもある。
だが、その前に――
「まずは、20Gですね」
「分かってるよ!!」
どうやら俺の異世界生活の第一歩は、通行税20Gの返済から始まるらしい。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これにて『REMNANT RECORD』のプロローグは完結です。
世界一位として、すべてを攻略したはずのリンドウ。
けれど、サービス終了から百二十年が経過したこの世界には、彼の知らない歴史と、読み飛ばしてきた無数の物語が残されています。
次回から、リンドウの新たな冒険が本格的に始まります。
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