56:覇王、龍を狩り続ける
『武極の闘場』を離れてからも、しばらく禍津武のことが頭から離れなかった。
何度倒しても立ち上がり、何度でも俺の前へ戻ってきた男。
ゲーム時代には、ただ戦っていて楽しいボスだった。
攻撃パターンを覚え、対策を組み、倒したあとはドロップ欄を見る。
目当ての『武神の魂』がなければ、また挑む。
――それだけだった。
まさかあいつが、戦うたびに俺を覚えていたなんて思いもしなかったし、0.02%という数字の向こう側に、あんな意味が隠されていたとも知らなかった。
インベントリを開く。
収納された素材の一覧、その中に一つだけ異質な名前がある。
『武神の魂』。
「……ちゃんと、使うからな」
独り言をこぼして、表示を閉じた。
感傷に浸るために『最果ての夢跡』まで来たわけじゃない。
『ドライ』に必要な素材は、残り一つ。
星骸鉄。
これさえ手に入れば、最低限の目的は達成できる。
「次、行くか……」
向かう先は、『龍骸晶窟』。
禍津武との戦いとは、また違う意味で面倒な場所だった。
♢
武極の闘場から龍骸晶窟までは、徒歩で半日ほど。
途中、地下森林の外縁を通り抜ける必要がある。
数百メートルはありそうな巨木が地下空間を覆い尽くし、葉の代わりに淡い青色の結晶を実らせている。
天井は見えない。
どこから光が差しているのかも分からない。
だが、森の中は夜明け前くらいの明るさが保たれていた。
「ここも、ちゃんと見れば変な場所だよな」
ゲーム時代は敵の配置しか見ていなかった。
右側から毒を吐く植物が三体。
倒木を越えた先に隠し採集ポイント。
左へ進めば近道。
頭に入っているのは、そんな情報ばかりだ。
今改めて眺めてみれば、そもそも地下でどうしてこれだけの森林が成立しているのか分からない。
青白く光る植物の間を抜けると、巨大な足跡が地面へ残っていた。
「ドラゴンじゃないな」
形が違う。
何が歩いた跡なのかは知らない。
このダンジョンには、俺が一度も関わらなかった区域がいくつもある。
昔なら気にも留めなかった。
だが、今は少し気になる。
「……帰るまでに時間あったら――」
そこで、ミラの顔が頭に浮かんだ。
『必要以上の寄り道は禁止です』
「……やめとこ」
珍しく自制した。
――少なくとも今は。
◇
地下森林を抜ける頃には、空気に鉄臭さが混じり始めていた。
岩壁の色も変わる。
黒、銀、赤、紫。
自然に形成されたものとは思えないほど、何種類もの鉱石が地層を作っていた。
その先に、大きく口を開けた洞窟がある。
入口だけで、高さは王城の門を軽く超える。
天井から伸びた巨大な結晶柱には、古い文字が刻まれていた。
『龍骸晶窟』
『推奨Lv:96~』
「九十六か……」
神鉄鉱脈より、少し高い。
もっとも、問題はレベルじゃない。
俺はフィーアを背負い直し、晶窟へ足を踏み入れた。
内部は想像以上に広かった。
巨大な空洞がいくつも繋がり、その壁という壁から鉱石が露出している。
足元には結晶、天井にも結晶。
洞窟の奥では、何か巨大な生き物が岩を噛み砕く音が響いていた。
ゴリ、ゴリ……と。嫌な音だ。
「……いたな」
奥へ進むと、巨大な背中が見えた。
四足、翼、長い尾。
姿だけなら、典型的な竜。
ただし、鱗はない。
身体を覆っているのは、金属だった。
鈍い銀色の外殻。
翼膜にあたる部分まで薄い鉱物結晶でできている。
頭部には、鉱石の塊みたいな角が何本も生えていた。
『マテリアルドラゴン』
『Lv97』
『構成鉱物:ミスリル』
「ミスリル個体か……」
マテリアルドラゴン。
こいつらは、この晶窟に存在する鉱石を食べる。
そして体内へ取り込んだ鉱物を、自分の肉体へ変換する。
ミスリルを多く食えばミスリル個体。
アダマンタイトならアダマンタイト個体。
オリハルコンを取り込み続けた個体なら、身体の一部がオリハルコンへ変わる。
だから、倒せばその身体を構成していた鉱石が落ちる。
「ただ、ヒヒイロカネは別なんだけどな」
ゲーム時代にも検証された。
何千体、何万体。
マテリアルドラゴンを倒しても、神鋼・ヒヒイロカネだけは絶対に落ちない。
あれは、この晶窟で生成される金属じゃない。
『神鉄鉱脈』そのものが極低確率で変異したときにだけ生まれる。
だから、この場所で狙うのは別物。
「星骸鉄」
マテリアルドラゴンがこちらに気づいた。
太い首を持ち上げ、口を開く。
喉の奥から、青白い光が漏れる。
「はいはいっと!」
魔力砲だ。
直線的なレーザーを、横へ避ける。
光が、背後の岩壁を吹き飛ばした。
「素材が傷むだろうが!」
俺の文句が分かるはずもない。
ドラゴンが翼を広げる。
巨大な身体が洞窟内とは思えない速度で加速した。
「フィーア!」
ぶん投げる。
巨投剣が、ドラゴンの左翼へ着弾した。
しかし、金属の翼が閉じる。
刃が弾かれた。
「ミスリル主体でも、この硬さか」
んなら、狙う場所を変える!
フィーアを転移させ手元へ。
ドラゴンの突進を直前で避ける。
すれ違う瞬間に狙う。
首の付け根、金属板同士の僅かな隙間。
「ここ!」
深く斬る。
ドラゴンが咆哮する。
迫りくる尾を、フィーアを盾代わりにして弾く。
衝撃で身体が数メートル飛ばされる。
「重いな……」
着地には成功、なんとか姿勢制御が間に合った。
ドラゴンが振り返る。
俺はもう一度踏み込んだ。
今度はフィーアを使わない。
ツヴァイだ。二本を装甲の隙間へ。
一撃、二撃と叩き込み、傷を広げる。
そこへフィーアを無理やり転移させる。
首元の傷へ直接ぶち込んでやる。
「終わりだ」
刃が魔力核まで届いた。
ドラゴンの身体が大きく震える。
銀色の巨体が崩れ、光へ変わった。
地面へ大量の鉱石が落ちる。
『高純度ミスリル』×18
『魔銀』×4
『龍晶核』×1
『ミスリル龍骨片』×7
「違うんだよなぁ……」
全部インベンリへ放り込む。
「次だ……!」
♢
十五日目。
龍骸晶窟へ籠もってから何体目だったか。
もう、数えるのをやめた。
目の前の金色のマテリアルドラゴンが、光へ変わる。
『オリハルコン』×11
『金龍晶』×2
『高密度魔石』×6
「はぁ……」
サクッと回収。
普通なら、これだけで一国の財政が動いてもおかしくない。
オリハルコン――伝説級武器に使われる素材だ。
それが十一個。
「使うけど、今欲しいのはそれじゃねぇんだわな……」
インベントリへ全部放り込む。
次の気配が来る。
振り返ると、今度はアダマンタイト個体。
「お前かぁ……」
硬いやつでかなり面倒だ。
でも、戦い方はもう分かっている。
頭を下げて突進してくるのを回避。
翼は切らない。
腹は最も薄い場所だ。
そこにフィーアを転移でねじ込み核を破壊する。
これで終了。
「はい、おしまい」
『アダマンタイト』×9
『硬龍角』×3
『重晶核』×1
「違ぇんだよなぁ……」
拾ってから、次の個体を探す。
まるで、神鉄鉱脈にいた頃へ戻ったみたいだった。
ただ、今度は槌ではなくドラゴンを倒している。
♢
その日の夜、通信魔道具を起動した。
『ちゃんと食べてる?』
第一声が、もう恒例になっている。
「食べてるよ」
『どうせあれでしょ?』
「保存食」
『また?』
「日持ちするから」
『それ、この前も聞いたわ……』
「他に何食えばいいんだよ」
『ドラゴンとか?』
「食えると思うんか?」
『食材の祠なら食べられたじゃない』
「あれ基準にすんな」
ザフィラが笑う。
『素材は?』
「まだ揃っちゃいねぇよ、嫌味か?」
『ヒヒイロカネは取れたんでしょ?』
「まぁ」
『武神の魂も』
「……あぁ」
少し、声が変わったらしい。
自覚はある。
『……まだ気にしてるの?』
「別に……」
『嘘ね』
「……ちょっとだけ、な」
禍津武。
あいつは、満足して消えた。
だから……悲しいってのとは違う。
でも、俺が何度も戦った相手が。
もうあの闘場へ行ってもいない。
それは、少しだけ変な感じがする。
『……いい人だった?』
「どうだろうなぁ」
『分からないの?』
「ほぼ殴り合ってただけだからな」
『それで名前まで教えてもらったんでしょ?』
「男同士って、そういうもんじゃね?」
『知らないわよ』
「俺も知らん」
少しだけ笑う。
『星骸鉄が出たら、帰ってくる?』
「ああ、帰るよ」
まだ、このときはそう答えていた。
『じゃあ、早く出るといいわね』
「そうだな」
『ちゃんと寝てよ?』
「ああ」
『怪我しないで』
「善処しよう」
『善処じゃなくて、しないで』
「無茶言うなよ」
『あなたならできるでしょ?』
「嫌な信用のされ方だな」
『……待ってるから』
「……分かった」
『おやすみ、リンドウ』
「あぁ、おやすみ。ザフィラ」
通信が切れる。
洞窟の天井を見上げる。
「待ってる、か……」
昔なら、素材が出るまで何日かかろうと、特に気にならなかった。
今は、少しだけ早く出てほしいと思う。
「頼むぞ……マジで」
誰に向かって言っているのか、自分でも分からなかった。
それでも、物欲センサーに仕事をされると大変困るのだけは確かだった。
♢
十九日目。
「聖銀」
違う。
「魔銀」
お前も違う。
「アダマンタイト」
何回目だよお前。
「オリハルコン」
だぁあああもう!!
インベントリの二ページがほぼ埋まった。
中身を見せれば、ジンなら多分ひっくり返ると思う。
まぁそれはちょっと見てみたくもあるが……。
いや、怒るかもな。
「これだけあれば、何本作れるんだ?」
数える気にもならない。
ただ、目的のものは一つもない。
「出るまでやれば100%だから……」
星骸鉄。
ゲーム時代のドロップ率は0.02%。
こっちは禍津武とは違う。
物語も、特殊条件も、少なくとも俺が知っている限りはない。
ただの超低確率のレアドロップ品。
「……禍津武のあとだと、ただのレアドロが優しく見えるの嫌だな」
感覚が完全におかしくなってきているのは感じた。
♢
二十三日目。
マテリアルドラゴンが――逃げた。
「……は?」
黒銀色の巨体が俺を見つける。
目が合うと身体を反転し走りだした。
「ちょっと待て!」
追うとドラゴンもそれだけ速くなる。
「おい!」
翼を広げる。
「ちょ、待て!飛ぶな!」
勢いよく飛んだ。
俺もフィーアをぶん投げ、ドラゴンの前方へ転移。
「逃げんなって、このクソ竜が!」
目の前へ転移すると、ドラゴンが明らかに驚いた顔をした。
「別に全部殺す気ないんだよ」
ちょーっと素材が欲しいだけなんで。
まぁ伝わるわけがないんだけど……。
ドラゴンが魔力砲を放つ。
「だから!」
避ける。
「それ撃つと鉱石壊れんだよ!」
フィーアをねじ込み、戦闘終了。
『黒アダマンタイト』×5
『暗銀鉱』×9
『龍晶核』×1
「いやぁ、今回こそ出たと思ったんだけどなぁ……」
回収してインベントリへ。
それから、何体か同じことがあった。
俺を見ると逃げだす。
そのまま追って倒す。
「……もしかして」
嫌な予感がした……。
「俺、こいつらに覚えられてるんか?」
龍骸晶窟は、かなり広い。
マテリアルドラゴンの個体数も多い。
それでも、二週間近く狩り続けた。
「……」
若干、ほんのすこーしだけ申し訳なくなる。
「……星骸鉄出たら帰るから」
目の前のドラゴンへ言う。
すると、即座に後退を始める。
「だから待てって!」
逃げおった……。
「話聞け!」
多分、向こうからすれば一番聞きたくない相手だと思う。
間違いない。
♢
二十三日目の夜。
いつも通りザフィラからの通信が入る。
『ねぇ、いつ帰ってくるの?』
第一声が変わった。
「いきなりだなおい」
『だって……』
「まだ星骸鉄出てねぇんだって」
『何体倒したのよ?』
「ザフィラは今までに食べた肉の数って覚えてるか?」
『……覚えてないけど、それがなによ?』
「それと一緒だ」
『はぁ……諦める選択肢は?』
「ない」
『知ってたわよ、もう……』
「なら聞くなよ」
『一か月まで、あと一週間くらいね……』
「しっかり数えてるじゃん」
『数えてないわよ』
「無理あるって」
以前なら、ここで笑っていた。
でも今日は、通信の向こうが少し静かだった。
「ザフィラ?」
『うん?』
「どうした」
『別に……』
「嘘」
『……寂しいだけよ』
直球だった。
「……」
『何で黙るの、ばか』
「いや」
少し、返答に困った。
「急に言うから……」
『二十三日も会ってない』
「そこまで正確に数えて――」
『数えてない』
「はいはい」
俺は笑う。
「俺もさ……」
『何?』
「早く帰りたいよ」
言ってから、自分でも少し驚いた。
でも、紛れもない本心だった。
「だから、もう少し待ってろ」
『うん』
「星骸鉄取ったら帰る」
『約束?』
「ああ」
『……寄り道は?』
「……しない」
『今、一瞬間があった』
「気のせいだって」
『本当に?』
「本当」
このときはまだ――嘘をついているつもりはなかった。
『早く帰ってきてね、ご主人様』
「ああ」
『待ってるから……』
通信が切れる。
俺は、少しだけ気合を入れ直した。
「……明日ぜってぇ出す」
確率に宣言しても意味はない。
「出せよ……頼むから」
でも、ここまで出ないと文句の一つも言いたくなる。
♢
二十六日目。
「……出ねぇ」
朝の一体目は、オリハルコン。
「違う」
二体目、アダマンタイト。
「よっと」
三体目、魔銀。
「ほいっと」
四体目、希少な虹色鉱。
「……それも欲しいけど違うんだなぁ」
それでも回収。
五体目はミスリル。
「もう腐るほどあるわ」
もちろん回収はする。
六体目。
「頼むぞ……」
巨大なマテリアルドラゴン。
身体が妙に黒い。
普通の黒鉄とは少し違う。
表面に小さな光点が無数に浮かんでいる。
「……ん?」
『マテリアルドラゴン』
『Lv99』
『構成鉱物:判別不能』
「お前……持ってんだろうなぁ?」
少しだけ期待する。
ドラゴンが咆哮し、洞窟全体が震える。
「来いよ、トカゲ」
フィーアを抜く。
今までの個体より圧倒的に速い。
突進を避け、振られる尾を受ける。
だけど、かなり重い。
「っ!」
腕が痺れるほどの衝撃。
「いいじゃんか、期待しちゃうね」
魔力砲が放たれる。
黒い――今までの青白いものとは違う。
岩壁へ当たった瞬間、巨大な穴が開く。
「あっぶね!」
フィーアを投擲するも、ドラゴンは翼で弾く。
「かってぇなぁおい!」
なら、直接ぶった切ればいいだけの話。
ツヴァイを抜く。
装甲を斬るも、まだ浅い。
「えぇ……これでも?」
身体強化、ついでにありったけの魔力を刃へ流す。
「なら――!」
一閃。
今度はちゃんと切れた。
黒い装甲の内部に、ほんの一瞬……星みたいな光が見えた。
「まじか……」
星骸鉄だ!
こいつ、体内へ取り込んでやがる!
「ぜえええええったい逃がさねぇ!」
ドラゴンが翼を広げる。
でも、先にフィーアを投擲し翼の根元へ無理やりねじ込む。
「落ちろ蚊トンボォ!!」
翼を切断された巨体が地面へ墜落する。
――轟音。
だが、ドラゴンも顔を傾け魔力砲を放とうとする。
「遅い!」
横に一閃、首と装甲の隙間へツヴァイを一本ぶっさす。
もう一本をさらに深く。
ドラゴンが暴れるが、そのままフィーアを首の上に転移し両手で振り下ろす。
「終わりだ!」
刃が魔力核を破壊した。
巨大な身体が止り、そして光へ変わる。
「……頼むぞ」
視線の端、ドロップの表示。
『黒星龍角』×2
『星銀』×8
『高密度龍晶』×1
『星骸鉄』×3
「……」
思わず三度見してしまった。
「……出た」
膝から力が抜けそうになる。
「やっと……出た!」
地面に黒銀色の金属。
表面には無数の星のような粒が散りばめられている。
持ち上げるとかなり重い。
見た目の三倍……いや、もっとだな。
魔力を流すと、内部の魔力が一方向へ流れず、重心そのものを移動させるように動く。
「これだよこれぇ!」
ドライの心材。
三つの節のそれぞれへこいつを入れる。
振る瞬間、先端へ。
戻す瞬間、手元へ。
重心が移動する。
ヒヒイロカネ、武神の魂――そして、星骸鉄。
「……揃った!!」
全部、揃った。
ようやく、ようやくだ……。
「……これで帰れる」
その言葉が、最初に出た。
素材を取った喜びより先に。
「……帰るか」
インベントリへ星骸鉄を放り込み、俺は龍骸晶窟を出たのだった。
♢
ダンジョン内の安全区画で、簡易マップを開く。
ここから、最果ての夢跡の入口まで戻る。
そこからアルセディアへ約四日。
「三十日くらいか」
ほぼ予定通りだな。
「よし」
地図を閉じようとする。
そのとき、視界の端に一つの区域名が映った。
――『時蝕回廊』。
「……」
手が止まった。
ゲーム時代に何度か行ったことがある。
特殊な時間属性素材が採れる場所。
ユニークボス――『時喰いの黒獣クロノヴォア』。
「……」
ザフィラの大鎌、クロノア。
名前はクロノスから取った。
時間属性かぁ……。
「……相性いいよなぁ」
いやいや、帰るんだってば……。
約束、したからな。
「……」
――刻蝕晶核。
あれがあれば、クロノアを強化できる。
ヒヒイロカネも余裕を持って取った。
十二個。
ドライにフィーア。
それでもまだまだ余る。
「……」
ミラの声が頭の中に思い出される。
『必要以上の寄り道は禁止です』
「……」
地図を見る。
龍骸晶窟から時蝕回廊は近い。
いや、ほんとに、かなり近い。
「別に……」
周囲には誰もいない。
なのに、なぜか言い訳する。
「クロノアも強くなったら、国の戦力上がるしな」
誰も聞いていない。
「ザフィラ、あいつ国防担当だし」
さらに言う。
「つまり」
自分で自分を正当化する。
「……クロノアの強化は国防だ」
地図を見て、時蝕回廊へ指を向ける。
「寄り道じゃねぇからな」
完璧な理屈だ。
少なくとも、俺の中ではそういうことになった。
その日の夜、ザフィラから『明日から帰ってくるの?』と聞かれたときだけは――。
返事をするまでに、ほんの少し時間がかかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
二十六日目。
ついに最後の素材――
星骸鉄を獲得しました。
これで『ドライ』に必要な素材はすべて揃いました。
ヒヒイロカネ。
武神の魂。
そして星骸鉄。
あとはアルセディアへ帰るだけ。
……だったはずなのですが。
帰り道でリンドウが見つけてしまったのは、『時蝕回廊』。
しかも、ザフィラの『クロノア』と相性が良さそうな素材まであるようで――。
「クロノアの強化は国防だ」
果たして、この理屈はミラとザフィラに通用するのでしょうか。
次回、覇王、寄り道します。




