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REMNANT RECORD~ストーリー未読の世界一位の廃ゲーマーは、倒した敵の物語を知らない~  作者: 霜月ルイ
第二章:鎖の聖女『ヘレナ』編

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41/82

41:覇王、裁きを見届ける。

「最初の証言者を、こちらへ」


 集まった人々の間から、一人の少女が歩み出た。


 痩せた身体、震える足。

 それでも、少女は自分の意思で一歩ずつ前へ進んでくる。


 その首には――消えない奴隷紋が、深く刻まれていた。


 広場に集まった者たちが息を呑む。


 少女は評議台の前まで来ると、怯えたように周囲を見回した。


 何千もの視線。

 鉄格子の向こうにいる、かつての王族たち。

 そして、彼女の正面へ立つミラ。


「名前を教えていただけますか?」


「……リィナです」


「年齢は?」


「十二歳……だと思います」


 自分の年齢すら、正確には分からない。

 その一言だけで、少女がどんな生活を送らされてきたのか想像できた。


「怖ければ、無理に話す必要はありません」


「話します……」


 小さな声だった。

 それでも、リィナははっきりと答えた。


「私が、話したいです」


「分かりました」


 ミラが頷き、手元の記録を開く。


「リィナさん。あなたはどこで暮らしていましたか?」


「王都の北にある、ミルダ村です」


 集まった人々の一部から、ざわめきが起きた。


 ミルダ村。


 三年前、反乱を企てたとして焼き払われた村だ。

 王家が公表した記録では、村人が武装蜂起し、討伐隊との戦闘によって全滅したことになっている。


「村が焼かれた日のことを、覚えていますか?」


「……はい」


 リィナが両手を強く握りしめる。


「兵士が、たくさん来ました」


「その兵士たちは、何と言っていましたか?」


「税を払えって……」


「どのような税でしょうか」


「分かりません……。お父さんは、先月も払ったって言ってました」


 ミラが、掲示板に置かれた資料へ視線を向ける。


 一人の書記官が、王都北部の徴税記録を持ち上げた。


「こちらは、当時の北部の徴税台帳です」


 広場の正面に設置された魔導投影板へ、記録の内容が大きく映し出される。

 ミルダ村からは、正規の税が期日どおり納められていた。


 それだけじゃない。

 王家の命令によって、本来の二倍以上の臨時徴税が三度も行われている。


「被告、元財務卿」


 ミラが被告人席を見る。


「この臨時徴税命令には、あなたの魔力署名が記録されています。間違いありませんか?」


 太った男が、鉄格子の向こうで顔を歪めた。


「知らん。部下が勝手に発行したのだろう」


「では、確認します」


 ミラが別の書類を開く。


「臨時徴税によって集められた金銭の七割が、あなたの管理する私的口座へ送金されています」


 投影板に、金の流れが映し出される。


 徴税命令の発行日。

 徴収された金額。

 財務局へ納められた額。


 そして、元財務卿の口座へ移された額。


 すべてが一致していた。


「これも、部下が勝手に行ったことですか?」


「それは……」


「送金を承認した魔力署名も、あなたのものです」


「偽造だ!」


「魔力署名は、本人の魂紋と一致しなければ記録されません」


「何者かが術式を――」


「王城の金庫から押収された私印も、同じ魂紋を記録しています」


 逃げ道を一つずつ塞いでいく。

 元財務卿は何かを言おうとしたが、声にはならなかった。

 ミラは再びリィナへ向き直る。


「その後、村で何が起きましたか?」


「お父さんが、もう払えないって言いました」


 リィナの声が震える。


「今年の種を買うお金も、冬を越すための食べ物もないって」


「兵士たちは?」


「お父さんを殴りました」


 広場の空気が重くなる。


「お母さんが止めようとしたら、お母さんも……」


 リィナは首元の奴隷紋へ触れた。


「村の人たちは、反乱なんてしてません」


「誰も武器なんか持ってなかった」


「それなのに、兵士たちは家に火をつけたんです」


 ミラが次の記録を開く。


「こちらは当時、ミルダ村へ派遣された部隊の行動記録です」


 魔導投影板へ、一枚の命令書が映し出された。


 村の制圧。

 財産の没収。

 抵抗者の処分。

 生存した若年者の確保。


 命令書の末尾には、王家の血印が押されている。


「被告、アルフレッド・ラングレイ」


 ミラが元王を見る。


「この命令書を発行したことを認めますか?」


「知らんな」


「王家の血印が記録されています」


「王印など、管理官でも使用できる」


「通常の王印であれば、そのとおりです」


 ミラは静かに告げる。


「ですが、こちらは王族本人の血液と魔力を同時に用いる、血印認証です」


「当時、この認証を使用できた者は、あなたを含めて三名のみ」


「そのうち二名は、命令が発行された時刻に国外へ出ていたことが、転移門の記録から証明されています」


 人々の視線が元王へ集まる。


「つまり、この命令を出せたのは、あなただけです」


「一つの村を制圧しただけだ」


 元王が、ようやく口を開いた。


 反省も、恐れも、罪悪感もない。

 ただ、煩わしそうに眉をひそめていた。


「国家に従わぬ村を放置すれば、他の者までつけ上がる」


 広場から怒号が上がる。


「黙れ!」


「人殺し!」


「何が国家だ!」


 警備兵たちが群衆を抑える。

 俺も思わず前へ出かけたが、拳を握って踏みとどまった。

 ここで俺が殴ったら、裁判じゃなくなる。


「静粛に」


 ミラの声が広場へ響く。

 怒号が少しずつ収まっていった。


「リィナさん。村が焼かれたあと、あなたはどうなりましたか?」


「連れていかれました」


「どこへ?」


「王都の奴隷市場です」


 書記官が、次の資料を掲げる。

 奴隷商組合から押収された売買台帳。

 そこには、ミルダ村から連れてこられた生存者四十三名の名前が記録されていた。


 年齢、種族、身体的特徴、売却価格。

 まるで家畜の一覧だった。


 リィナの名前もある。

 その隣には、彼女の姉の名前もあった。


「お姉様は、現在どこに?」


 ミラが尋ねる。


「死にました」


 リィナの声が、かすれた。


「鉱山に売られて……病気になっても、働けって」


「動けなくなったら、外に捨てられたって聞きました」


「ご両親は?」


「お父さんは、兵士に殺されました」


「お母さんと弟は、家の中にいたまま……」


 少女の言葉が途切れる。


 喉が震え、目から涙がこぼれ落ちる。

 それでも、リィナは被告人席から目を逸らさなかった。


「私たちは、何もしてない……」


 誰も声を出さない。


「ただ、家族で暮らしてただけなのに……」


 元王は、少女を見ようともしなかった。


「村の一つや二つが何だ」


 そう吐き捨てた。


「国を治めるためには、必要な犠牲もある」


 何かが切れたように、リィナが叫んだ。


「私の家族は、もう戻ってこない!」


 小さな身体から出たとは思えない声が、広場中へ響く。


「返して!」


 涙を拭うこともせず、鉄格子へ向かって叫ぶ。


「返してよ!お父さんを返して!お母さんを返して!お姉ちゃんを、弟を――返してよぉ!!」


 答える者はいない。


 元王も、財務卿も、命令を実行した軍務卿も。


 誰一人として、少女に目を合わせなかった。


「返して……」


 最後の声は、あまりにも小さかった。


「返してよ……」


 リィナが、その場へ崩れ落ちる。

 証言者席に控えていた女性が駆け寄り、少女の身体を抱きしめた。

 広場のあちこちから、すすり泣く声が聞こえる。


 俺は歯を食いしばった。


 死刑にしたところで。

 こいつらを何度殺したところで。


 リィナの家族は戻らない。

 そんな当たり前のことが、腹の底へ重く沈んだ。


 ♢


 裁判は、それからも続いた。


 王家の成人五名。

 悪政の中枢を担った貴族七名。

 奴隷商組合の幹部六名。

 この日、裁かれる被告は十八名。


 一人ずつ。


 一つずつ。


 証拠と証言が積み上げられていく。


 王妃は、政治には関与していないと主張した。


 だが、奴隷売買の利益から、王妃の宝飾品代が支払われた記録が見つかった。

 それだけなら、知らなかったと言い逃れもできたかもしれない。


 しかし、王妃自身が署名した支出承認書には、


『獣人奴隷競売の収益より充当』


 とはっきり記されていた。


「私は、会計の細部など確認しておりません」


「ですが、こちらの競売には自ら出席されていますね」


 ミラが入場記録を示す。


「さらに、落札された獣人三名を、王妃付きの侍女として王城へ移送するよう命じています」


「あれらは、礼儀を知らぬ獣でした」


 王妃は眉一つ動かさなかった。


「教育を施してやったのです。感謝されこそすれ、責められる筋合いはありません」


 証言席にいた元侍女の獣人が、身体を震わせた。

 その背中には、今も鞭の痕が残っている。


 王太子は、自分は父王の命令へ従っただけだと主張した。

 だが、地下牢から押収された尋問記録には、王太子自身が拘束者への拷問方法を指示した記録が残されていた。


「反逆者から情報を得るためだ」


「拘束された者の中には、九歳の子どもも含まれています」


「反逆者の子なら、いずれ反逆者になる」


 王太子は平然と答えた。


「早いうちに芽を摘むのは、王族として当然の判断だ」


 王弟は、焼き払われた集落から奪った土地を、自分の狩猟場として利用していた。

 王女は、奴隷紋を用いた人体実験へ資金を提供し、完成した命令具を自ら使用していた。

 中枢貴族たちは、王命に逆らえなかったと訴えた。


 だが。


 私財を増やすために臨時徴税を要求した者。

 土地を奪うため、無実の村を反乱勢力として報告した者。

 奴隷商から金を受け取り、違法な売買を見逃した者

 自ら計画を立案し、王家へ提案した者。


 誰一人として、命じられただけではなかった。


 全員が制度を利用し。

 全員が利益を得ていた。


 奴隷商組合の幹部たちも同じだった。


「我々は、合法的に商売をしていただけです!」


 組合長の男が叫ぶ。


「当時の法律では、奴隷の売買は認められていた!」


「誘拐も認められていたのですか?」


 ミラが尋ねる。


「誘拐などしていない!」


「こちらは、あなた方が雇っていた傭兵の支払記録です」


 魔導投影板へ、契約書が映し出される。


『商品確保』


『集落襲撃』


『目撃者処分』


 曖昧な表現の横には、襲撃された集落の名前と、連れ去られた人数が記録されていた。


「こちらの被害者百十七名は、犯罪奴隷でも、借金奴隷でもありません」


「あなた方が襲撃し、家族を殺し、強制的に奴隷紋を刻んだ者です」


「傭兵が勝手に――」


「傭兵団の指揮官は、既に供述しています」


 組合長の顔色が変わる。


「すべて、あなたの指示だったと」


「嘘だ!」


「命令具に残された魔力記録も、あなたの供述と矛盾しています」


 奴隷へ命令を与える魔導具には、使用者の魔力が記録される。

 押収された命令具からは、組合長本人の魔力反応が何百回も検出されていた。


「売買台帳、傭兵との契約書、被害者の証言、命令具の魔力記録――そして、あなたの部下の供述」


 ミラが一つずつ数える。


「すべてが、あなたの関与を示しています」


 組合長は何も答えられなくなった。


 ♢


 裁判は一度、中断された。


 被告たちには食事と水が与えられ。

 陪審員たちは、午前中に提示された証拠を確認する。

 広場に設置された掲示板の前には、大勢の市民が集まっていた。


 売買台帳。徴税記録。処刑者名簿。土地の没収命令。人体実験の報告書。


 これまで王家が隠してきたものが、誰でも読める状態で並べられている。


「……あった」


 一人の女性が、売買台帳の前で呟いた。


 震える指で、記録の一行をなぞる。


「主人の名前です……。十年前に、仕事へ出たまま帰ってこなかった……」


 記録には、男が違法奴隷として国外へ売られたことが記されていた。

 別の場所では、老人が処刑者名簿に息子の名前を見つけた。

 反逆者として処刑されたことになっている。

 だが実際には、領主の不正を告発しただけだった。


「死刑にしろ!」


 誰かが叫んだ。


「全員殺せ!」


「同じ苦しみを味わわせろ!」


 怒号が広がっていく。


 当然だ。俺だって、同じ気持ちだった。


「静かにしろ!」


 声を張り上げる。

 人々の視線が俺へ集まった。


「判決は、叫び声の大きさで決めねぇ」


「ですが、初代様!」


「こいつらがやったことを見ただろ!」


「あぁ、見たよ。正直はらわたが煮えくり返ってる、今すぐにこいつらを殺してやりてぇと思ってる」


 俺は掲示板に並べられた文書を見る。


「だからこそだ。証拠を確認しろ、証言を聞け。罪人にも、言い分を話させろ。その全部を見たうえで決めるんだ」


 感情で殺すなら、裁判なんて必要ない。


 俺が今すぐ全員の首を刎ねれば終わる。

 だが、それをやった瞬間、こいつらは裁かれた罪人ではなく、覇王に殺された被害者へすり替わる。


「何をしたから裁かれたのか。誰が、どの罪に手を染めたのか。一つ残らず記録へ残せ。――二度と、同じことを繰り返さねぇためにな」


 怒号は、完全には消えなかった。


 それでも、人々は再び資料へ目を向けた。


 ♢


 証言は日が傾くまで続いた。


 村を焼かれた者。

 家族を奴隷として売られた者。

 人体実験によって魔力を失った者。

 不当な徴税によって、家も畑も奪われた者。


 一人が話すたび、王家が残した傷が、一つずつ形になっていく。

 被告たちは、最後まで罪を認めなかった。


「国を治めるには、秩序が必要だ」


「平民に自由を与えれば、国は乱れる」


「奴隷は、我々が使わなければ野垂れ死んでいた」


「獣人や魔族を人間と同じように扱うなど、正気ではない」


「我々を処刑すれば、地方の貴族は従わぬぞ」


 誰一人として謝らない。

 誰一人として、自分たちが奪った命を悔やまない。


 それどころか――。


 悪いのは従わなかった民だと。

 弱かった奴隷だと。

 統治を理解できない俺たちだと言い張った。


 やがて、すべての証言と証拠の確認が終わった。


 太陽は西へ傾き。

 朝から始まった裁判も、終わりの時を迎える。


 市民から選ばれた陪審員は二十四名。

 各地区。各種族。各職業。

 奴隷だった者たちからも選ばれている。


 ミラが評議台の中央へ立った。


「これより、被告十八名について、個別に評決を行います」


 一人ずつ。


 罪状ごとに、有罪か、無罪か。

 死刑を適用するか否か。

 すべての陪審員が札を掲げる。


 アルフレッド・ラングレイ。


 第二代覇王暗殺の隠蔽。

 歴史改竄。集落焼却。人身売買。違法な処刑。奴隷制度の組織的運用。

 すべて有罪。


 死刑賛成、二十四。反対、ゼロ。


 王妃。


 人身売買への関与。奴隷への拷問。違法収益の受領。

 すべて有罪。


 死刑賛成、二十四。反対、ゼロ。


 王太子。


 拷問および処刑命令。児童を含む違法拘束。集落襲撃への関与。

 すべて有罪。


 死刑賛成、二十四。反対、ゼロ。


 それからも評決は続いた。


 一人、また一人。

 誰一人として、血筋だけを理由に裁かれた者はいない。


 命令書。署名。金の流れ。証言。魔力記録。


 それぞれが、自分の意思で罪へ加担したことが証明された。


 十八人目の評決が終わる。

 広場は、不気味なほど静かだった。


 ミラが判決文を手に取る。


「被告、アルフレッド・ラングレイをはじめとする十八名」


「臨時国民評議会および市民陪審団の評決に基づき――」


 風が吹く。


 掲示板へ貼られた紙が、乾いた音を立てた。


「全員を、死刑とします」


 誰も歓声を上げなかった。


 これほど多くの人間が集まっているのに。

 聞こえるのは、誰かの泣き声だけだった。


「ふざけるな!」


 元王が鉄格子へ掴みかかる。


「家畜どもが、王を裁くというのか!我ら王家がいなければ、この国は滅びるぞ!自由など与えられても、お前たちには扱えぬ!すぐに泣きついてくることになるのだ!」


「俺たちは、もう昨日からお前ら抜きで国を動かしてるぞ」


 俺が答えると、元王がこちらを睨んだ。


「貴様が新たな王になるだけだ!何も変わらん!」


「俺は王にならねぇよ」


「嘘をつけ!」


「強大な力を持つ者が、支配せずにいられるものか!」


「お前と一緒にすんな。俺はそんなことのためにアルセディアを作ったわけじゃねぇ」


 俺は元王の前へ立つ。


「俺は、誰かの上に立ちてぇわけじゃねぇ……。好きなことを好きなようにやって、それでも国が回る場所を作りてぇだけだ」


「そんなものが国と呼べるか!」


「呼べるかどうかは、これからこいつらが決めることだ。違うか?」


 広場を見回す。


「もう、お前の許可はいらねぇんだよ」


 元王の顔が歪む。

 最後まで……。本当に最後まで。

 こいつは、自分が間違っていたなんて欠片も思っていない。


「判決は、明朝執行します」


 ミラが告げる。


「それまで被告たちは、王都地下牢へ収容します」


 警備兵が鉄格子を開き、被告たちを一人ずつ連れ出していく。


 罵声を上げる者。

 命乞いを始める者。

 今さら部下へ責任を押しつける者。


 だが、謝罪する者は一人もいなかった。


 元王が連行される直前。

 リィナと目が合った。


 少女は泣いていた。

 死刑判決が出たというのに。

 笑っても、喜んでもいなかった。


「これで満足か、小娘」


 元王が鼻で笑う。


「死刑になったところで、お前の家族は戻らんぞ」


 その場にいた全員の顔が強張った。


 俺は一歩、前へ出る。


 だが、リィナが先に口を開いた。


「分かってる」


 震える声だった。


「そんなこと、分かってるよ……」


 涙を流しながらも、元王を見つめ続ける。


「だから、許さないの」


「私みたいな子を、もう作らせないために」


 元王は何も答えなかった。

 顔を背け、警備兵に連れられていく。


 十八人の被告が広場から消える。


 裁判は終わった。

 罪は明らかになり。

 罪人には、相応の判決が下された。

 正しい裁きだったと思う。


 少なくとも、俺に考えられる限りでは。


 それでも、リィナは泣いたままだった。


 失った家族は戻らない。


 焼かれた村も。奪われた時間も。刻まれた奴隷紋も。


 判決一つで消えたりはしない。


 今日俺たちができたのは、百二十年間続いた罪に、ようやく終わりを告げただけだ。


 救えたわけじゃない。

 取り戻せたわけでもない。

 これから、同じことを繰り返さないと決めただけだった。


 太陽が、王城の向こうへ沈んでいく。


 広場から人々が立ち去っても。


 最後まで、歓声が上がることはなかった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、ラングレイ王家と悪政に加担してきた者たちを裁く、公開裁判の一日を描きました。

証拠を示し、証言を聞き、一人ずつ罪を明らかにする。

たとえ相手がどれほど許しがたい存在でも、リンドウ一人の怒りで処刑を決めてしまえば、それは王が入れ替わっただけになってしまいます。

だからこそ、裁くのは初代覇王ではなく、この国で百二十年間を生きてきた人々でした。

被告全員に死刑判決が下されましたが、それで失われた命が戻ることはありません。

リィナの家族も、焼かれた村も、奴隷として奪われた時間も戻らない。

正しい判決が下されたからといって、被害を受けた人々が笑顔になれるわけではない――そんな、救いきれない後味を残す回になりました。


それでも、この裁判によって百二十年間続いてきた悪政には、ようやく一つの区切りがつきました。


同じ悲劇を二度と繰り返さないために。

アルセディアは、ここから新しい国として歩き始めます。

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