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REMNANT RECORD~ストーリー未読の世界一位の廃ゲーマーは、倒した敵の物語を知らない~  作者: 霜月ルイ
第一章:技神国奪還編

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37:覇王、国を取り戻す――夜明け

『王城を制圧されたのですか?』


「ああ」


 誰も座っていない玉座。

 床へ転がった王冠。

 そして、その前で拘束されたラングレイ王。


「ラングレイ王政は、今終わった」


 通信の向こうで、ミラが短く息を吸った。


『……承知いたしました』


 百二十年間、この国で生きてきたミラだ。

 俺が目を覚ますよりもずっと前から。


 ラングレイ家が歴史を書き換え。

 身分を作り。

 技術を奪い。

 人を奴隷へ落としていくのを見続けてきた。


 その王政が終わった。


 本当なら、何か言いたいことが山ほどあるだろう。


 だが、ミラはすぐに受付嬢の声へ戻った。


『確保された資料を、通信塔へ送っていただけますか?』


「今から全部送る」


『確認でき次第、王都全域へ公開いたします』


「王本人の声も流せるか?」


 床へ座らされたラングレイ王が顔を上げた。


「何をするつもりだ!」


「国民へ挨拶だよ」


「余を見世物にする気か!」


「百二十年も王を名乗ってきたんだ。最後くらい自分の言葉で話せ」


「断る!」


「そうか」


 俺はパーティーメニューを操作し、ミラとの通信を王都の告知網へ接続する。


『王城からの音声通信を受信しました』


 ラングレイ王の声が、そのまま魔術通信塔へ送られる。


「余へこのような真似をして、ただで済むと思うな!」


 王の怒鳴り声が、玉座の間だけではなく王都全域へ響いた。


「貴様らは何も分かっていない! 無知な民へ真実など必要ない!」


 近衛兵たちの表情が強張る。

 王は、自分の声が流れていることに気づいていない。


「国とは、優れた者が愚かな者を導くことで成り立つのだ!」


「奴隷にされた奴らも?」


「価値のない者へ役割を与えただけだ!」


「焼かれた村の人間も?」


「王家へ従わぬ者は国民ではない!」


 その言葉も。

 近衛兵を裏切り者と罵る声も。

 すべて、王都の通りへ流れている。

 少し前まで武器を持っていた近衛兵が、静かに目を伏せた。


「何を見ている!」


 王が怒鳴る。


「余を解放しろ! これは王命だ!」


 誰も動かなかった。


「聞こえぬのか!」


「聞こえてるから、動かないんだろ」


「黙れ、偽物が!」


 王の声と共に、ミラが確保した証拠が順番に読み上げられていく。


『こちらは、初代覇王リンドウ様からラングレイ家へ国を託したとされる継承文書の原本です』


 俺の死後に作られた紋章。

 存在しない名字。

 欠けた連名。


『続いて、各地の村へ出された騎士団の出動命令書です』


 サイラスの署名。

 捕らえた人数。

 奴隷商から支払われた金額。


『こちらは、技術保護令により拘束された職人の名簿です』


 没収された工房。

 奪われた設計図。

 帰還記録のない技術者たち。


『そして、天鯨討伐の強制依頼書です』


 王家と冒険者ギルド総長の承認印。

 討伐不可能と知りながら、百人を送り出した記録。

 否定しようとしていたラングレイ王の声が、徐々に小さくなっていく。

 証拠が一つだけなら、偽物だと言えただろう。

 二つでも、反乱者の工作だと叫べた。


 だが、王城。

 冒険者ギルド。

 宰相府。

 奴隷市場。


 別々の場所から見つかった記録が、同じ事実を示している。

 全部を偶然で片づけるのは無理だ。


『王城の資料は、今後すべて公開いたします』


 ミラの声が、王都全体へ広がる。


『私の言葉を信じる必要はございません』


 静かで。

 それでも、はっきりとした声だった。


『ご自身の目で、原本をご確認ください』


 ♢


 王城の外。

 王家直属の兵士たちは、告知用魔道具から流れる声を聞いていた。


「陛下が……民を愚かだと……」


「俺たちは、何を守っていたんだ」


「王家を守ることが、国を守ることじゃなかったのか?」


 一人の兵士が剣を地面へ置いた。

 乾いた金属音。

 隣にいた兵士も、槍を手放す。


 正門。中庭。城壁。


 武器を置く音が、少しずつ広がっていった。

 命令を出す者は、もういない。


 通信塔はテオ班が押さえ。

 騎士団本部と武器庫はカレン班が制圧。


 王城も落ちた。


 それでも戦おうとする者はいた。


 王家への忠誠。

 処罰への恐怖。

 自分が信じてきたものを否定したくない意地。


 だが、隣にいた兵士が武器を置けば。

 その隣も。さらに、その隣も続いた。


 王家の軍隊は、誰か一人に倒されたのではない。

 命令へ従わないと、自分たちで選んだ瞬間に動かなくなった。


 ♢


『リンドウ殿』


 クライブ伯爵から通信が入る。


「どうした」


『王都北西より、ローデン公爵家の兵およそ三百が進軍してきました』


「止められるか?」


『既に街道を封鎖しております』


「戦闘は?」


『起きておりません』


 伯爵の後ろから、何人もの声が聞こえる。


『王都からの放送は、彼らにも届いています』


「それで止まったのか」


『指揮官は進軍を続けようとしましたが、兵士たちが拒否しました』


「いい判断だ」


『東側から向かっていた二つの貴族軍も、待機を選んだとの連絡があります』


 クライブ伯爵一人で、すべての道を塞いだわけではない。

 真実を聞いた兵士たちが。

 領主たちが。

 夜明けまで待つことを、自分で選んだ。


『西門の避難所では、食料と薬品の配布を始めております』


「足りるか?」


『今夜分は。明日以降については、近隣領地にも協力を求めます』


「頼む」


『王都へ入ってもよろしいでしょうか?』


「まだ待て」


『なぜです』


「王を倒した直後に貴族軍が入ったら、お前が王座を奪ったように見える」


『……確かに』


「夜が明けて、市民が落ち着いてからだ」


『承知しました』


 通信を切る。


 俺たちが勝っても、別の貴族が王になるだけなら意味がない。

 今夜終わらせたのは、ラングレイ家だけじゃない。

 誰か一人が勝手に国の上へ立つ仕組みもだ。


 ♢


 奴隷市場から救出された者たちが、西門へ到着していた。


「ゆっくり進め!」


 アウラの声が響く。


「重傷者を先に倉庫へ! 歩ける者は道の右側を進め!」


 投降した守備兵たちも、市民の誘導へ加わっている。


 食料を受け取った者。

 傷を治療される者。

 毛布へ包まれ、ようやく眠る子ども。


 首や腕には、まだ奴隷紋が残っている。

 だが、その紋が赤く光ることはない。


 命令も、苦痛も、遠くから命を奪う術式も止まっている。

 完全に自由になったわけじゃない。

 身体へ残った鎖を消すには、まだ時間がかかる。


 それでも――。


 今夜、どこへ行くのか。


 誰と歩くのか。


 立ち止まるのか。


 進むのか。


 それを選ぶのは、もう奴隷商ではなかった。


 ♢


 空が白み始めた頃。


 王都中央の広場へ、二十五人が集まり始めた。


 最初に現れたのはアウラ班。


 大盾『バスティオン』には灰色の焦げ跡。


 鎧も傷だらけだった。


 それでも、六人全員が自分の足で歩いている。


「アウラ班」


 アウラが盾を地面へ置く。


「六人全員、帰還した」


「西門は?」


「投降した守備兵へ任せた。避難も続いている」


「よくやった」


 次に、路地の影からテオ班が現れる。


 服のあちこちが切れ。


 一人は腕へ包帯を巻いていた。


「テオ班も全員いる」


「通信塔は?」


「ミラたちへ引き継いだ。三つの門も、まだ固定されてる」


「勝手に地下通路へ入らなかったか?」


「今それを聞くのか?」


「確認だよ」


「入ってない」


「よろしい」


 テオの狼耳が不満そうに伏せられた。


 その後ろから、カレン班が歩いてくる。


 カレンの『双月』には血が残り。


 大剣使いは肩を貸され。


 槍兵の額には布が巻かれている。


「カレン班、負傷者はいますが六人です」


「全員立ってんな」


「当然です!」


 そう言いながら、カレン自身も足を引きずっている。


「座れ」


「まだ立てます!」


「立てるかどうかじゃなくて、治療しろ」


「後で――」


「回復薬を温存するなって言ったよな?」


「……飲みますぅ」


 最後に、ノア班。


 ノアは『ウロボロス』を杖代わりにしていた。


 顔色は悪い。


 エルネスを殺したことが、まだ胸に残っているのだろう。


 それでも、五人の班員と共に広場へ入ってきた。


「ノア班も、全員戻りました」


「奴隷市場は?」


「救出できる人は、全員外へ出しました。ヴァンデル侯爵と売買台帳も確保しています」


「中枢魔道具は?」


「遠隔命令だけを停止しました。奴隷紋を消すための研究記録も回収しています」


「なら、あとで一緒に解析しよう」


「……はい」


 ノアが少しだけ笑った。


 四つの班。


 六人ずつ。


 二十四人。


 最後に、ザフィラが広場へ現れた。


 『クロノア』の刃には、まだ拭い切れていない血。


 身体にも無数の傷。


 だが、その歩みは真っすぐだった。


「サイラスは?」


「討った」


「そうか」


「それだけか?」


「お疲れさん」


「軽いな」


「ほかに何か言ってほしいのか?」


 故郷が戻るわけじゃない。

 復讐を終えたからといって、すべてが消えるわけでもない。

 俺が軽々しく、よかったなんて言うことじゃない。

 ザフィラも分かっているのか、それ以上は聞かなかった。


 二十四人を見渡す。

 一人、二人と数えていく。


 傷のない者はいない。


 鎧が壊れた者。

 武器を杖にしている者。

 治療を受けながら座り込んでいる者。


 それでも。


 欠けている顔はなかった。

 ザフィラが俺の前へ立つ。


「二十五人、全員いる」


 胸の奥に張りついていたものが、ようやく外れた。


「……そうか」


「もっと喜べ」


「喜んでるよ」


「見えない」


「顔に出にくいんだ」


「嘘をつけ。お前はいつも顔がうるさい」


「またそれかよ……ったく」


 笑い声が漏れた。

 小さな笑い。

 疲れ切って、痛みに顔をしかめながら。

 それでも、生きているから出せる声だった。


「帰ってきたら、何でも聞いてやるって言ったよな」


 俺は二十五人を見る。


「誰から話す?」


「今ですか?」


 カレンが目を丸くする。


「冗談だよ」


「分かりにくいです!」


「まず治療だ」


 回復薬だけでは足りない。

 王都中にも負傷者がいる。


「ノア班と治癒師は、重傷者の確認」


「はい」


「アウラは西門の避難状況をまとめろ」


「ああ」


「テオは通信塔と各門の警備を、投降兵へ引き継がせろ」


「分かった」


「カレンは騎士団本部へ戻って、武器の管理と負傷兵の治療」


「私もですか?」


「お前も負傷兵だよ」


「まだ戦えます!」


「戦いは終わったんだよこの戦闘狂が!」


 カレンが不満そうに頬を膨らませる。


「ザフィラは俺と市内を回る」


「王城には戻らないのか?」


「玉座へ座るために?」


「お前が次の王になるつもりではないのか」


「今決めることじゃねぇよ」


 国を落とした。

 だから、俺が王になる。

 そんなやり方をしたら、ラングレイ家と同じだ。

 俺は別に簒奪者になりたいわけじゃねぇ。


「先に飯と薬を回す」


 治安を維持する。

 火事を消す。

 行方不明者を探す。

 奴隷紋を止める。


 拘束した王族や貴族を、勝手に処刑されないよう管理する。


「ラングレイ王も、バルガスも、オズワルドも、ヴァンデルも裁判にかける」


「処刑しないのか?」


「俺が決めることじゃない」


 被害を受けた者。

 証拠を確認した者。

 この国でこれから生きる者。


 そいつらが、どう裁くかを決める。


「そのためにも、まず全員生き延びてもらわねぇとな」


 王を倒した翌日に、市民が飢えて死んだ。

 そんな国取り、笑い話にもならない。


 ♢


 東の空から、朝日が昇る。


 夜の闇が薄れ、王都の屋根が少しずつ光に照らされていく。


 魔術通信塔の上。


 テオが残していた鐘の前へ、ミラが立っているのが見えた。


 警鐘を鳴らせないよう切られていた綱を、ミラが新しい縄で結び直す。


 王家が民を呼び集めるために使ってきた鐘。


 反逆者を知らせ、兵士へ命令を出し、逃げ道を閉ざすために鳴らされてきた鐘。


 その縄を、ミラが引く。


 ゴォン――。


 低く、重い音が王都全体へ広がった。


 一度。二度。三度。


 市民が顔を上げる。


 兵士も、冒険者も、救出された元奴隷たちも、誰も逃げない。


 誰も武器を取らない。

 ただ、朝日と共に鳴る鐘を聞いている。

 王家の命令を知らせる鐘ではない。

 百二十年続いた夜が終わったことを知らせる鐘だ。


「終わったな」


 ザフィラが隣で呟く。


「ああ」


 国は取り戻した。

 だが、国を取り戻すことと、国を作ることは違う。


 壊すだけなら、一晩でできた。

 この先、人が安心して暮らせる場所にするには、何年かかるか分からない。


 税も。法律も。身分も。奴隷制度も。

 全部、これから決め直さなければならない。


 俺たちの戦いは、ここで終わる。


 そして――。


 俺たちの生活は、ここから始まる。


 百二十年前、俺はこの国を置いて死んだ。


 そして今日――今度は、一人ではなく二十五人と共に帰ってきた。


 『技神国アルセディア』。


 かつて世界一位を目指した俺たちの国を――。


 今日、取り戻した。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


これにて、第一章「技神国奪還編」完結です。

エピローグ兼、次章一話が間もなく投稿されます。

今日はそこまでお楽しみいただけますと幸いです。


百二十年後の世界へ戻り、自分たちが築いた国の変わり果てた姿を目にしたリンドウ。

しかし、彼がアルセディアへ帰ってきたとき、もう一人ではありませんでした。


西門、通信塔、騎士団本部、奴隷市場、そして王城。

二十五人がそれぞれの役目を果たし、誰一人欠けることなく、長い夜を終えることができました。


ラングレイ王政は終わりました。

ですが、国を取り戻すことと、新しい国を作ることは違います。


傷ついた人々の治療。

奴隷紋の解除。

身分制度や法律の見直し。

そして、リンドウ自身がこれからどのように国と向き合っていくのか。


覇王の戦いは、ひとまずここで終わります。

そして、仲間たちとの新しい生活がここから始まります。


第一章を最後まで見届けていただき、本当にありがとうございました。

エピローグ兼、次章一話21:20投稿予定です。

このままお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
一章まで全て読みました。 最初はリンドウが無双して国を取り返す話なのかなと思っていたんですが、実際はザフィラたちが少しずつ強くなって、自分で考えて仲間を守れるようになっていくところの方が印象に残りま…
第一章を読み終えてまず感じたのは、これは単なる「最強主人公が無双して国を取り戻す物語」ではなかった、ということです。 世界一位の廃ゲーマー・リンドウは、圧倒的な知識と技術を持っています。けれど、この…
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