3:覇王、歴史上の人物になる。
山を下り、アルセディアを目指して歩く。
ゲーム時代なら、マップから目的地を選ぶだけでファストトラベルできた。
こんな距離を歩く必要なんてなかったのだ。
でも今は、システムアシストなしの徒歩だ。
まぁこれも現実の醍醐味だと思って甘んじて受け入れようじゃないか。
「それにしても、アルセディアってあんなだったか……?」
地平を覆うように広がる巨大都市アルセディア。
しかし、俺の知っているアルセディアとは随分雰囲気が変わっている。
城壁はくすみ、建物の数も減っているように感じた。
「まぁ……ゲームのまんまってことはないわな」
何もない街道をアルセディアに向かって歩く。
途中、冒険者のような一団や、商人らしき馬車とすれ違った。
「思ったより少ない……? 前はこの道って、かなり人通り多かったはずなんだけどな……主に初心者とかNPCだけど……」
そんなことを考えながら三時間ちょっと歩いた。
街へ入るための城門にたどり着いたとき、おかしいと思った。
「止まれ!」
二人の兵士に囲まれた。
アルセディアに検問の兵士NPCなんて配置したか……?
でも、思い出せないってことは多分内政担当の誰かが置いてくれたんだろう。
「見ない顔だな、ここへは何をしに来た?身分証は?」
「冒険者登録と、職業登録をしに来た。だから身分証はないんだ。」
一瞬怪しむような顔をされたが、門兵の片方のおじさんがニッと笑った。
「そうかそうか!冒険者志望のおのぼりさんだったか!」
門兵のおじさんは、俺の服装を見てただの農民の若者だとでも思ったのだろう。
「あ、あぁ……そうなんだ。南にある田舎から出てきたばかりでな。そこには教会も冒険者ギルドもなかったから、遥々ここまで来たんだ」
「よくここまで歩いてきたな!それは大変だっただろうに……。それじゃあ、通行税で20Gな」
「つ……通行税?」
「当たり前だろ、通行税がなきゃ街へは入れねぇよ」
なんだよ通行税って!
俺そんなの取るようにした覚えねぇぞ!?
さて、どうすっかなぁ……
「わりぃ……おっさん。途中で野盗に財布と荷物を奪われてさ……。実はすかんぴんなんだよ……」
とっさに思いついた嘘だったが、これでいけるか……?
頼むぞマジで……。
「そうだったか……坊主。大変だったんだなぁ……。そういうことなら立替証を発行するから、一週間以内に冒険者ギルドで支払ってくれ」
そうして、一枚の紙を手渡された。
見慣れない文字のはずなのに、不思議と意味は理解できた。
それにしても、冒険者ギルドなぁ……。
税金の支払いができるとか、コンビニかよ……。
「それより坊主。ギルドの場所、分かるか?」
もう一人のおじさんから肩をバシバシと叩かれる。
「分かってる。中央広場から出て、北の大通りの右側。一番大きな建物だろ?」
「お、ちゃんと勉強してんな!そこで間違いねぇ」
マップ的には間違ってないみたいだ。
ちゃんと俺の記憶通りでよかった。
「頑張れよ!」
二人の門兵に見送られ、俺は城門をくぐった。
その先に広がっていた光景に、思わず足を止める。
中央広場へ続く大通り。
その正面には、見覚えのない巨大な像が立っていた。
長い髭。
隆々とした筋肉。
金色の王冠。
天に剣を掲げる、威厳に満ちた中年の男。
あんな像あったか……?
俺は広場の像へと近づいていった。
そして、その像の台座に刻まれた文字を見て俺は驚愕した。
『建国神・初代覇王リンドウ』
「……誰だよ、このおっさん」
まぁ、俺が初代覇王ではあったのは間違いないが……。
これはちょっと酷くないか?
自分がこんな筋骨隆々のおっさんにされていたことにげんなりしながら、冒険者ギルドを目指す。
中央広場からすぐの大きな建物、そこが冒険者ギルドだった。
見た目は少し変わっていたが、場所は変わっておらず少しだけ安心した。
中に入ると、いくつも並んでいた受付窓口のうち、開いているのは二つだけ。
酒場部分にも空席が目立ち、依頼掲示板に貼られた紙もまばらだった。
「過疎ってんなぁ……。まぁプレイヤーがいないとこんなもんなのか」
そんなことを独りごちながら受付カウンターへ。
「ようこそ冒険者ギルドへ! 見ない顔ですが、本日はどのようなご用件ですか?」
受付の女性が、笑顔でそう聞いてきた。
「田舎から出てきたばかりでね。冒険者登録をしたいのと、職業登録をお願いしたい」
周りからもひそひそと声が聞こえる。
「あの坊主、よっぽどのド田舎から出てきたみてぇだな」
「あぁ、ちげぇねぇ」
うっせぇ。余計なお世話だわ!
ここで言い返してもしょうがない、大人として流すのがスマートだな。
「冒険者登録ですね! 職業はお決まりでしょうか?」
もちろん決まっている。
ゲーム時代と同じビルドにするつもりだ。
「メイン職業を召喚士、サブを鍛冶師でお願いします」
「召喚士、ですか……。その、本当にそれでいいんですか……?」
「それで、というのは?」
「初代覇王様と同じ組み合わせですが……現在では、どちらも育成に莫大な時間と資金を必要とする不遇職とされています。本当によろしいですか?」
受付嬢は何とも言えない苦笑を浮かべ、俺に聞いてきた。
周りの冒険者たちからも、嘲るような笑い声が上がった。
「おい、聞いたか。召喚士と鍛冶師だってよ」
「初代覇王様の真似か? 田舎者は伝説を真に受けるからな」
召喚士。
本来ならば魔物と契約を結び、その魔物を呼び出して戦わせる職業だ。
強い魔物と契約するのも難しければ、戦力になるまで育てるにも膨大な時間がかかる。
だから、かなりの玄人向けの職業なのだ。
『レムオン』でもサブキャラで趣味程度に遊ぶ人はいたが、メインキャラでこの苦行をする人はいないと言われるほどのハズレ職業だった。
だからってなぁ……そんな顔すんなよ。
普通の使い方をしなければ召喚士はめちゃくちゃ強いんだぞ?
何せ、世界一位の俺のメイン職だったんだからな。
「えぇ、問題ありませんよ。その二つでお願いします」
俺は受付嬢に笑顔でそう返す。
「そ、そうですか。では必要事項をこちらへご記入ください」
出された紙に、名前、年齢、性別、種族を記入する。
「お名前は……リンドウさん、ですね。初代覇王様と同じお名前だなんて!」
日本語で書いたつもりだったが、紙に記されたのは見慣れない文字だった。それでも、なぜか意味は理解できる。
「あぁ……まぁ。はは……」
「この召喚士と鍛冶師の組み合わせで登録される方は、初代様以来ですね」
「……初代様以来?」
「ええ。それに、今年は初代様が亡くなられてから、ちょうど120年になるんですよ。初代様と同じお名前に、同じ職業だなんて、不思議な巡り合わせですね」
「………は?」
……亡くなってから120年、だと?
「ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「はい?」
待て待て待て。
初代覇王が亡くなってから120年経っているってことは、つまりそういうことなのか?
「その、初代覇王……のリンドウ様が亡くなられて、120年経っている……と?」
「えぇ……。そうですが」
「その、リンドウ様って、どんな方だったんです……か?」
「この技神国アルセディアをたったおひとりで建国され、若くして亡くなられましたが、稀代の豪傑として知られていますよ? とても有名なお話かと思いますが……」
「そう、ですか……。120年、ですか」
声に出しても、その数字をうまく理解できなかった。
つまり、ここは――
『レムナント・オンライン』のサービス終了から、120年後の世界だった。




