2:覇王、無職になる。
こうして、覇王リンドウの物語は終わった。
悔いはないと言ったら嘘になる。
まだまだ作りたい装備のレシピはあったし、今後のアップデートで追加されるはずだったユニークモンスターにも挑みたかった。
それでも、これでよかった。
少なくとも、あの瞬間の俺はそう思っていた。
でも……おかしい。
俺は死んだはずだ。
こんな物思いに耽る余裕があるだなんて……。
まさか現実での自殺は失敗したのか?
だが、世界は暗い。
眠っているのに頭だけ起きているような感覚に似ている。
どこか夢を見ているような感覚だ。
少なくとも、完全に死ねたわけではないらしい。
はぁ……やらかした。
身体を動かそうとしても、指一本動かせない。
これは植物状態になったか、脳のどこかに障害でも残ったか?
考えても仕方ない。
手足の感覚はある。
少し冷たい風を感じる。
部屋の冷房もつけっぱなしだったから、きっとそのせいだろう。
それでも動けないんじゃなぁ……。
『肉体の再構築が完了しました』
頭の中に、『レムオン』で親の声よりも聞き慣れたアナウンスが流れた。
何だよ再構築って……『レムオン』はもう終わったはずだろ。
まさか、サービス終了は嘘でした~とかそんなオチか?
『魂の完全な定着まで残り5…4…3…2…1…、――定着に成功しました』
今度は魂の定着だと?
何の冗談だよ、まったく。
これ以上俺を期待させないでくれ。
『レムナント・レコードの安定を確認。意識の強制覚醒を行います』
何言ってるのかさっぱりわからんが、とりあえず――
「あばばばばばっばばばばば!!!!」
身体に異常な電流のようなものが走った。
「いってぇなクソが!!!なんだってんだよ!!!」
AEDを使うにしろもう少しやさしくだな……って。
「あれ……?」
知らない天井だ……とはならなかった。
見覚えのありすぎる草原。
そして、俺のもたれかかっていたであろう背には大樹。
眼前には、見知った景色が広がっていた。
大樹の下から見下ろせる城と、そこから伸びる街並み。
形は変わり、建物の数も減っている。城壁も、以前より黒くくすんでいた。
それでも、この場所を見間違えるはずがない。
「アルセディアだ……」
極めつけにこいつだ。
『覇王:リンドウ ここに眠る』
俺の作った墓標。
だが、その墓石は苔むして少し崩れているところもあった。
「『レムオン』……なのか、ここは……」
いや、でも……。
頭の中でいろいろな思考が渦巻く。
俺は死んだはずじゃなかったのか?
それとも、どこかのラノベみたいにゲームに閉じ込められたか?
そんな馬鹿げた話があるか、さすがに最終学歴が中卒の俺でもわかる。
そうだ。これは、俺が見ている胡蝶の夢。いずれ終わるものだ。
だが、その気配は一向にない。
でも、さっきのアナウンス……。
肉体の再構築に、魂の定着。
レムナント・レコードってのはよくわからんが……。
そのあたりの情報をまとめて、ひとつの言葉にするなら――。
「……転生?」
自分でも言ってることが非現実的だということは分かるが、この状況を説明するには『転生』という言葉が一番しっくりくる。
「………おい、おいおいおい。……マジかよ!」
魂が歓喜に震えた。
俺は、俺は……!
『レムナント・オンライン』の世界に、転生したのだ!
♢
そうと決まれば話は早い。
さっそく検証と洒落込もうじゃあないか。
「ステータス!」
そう言葉にすると、眼前にホログラムが浮かび上がる。
ゲームではおなじみのステータス画面だ。
ビンゴ!
少なくとも、ステータス周りのシステムはゲーム時代と変わらないらしい。
これでステータス画面が見られないとなると、かなり厳しかったところだ。
なになに?
レベルは1、職業欄は空白で……装備も村人の服一式。
「あちゃぁ、これは初期装備だな。しかもレベルもリセットされてるし……」
ただ、残っているものはあった。
『プレイヤーネーム:リンドウ』
俺の名前はそのままなんだな……。
そして、なぜか年齢が17になっている。
俺を転生させた神様だか、謎のシステムだかが、『レムオン』を始めた頃の姿まで若返らせてくれたらしい。
レベルも1、装備も、職業もリセット。
あれだけ積み重ねたものは、全てきれいさっぱり消えている。
なのに、不思議と悔しくはなかった。
終わったはずの世界に、もう一度立っている。
また最初から、積み上げることができる。
ってことはだ。
「また、一からこの世界を楽しめるんだな!」
なんという僥倖!圧倒的感謝だ!
「さぁ~て、何から手を付けようか!ワクワクが止まんねぇなぁ!おい!」
といっても、やることは決まっている。
『レムオン』には職業システムがある。
剣士、魔術師、拳闘士といった戦闘職。
鍛冶師、調合士、錬金術師といった生産職。
プレイヤーは、その中から好きな職業を二つ選ぶことができた。
戦闘職を二つ組み合わせて純粋な戦闘力を伸ばすもよし。
以前の俺のように、戦闘職と生産職を組み合わせ、自分の装備を自分で作るもよし。
生産職を二つ選び、職人として生きることすらできる。
その組み合わせによって、プレイヤーの戦い方も生き方も大きく変わる。
それが『レムオン』におけるビルドの基本だった。
職業を教会か冒険者ギルドで設定する。
それが、『レムオン』を始めたプレイヤーが最初に行うことの一つだった。
もちろん、今回の人生でも俺が目指すのは最強。
「それじゃあいっちょ、無職を卒業しに行きますか!」
目指すは、ハローワーク……もとい、冒険者ギルドだ!




