27:覇王、王都陥落を組み上げる。
王都の地図を囲むのは、俺を含めて二十六人。
戦争を始める人数としては、あまりにも少ない。
王都には騎士団がいる。
王家直属の冒険者もいる。
現役のSSランクだけでも三人。
さらに、王都周辺の貴族が兵を送れば、敵の数は簡単に数千へ膨れ上がる。
「最初に言っておく」
俺は地図の中央――王城へ指を置いた。
「俺たちは、アルセディア全土を占領するわけじゃない」
土地を奪う必要はない。
街を焼く必要もない。
地方にいる兵士や貴族を、一人残らず倒す必要もない。
「夜明けまでに王都の中枢を押さえて、ラングレイ王政の指揮系統を潰す」
「一晩で、か?」
ダンが地図を見ながら息を呑む。
「ああ」
「王都には、何千人もの兵士がいるんだろう?」
「全員が同時に出てくるわけじゃねぇ」
兵士が動くには命令がいる。
命令を出す指揮官。
命令を伝える通信設備。
兵を集める警鐘。
装備を保管する武器庫。
それらがなければ、大勢いても一つの軍隊としては動けない。
「頭を潰す」
俺は王城から、騎士団本部、魔術通信塔へ順番に指を滑らせる。
「目と耳を奪って、腕を縛る。王家が何が起きたか理解する頃には、王城の扉を俺が蹴破ってる」
「簡単に言うな」
ザフィラが地図を睨む。
「二十六人で王都へ侵入し、六か所を同時に制圧するつもりだろう」
「だから、順番を組む」
全員が地図へ視線を落とした。
ここから三日間。
王都を落とすための、最後の作戦を組み上げる。
♢
「最初に動くのはテオ班だ」
俺は王都北東部にある、細長い塔を指差した。
「目標は『魔術通信塔』と、王都各所にある警鐘」
「塔を壊せばいいのか?」
テオの問いに、俺は首を振った。
「壊すな。中身を押さえろ」
「敵の連絡を止めるなら、破壊したほうが早い」
「通信塔は、ミラが証拠を王都中へ流すために使う」
二代目覇王暗殺の記録。
偽造された継承文書。
重税。借金奴隷。奴隷狩り。強制依頼。
『鉄の掟』の禁止令。
俺たちが王城へ突入するだけでは、王家は反乱軍に襲われたと発表するだろう。
だから、その前に真実を流す。
「王家が命令を出すための設備を、そのまま王家の罪を暴く設備に変える」
「警備は?」
「通常は二十人前後。交代直後なら、塔内にいるのは十二人まで減る」
クライブ伯爵から提供された警備表へ目を落とす。
深夜零時。
旧番が退き、新番が配置へつくまでの僅かな隙。
そこを狙う。
「見張りを殺すのか?」
「降伏するなら縛れ。声を上げようとしたら眠らせろ。武器を抜いたら、戦闘不能にしろ」
「殺すなとは言わないんだな」
「お前らが死ぬくらいなら殺せ」
人を殺さずに済むなら、それが一番いい。
だが、敵の命を優先して仲間を失うつもりはない。
「塔を押さえたら、お前と班員一人はその場に残れ」
「通信塔を守るのか?」
「ああ。ミラが証拠を流し終えるまで、絶対に奪い返されるな」
通信塔を制圧しても、全員が離れればすぐに王家の兵が取り戻しに来る。
設備を動かす者。
入口を守る者。
最低でも二人は必要だ。
「残る四人は?」
「三人を、北門、東門、南門へ一人ずつ向かわせろ」
「一人ずつで大丈夫なのか?」
「戦わせるために送るんじゃねぇ。開閉機構を内側から固定して、担当区域の警鐘の綱を切ったら、すぐ塔へ戻れ」
テオ班に求めるのは、正面戦闘ではない。
見つからずに入り。
必要な場所だけを潰し。
敵が集まる前に離脱する。
そのために、斥候や軽装の者を集めた。
「見つかった場合は?」
「戦うな。固定を諦めてでも戻れ。門一つを止めるために、誰かが死ぬ必要はねぇ」
「最後の一人は?」
「連絡役兼予備だ。警備が多い門か、予定より遅れてる奴のところへ回せ」
テオが地図上の三つの門を順番に確認する。
「鐘そのものは壊さないのか?」
「残せ」
「何のために?」
「俺たちが王城を制圧したあと、夜明けの鐘を鳴らす」
王政が終わったことを知らせる鐘。
王家が民を呼び集めるためではない。
新しい朝を告げるために使う。
「西門は?」
「開けたままにする」
俺は王都西側へ指を置く。
「市民の避難路だ」
♢
「第二段階。アウラ班は西門を押さえる」
「閉じるのではないのか?」
「ああ。王都から逃げる民間人は止めるな」
ラングレイ王家を倒すからといって、王都の民を閉じ込める理由はない。
火事。戦闘。混乱。
何かあったとき、市民が逃げられる道は必ず必要になる。
「門の外には、クライブ伯爵が避難場所を用意している」
西門から街道を少し進んだ場所に、伯爵家の商会が管理する倉庫がある。
食料。水。治療薬。簡易寝具。
既に運び込みが始まっている。
「アウラ班の役目は、門を守ることじゃねぇ」
アウラを見る。
「市民が安全に逃げられる道を守ることだ」
「騎士団が門を閉じようとした場合は?」
「止めろ」
「市民を盾にした場合は?」
「敵を倒すより、市民を逃がすことを優先しろ」
アウラが静かに頷く。
「門を抜けた者は、必ず伯爵の倉庫まで届ける」
「お前ら六人だけで全部やろうとすんな。門番の中にも、王家に不満を持ってる奴はいる」
クライブ伯爵は、信用できる守備兵の名前まで調べてくれた。
事前に直接味方へ引き込むことはしない。
情報が漏れる危険があるからだ。
だが、証拠が公開され、王家の罪が明らかになれば、武器を置く兵士もいるだろう。
「投降した兵には、市民の誘導を手伝わせろ」
「信用できるのか?」
「完全に信用する必要はねぇ。武器を預かって、働いてもらえ」
「なるほど」
「ただし、門を守るために動けなくなるな」
アウラ班が西門へ張りつけば、ほかの班を助けられない。
守ることに固執しすぎるのは、伏魔殿でも見せたアウラの欠点だ。
「避難路が維持できてるなら、無理に敵を倒し切る必要はない。門を開けた状態で持たせろ」
「全員を守りながら、道を保つ」
「ああ。それがお前の仕事だ」
♢
「第三段階。カレン班は騎士団本部を制圧する」
地図中央から少し南。
広い訓練場と武器庫を持つ巨大な施設。
「ようやく分かりやすい仕事ですね!」
カレンが口元を吊り上げる。
「突入して、全員斬ればいいんでしょう?」
「よくねぇよ」
「なんでですかぁ!」
「騎士団全員が奴隷狩りへ参加したわけじゃない」
命令へ従った者。
何も知らない新人。
家族を人質に取られ、辞めることのできなかった兵士。
中には、罪を犯していない者もいる。
「最優先は武器庫と指揮官室だ」
「兵士じゃなくて、武器と命令系統を押さえるんですね?」
「ああ。武器庫を封鎖して、指揮官を捕らえれば、一般兵の大半は動けなくなる」
王都騎士団が使用する装備は、技術保護令によって一括管理されている。
夜間、全員が完全武装しているわけではない。
緊急招集がかかれば武器庫へ向かう。
ならば、先に武器庫を取ればいい。
「抵抗を止めた兵は拘束。武器を捨てた奴は斬るな」
「相手がSSランクでもですか?」
「王家直属の三人が出てきた場合は別だ」
『白銀剣』アルド・フェルゼン伯爵。
『灰炎』メルディア・グレイン子爵。
『鉄穿』バルガン・ドロスト伯爵。
王家の剣として、民衆の鎮圧や村焼き、奴隷輸送へ関わってきた者たち。
「最初に一度だけ投降を勧めろ」
「従うとは思えませんが……?」
「俺も思ってねぇ」
「なら、なんで聞いたんですか?」
「聞かずに殺したら、俺たちも王家と同じになる」
命令だから殺す。
敵だから殺す。
身分が違うから殺す。
そんな国を壊そうとしているのに、こちらまで同じことをするつもりはない。
「投降を拒否して武器を向けたら討て」
「三人同時に出た場合はどうします?」
「戦うな」
カレンの眉が上がる。
「私たちに逃げろっていうんですか?」
「足止めしろと言ってる」
勝つ必要はない。
武器庫を封鎖し。
一般兵を外へ出さず。
SSランク三人を騎士団本部へ引きつけておけば、それだけで役目は果たせる。
「ザフィラへ連絡しろ。状況次第では俺も行く」
「王城へ向かうのではなかったのですか?」
「作戦どおりに敵が動く保証なんかない。状況に合わせて変える」
作戦とは、決めたとおりに動くための鎖じゃない。
何かが崩れたとき、次にどうするかを迷わないための道標だ。
「分かりました。ですが、一人なら私が倒します!」
「二人でも?」
「やってやりますよ!」
「三人でも?」
「……足止めしますぅぅ」
「よろしい」
♢
「第四段階。ノア班は奴隷市場と、その地下にある研究施設を押さえる」
ノアが『冥杖・ウロボロス』を強く握る。
「捕らえられている人たちは?」
「最優先で解放する」
「奴隷紋を解除できますか?」
「一人ずつなら、俺が『破邪の短剣』を作ればいずれ解除できる」
だが、王都の奴隷市場には何百人いるか分からない。
その場で全員の紋を消すのは不可能だ。
「先に、奴隷契約を管理してる中枢魔道具を押さえろ」
奴隷紋は、一つ一つが完全に独立しているわけではない。
市場や王家が所有する奴隷は、地下施設にある管理魔道具へ登録されている。
所有者の変更。命令。懲罰。遠隔での発動。
すべて、そこから行われている。
「破壊するのですか?」
「安全に停止できるなら止めろ。だが、何も考えずに壊すな」
「破壊すると、奴隷紋が発動する可能性があるのですか?」
「ああ」
研究者が死んだ場合。
魔道具が破壊された場合。
奴隷がまとめて逃亡した場合。
自動的に奴隷紋を発動させる仕組みが組まれている可能性がある。
「まず、エルネスを確保しろ」
宮廷魔導師団長エルネス・ヴォルフ。
奴隷紋の研究と改良を担当する男。
「解除方法を聞き出すのですか?」
「知ってるなら吐かせる。知らないと言うなら、研究記録を探せ」
「奴隷紋を発動させようとした場合は?」
「迷わず殺せ」
「……はい」
ノアの声に震えはなかった。
「市場の中で火や混乱が起きた場合、奴隷を一度に外へ出すな」
「なぜです?」
「逃げ道へ人が集中すれば、踏み潰される」
まず動ける者。
次に負傷者。
子どもや高齢者。
治療が必要な者。
ノア班だけでは足りなければ、アウラ班へ応援を求める。
「全員を一度に助けようとするな」
「はい」
伏魔殿で何度も教えたことだ。
「今、一番危険な人を選びます」
「それでいい」
♢
「ザフィラ」
俺が呼ぶと、黒豹は地図の中央へ視線を向けた。
「お前はどの班にも入らない」
「全体の遊撃か」
「ああ。四班から届く報告を受けて、最も危険な場所へ入れ」
テオ班が塔を制圧できなければ、援護する。
アウラ班が門を維持できなければ、敵を引き離す。
カレン班がSSランクに押されれば、戦線へ入る。
ノア班が奴隷の避難で動けなくなれば、別の班を回す。
「お前が全体を動かせ」
「お前ではなく?」
「俺は王城へ行く」
「一人でか」
「ああ」
ザフィラの尻尾が大きく揺れた。
「お前が全体を指揮したほうがいい」
「王城でラングレイ王を確実に捕らえられるのは俺だ」
「私も行けばいい」
「お前が王城へ来たら、ほかの二十四人を誰が見る」
ザフィラは言葉を止めた。
以前なら、自分が最も強い敵へ向かうことを選んでいただろう。
今は、残る者たちへ目を向けている。
「それに、確実にサイラスが出てくる」
金色の瞳が細くなる。
「騎士団本部か?」
「奴隷市場へ向かう可能性もある。王城へ逃げるかもしれねぇ」
サイラス・グランツ。
ザフィラの村を焼き、仲間を殺し、生き残った者を奴隷へ売った騎士団長。
「見つけたら、お前が討て」
「言われるまでもない」
「ただし」
俺はザフィラを真っすぐ見る。
「サイラスだけを追うな」
空気が僅かに張り詰める。
「奴を見つけても、ほかの班が崩れてるなら先にそっちを助けろ」
「……分かっている」
「復讐のために、二十四人を見捨てるな」
「分かっていると言っている!」
「なら、約束しろ」
ザフィラが俺を睨む。
しばらくして、『クロノア』の柄から手を離した。
「サイラスを討つために、仲間を死なせることはしない」
「よし」
「だが、役目を果たした後は、誰にも譲らん」
「最初からお前に任せてる」
♢
「最後は俺だ」
王都中央。
高い城壁に囲まれた王城へ指を置く。
「通信塔が沈黙したら、正門から入る」
「地下通路を使わないのか?」
テオが地図の細い線を指す。
「王城へ続く地下道がある」
「逃走経路として押さえる」
「正面から行けば、警備が集まるぞ」
「集めるために正面から行くんだよ」
俺が王城で暴れれば、王家直属の兵や冒険者は俺へ向かう。
その分、ほかの班への圧力が減る。
「お前一人で、王城の戦力を引き受けるのか」
アウラが不安そうに聞く。
「俺はもうレベルカンストしてんだぞ」
「だからといって、一人は一人だ」
「一人だから動きやすい」
フィーアで転移し。
ツヴァイで接近戦。
王城内部の構造は変わっているだろうが、土台は俺が知っている。
「目標はラングレイ王の拘束」
殺さない。
逃がさない。
国民の前で裁く。
「同時に、継承文書の原本、王命、貴族との裏帳簿を押さえる」
「王が逃げた場合は?」
「地下の脱出路は、テオ班の二人が塞ぐ」
「転移魔法を使ったら?」
「王城の転移設備を最初に潰す」
かつて王城には、緊急時に使う転移陣があった。
現在も残っている可能性は高い。
「携帯型の転移道具だった場合は?」
「王本人へ、召喚印を応用した追跡標識をつける」
「そんなことができるのか?」
「召喚できるわけじゃねぇ。どこへ逃げたか追えるようにするだけだ。武器を登録できるなら、人間へ印をつけるくらいできるだろ」
「また仕様の隙を突くつもりか」
「仕様は使うためにあるんだよ、記憶したか?」
捕まえた王へ魔力標識を残す。
逃げても場所を追えるようにする。
「俺から連絡が途絶えた場合は、ザフィラが全体指揮を引き継げ」
「最初から私が全体指揮ではないのか?」
「作戦変更の最終判断だ」
王城で俺が死ぬか。
拘束されるか。
通信できなくなる可能性はゼロではない。
「夜明けまでに俺から制圧完了の連絡がなければ、王城攻略は失敗と判断しろ」
「助けに来るなと言うのか?」
「市民と二十四人を連れて退け」
「断る!」
即答された。
「命令だ」
「お前を捨てて逃げる命令など聞けるか!」
「ザフィラ」
声を落とす。
「俺一人を助けるために、全員を王都へ残して全滅したら、誰が国を取り戻すんだ」
ザフィラが歯を食いしばる。
「夜明けまでだ」
「……」
「それまでは信じろ」
長い沈黙。
「……分かった」
不満を隠す気もない声だった。
「夜明けまでは待つ……」
「それ以降は?」
「お前を引きずり出しに行く」
「撤退しろって言ってんだけど?」
「聞こえなかったんだ」
ほんまこいつ……。
まあ、夜明けまでに終わらせればいい。
♢
ミラの役割は、冒険者ギルド本部の内部制圧。
といっても、戦うわけではない。
協力者と共にギルド総長ドレイク・ボルザの執務室へ入り、強制依頼の原本と横流しの帳簿を確保する。
テオ班が魔術通信塔を押さえたあと、証拠を通信網へ流す。
同時に、ギルドの掲示板へ写しを貼り出す。
通信塔が使えなかった場合に備え、資料の写しは三か所へ分ける。
冒険者ギルド。
クライブ伯爵の倉庫。
王都内の協力商会。
一か所が潰されても、証拠は残る。
クライブ伯爵は王都外。
西側街道へ兵と商会の護衛を配置する。
王都へ向かう援軍には、
「魔物の大群が出た」
「橋が崩落した」
「王都から待機命令が届いた」
など、使える理由を何でも使って足止めする。
王都から逃げてきた市民には食料と薬を配る。
「伯爵の兵が王都へ入ることはない」
俺は全員へ念を押す。
「なぜだ?」
「貴族軍が王都へ入れば、別の貴族による政変に見える」
これはクライブ伯爵のための戦いではない。
ラングレイ家から、別の貴族へ王座を移すためでもない。
「俺たち自身で終わらせる」
♢
作戦を決めた翌日。
俺たちは廃村を王都に見立て、何度も動きを確認した。
「テオ班、開始から何分だ!」
「通信塔制圧まで十二分! 警鐘停止まで十八分!」
「遅い! 十五分以内に全部終わらせろ!」
「警備役を増やしすぎだ!」
「実戦で予定より少ない保証があんのか!」
テオ班が走り直す。
アウラ班は、二十人を市民役として西側へ誘導する。
「固まりすぎるな! 転べば後ろが詰まる!」
「負傷者を中央へ! 動ける者は左右を守れ!」
カレン班は、倉庫を騎士団本部に見立てて突入。
「武器庫役を先に押さえろ!」
「指揮官を追う!」
「逃げた一人より、百人分の武器を止めろ!」
ノア班は、奴隷役となった者たちの状態を見分ける。
「歩ける人は、自分で西門へ!」
「重傷者を先に運んでください!」
「奴隷紋が光った者へ、魔力を流さないで! 術式が反応します!」
そしてザフィラは、四班から届く報告を聞き続ける。
「テオ班、予定より三分遅れ!」
「アウラ班へ敵役が集中!」
「カレン班、負傷者二名!」
「ノア班の避難が止まっています!」
以前のザフィラなら、自分が最も危険な場所へ走っていただろう。
だが今は違う。
「テオ班から一人、アウラへ回せ!」
「カレン班は負傷者を下げ、進行を止めるな!」
「ノア班には私が行く!」
すべてを自分で片づけない。
必要な戦力を、必要な場所へ送る。
三日目。
全班が、予定時間以内に目標を達成した。
もちろん、実戦は訓練どおりにはいかない。
警備の人数。
敵の配置。
市民の動き。
SSランクの出現場所。
何一つ、完全には読めない。
だからこそ、失敗した場合の基準を決めておく。
「作戦を中止する条件は三つ」
決戦前最後の作戦会議。
俺は地図を囲む全員へ告げた。
「一つ。市民が大量に人質に取られた場合」
王家を倒すために、市民を見殺しにはしない。
「二つ。奴隷紋が一斉に発動し、解除や停止ができない場合」
国取りよりも、目の前の命を優先する。
「三つ。夜明けまでに王城か通信塔、そのどちらか一方でも制圧できなかった場合」
王城だけを取っても、真実を伝えられなければ反乱になる。
通信塔だけを取っても、王家が残れば証拠を握り潰される。
「この三つのどれかが起きたら、王都制圧から市民救出へ目的を切り替える」
「逃げるんですか?」
カレンが尋ねる。
「退く」
「同じじゃないですか!」
「違うって……」
逃げるのは、恐怖に押されて背中を向けること。
退くのは、次に勝つために自分で選ぶこと。
「一度で成功しなかったからって、全部終わりじゃねぇ」
生きていれば、もう一度挑める。
「誰も、作戦を成功させるために死ぬな」
俺が守りたいのは作戦じゃない。
国でもない。
そこで生きる者たちだ。
♢
地図の上に、六つの駒を置く。
通信塔。西門。騎士団本部。
奴隷市場。冒険者ギルド。王城。
「俺たちが攻めるのは、アルセディアじゃない」
二十五人が俺を見る。
「この国に食らいついて、民の血を吸い続けてきた連中だ」
王都の建物は壊さない。
工房を焼かない。
商店から奪わない。
降伏した者を殺さない。
逃げる民を追わない。
「国は壊すな」
壊すべきものは、ただ一つ。
「ラングレイ王政だけを、一晩で終わらせる」
誰も声を上げなかった。
だが、迷いのある目もなかった。
一か月かけて鍛えた二十五人。
王家に奪われ。
奴隷として縛られ。
それでも、自分の意思で武器を取った者たち。
明日の夜。
こいつらと共に、王都へ入る。
百二十年間続いた嘘を終わらせるために。
お読みいただきありがとうございます。
ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、
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