24:覇王不在、黒豹群れを一つにする。
翌朝、私は二十四人を、拠点の中央へ集めた。
リンドウが連れていった四人は、全員が上位職へ進化している。
アウラは、聖騎士。
テオは、暗殺者。
カレンは、剣聖。
そしてノアは、冥華の聖女。
レベルだけなら、私が送り出したときとは比較にならない。
だが、今日から必要になるのは、四人だけの強さではなかった。
「これから、二十四人を四つの班へ分ける」
私の言葉に、全員の表情が引き締まる。
「一班六人。アウラ、テオ、カレン、ノアが、それぞれ五人を率て」
「俺たちが、正式に隊長になるのか?」
テオが尋ねる。
「そのために、リンドウがお前たちを連れていったのだろう?」
「あの人は、何でも勝手に決めますからね」
カレンが不満そうに言う。
「だが、断るつもりはないのだろう?」
「当然です!」
迷いなく答えた。
出発前のカレンなら、自分が強くなることだけを考えていただろう。
今は、自分の後ろに立つ五人へ視線を向けている。
やはり、変わった。
「まずはアウラ班」
アウラのもとには、防御と戦線維持に向いた者を配置した。
剣と小盾を扱うダン。
長槍を持つ獣人の男。
重盾を扱う人間の女。
簡単な治癒魔法を使えるエルフ。
そして、敵の足止めを得意とする槍兵。
「お前たちの役目は、防衛と避難路の確保だ」
「敵を倒すことではないのか?」
重盾を持つ女が尋ねる。
「倒せるなら倒せ。だが、優先するのは仲間を守ることだ」
アウラが『バスティオン』へ手を置く。
「私たちが立っている限り、後ろの者には触れさせない」
続いて、テオ班。
斥候、弓使い、軽装の剣士、投擲を得意とする獣人。
そして、罠を扱える小柄な男。
「お前たちは偵察、潜入、遠距離からの援護。敵を倒す前に、何がどこにいるかを全員へ伝えろ」
「分かってる」
テオが頷く。
「本当に分かっているのか?」
「リンドウにも、毎日怒鳴られた」
「なら大丈夫そうだな」
「大丈夫じゃない。思い出すだけで耳が痛い」
狼耳が僅かに伏せられた。
カレン班には、攻撃力の高い者を集めた。
剣士、戦士、槍兵。大剣を扱う獣人。
そして、大弓を持つ巨体の男。
「正面突破と遊撃を担当してもらう」
「私たちが敵陣へ穴を開けますよ!」
カレンが『望月』と『朔月』の柄へ手をかける。
「だが、勝手に先へ行くなよ」
「誰に言ってるんです?」
「お前にだ」
「……今の私は隊長ですよっ!」
「だから言っている」
カレンは不満そうに黙った。
最後はノア班。
魔導士、治癒術師、弓使い、魔法の盾を扱う女。
そして、魔物の足止めに向いた拘束魔術を使う男。
「回復、魔術、召喚による支援を担当する。四班すべてを助けようとするな」
「はい」
ノアは、以前のように迷わず返事をした。
「一番崩れそうな場所を見つけて、そこへ力を使います」
「その判断を誤れば?」
「次に生かします」
「仲間が傷ついたとしてもか?」
ノアは僅かに杖を握り締めた。
それでも、目を逸らさない。
「誰も傷つけずに戦うことはできません。だから、全員が生きて帰るために必要な人を選びます」
「それでいい」
四つの班。
四人の隊長。
二十四人の戦士。
だが、班分けをしただけで、一つの部隊になるわけではない。
「今日は、四班すべてで『亡者の地下墓地』を攻略する」
「全員でか?」
「ああ」
ダンが不安そうに周囲を見る。
「二十四人もいれば、楽に倒せるのではないか?」
「そう思うなら、やってみろ」
楽になるかどうかは、これから分かる。
♢
最初の合同攻略は、予想していた以上に酷かった。
「カレン、待て!」
「前が空いてます! このまま押し切ります!」
カレン班が、出現したグールの群れへ飛び込んでいく。
突破力は高い。
前方の敵を次々と斬り伏せ、道を開いていく。
だが、後続の班との距離が急速に開いていた。
「アウラ! 前へ出ろ!」
「今は後方を守っている!」
アウラ班は、守りを固めすぎていた。
後ろから現れた亡者を一体ずつ確実に倒し、他の班が追いつくのを待っている。
安全ではある。
だが、その間にもカレン班は先へ進み続ける。
「前方にグールが十五! 右の通路から追加が来る!」
テオが叫ぶ。
その直後、テオ班だけが右の通路へ向かった。
「テオ! なぜ勝手に動く!」
「追加が来る前に止める!」
「全員へ伝えてから動け!」
「今、伝えた!」
「動いた後に言うな!」
さらにノア班。
「アウラさんの班に防御魔法を! カレンさんの班には速度強化! テオさんたちへ――」
「ノア、待て!」
ノアの杖から複数の魔法が放たれる。
四班すべてへ同時に支援を送ったせいで、魔力が目に見えて減っていく。
「まだ攻略は始まったばかりだぞ!」
「ですが、全員が戦っています!」
「だから全員を助けようとするな!」
それぞれの班は強い。
アウラ班は崩れない。
テオ班は素早い。
カレン班は敵を倒す。
ノア班は全体を支えられる。
しかし、四班がそれぞれ勝手に戦っている。
これでは部隊ではない。
ただ、四つの集団が同じ場所にいるだけだ。
「カレン班が囲まれた!」
誰かが叫ぶ。
前へ出すぎたカレン班の後方へ、別の通路から亡者が流れ込んでいた。
「全員、止まれ!」
私は『クロノア』を振り抜き、カレン班へ迫る亡者をまとめて吹き飛ばす。
地面を蹴り、四班の中央へ飛び込んだ。
「各班で勝手に戦うな!」
全員の視線が私へ集まる。
「アウラは道を作れ! 後ろを守るだけでは誰も前へ進めん!」
「分かった!」
「カレンは、アウラが開いた場所へ入れ! 自分で勝手に穴を開けようとするな!」
「ですが、私のほうが早いです!」
「お前に後ろが追いつけなければ意味がない!」
カレンが歯を食いしばる。
「テオは敵を倒す前に位置を伝えろ! お前の班だけが知っていても役には立たん!」
「……分かった」
「ノアは全員を見るな! 崩れそうな班だけ支えろ!」
「はい!」
私は周囲を見渡した。
前方から来る亡者。
後方で増え始めるグール。
右の通路に魔術師。
左側では、カレン班の一人が負傷している。
どこへ指示を出す。
どこを切り捨てる。
どの班を前へ進ませ、どの班を下げる。
これまで私は、自分が最も危険な場所へ入り、敵を倒してきた。
だが今は違う。
私自身が一体倒すより、四つの班を正しく動かしたほうが、多くの敵を倒せる。
「アウラ班、前へ!」
「行くぞ!」
アウラが『バスティオン』を構え、亡者の群れへ突進する。
盾で敵を倒すのではない。
左右へ押しのけ、後ろの班が通れる道を作る。
「カレン!」
「言われなくても分かってますよ!」
開いた道へカレン班が入る。
アウラ班が押さえた敵を、攻撃職が一気に仕留めていく。
「テオ! 右通路の状況!」
「魔術師が六! あと二十秒で詠唱が終わる!」
「お前の班で止めろ! 倒す必要はない!」
「了解!」
テオ班が影のように走る。
投げナイフと矢で魔術師の詠唱を妨害し、前線へ攻撃が届くのを防いだ。
「ノア!」
「カレン班の負傷者を治療します! 残り魔力は七割です!」
「そのまま報告を続けろ!」
「はい!」
最初の合同攻略は、どうにかグールキングの部屋まで到達した。
だが、消耗が大きすぎた。
カレン班は前へ出すぎて負傷者が三人。
ノア班は、既に魔力が半分以下。
アウラ班は、守りすぎたせいで装備の損耗が激しい。
テオ班だけは比較的無傷だが、他の班へ情報が伝わっていなかった。
「今日はボスとは戦わない」
「ここまで来たのにですか……?」
カレンが不満そうに言う。
「この状態で戦えば、誰かが死ぬ」
「勝てない相手じゃないと思いますけど」
「勝てるかどうかではない。全員で帰れるかどうかだ」
カレンは口を閉ざした。
「撤退する。帰ったら反省点を全員で出せ」
♢
二度目の合同攻略。
四班の距離は、最初よりも近くなった。
「前方、グールが十二!」
テオが声を上げる。
「後方は?」
アウラが尋ねる。
「今はなし。ただし、三十秒ほどで出る可能性が高い!」
「なら、先に前を抜ける」
アウラが判断する。
「カレン、右側を開けるか?」
「問題ないです!十秒ください!」
「私が十五秒持たせる」
「ノア、補助は?」
「カレン班へ速度強化。アウラ班には必要ありません。残り魔力は九割です」
「よし。進むぞ!」
各班が、自分の情報を全員へ伝える。
一つの班だけで判断しない。
誰が前へ出るか。
誰が残るか。
どこへ支援を送るか。
短い言葉で共有する。
まだ、完全ではない。
アウラが判断を迷うこともある。
テオが先に動きかけることもある。
カレンは隙を見ると前へ出たがる。
ノアも、全員の傷へ目を向けてしまう。
それでも、前回とは見違えていた。
♢
三度目の合同攻略。
私は一度も『クロノア』を振るわず、グールキングの部屋へ到達した。
「ここからが本番だ」
巨大な扉の前で、二十四人を見渡す。
「一つだけ覚えておけ」
全員が私を見る。
「これは、四班でグールキングを倒す戦いではない」
「違うのか?」
ダンが尋ねた。
「一つの部隊で、一体の敵を倒す戦いだ」
扉を開く。
♢
『『グールキング』が出現しました』
腐敗した巨体が立ち上がり、巨大な棍棒を床へ打ちつけた。
衝撃が部屋全体を揺らす。
「アウラ班、正面!」
「全員、私の後ろへ!」
アウラが『バスティオン』を構える。
淡い金色の『庇護領域』が広がり、グールキングの突進を受け止めた。
巨体と盾がぶつかる。
床が砕け、アウラの足が地面へ沈む。
「止めたぞ!」
「テオ班、死角と弱点を探れ!」
「散開!」
テオ班が左右へ分かれる。
弓と暗器が飛び、グールキングの意識を散らす。
「右膝の裏! 腐敗が進んでいる!」
テオが叫ぶ。
「左脇にも深い傷がある! ただし、毒霧が溜まってる!」
「カレン!」
「聞こえてます!」
カレン班が一斉に駆ける。
アウラ班が正面で止めている間に、グールキングの右側へ回り込んだ。
「膝を崩す!」
カレンの『望月』が長い軌道を描く。
続く『朔月』が、膝裏の腐敗した肉を切り裂いた。
大剣、槍、弓。
五人の攻撃が同じ場所へ集中する。
グールキングの右脚が沈み、巨体が大きく傾いた。
『グォォォォォッ!』
怒りの咆哮。
グールキングの口から、濃い緑色の毒霧が噴き出す。
「ノア班!」
「防御魔法を展開します!」
ノアが『冥杖・ウロボロス』を掲げる。
白い花弁が広がり、毒霧を押し返した。
同時に、地面から骸骨兵が現れる。
「負傷者を後ろへ! 治癒術師は毒の解除を優先してください!」
ノアは全員を見ていない。
一番危険な場所へだけ、支援を送っている。
毒を浴びた者。
盾で衝撃を受けたアウラ班。
そして、巨体の下へ入り込んだカレン班。
「テオ班、左から追加のグールが来ています!」
「数は七!」
「三人で止めろ! 残る二人は弱点の報告を続けてください!」
「了解!」
私は全体を見渡す。
アウラ班が正面を止める。
テオ班が敵の動きを読み、増援を抑える。
カレン班が弱点を破壊する。
ノア班が毒と負傷者へ対応する。
四班の動きが、つながっている。
だが、グールキングの左腕が大きく振り上げられた。
狙いは、後方にいるノア班。
「ノア、右へ退け!」
「ですが、治療中の人が!」
「アウラ班では間に合わん!」
私は『クロノア』を構え、飛び出そうとする。
その前に、ダンが動いた。
「俺が行く!」
アウラ班を離れ、ノア班の前へ走る。
小盾を構えたが、グールキングの棍棒を受け止められる大きさではない。
「ダン!」
「止める必要はない!」
テオの声が飛ぶ。
「軌道を右へ逸らせ!」
「分かった!」
ダンは棍棒の正面に立たない。
小盾を斜めに構え、振り下ろされた一撃へぶつけた。
腕が軋み、身体が吹き飛ばされる。
それでも、棍棒の軌道は僅かにずれた。
ノア班の横へ叩きつけられ、床を大きく砕く。
「ダンさん!」
「動ける! 俺より、アウラを支援しろ!」
ノアは一瞬だけ迷い、アウラへ白い魔力を送った。
「了解しました!」
正しい判断だ。
ダンは傷ついた。
だが、まだ動ける。
一方、正面で巨体を支えているアウラが倒れれば、全班が崩れる。
「カレン! 今だ!」
アウラが叫ぶ。
「分かってます!」
グールキングの右膝が、完全に崩れた。
巨体が片膝をつく。
「テオ!」
「首の後ろ! 核が露出した!」
「全班、攻撃を集中!」
私の声と同時に、二十四人が動いた。
アウラ班が巨体を押さえ込む。
テオ班の矢と暗器が、首の周囲へ突き刺さる。
カレン班が背中へ駆け上がる。
ノアの死霊が、グールキングの両腕へ絡みつく。
「カレン!」
「これで――終わり!」
『望月』と『朔月』が交差する。
剥き出しになった核へ、二本の刃が同時に食い込んだ。
続いて、残る全員の攻撃が一点へ集中する。
核に亀裂が走る。
そして――砕けた。
『『グールキング』を討伐しました』
巨体が光の粒子へ変わっていく。
私は最後まで、『クロノア』を振るわなかった。
二十四人だけで倒した。
誰か一人の力ではない。
四班が、それぞれの役目を果たし、一つの敵を討った。
「……勝った」
誰かが呟く。
「俺たちだけで……」
歓声が上がる。
抱き合う者。
その場へ座り込む者。
武器を掲げる者。
私の前にも、通知が表示された。
『ザフィラのレベルが80へ上がりました』
「……やっとか」
リンドウに命じられた目標。
何度、アノマリー・ロードを倒したか分からない。
昼は二十人を鍛え。
夜は一人で地下墓地へ潜り。
眠気に耐えながら、ようやく届いた。
だが、レベルが上がったことよりも。
目の前で喜ぶ二十四人の姿のほうが、遥かに嬉しかった。
♢
その夜。
拠点で食事を取っていると、パーティーメニューに通知が届いた。
『リンドウからパーティー通信の申請があります』
すぐに通信を繋ぐ。
「リンドウか」
『おう』
「そちらはどうだ」
『黒いほうは出た』
「なら帰ってこい」
『月のほうが出てねぇ』
「一枚あれば十分ではないのか?」
『双剣を一本だけ作ってどうすんだよ!』
「同じ素材で二本作ればいいだろう」
『黒い双剣二本にしたら、もうツヴァイじゃなくてシュヴァルツだろうが!』
「何を言っているのか、まったく分からん」
『とにかく、黒と白が一対で完成なんだよ!』
相変わらず、武器のことになると面倒な男だ。
「こちらは、二十四人だけでグールキングを倒した」
通信の向こうが静かになる。
『ザフィラは手を出したか?』
「一度も刃を振るっていない」
『そうか』
短い返事。
だが、その声には満足そうな響きがあった。
「私もレベル80へ到達した」
『ギリギリ合格だな』
「帰ってきたら斬るぞ」
『褒めてんだろうが』
「どこがだ!」
『で、四班はちゃんとまとまったのか?』
「ああ。まだ未熟だが、四つの班が互いを見て動けるようにはなった」
『なら、後は実戦までに仕上げろ』
「分かっている。それより、いつ戻るつもりだ」
『月の天殻が出たら』
「もう意地になっているだけではないのか?」
『廃人を舐めんな』
「十分舐めていると思うが」
『素材が出るまで帰らねぇ。それだけ伝えといてくれ』
通信が切れた。
身勝手な男だ。
だが、約束した以上、本当に二枚そろえるまで帰ってこないのだろう。
♢
それから数日。
四班の連携は、さらに安定していった。
アウラ班が作った道を、カレン班が突破する。
テオ班が敵を発見し、ノア班が必要な場所へ支援を送る。
私は全体の中央に立ち、どの班を進ませ、どの班を退かせるかを判断する。
自分で敵を倒す機会は、以前よりも減った。
それでも、部隊全体が倒す敵の数は増えている。
自分が強いことと、他人を強くできることは別。
そして――。
強くなった者たちを、一つの目的へ向かわせることも、また別の力なのだ。
そのことを、私は少しずつ理解し始めていた。
その日の訓練を終えた頃。
森の奥から、枝を踏み折る音がした。
「誰だ!」
全員が即座に武器を構える。
月明かりの差し込む森。
暗闇の奥から、一人の男が歩いてくる。
服は所々破れ。
髪は乱れ。
顔には濃い疲労が浮かんでいる。
それでも、口元には満足そうな笑みがあった。
「待たせたな」
「リンドウ!」
男の両腕には、巨大な二枚の天殻。
片方は、周囲の光さえ飲み込む漆黒。
もう片方は、夜の中でも淡く輝く月白。
リンドウは二枚を地面へ置き、大きく息を吐いた。
「やっっっと二枚とも落ちやがった……」
お読みいただきありがとうございます。
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