18:覇王、武器を揃える。
翌朝。
俺は拠点の中央へ24人を集め、目の前に並ぶ顔を一人ずつ見渡した。
「今日から一週間、お前らの装備を作る」
24人の間に、小さなどよめきが広がる。
「本当に、一人で全員分を……?」
「そのために三日間も鉱山へ籠もったんだよ。今さら無理でしたなんて言うわけねぇだろ」
俺は『インベントリ』を開き、採掘してきた鉄鉱石と魔鉱を地面へ取り出した。
積み上がった鉱石の山を見て、何人かが目を丸くする。
「ただし、俺一人で全部やってたら時間が足りねぇ。炭を運ぶ奴、炉へ風を送る奴、水を汲む奴。食料を確保する奴、できる仕事は手伝ってもらうぞ」
「……俺たちにも、鍛冶ができるのか?」
「お前らに武器を打たせるわけじゃねぇ。だが、自分の武器がどうやって作られるかくらいは見とけ」
武器は、手にした瞬間だけ役に立つ道具じゃない。
手入れを怠れば錆びるし、刃は欠ける。
これから国を相手にするというのに、武器が壊れるたび俺のところへ泣きつかれても困る。
「ザフィラ。鍛冶を手伝わない奴らは、交代で基礎訓練をさせろ」
「分かった」
「無茶させんなよ」
「その言葉、そのまま返してやる」
「失礼な猫だな」
「だから猫じゃない!」
いつものやり取りに、24人の緊張が僅かに解けた。
さて……ここから一週間、俺は鍛冶師に戻る!
♢
最初に作るのは、特別な構造を必要としない二十人分の装備だ。
剣、槍、弓、短剣、盾。
同じ武器種であっても、全く同じ物を作るわけではない。
腕の長さ、手の大きさ、STRとAGIの比率。
そして今まで身につけてきた戦い方。
それらを確認し、基礎となる型を一人ずつ調整する。
「ダン。握ってみろ」
完成したばかりの片手剣を、最初に名乗り出た男へ渡す。
ダンは柄を握り、何度か軽く振った。
「……軽い」
「軽すぎるか?」
「いや。今まで使っていた剣より重いはずなのに、振りやすい」
「重心を手元へ寄せてるからな。お前は前へ出て斬り合うより、仲間の横で敵を押し返すほうが向いてる。切れ味だけじゃなく、取り回しを優先した」
続いて小盾を渡す。
盾の裏側には、腕を通す革帯だけでなく、衝撃を逃がすための僅かな遊びを設けてある。
「まずはこいつで、横にいる奴を守ることを覚えろ」
「……分かった」
次は大弓。
STRへ極端に振っていた獣人には、通常よりも張力を高くした長弓を作った。
「引いてみろ」
「ぐっ……!」
「引けるな?」
「ああ。重いが、これなら……!」
「威力は出る。だが当たらなきゃ意味がねぇ。ザフィラに動く的でも用意してもらえ」
「承知した」
「あと、次からはAGIにも振れ。全部STRなんて馬鹿なことはやめろ」
「……はい」
槍兵には、狭い場所でも扱えるよう柄を少し短くした槍。
斥候には、音が鳴りにくい鞘へ収めた短剣。
治癒師には、戦闘時に両手を塞がない小型の杖と護身用の刃。
盾職には、受け止めるのではなく、攻撃を流すための丸盾。
一人作るたび、使わせる。
違和感があれば炉へ戻す。
柄を削り、刃の角度を直し、重心を数ミリ単位で調整する。
量産とはいえ、同じ物を並べて配るだけの作業じゃない。
使う本人に合った一本を作らなければ、俺が打つ意味がない。
炉の火は、朝から夜まで消えなかった。
槌を振い、地金を折り返す。
鉄へ砕いた魔鉱を混ぜ、魔力の通り道を作る。
三日経ち、完成した武器が、作業小屋の壁へ少しずつ並んでいく。
『鍛冶師のレベルが10へ上がりました』
『鍛冶師のレベルが12へ上がりました』
『鍛冶師のレベルが14へ上がりました』
四日目の夜。
二十人目の槍を仕上げた瞬間、再び通知が流れた。
『鍛冶師のレベルが16へ上がりました』
「ふぅ……標準装備は、これで終わりっと」
標準と呼んではいるが、どれも使用者に合わせて調整した一点物だ。
この時代の冒険者が持っている武器と比べれば、性能は段違い。
完成した装備を抱えた者たちは、何度も刃や柄へ視線を落としている。
自分のためだけに作られた武器。
それを手にするのが初めてなのは、ザフィラだけではなかったらしい。
だが、ここからが本番だ。
神匠の底力見せてやんよ……!
残っている四人のうち、三人には上位職になったあとまで使える専用装備を作る!
♢
五日目。
最初に取りかかったのは、アウラの剣と大盾だった。
「本当に、ここまで大きくする必要があるのか?」
作業台へ置いた盾の骨組みを見て、アウラが尋ねる。
「お前一人を守るだけなら、もっと小さくていい」
「なら、なんでこんなに大きなものを作るんだ?」
「お前の後ろにいる奴も含めて守るためだよ」
大盾の芯には、粘りのある鉄を使う。
その表面へ魔鉱を混ぜた地金を重ね、何度も叩いて密着させていく。
分厚くすれば頑丈にはなる。
だが、重すぎれば動けない。
薄ければ強力な一撃を受けた瞬間に割れる。
必要なのは、衝撃を真正面から受け止める硬さと、受けた力を外側へ逃がす僅かなしなり。
盾の中央を緩やかに盛り上げ、左右へ衝撃が流れる形へ整える。
内側には二本の固定帯。
片方が切れても、盾を手放さずに済むようにしておく。
「ほらよ、とりあえず持ってみろ」
完成前の大盾をアウラへ渡す。
彼女は両腕で受け取り、地面へ下端を置いた。
「……重い。だが、支えられる」
「その重さを覚えろ。上位職になれば、今より軽く感じるはずだ」
盾の形が決まれば、次は剣。
盾の隙間から突き出せるよう、刃は直線的。
鍔は小さく、狭い間合いでも味方へ引っ掛けない形にした。
二つを一組として仕上げ、最後に魔力を通す。
『大盾・バスティオン ランクA』
『片手剣・ノアトゥーン ランクA』
『鍛冶師のレベルが18へ上がりました』
「剣が『ノアトゥーン』。大盾が『バスティオン』だ」
「名まで与えるのか」
「特注品だからな。部隊の最前線を任せる。簡単に壊されるなよ」
アウラは大盾を見つめ、静かに頷いた。
「この盾にかけて、誰一人後ろへ通さないと誓おう」
「まだ上位職にもなってねぇのに、気が早ぇ。ちゃんと戦い方を覚えろ」
だが、悪くねぇ。
その気概と覚悟があるなら、『聖騎士』への道も遠くねぇはずだ。
♢
次は、テオの暗器一式。
小さな武器ばかりだから簡単――なんてことはない。
むしろ、いや、かなり面倒だった。
投げナイフは、一本ごとの重さが違えば狙いがずれる。
仕込み針は、細すぎれば曲がり、太すぎれば隠せない。
鋼線は強度を保ちながら、手の中へ収まる細さが必要だ。
「12本とも、同じ重さにしてある」
完成した投げナイフを布の上へ並べる。
「重さだけじゃねぇ。刃の長さも、重心も、全部同じだ。一本目で距離を測れば、残りも同じ感覚で投げられる」
テオは一本を拾い、指先で回した。
軽く投げると、離れた木材の中央へ深く突き刺さる。
「……今までのと全然違う」
「今までのは、刃物を投げてただけだ。こいつは投げるために作った刃だよ」
袖へ隠す針。
腰へ収める短剣。
靴底へ仕込む薄刃。
対象を拘束する鋼線。
一つずつ、テオの身体へ合わせて鞘と収納位置まで調整する。
「全部持っても、音が鳴らないようにしてある。暗殺職が歩くたびに金属音を鳴らしてたら笑い話にもならん」
「……すごいな」
「毒はまだ塗るなよ」
「分かってる」
「本当だろうな?」
「しつこい」
こいつ、絶対隠れて試すタイプだ……。
ザフィラに見張らせよう。
『暗器一式・影縫 ランクA』
『鍛冶師のレベルが20へ上がりました』
♢
六日目の午後。
三人目は、カレンの双剣だ。
俺は彼女がこれまで使っていた、長さの違う二本の剣を作業台へ置いた。
「同じ長さの剣を作るんじゃなかったのですか?」
「最初はそのつもりだった」
「では、なぜ……?」
「お前の戦い方を見直した」
カレンは、武器が揃わなかったから仕方なく長剣と短剣を使っていた。
だが、長年その組み合わせで生き残ってきた結果、左右で異なる役割を持たせる戦い方が完成しつつある。
長い右剣で間合いを支配する。
短い左剣で受け流し、懐へ入った敵を仕留める。
せっかく身につけた型を、同じ長さの剣へ合わせるために捨てさせる必要はない。
「今の戦い方を歪みだと思ってたが、違う。お前なりに完成させた型だ」
「私の……型」
「だから、武器のほうをお前に合わせることにした。」
右手用は、長く細い刃。
切断力よりも、速度と間合いを優先する。
左手用は短く、刃元を厚くした。
敵の武器を受け流し、至近距離で確実に斬るための剣だ。
二本の重さは違う。
だが、同時に振ったとき、左右の腕へ掛かる負担が釣り合うよう調整する。
同じ形ではない。
同じ役割でもない。
それでも二本そろって初めて、一つの武器になる。
夜遅く。
最後の研ぎを終え、二本の剣をカレンへ差し出した。
「長剣が『望月』。短剣が『朔月』。二本合わせて『双月』だ」
カレンは左右の手で受け取り、静かに構える。
一歩踏み込み、望月を振るう。
続く朔月が、僅かな時間差で同じ軌道をなぞった。
以前まであった動きの歪みが消えている。
「……私の剣だ」
「当然だ、お前に合わせた特注品だ。お前以外が使っても、たぶん扱いづらいだけだと思うぞ」
カレンがもう一度、二本の剣を振るう。
その表情には、初めて見たときにはなかった確かな自信が浮かんでいた。
『双剣・双月 ランクA』
『鍛冶師のレベルが22へ上がりました』
「これで二十三人分、完成っと」
残るは一人。
ノアだけだ。
♢
七日目。
俺は作業小屋へノアを呼び、改めてステータスを確認した。
魔導士、死霊術師。
高いINTと、二系統へ分かれた魔力適性。
普通の魔鉱で杖を作ること自体はできる。
だが、それでは『冥華の聖女』になったとき、武器の性能が追い付かない。
「ノア。少し魔力を出してみろ」
「……はい」
ノアが両手を重ねる。
右手には、淡い白色の魔力。
左手には、冷たい紫色の魔力。
互いに反発しながらも、完全に離れることはない。
生者へ干渉する魔力と、死者へ干渉する魔力。
この二つを一本の杖へ流すなら、金属だけでは駄目だ。
魔鉱は魔力を通しやすいが、異なる性質の魔力が内部でぶつかれば、いずれ杖そのものが耐えられなくなる。
必要なのは、二つの魔力を受け入れ、循環させられる生きた素材。
「……駄目だな」
俺の言葉に、ノアの肩が小さく震えた。
「やはり、私の職業は……」
「勘違いすんな。お前が駄目なんじゃない」
俺は作業台の上へ、先日手に入れた『アノマリー・ロードの死霊核』を置いた。
「死霊術側の素材はある。問題は、こいつと釣り合う杖の芯材だ」
「普通の木では、駄目なのですか?」
「数回使っただけで腐るか、お前の膨大な魔力に耐えられず砕ける。お前専用に作るなら、半端な物は使えねぇ」
必要な素材には心当たりがある。
高濃度の魔力を浴びながら、数百年生き続けた樹木型モンスター。
そいつの枝なら、生と死の魔力を同時に流しても耐えられる。
「一週間待たせたうえに悪いが、お前の武器だけはまだ作れない」
ノアは一度俯いた。
だが、すぐに顔を上げる。
「……素材があれば、作っていただけるのですか?」
「すぐに作る、それは約束しよう」
「死霊術師である、私のために?」
「それがどうした。死霊術ってのは高いINTと膨大な魔力が売りの職業だ」
俺は魔核を持ち上げ、炉の火へ透かして見る。
「お前の職業は、捨てるようなもんじゃねぇ。使いこなせば、全員を生きて帰すための力になる」
ノアの紫色の瞳が、僅かに揺れた。
「だから待ってろ。お前には、この中で一番面倒で、一番強い杖を作ってやる」
「……はい!」
初めて、ノアがはっきりとした声で返事をした。
さて、ノアの杖に必要なのは『エルダートレントの枝』。
ヴェラの樹海に生息する、倒すのも面倒くさい樹木型モンスターのレアドロップだ。
確率は、たしか0.5%以下。
運が悪ければ、数十体狩ることになる。
「三日炭鉱夫して、一週間鍛冶したあとは、木こりかよ……」
まあ、そんなことはどうだっていい。
23人分の装備は完成したんだ。
残る一本を妥協するつもりは毛頭ない。
俺は『アノマリー・ロードの死霊核』を『インベントリ』へ戻し、作業小屋の外へ出た。
「ザフィラ!」
「なんだ?」
「明日から、お前らだけで『亡者の地下墓地』へ潜れ。まずは低階層で24人を鍛える。ノアは戦わせるなよ?あいつは相応しい装備を作ってからが本番だ」
「お前はどうする?」
「俺はちょっと、樹海まで木を取りに行ってくる」
「……ただの木ではないんだろう?」
「よく分かったな、黒猫」
「お前が普通の木を取りに行くわけがないだろう!」
失敬な。
ちょっと百年単位で生きて、人間を見つけると殺しに来る木を十数体ほど伐採するだけだ。
たぶん、すぐ終わる。
たぶんな。
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