↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REMNANT RECORD~ストーリー未読の世界一位の廃ゲーマーは、倒した敵の物語を知らない~  作者: 霜月ルイ
第一章:技神国奪還編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/69

18:覇王、武器を揃える。

 翌朝。


 俺は拠点の中央へ24人を集め、目の前に並ぶ顔を一人ずつ見渡した。


「今日から一週間、お前らの装備を作る」


 24人の間に、小さなどよめきが広がる。


「本当に、一人で全員分を……?」


「そのために三日間も鉱山へ籠もったんだよ。今さら無理でしたなんて言うわけねぇだろ」


 俺は『インベントリ』を開き、採掘してきた鉄鉱石と魔鉱を地面へ取り出した。

 積み上がった鉱石の山を見て、何人かが目を丸くする。


「ただし、俺一人で全部やってたら時間が足りねぇ。炭を運ぶ奴、炉へ風を送る奴、水を汲む奴。食料を確保する奴、できる仕事は手伝ってもらうぞ」


「……俺たちにも、鍛冶ができるのか?」


「お前らに武器を打たせるわけじゃねぇ。だが、自分の武器がどうやって作られるかくらいは見とけ」


 武器は、手にした瞬間だけ役に立つ道具じゃない。

 手入れを怠れば錆びるし、刃は欠ける。


 これから国を相手にするというのに、武器が壊れるたび俺のところへ泣きつかれても困る。


「ザフィラ。鍛冶を手伝わない奴らは、交代で基礎訓練をさせろ」


「分かった」


「無茶させんなよ」


「その言葉、そのまま返してやる」


「失礼な猫だな」


「だから猫じゃない!」


 いつものやり取りに、24人の緊張が僅かに解けた。


 さて……ここから一週間、俺は鍛冶師に戻る!


 ♢


 最初に作るのは、特別な構造を必要としない二十人分の装備だ。


 剣、槍、弓、短剣、盾。


 同じ武器種であっても、全く同じ物を作るわけではない。


 腕の長さ、手の大きさ、STRとAGIの比率。

 そして今まで身につけてきた戦い方。

 それらを確認し、基礎となる型を一人ずつ調整する。


「ダン。握ってみろ」


 完成したばかりの片手剣を、最初に名乗り出た男へ渡す。

 ダンは柄を握り、何度か軽く振った。


「……軽い」


「軽すぎるか?」


「いや。今まで使っていた剣より重いはずなのに、振りやすい」


「重心を手元へ寄せてるからな。お前は前へ出て斬り合うより、仲間の横で敵を押し返すほうが向いてる。切れ味だけじゃなく、取り回しを優先した」


 続いて小盾を渡す。

 盾の裏側には、腕を通す革帯だけでなく、衝撃を逃がすための僅かな遊びを設けてある。


「まずはこいつで、横にいる奴を守ることを覚えろ」


「……分かった」


 次は大弓。

 STRへ極端に振っていた獣人には、通常よりも張力を高くした長弓を作った。


「引いてみろ」


「ぐっ……!」


「引けるな?」


「ああ。重いが、これなら……!」


「威力は出る。だが当たらなきゃ意味がねぇ。ザフィラに動く的でも用意してもらえ」


「承知した」


「あと、次からはAGIにも振れ。全部STRなんて馬鹿なことはやめろ」


「……はい」


 槍兵には、狭い場所でも扱えるよう柄を少し短くした槍。


 斥候には、音が鳴りにくい鞘へ収めた短剣。


 治癒師には、戦闘時に両手を塞がない小型の杖と護身用の刃。


 盾職には、受け止めるのではなく、攻撃を流すための丸盾。


 一人作るたび、使わせる。

 違和感があれば炉へ戻す。

 柄を削り、刃の角度を直し、重心を数ミリ単位で調整する。


 量産とはいえ、同じ物を並べて配るだけの作業じゃない。

 使う本人に合った一本を作らなければ、俺が打つ意味がない。

 炉の火は、朝から夜まで消えなかった。


 槌を振い、地金を折り返す。

 鉄へ砕いた魔鉱を混ぜ、魔力の通り道を作る。

 三日経ち、完成した武器が、作業小屋の壁へ少しずつ並んでいく。


『鍛冶師のレベルが10へ上がりました』


『鍛冶師のレベルが12へ上がりました』


『鍛冶師のレベルが14へ上がりました』


 四日目の夜。


 二十人目の槍を仕上げた瞬間、再び通知が流れた。


『鍛冶師のレベルが16へ上がりました』


「ふぅ……標準装備は、これで終わりっと」


 標準と呼んではいるが、どれも使用者に合わせて調整した一点物だ。

 この時代の冒険者が持っている武器と比べれば、性能は段違い。

 完成した装備を抱えた者たちは、何度も刃や柄へ視線を落としている。


 自分のためだけに作られた武器。


 それを手にするのが初めてなのは、ザフィラだけではなかったらしい。


 だが、ここからが本番だ。

 神匠の底力見せてやんよ……!

 残っている四人のうち、三人には上位職になったあとまで使える専用装備を作る!


 ♢


 五日目。


 最初に取りかかったのは、アウラの剣と大盾だった。


「本当に、ここまで大きくする必要があるのか?」


 作業台へ置いた盾の骨組みを見て、アウラが尋ねる。


「お前一人を守るだけなら、もっと小さくていい」


「なら、なんでこんなに大きなものを作るんだ?」


「お前の後ろにいる奴も含めて守るためだよ」


 大盾の芯には、粘りのある鉄を使う。

 その表面へ魔鉱を混ぜた地金を重ね、何度も叩いて密着させていく。


 分厚くすれば頑丈にはなる。

 だが、重すぎれば動けない。

 薄ければ強力な一撃を受けた瞬間に割れる。


 必要なのは、衝撃を真正面から受け止める硬さと、受けた力を外側へ逃がす僅かなしなり。

 盾の中央を緩やかに盛り上げ、左右へ衝撃が流れる形へ整える。


 内側には二本の固定帯。

 片方が切れても、盾を手放さずに済むようにしておく。


「ほらよ、とりあえず持ってみろ」


 完成前の大盾をアウラへ渡す。


 彼女は両腕で受け取り、地面へ下端を置いた。


「……重い。だが、支えられる」


「その重さを覚えろ。上位職になれば、今より軽く感じるはずだ」


 盾の形が決まれば、次は剣。


 盾の隙間から突き出せるよう、刃は直線的。

 鍔は小さく、狭い間合いでも味方へ引っ掛けない形にした。

 二つを一組として仕上げ、最後に魔力を通す。


『大盾・バスティオン ランクA』


『片手剣・ノアトゥーン ランクA』


『鍛冶師のレベルが18へ上がりました』


「剣が『ノアトゥーン』。大盾が『バスティオン』だ」


「名まで与えるのか」


「特注品だからな。部隊の最前線を任せる。簡単に壊されるなよ」


 アウラは大盾を見つめ、静かに頷いた。


「この盾にかけて、誰一人後ろへ通さないと誓おう」


「まだ上位職にもなってねぇのに、気が早ぇ。ちゃんと戦い方を覚えろ」


 だが、悪くねぇ。

 その気概と覚悟があるなら、『聖騎士』への道も遠くねぇはずだ。


 ♢


 次は、テオの暗器一式。


 小さな武器ばかりだから簡単――なんてことはない。


 むしろ、いや、かなり面倒だった。


 投げナイフは、一本ごとの重さが違えば狙いがずれる。

 仕込み針は、細すぎれば曲がり、太すぎれば隠せない。

 鋼線は強度を保ちながら、手の中へ収まる細さが必要だ。


「12本とも、同じ重さにしてある」


 完成した投げナイフを布の上へ並べる。


「重さだけじゃねぇ。刃の長さも、重心も、全部同じだ。一本目で距離を測れば、残りも同じ感覚で投げられる」


 テオは一本を拾い、指先で回した。

 軽く投げると、離れた木材の中央へ深く突き刺さる。


「……今までのと全然違う」


「今までのは、刃物を投げてただけだ。こいつは投げるために作った刃だよ」


 袖へ隠す針。


 腰へ収める短剣。


 靴底へ仕込む薄刃。


 対象を拘束する鋼線。


 一つずつ、テオの身体へ合わせて鞘と収納位置まで調整する。


「全部持っても、音が鳴らないようにしてある。暗殺職が歩くたびに金属音を鳴らしてたら笑い話にもならん」


「……すごいな」


「毒はまだ塗るなよ」


「分かってる」


「本当だろうな?」


「しつこい」


 こいつ、絶対隠れて試すタイプだ……。

 ザフィラに見張らせよう。


『暗器一式・影縫 ランクA』


『鍛冶師のレベルが20へ上がりました』


 ♢


 六日目の午後。


 三人目は、カレンの双剣だ。


 俺は彼女がこれまで使っていた、長さの違う二本の剣を作業台へ置いた。


「同じ長さの剣を作るんじゃなかったのですか?」


「最初はそのつもりだった」


「では、なぜ……?」


「お前の戦い方を見直した」


 カレンは、武器が揃わなかったから仕方なく長剣と短剣を使っていた。

 だが、長年その組み合わせで生き残ってきた結果、左右で異なる役割を持たせる戦い方が完成しつつある。


 長い右剣で間合いを支配する。

 短い左剣で受け流し、懐へ入った敵を仕留める。


 せっかく身につけた型を、同じ長さの剣へ合わせるために捨てさせる必要はない。


「今の戦い方を歪みだと思ってたが、違う。お前なりに完成させた型だ」


「私の……型」


「だから、武器のほうをお前に合わせることにした。」


 右手用は、長く細い刃。

 切断力よりも、速度と間合いを優先する。


 左手用は短く、刃元を厚くした。

 敵の武器を受け流し、至近距離で確実に斬るための剣だ。


 二本の重さは違う。


 だが、同時に振ったとき、左右の腕へ掛かる負担が釣り合うよう調整する。


 同じ形ではない。

 同じ役割でもない。

 それでも二本そろって初めて、一つの武器になる。


 夜遅く。


 最後の研ぎを終え、二本の剣をカレンへ差し出した。


「長剣が『望月(もちづき)』。短剣が『朔月(さかづき)』。二本合わせて『双月(そうげつ)』だ」


 カレンは左右の手で受け取り、静かに構える。


 一歩踏み込み、望月を振るう。


 続く朔月が、僅かな時間差で同じ軌道をなぞった。

 以前まであった動きの歪みが消えている。


「……私の剣だ」


「当然だ、お前に合わせた特注品だ。お前以外が使っても、たぶん扱いづらいだけだと思うぞ」


 カレンがもう一度、二本の剣を振るう。


 その表情には、初めて見たときにはなかった確かな自信が浮かんでいた。


『双剣・双月 ランクA』


『鍛冶師のレベルが22へ上がりました』


「これで二十三人分、完成っと」


 残るは一人。


 ノアだけだ。


 ♢


 七日目。


 俺は作業小屋へノアを呼び、改めてステータスを確認した。


 魔導士、死霊術師。


 高いINTと、二系統へ分かれた魔力適性。


 普通の魔鉱で杖を作ること自体はできる。

 だが、それでは『冥華の聖女』になったとき、武器の性能が追い付かない。


「ノア。少し魔力を出してみろ」


「……はい」


 ノアが両手を重ねる。


 右手には、淡い白色の魔力。

 左手には、冷たい紫色の魔力。

 互いに反発しながらも、完全に離れることはない。


 生者へ干渉する魔力と、死者へ干渉する魔力。

 この二つを一本の杖へ流すなら、金属だけでは駄目だ。


 魔鉱は魔力を通しやすいが、異なる性質の魔力が内部でぶつかれば、いずれ杖そのものが耐えられなくなる。


 必要なのは、二つの魔力を受け入れ、循環させられる生きた素材。


「……駄目だな」


 俺の言葉に、ノアの肩が小さく震えた。


「やはり、私の職業は……」


「勘違いすんな。お前が駄目なんじゃない」


 俺は作業台の上へ、先日手に入れた『アノマリー・ロードの死霊核』を置いた。


「死霊術側の素材はある。問題は、こいつと釣り合う杖の芯材だ」


「普通の木では、駄目なのですか?」


「数回使っただけで腐るか、お前の膨大な魔力に耐えられず砕ける。お前専用に作るなら、半端な物は使えねぇ」


 必要な素材には心当たりがある。


 高濃度の魔力を浴びながら、数百年生き続けた樹木型モンスター。


 そいつの枝なら、生と死の魔力を同時に流しても耐えられる。


「一週間待たせたうえに悪いが、お前の武器だけはまだ作れない」


 ノアは一度俯いた。


 だが、すぐに顔を上げる。


「……素材があれば、作っていただけるのですか?」


「すぐに作る、それは約束しよう」


「死霊術師である、私のために?」


「それがどうした。死霊術ってのは高いINTと膨大な魔力が売りの職業だ」


 俺は魔核を持ち上げ、炉の火へ透かして見る。


「お前の職業は、捨てるようなもんじゃねぇ。使いこなせば、全員を生きて帰すための力になる」


 ノアの紫色の瞳が、僅かに揺れた。


「だから待ってろ。お前には、この中で一番面倒で、一番強い杖を作ってやる」


「……はい!」


 初めて、ノアがはっきりとした声で返事をした。


 さて、ノアの杖に必要なのは『エルダートレントの枝』。


 ヴェラの樹海に生息する、倒すのも面倒くさい樹木型モンスターのレアドロップだ。


 確率は、たしか0.5%以下。


 運が悪ければ、数十体狩ることになる。


「三日炭鉱夫して、一週間鍛冶したあとは、木こりかよ……」


 まあ、そんなことはどうだっていい。

 23人分の装備は完成したんだ。

 残る一本を妥協するつもりは毛頭ない。


 俺は『アノマリー・ロードの死霊核』を『インベントリ』へ戻し、作業小屋の外へ出た。


「ザフィラ!」


「なんだ?」


「明日から、お前らだけで『亡者の地下墓地』へ潜れ。まずは低階層で24人を鍛える。ノアは戦わせるなよ?あいつは相応しい装備を作ってからが本番だ」


「お前はどうする?」


「俺はちょっと、樹海まで木を取りに行ってくる」


「……ただの木ではないんだろう?」


「よく分かったな、黒猫」


「お前が普通の木を取りに行くわけがないだろう!」


 失敬な。

 ちょっと百年単位で生きて、人間を見つけると殺しに来る木を十数体ほど伐採するだけだ。

 たぶん、すぐ終わる。


 たぶんな。


お読みいただきありがとうございます。

ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークと下の☆☆☆☆☆からの評価で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。