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REMNANT RECORD~ストーリー未読の世界一位の廃ゲーマーは、倒した敵の物語を知らない~  作者: 霜月ルイ
第一章:技神国奪還編

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17/65

17:覇王、顔合わせをする。

 翌朝。

 まだ日が昇りきる前に、ザフィラは廃村を発った。


「遅くとも三日後には戻る」


「おう。道中、騎士団には気をつけろよ?」


「誰に言っている。私はこの十年、奴らから逃げ続けてきたんだぞ?」


「喧嘩売ってんだから、逃げてるとはちょっとちげぇだろ」


「……うるさい」


 黒い外套を羽織ったザフィラは、不機嫌そうに尻尾を揺らす。

 その背中には、俺が作ったばかりの大鎌『クロノア』が背負われていた。

 昨日までは、まだ身体に馴染みきっていない借り物のように見えた。


 だが今は違う。


 たった二日で隠しボスを単独討伐し、レベル62へ到達したザフィラにとって、あの大鎌はもう立派な相棒になっている。


「ちゃんと全員連れてこい」


「ああ。任せろ」


 その姿が森の向こうへ消えるまで見送り、俺も準備を始める。


「さぁて……こっちも三日でやることやりますか!」


 目標は、24人分の武器を作れるだけの鉄鉱石と魔鉱。

 つっても、24人の職業が何に設定されてるか分からんしな…。

 とりあえず、掘れるだけ掘っとくか。


 今日の俺は炭鉱夫。

 親方と呼びな!

 ……まぁ誰もいねぇが。


 俺はツルハシを肩へ担ぎ、クライブ伯爵領の旧坑道へ向かった。


 ♢


「いやぁ……レベルが上がるってぇのは、ほんとに素晴らしいな!」


 今までの岩が豆腐みたいに柔らかく感じる。


「今までの比じゃないくらい速ぇじゃん!」


 レベル60へ到達したことで、俺の基礎能力は大きく上昇していた。

 獲得したステータスポイントは、戦闘スタイルに必要なSTRとAGIを中心に、残りをLUKに振っている。

 そして、そのSTRは当然ながら採掘にも役立つ。


 まあ、一つ難点を挙げるなら――。


 バキンッ、と乾いた音が坑道へ響いた。


「あっ、またやっちまった……」


 つるはしの先端が、根元から折れた。


 これで二本目である。


「STRにツルハシがもたん……!」


『レムオン』の時は、レベルが上がろうが、アイテムの耐久減少値は一定だった。

 だが、現実ではそうもいかないらしい。


 これは困った…。

 某クラフトゲームよろしく、ダイヤのツルハシに耐久Ⅳのエンチャでもつけたいが……。

 そもそもダイヤのツルハシなんてねぇしなぁ。

 今は付与術師もいないから耐久力上昇もつけようがない。


「帰ったら、まずツルハシから作るか……」


 予備を『インベントリ』から取り出し、再び岩壁へ向き直る。


 なにも俺は闇雲に掘っているわけではない。

 12年間も遊んでいれば、どの辺りにどの鉱石が湧いてるかは嫌でも身体が覚えている。


「よっし、魔鉱発見っと」


 掘り出した鉱石は、片っ端から『インベントリ』へ放り込む。

 普通なら、採掘した鉱石を坑道の外へ運び出すだけでも大仕事だ。

 だが俺には重量も容量も気にする必要のない『インベントリ』がある。


 掘ったらインベントリにしまう。

 ひたすら、その繰り返しだ。


 昼食も坑道内で済ませた。

 日が落ちれば拠点へ戻り、簡単な食事を作って眠る。

 翌朝には再び坑道へ。


 ゲームならボタン一つで行っていた作業も、この世界では自分の手で行わなければならない。


 これ結構面倒なんだよなぁ。

 でも、自分で掘って自分で作る。これまでもずっとそうしてきたからな。

『レムオン』の時とは違った中毒性だなこれ。

 1チャンク露天掘りとか何の苦行だよって思ってたけど、今思えば奴らはこの中毒性が楽しかったんだな。


「こんなもんか」


 三日目の昼過ぎ。


 『インベントリ』に収めた鉱石の量を確認する。

 鉄鉱石に魔鉱、それに銅と銀。


 大盾とか大剣みたいな大型装備が何人かいても、二十四人分なら全然足りるぞこれ。

 試作で多少失敗したところで、これだけありゃぁ問題ねぇだろ。


「よし。あとは本人たちを見てから考えよう!」


 武器ってのは最初から高ランクのものを作ればいいってわけじゃねぇ。

 そいつに合った、素材、武器種、重心や使い心地の微調整。

 そこまでやってようやく真価を発揮するもんだ。


「はてさて、どんな連中が来るのかねぇ……」


 ツルハシを『インベントリ』へ収め、俺は拠点へ戻った。


 ♢


 ザフィラが戻ってきたのは、その日の夕方だった。


 拠点へ近づいてくる複数の足音に気づき、俺は作業小屋から外へ出る。


 先頭を歩いているのは、見慣れた黒い外套。その後ろには、二十四人の男女が続いていた。


 見たところ獣人にエルフ、人間もいるな。

 種族も年齢もばらばらに見える。


 共通しているのは、全員がまともな装備を持っていないことだった。


 刃こぼれした剣。穂先が錆びた槍。木の板を繋ぎ合わせただけの盾。

 武器すら持たず、農具らしきものを握っている者もいる。


 そして、もう一つ。


 首。手首。胸元。脚。

 服の隙間から、奴隷紋の痕跡が見えた。


 ザフィラと同じ、所有された証として刻まれた呪いの印。


 もしかしたら、すでに契約を断ち切られているやつもいるのだろう。

 だが、印だけは消えずに残っている。


 中には奴隷紋を持たないやつもいた。

 憶測だが、捕らえられる前に村から逃げ出した者か、奴隷狩りに家族を奪われたやつだ。


 全員が全員奴隷だったわけではないんだろうな……。

 それでも、今のアルセディアによって人生を狂わされたことに変わりはない。


 俺は無意識に奥歯を噛み締めていた。


 こいつらは、もう奴隷じゃない。

 誰にも所有されていない。

 自分の意思でここまで歩いてきた。

 残っている紋章も、そのうち全部消してやる。


「連れてきたぞ、リンドウ」


「おう。予定どおり三日だな」


「途中で騎士団の巡回を避ける必要があったが、問題はなかった」


 ザフィラが一歩横へ移動する。


 24人の視線が、一斉に俺へ向けられた。


 警戒、疑念、期待。

 人によって反応はそれぞれだが、俺を無条件で信用しているやつはいないらしい。


 まあ、当然だな。


 突然現れた十代の男を指して、「こいつが百二十年前の初代覇王です」と言われても、信じるほうがどうかしている。


「みんな、聞いてくれ」


 ザフィラが振り返った。


「この方が、私を二日間でレベル62まで引き上げ、上位職へ進化させてくださったお方だ」


 二十四人の間に、ざわめきが広がる。


「レベル62……?」


「そんなレベル、聞いたことがない」


「本当に、二日で……?」


「そして――」


 ザフィラは一度言葉を切り、俺へ視線を向けた。


「彼が技神国アルセディアを建国した、初代覇王リンドウ様だ」


 ざわめきが一瞬で消え、全員が固まっている。


 いや、一人だけ「何言ってんだこいつ」という顔をしている女がいた。


 うん……、そうだよね。その反応が一番正常だと思う。


「初代……覇王?」


「百二十年前の……?」


「そんなはずが……」


 数人が困惑しながら、ザフィラと俺の顔を交互に見る。

 ザフィラの言葉を疑いたくはない。

 だが、内容が突拍子もなさすぎて信じられない。


 まぁ、そんなところだろうな。


「別に、今すぐ信じなくていいぞ」


 俺が口を開くと、再び全員の視線が集まった。


「俺が誰かなんてぇのは、この際どうでもいい。お前らがここへ来た理由は、国を取り戻すために戦う力が欲しいからだろ?」


 返事はない。

 だが、誰も目を逸らさなかった。


「俺はお前らに、武器を作る。レベルも上げる。戦い方も叩き込む」


「……何のために?」


 集団の中から、低い声が上がった。


 茶色い髪の人間の男。


 年齢は三十前後だろうか。


 腰には、何度も研ぎ直した跡のある片手剣を提げている。


「俺たちを戦わせて、お前はなにをするんだ!」


「もちろん俺も戦うぞ?」


 即答すると、男が目を見開いた。


「俺の目的は俺が作った国を取り戻すことだ。今の王家を潰して、奴隷制度を終わらせる」


「たった25人で、一国を相手にするつもりか!?」


「俺一人なら今のままでもできなくはねぇが、お前ら連れてくなら全員無駄死にして終わりだ」


 俺は24人を見渡した。


「だから、俺がお前らを強くしてやる。ただし、勘違いすんなよ?」


 俺は全員に向けてはっきりと宣言する。


「武器を渡す代わりに、俺の命令を聞けなんて言うつもりはねぇ。戦うかどうかを決めるのは、お前ら自身だ」


「……戦わなくても、いいのか?」


「当たり前だろ。戦闘が無理なら、武器や食料を運ぶ。怪我人を治療する。情報を集める。国を取り戻すためにできることは、敵を斬るだけじゃねぇ」


 武器を受け取ったから従え。

 助けてやったから命を差し出せ。


 そんなものは、奴隷商人と何も変わらない。


「俺が欲しいのは奴隷でも、命令どおりに動く駒でもない。自分の意思で、俺と一緒に国を取り戻す仲間だ」


 刃こぼれした武器。

 統一されていない職業。

 訓練すら満足に受けていない身体。


 それでも戦闘経験はある。

 だが、それは生き延びるために身につけたものだ。


 集団戦の基礎も、職業ごとの役割分担も知らない。

 軍隊と呼ぶには、あまりにもお粗末だ。


 それでも、逃げずにここまで来た。

 何度打ちのめされても、武器を手放さなかった。


 素材としちゃぁ悪くない。


「一か月だ」


「……一か月?」


「一か月後、俺たちは今のアルセディアへ攻め込む」


 再び、ざわめきが広がった。


「一か月で俺たちを、騎士団や冒険者と戦えるようにするというのか?」


「違うね、まだ足りねぇ」


 問いかけてきた男へ、俺は首を横に振る。


「騎士団と戦える程度じゃ三流。騎士団に勝てて二流、奴らが束になっても止められないところでギリ及第点ってとこだ。」


 言葉を失う24人。


 その横で、ザフィラだけが小さく息を吐いていた。

 たぶん、地下墓地へ連れていかれたときの自分を思い出しているんだろうなぁ。


 いや、お前は結構やれたほうだぞ?今なら花丸くらいならあげてもいい。


「こいつは、本気で言っている」


 ザフィラが告げる。


「私も最初は信じなかった。だが、こいつは言ったことを全て実現した」


「こいつって……一応俺、初代覇王なんだけど?」


「今までどおりでいいと言ったのはお前だろう!」


「口うるせぇ猫だな……」


「猫っていうな!」


 俺たちのやり取りを見て、何人かが呆気に取られている。

 いい意味で緊張が少し解けたらしい。


「お前ら聞け!とりあえず、全員の職業とステータスを確認する」


 俺は『インベントリ』から木箱を取り出し、椅子代わりに腰を下ろした。


「名前、職業、使ってきた武器。あとは得意な戦い方を順番に教えろ。ステータスも確認するから、見られたくない奴は先に言ってくれ」


「一人ずつ見るのか?」


「武器を作るんだから当たり前だろ。手の大きさも腕の長さも違うのに、同じ剣を配って終わりにするつもりはねぇよ」


 二十四人が互いの顔を見る。


 やがて、先ほど質問してきた男が前へ出た。


「俺からでいいか」


「おう。名前は?」


「ダンだ。職業は『剣士』と『槍兵』だ」


「武器はどっちを使ってきた?」


「剣だ。だが、集団で戦うなら槍も使える」


「ステータスはSTR寄りか。VITも悪くないな。なら、少し長めの片手剣と小盾でいくか」


「……もう分かったのか?」


「見りゃ分かる。次だ、並べ!」


 そこから、一人ずつ確認していった。


 槍兵と狩人を持つ獣人。


 弓使いと斥候を持つエルフ。


 戦士と木工師という、戦闘と生産を半端に育てた人間。


 治癒師を持ちながら、魔力が足りずにろくな治療ができない女。


 盾職なのにAGIばかり上げている男。


 弓使いなのにSTRへ全振りしている獣人。


「お前、なんで弓使いなのにSTRばっかり上げたんだ?」


「強い弓を引くには、力が必要だと思って……」


「間違っちゃいねぇが、極端すぎるだろ。矢が当たらなきゃ意味ないぞ、阿呆」


「す、すまない」


「謝らなくていい。次からAGIにも振れ。お前には威力重視の大弓を作る」


 まったくひどいものだなこりゃ。

 職業の組み合わせも、ステータスの振り方も、ほとんどが我流じゃねぇか。

 まぁ、攻略法もくそもないこの世界なら、その時々の生活に合わせた職を選ぶのが自然っちゃ自然なのは分かるが……。

 『レムオン』で、初心者が少し調べれば分かるような知識すら広まってないのは、技術保護令とかってやつのせいだろうな。


 だが、逆に言えばこれからの修正は簡単だ。

 まだレベルもそんなに高くない、ステ振りも改善の余地あり。


 それに、全員が実戦を経験している。


 生き残るための判断力がある。

 逃げるべき場面。

 仕掛けるべき場面。

 仲間を守るために、自分がどこへ立つべきか。

 それらを、命懸けで学んできた。


 基礎知識を与え、役割を明確にしてやれば、伸びるのは早い。


 思っていたより、悪くないぞ。


「次、いいか?」


 一人のエルフが前へ出た。

 長い銀髪を首の後ろで束ねた女だ。


 年齢は見た目だけなら二十代後半ほど。

 左頬から顎にかけて、古い切り傷が残っている。


 背中には、木の板と鉄片を繋ぎ合わせた巨大な盾。

 腰には、刃の半分近くが欠けた片手剣。


「名前はアウラ。職業は『剣士』と『大盾使い』だ」


「サブジョブを大盾に決めた理由は?」


「奴隷狩りに襲われたとき、子どもたちを後ろへ逃がすためだ」


 アウラは淡々と答えた。


「盾があれば、少しでも長く持ちこたえられる」


「なるほどな、にしてもなぁ……」


 ステータスを確認する。


 VITが高くて、次にSTRか。

 AGIはまぁまぁ低いが、大盾使いなら致命的って程でもないな。

 スキル熟練度も、防御と味方の庇護に偏っている。


 剣士と大盾使いの、この組み合わせ。

 しかも、守るために格上の敵を正面から受け止め続けてきた。


 こりゃぁ、うれしい誤算だ!


「何か問題があるのか?」


「いや、逆だ……!」


 思わず口元が緩む。


 解放条件をどこまで満たしているかは、レベルを上げてみんと正直わからん。

 だけど何の因果か職業の組み合わせだけは完璧だ!

 おそらく隠し条件の方は、ザフィラと同じでこれまでの戦いの中で相当進んでるとみていいぞ……!


 こいつは、『聖騎士(ヴァルキリー)』になれる。


 高い防御性能。味方を庇う技能。範囲内の仲間へ耐性を与える聖域。

 前衛の中心としては、これ以上ない上位職だ。


「アウラ。お前には特注の剣と盾を作るぞ!」


「他の者と違うものを?」


「お前の盾は、部隊全員を守る盾になる!半端なもんは持たせられねぇ!」


 アウラは意味が分からないという顔をしている。

 今はそれでいいんだ。

 完成した装備を持たせて、上位職へ進化させたときに理解すればいい。


「次!」


 続いて前へ出てきたのは、小柄な獣人の少年だった。


 年齢は十五、六歳くらいだろうか。


 灰色の狼耳。


 細い尻尾。


 身体のあちこちに、小さな袋や革製の筒を括りつけている。


「名前は?」


「……テオ」


「職業は?」


「『斥候』と『暗器使い』」


「使ってる武器を見せてみろ」


 テオが僅かに警戒した様子を見せる。


 だが、ザフィラが頷くと、袖口から細い針を一本抜いた。


 腰の袋には、小型の投げナイフ。

 靴の内側にも刃物を隠している。

 他にも、細い鋼線や小さな煙玉らしきものまであった。


「へぇ」


「……何だよ」


「いや、ちゃんと暗器使いしてると思ってな」


 斥候と暗器使い。

 これも間違いない。


 上位職は『暗殺者(アサシン)』。


 昨日ザフィラが進化した『幽影夜叉』が、機動力と広範囲戦闘に長けた職業なら、『暗殺者』は対人・単体へ特化した職業だ。


 毒、罠、気配遮断、一撃離脱。

 敵陣へ忍び込み、重要人物だけを消す。

 国を奪うなら、確実に必要になる。


「テオ、お前には投げナイフと仕込み針、それから鋼線と短剣を作る」


「武器は一つじゃないのか?」


「暗器使いが一種類の武器だけでどうやって戦うんだよ。手札はたくさん持っとけ」


 少年の狼耳が、僅かに動いた。

 表情は変わらない。

 だが、興味は持ったらしい。


「ただし、毒は俺の許可なく使うなよ。下手な調合をするとてめぇが死ぬぞ」


「……分かってる」


「ならいい、そのうち毒の調合の仕方も教える」


 そのあとも確認を続ける。


 そして十七人目。


 赤みがかった茶髪の人間の女が前へ出てきた。


 年齢は二十代前半。


 左右の腰に、それぞれ長さの違う剣を提げている。


「カレンです。職業は『剣士』と『双剣士』です」


「二本の長さが違うのは、わざとか?」


「同じ長さの剣を二本用意できなかっただけです……」


「だよなぁ」


 右手の剣は、刃渡りが長い。


 左手の剣は、短剣に近い。


 それを無理やり双剣として使ってきたらしい。


「少し振ってみろ」


「ここでですか?」


「俺を斬らなきゃ、どこでもいいぞ」


「分かりました……。いきます……!」


 カレンが二本の剣を抜く。

 踏み込みながら、流れるように連撃を繰り出す。

 武器の長さが違うせいで動きに僅かな歪みはある。


 だが、悪くない。

 剣を一本ずつ扱うのではなく、片方の攻撃で相手の意識を誘導し、もう片方を本命として使っている。

 実戦の中で、自分なりの型を身につけたらしい。


「もういいぞ」


「どうですか?」


「その二本、今日までよく折れなかったな」


「感想はそこなんですか……?」


「冗談だ。戦い方は悪くない」


 剣士と双剣士。


 条件を満たせば、上位職は『剣聖(けんせい)』。


 名前だけ聞けば、一本の剣を極めた職業にも思える。

 だが『レムオン』の剣聖は、剣という武器そのものへの高い適性を持つ。


 片手剣、大剣、細剣(レイピア)、双剣。


 種別が剣でさえあれば、あらゆる型へ対応できる万能職。

 特に双剣型の剣聖は、手数と受け流しに優れているし、カレンの戦い方にも合っている。


「お前には、ちょっと特殊な双剣を作る」


「……本当に、私専用の剣を?」


「当たり前だろ。そんな長さも重さも違う剣で剣聖になられても困る」


「剣聖?」


「あ……やべ」


 まだ言うつもりはなかったのに、普通に口から出た。


「剣聖って、あの伝説上の?」


 伝説って……。やっぱり情報は秘匿されてるとみていいな。


「可能性はある。職業の組み合わせは合ってる」


「本当に……?」


「今から驚くな。上位職になったときに驚け」


 カレンは呆然としながら、腰の二本の剣へ視線を落とした。


 これで三人。


 ザフィラを含めれば、上位職候補が四人。


 想像以上に当たりが多い。


 そもそも、普通なら上位職の条件へ近づくことすら難しい。

 だが、こいつらは長年、命懸けの戦いを続けてきた。

 レベルこそ低いが、隠し条件に関わる行動を偶然満たしている可能性がある。


 この調子なら、もう一人くらい――。


「次で最後だ」


 ザフィラの声に顔を上げる。


 二十四人目。


 集団の一番後ろにいた、人間の女がゆっくりと前へ出てきた。


 黒に近い紫色の髪に、痩せた身体。

 年齢は十八前後だろうか。

 他の者たちと違い、武器らしいものを持っていない。

 首から、小さな骨の欠片を繋ぎ合わせた飾りを下げているだけだ。


「名前は?」


「……ノアです」


 消え入りそうな声だった。


「職業を教えてくれ」


「『魔導士』と……」


 ノアが一瞬、言葉を詰まらせる。


 周囲の者たちも、どこか気まずそうに目を伏せた。


「『死霊術師(ネクロマンサー)』です」


「……魔導士と死霊術師?」


 聞き間違いかと思い、俺は目の前へ表示されたステータスを二度見した。


 メイン職業『魔導士』。


 サブ職業『死霊術師』。


 間違いない。


 しかも、魔力の数値が他の連中とは比べものにならない。

 死霊術師という職業を恐れられ、まともにスキルを使わせてもらえなかったのだろう。

 スキルの熟練度は低い。


 それでも、職業の組み合わせだけで十分だった。


 魔導士と死霊術師。


 生者へ力を与える魔術と、死者を支配する死霊術。


 相反する二つの系統を一定以上まで育て、さらに複数の厄介な隠し条件を満たした者だけが到達できる超希少職。


 上位職――『冥華の聖女(アニマ・メイデン)』。


 『レムオン』でも、サーバー全体で数人しか確認されていなかった職業だ。


 生者を癒やしながら、死者を従える。


 支援、回復、召喚、妨害。

 その全てを一人でこなす、規格外の後衛職。

 できることだけ見れば、通常の召喚士の完全上位互換。

 まぁ脱獄前提なら召喚士のほうが圧倒的に強いんだけどな。


 こいつが解放条件を満たせるなら、25人規模の部隊でも戦い方が根本からひっくり返る。


 俺は思わず、口元を吊り上げた。


「とんでもねぇ逸材が混ざってるじゃねぇかよ、おい!」


お読みいただきありがとうございます。

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