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REMNANT RECORD~ストーリー未読の世界一位の廃ゲーマーは、倒した敵の物語を知らない~  作者: 霜月ルイ
第一章:技神国奪還編

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16/64

16:覇王、約束を果たす。

 地下墓地を二周して帰ってきたころには、日が傾き始めていた。

 俺は火を起こし、飯の準備を始める。

 ザフィラはさすがに疲労困憊だったため、焚き火のそばで休ませている。


「おい、飯できたぞ」


「すまない……」


 二人で焚き火を囲み食事に手を付ける。

 一日でかなり身体を使ったからか、鍋いっぱいに作ったスープも、すぐに空になった。


 そして、ザフィラが小さくつぶやく。


「この世界で、お前のような戦い方をする者を私は見たことがない」


 ザフィラは焚き火の向こうから、真っすぐに俺を見つめていた。


「『亡者の地下墓地』を散歩でもするように進み、誰も知らない道を開き、あのモンスターたちを一方的に倒した。それだけではない。たった一日で、私を上位職へ導いた」


 そこで一度、言葉を切る。


「お前が初代覇王だという話……どうやら、嘘ではなかったようだ」


「だから最初から言ってるだろ。俺が初代覇王だってな」


 やっぱりこいつは猫だな。

 何が黒豹だ。

 警戒心の強いただの猫じゃねぇか。

 これで少しでも懐いてくれれば可愛げも出てくるんだけどな。


 ザフィラは片膝をつき、俺の目の前で(こうべ)を垂れた。


「これまでの数々の無礼、心よりお詫び申し上げます。初代覇王、リンドウ様」


「おい、やめろやめろ」


「……何?」


「お前にそんな態度を取られると、なんか気持ち悪い」


「き、気持ち悪いだと!?」


 顔を真っ赤にしてぷりぷり怒るザフィラ。


「……今までどおりでいい。嫌なら名前のリンドウでいいぞ、黒猫」


「だから猫じゃない! 私は黒豹族だ!」


 うん。

 やっぱりこっちのほうが、しっくりくる。

 猫はやはり猫だった。


 ♢


 次の日。

 俺たちは朝からまたダンジョンに向かった。

 今日でザフィラのレベルを60まで上げきるためだ。


 一周目のアノマリー・ロードは、昨日と同じ手順で壁へ押しつけて処理した。

 二周目のグールキングでは、昨日とは反対にザフィラが前衛を務めた。

 『幽影夜叉』へ進化した身体能力と『クロノア』の扱いにも慣れ、もはや俺が一つ一つ指示する必要はない。

 たった一日で、見違えるほど動きが洗練されている。


 三周目。

 アノマリー・ロードへ続く転移陣の前で、俺はザフィラへ告げた。


「今回は、お前一人でアノマリー・ロードを倒せ」


「……何?」


 転移陣の上で、ザフィラが聞き間違いを疑うようにこちらを振り返った。


「攻略法は昨日から散々見せただろ。今度は自分でやってみろ」


「待ってくれ!お前の戦い方は、お前にしかできないだろう」


「そりゃそうだ。お前には『座標転移』もフィーアもないからな」


「なら、どうやって倒せというのだ!」


「俺と同じ動きをする必要はねぇよ。相手に何もさせなきゃ、結果は同じだ」


 ザフィラが眉間に深い皺を寄せた。


「失敗したらどうする……!」


「死ぬ前には助けてやるよ、安心しろ」


「その基準が信用できん!」


「大丈夫、大丈夫。骨の二、三本くらいなら中級ポーションで治る」


「何も大丈夫じゃないじゃないか!」


 にゃーにゃー騒ぐザフィラを連れ、俺たちは紫色の転移陣へ足を踏み入れた。


 視界が切り替わる。


 壁一面を埋める棺。


 天井から吊り下げられた無数の人骨。


 墓室の中央では、黒い法衣を纏った骸骨が静かに浮かんでいた。


『『アノマリー・ロード』が出現しました』


 紫色の炎を宿した眼窩が、侵入者である俺たちを捉える。


「それじゃ、頑張れ~」


「本当に手を出さないつもりか?」


「だから死にそうになったら助けてやるってば」


「貴様……!」


 ザフィラはなおも文句を言いたそうだったが、アノマリー・ロードが杖を掲げたことで意識を切り替えた。


 黒い魔力が膨れ上がる。

 最初に使うのは、昨日と同じ死霊召喚。


「まずは詠唱を潰せ!」


「分かっている!」


 ザフィラが石床を蹴った。


 上位職幽影夜叉(ナイト・リーパー)の補正を受けた身体が、一息でアノマリー・ロードとの距離を縮める。


 だが、僅かに遅い。

 杖の先に黒い光が集まり、床から腐敗した腕が伸び始めた。


「踏み込みが浅いぞー! 詠唱前に懐へ入れ!」


「簡単に言うな!」


「できるから言ってんだよ!」


「貴様は本当に教え方が乱暴だな!」


 悪態を吐きながら、ザフィラは『クロノア』を横薙ぎに振るう。


 湾曲した刃がアノマリー・ロードの胴体を捉え、全身を墓室の壁へと吹き飛ばした。


 背中から石壁へ激突したロードの詠唱が中断される。


「よし、いいぞ!そのまま壁ハメだ!」


「言われなくとも!」


 ザフィラが間合いを詰める。


 ロードが体勢を立て直すより早く、大鎌の石突きを胸部へ叩き込んだ。

 黒い法衣が揺れ、骸骨の身体が再び壁へ押し戻される。


 だが、アノマリー・ロードも黙って攻撃を受け続けるほど単純ではない。

 杖の先端がザフィラへ向けられた。

 紫色の魔法陣が瞬時に展開される。


「アホが!正面に立つな!」


 俺の声より早く、ザフィラの姿が沈んだ。


 地面すれすれまで姿勢を落とし、ロードの脇をすり抜ける。

 直後、放たれた黒い槍がザフィラの外套を掠め、背後の石床を爆砕した。

 そのままロードの背後へ回ったザフィラが、『クロノア』の柄を振り上げる。


「やるね。そこだ!」


「はぁっ!」


 石突きがロードの背骨を捉えた。

 軽い身体が再び壁へ叩きつけられる。

 転移で縦横無尽に飛び回る俺とは違う。

 ザフィラは壁際を小さく円を描くように走り、常にロードの死角へ回り込んでいた。


 相手が杖を向ければ、その反対側へ。

 距離を取ろうとすれば、大鎌の長い柄で進路を塞ぐ。

 詠唱を始めれば、刃ではなく石突きで素早く殴りつける。


 大振りな一撃で倒そうとはしていない。

 攻撃と移動を細かく繰り返し、相手が立て直すための時間を徹底的に奪っていく。


 なるほどなぁ。

 俺の壁ハメをそのまま真似するんじゃなくて、自分の速度と大鎌の間合いに合わせて組み替えたんか。

 これはあの駄猫の評価を改める必要があるな。


「悪くねぇぞ、黒猫!」


「戦闘中くらい名前で呼べ!」


「随分余裕だな。おら!次が来るぞ、準備しろ!」


 アノマリー・ロードの眼窩に宿る炎が激しく揺れた。


 壁へ押しつけられたまま、杖を石床へ突き立てる。


 墓室全体に巨大な魔法陣が展開された。


「分かっている!」


 ザフィラが『クロノア』を大きく振りかぶる。

 だが、アノマリー・ロードが展開した魔法陣は、既に半分以上が完成している。


 普通に斬りつけるだけでは間に合わない。

 ザフィラもそれを理解したのだろう。

 踏み込む直前、両手で握っていた柄を片手へ持ち替えた。


 身体を回転させ、大鎌そのものを投擲する。


「おっ?」


 月のような刃が高速で回転し、ロードの肩口へ深々と食い込んだ。

 その衝撃で骸骨の身体が傾き、杖の先端が魔法陣から外れる。


 完成寸前だった術式が砕け、紫色の光となって散った。

 ザフィラは止まらない。

 大鎌へ向かって駆け寄り、長い柄を掴む。

 そのまま壁へ足をつき、身体を宙へ浮かせた。


「おらぁっ!」


 壁を蹴る反動と全体重を使い、食い込んだ刃を下へ振り抜く。

 アノマリー・ロードの肩から胸部にかけて、大きな亀裂が走った。


 砕けた肋骨の奥。


 紫色に脈打つ魔核が露出する。


「見えたぞ! チャンスを逃すなよー!」


「言われるまでもない!」


 ロードが初めて壁際から離れようとする。

 だが、ザフィラは既に退路へ回り込んでいた。


 影へ溶け込むような低い姿勢から、『クロノア』を横薙ぎに振るう。

 湾曲した刃がロードの腰へ引っ掛かり、その身体を強引に壁へ引き戻した。


 背骨が石壁へ激突する。

 杖を持つ腕が上がる。


 詠唱が始まる、その直前。


「遅い!」


 ザフィラが一歩深く踏み込んだ。

 腰を捻り、腕ではなく全身で大鎌を引く。

 青紫色の刃が骸骨の胸部へ入り込み、露出していた魔核を正確に捉えた。


「――終わりだ!」


 刃が振り抜かれる。

 紫色の魔核が身体から抉り出され、宙を舞った。

 遅れて、アノマリー・ロードの全身へ無数の亀裂が走る。

 眼窩に灯っていた炎が消え、黒い法衣と骨が灰となって崩れ落ちた。


『『アノマリー・ロード』を討伐しました』


 静寂が戻った墓室の中央で、ザフィラは荒い息を吐いていた。


 床へ落下する魔核を、『クロノア』の刃で受け止める。


「はぁ……はぁ……倒したぞ」


「まぁ及第点だな、俺のサポート無しでよくやったじゃねぇか」


「口は散々出していただろう」


「それは指導だからノーカウントだ」


「相変わらず自分に都合のいい男だな……」


 呆れた声を漏らしながらも、ザフィラの表情には確かな達成感が浮かんでいた。

 昨日は、俺の後ろで攻略法を見ていた。


 一周目では、俺と交代しながら戦っていた。


 だが今は違う。


 こいつはもう、自分の力だけで隠しボスを攻略できる戦士だ。


「どうだった、初めての単独ボス討伐は」


「二度とやりたくない」


「そうか。じゃあ次レベリングするときは別のハメ技も教えてやる」


「人の話を聞け!」


 ほんとによくやったよ、ザフィラ。

 これでようやくお前も一人前だ。


 崩れ落ちたアノマリー・ロードが完全に消滅すると、俺たちの視界へ立て続けに通知が流れた。


『ザフィラのレベルが62へ上がりました』

『リンドウのレベルが60へ上がりました』


 表示を見たザフィラは、しばらく言葉を失っていた。


「……本当に、レベル60を超えた」


「これで約束は果たしたぞ?」


「四日かけると言っていなかったか?」


「詰めれば二日でいけるって言っただろ。もう忘れたのか?」


「だからといって、本当にやる奴があるか……」


 さて、今回は結構ドロップ品もおいしそうだ。

 レアドロップがあればいいんだけどな。


 って、死霊核あんじゃん!?

 0.02%引いたか!

 いやぁ、これはウハウハですわ。

 今日の飯はちょっと豪華にしてやろう。


 ♢


 その夜、少しだけ豪華な飯を作り、ザフィラに振舞った。


「ザフィラ。次は、残りの二十四人だ」


「全員をここへ連れてくるのか?」


「そだな。まずは職業とステータスを見て、育成方法を決める」


「だが、隠れ家までは遠い。全員を連れて戻るとなれば、往復で三日はかかるぞ」


「ちょうどいいじゃねぇか」


「何がだ?」


「その三日で、24人分の武器に使う鉱石を掘っておく」


 ザフィラが、呆れたように俺を見た。


「まさか、一人で掘るつもりか?」


「レベル60になったし、それなりにステータスも振った。どれだけ採掘速度が上がったか、試してみたいだろ?」


「普通は思わん、そんなこと」


「明日の朝には出ろ。三日後、ここへ全員連れてこい」


「……分かった」


 ザフィラは頷いた。

 これでようやく、国を取り戻すための戦力を作り始められる。


 25人。


 一国を相手取るには、あまりにも少ない。


 だからこそ、その全員を常識の外側まで引き上げる。


 俺が動き始めたことにすら気づかず、準備する時間を与え続けていることを――今の王家には後悔してもらおう。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
戦闘描写が分かりやすく、ザフィラが教わった技術を自分なりに応用していく成長も気持ちよかったです。リンドウとの掛け合いも楽しく、二人の距離が少しずつ縮まっているのが伝わりました。今後、残りの二十四人をど…
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