18. 髑髏仮面夫人の戦闘
どしんッッ!!
「――何の音ですッ!?」
「御者や、止めなさいっ」
馬車の天蓋板の上に、何やら重い物のぶつかった音。および軽い衝撃を察知して、やせ型の侍女と護衛の男性とが声を上げた。
がらがらがら、ぎぎぎいっ!
馬車は、市門を外側に出たばかり。だだ広く乾いた曠野を走る、郊外道路に踏み出したところだったが……。荒っぽい音をたてて、二頭の馬に引かれる車は止まった。
「あああっ、曲者!」
御者の叫び声に、前座席にいた護衛男性がすばやく扉を開けてとび出した。周囲を見渡す。
出るなり彼は、腰に佩いていた中剣を抜いて右手に構えたのだが……。
あまりにいびつな敵の姿を視界に入れたとたん、うっと喉を詰まらせそうになった。
馬車の背に、細長い影が立っている。
ふわんと裾のたなびく長外套、腰のくびれ方を見る限り女ともみえた。しかし巨大な何かに接続している、長い棒を手にしたそやつは、……人間の顔をしていない!
「失せろ、化け物ッ。車の中には聖水を積んである! 頭から浴びせられたいか!?」
護衛の男性は、低い声で威嚇した。
帽子のつばの下で、髑髏顔の怪人は小さく頭を振ったらしい。
「いいや、ばら香水は間に合っているので結構。わたしは王女に、お目通りを願いたいだけなのだが」
ばーんッッッ!!!
高く差し上げてから振り下ろした、ごつい長靴の底で髑髏怪人は馬車の天蓋を強打した。
「出て来ていただけなければ、車の天井を踏み抜きますよー」
ばーんッッ!! 踵おとし、第二撃!!
「きゃああ、いやあああッッッ」
転がるようにして若い侍女が、それを上から覆いかばうようにしてやせ型侍女が、馬車からとび出した。
最後によたよたと、どこか覚束ない様子で、トレルアーカ王女が外に出る。
三人を背に、護衛と御者は馬車上の怪人をにらみ上げた。
先行する馬車は気づかず、だいぶ進んでしまっていた。後続の二台は、いまだ城壁内側の検問所でぐずついているらしい。
いきなり開いた穴にぽっかり落ち込んでしまったかのように、王女の馬車は周囲から隔てられていた。この状況をすばやく見て取った護衛は、口の中で舌打ちをする。
後続の連中が察して、衛兵たちと来てくれるまで……束の間の時間稼ぎをするしかない、と護衛は思う。
よって彼は、怪人に向かい砂利道の上で進み出た。ざりっ!
「何者だ。どこの手のものか!?」
剣の切っ先を突き付けるようにして、護衛がびしりと問うた時である。
ふわり、と怪人は跳躍した。
護衛の数歩てまえに、しゃがみ込むように膝を深く折り曲げての着地――
ぐるうーんっっっ!
その真後ろから、髑髏怪人は黒木の杖をまわし打った。先端についた物体、……巨大な槌が、うわああああんと空気を圧して護衛に迫る。
その迫り方があまりに速すぎて、とうとう護衛は避けられなかった。
――そんなッッ……そんな、馬鹿なッッ!?
葡萄酒の樽ほどもある鉄槌が、ひとの手によって振られるなど。信じたくなかった護衛であったが、いまだ経験したことのない静かな衝撃を、彼は左半身に受ける。
どッ
宙に浮き、吹き飛ばされるその刹那、どうしても信じざるを得ない。護衛はそのまま、意識を失ってしまった。
御者もかなり慌て気味である。
護身用の警棒を持っていたはずだが、それに手が伸びない。護衛男性が化け物の鉄槌に弾き飛ばされ、道端に倒れ込んで動かないのを見て、なかば恐慌しかける。
御者は手に持ったままの馬鞭を振り上げ、怪人の足元めがけ打ちこんだ。
しかし髑髏怪人は軽やかな足取りで躍り上がり、その鞭の足払いをかわす。巨大な鉄槌を地に置いたまま、その柄に右手をかけて支点とした。宙をくるりとひねり回り、反対側に移動する。
「甘いね」
どッ
間髪入れず、髑髏怪人はすばやく取り上げた鉄槌を、御者の左半身にあてた。
護衛に向けた時ほどの勢いではなかったが、細身の御者はもんどり打って地べたに叩きつけられる。
ぎんっっ!!
その時、髑髏怪人のその顔面……目と目のあいだ、眉間の部分に白羽の矢が突き立った。
ぽとッ……。一瞬のちに、それは力を失って落ちる。
「むっ?」
ぎん、ぎんぎんっっ!!
しかし髑髏怪人にむかって、第二・第三の矢が飛んでくる!
髑髏怪人の向けた視線の先。
あの年かさのやせ型侍女が、超小型の弩を構え、矢とともに冷徹なまなざしを放っていた。




