17. トレルアーカの第二王女
オルスカは、ふいとわずかに身を乗り出した。
検問所の手前で止まったのは、これまで見たものと全く同じつくりの馬車だが、出てきたのは外交官のおじさん達ではない。
「女の人たちが、出てきたわ……!」
今までの恐怖と緊張を瞬時忘れ、純粋な好奇心にまかせて、オルスカは女性たちを見つめる。
「あの背の高い人が、トレルアーカの王女様かしら!? オードさん」
「むう?」
それは列の終わりに近い馬車で、女性三人と男性一人が中から出てきた。男性はいかにも護衛と言う感じのいかつい大男だから、これが王女の馬車なのだろうとオルスカは確信する。
背の高い女性は、見るからに高級そうな紫紺の長外套を着ていた。つばの広い帽子のふちに黒っぽい麗糸布をかけているから、顔はかくれてまったく見えない。
その脇に立つ二人は、侍女だろうか。やせた五十がらみの女性と、若い女性とはどちらも同じ質素な黒外套を着て、髪をひっつめにしている。
けれど若いほうの侍女……自分と変わらない年頃の、その小柄な娘があまりにかわいいのを見て、オルスカは面食らってしまった。舞台女優にでもなれそうな、とびきりの美人である。
侍女二人は次々に身分証を提示し、衛兵と言葉を交わした。トレルアーカ王女だけは、帽子の麗糸布を上げもせずに突っ立ったまま。
やせた年かさ侍女が代わりに身分証を差し出して、あれこれ小声で衛兵に話をしている。
公安職員たちもなんだかやりにくそうだったが、ともかく王女の身元確認は済んだらしい。一同はゆっくりと、馬車の方へ踵を返した。
と、その時だ。
「えっ」
「どうした。オルスカ?」
問うたオードの声も、耳に入らない。
激しくまばたきをして、オルスカは王女一行の姿を、食い入るように視線で追った。
上背のある王女の左右に、侍女ふたりがぴったりくっつくようにして歩いている。
しかし小柄な若い侍女は、あまりに王女に近い……。そうしてオルスカは、はっきりと見てしまった。
馬車の前に戻るまでの、ほんの数歩分だったけれど。若い侍女は王女の左肘を抱き込むようにして、手を添えていた……!
「あの人……。男のひとだわ」
髑髏の仮面顔が、ついと近く寄った。
しかしオルスカはオードに構わず、大きく目を見開いて、王女一行を見つめている。
「あの身の丈……あの歩き方、……嘘!!!」
両手で口元をおおったオルスカを、オードの髑髏顔がじっと見る。
そのまま、オードは何も言わずに立ち上がると、オルスカに手を差しのべた。
「来なさい」
からからから……。
王女一行をのせた馬車が、石の獅子頭の真下をゆっくり通過してゆく。
オルスカは愕然として髑髏を見上げ、オードの手を取った。
ふらふらと立ち上がった娘の胴にがしりと腕をまわし、オードは……
ずざっっっ!!
髑髏の怪人は再び、宵の迫る空高く跳躍した……。




