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14. オードはもつ煮がお好き

「オルスカ。きみは守られて残った側の人生を、考えたことがあるかい?」


「えっ」



 しかし、かすれ声で発されたオードの問いに、オルスカは胸をつかれた気がした。


 あまりに悲しそうな調子だったからだ。



「大切に想いあっていた者どうし。どちらかに危機が及べば、もう一方はどうにかして助けようとするのは当たり前だ。けれど助けるつもりでその人が命を落としてしまったら、守られて残った方はどう悲しめばよい?」



 静かに、低く話すオードの声には、ほんものの悲しみが満ちていた。


 明るい褐色の瞳もただひたすら、真摯である。


 それでオルスカは、はっと思い当たった。



――この人、未亡人・・・だと言っていたわ! もしかして……オードさんの夫は、彼女のために亡くなったの? 彼女を守るために?



 オルスカは目を伏せる。そうかもしれない……。けれどそれはオードの物語だ。オルスカの物語ではない。



「……ゼファンのことを言っているのなら。あの人はわたしを両腕いっぱいに抱きしめて、すまないと泣きました」



 自分に尽くしてくれるオルスカという女を、生涯忘れない、ともジルゼリー卿は言った。


 それでよかった。


 田舎のまずしい出自、誇れる学歴も資格も身よりもない娘と、国の要所で尊ばれる優しく賢い雇い主……。


 決して叶わないと思っていた自分の恋が、想い人の中で永遠になると確信して、オルスカは幸せだったのだ。



「……そう。ジルゼリー卿は、きみにそう言ったのだね」


「はい」



 寂しそうな表情のまま、オードは小さく頭を振って、かがめていた背をのばす。



「きみの気持ちと、卿の思いはわかった。……しかしね、オルスカ。これだけは憶えておいてほしい」



 高いところから、小柄なオルスカに語りかけているオードの脇を、通行人がするする歩いてゆく。


 青い空の下、広い大路にでこぼこ女性二人組が立ち話をしていたって、気にする人なんかまるでいない。世の中、人の営みは続いて行く。



「知り合った今、きみに消えられたら、わたしも残される側だ。若く美しくあほうで気丈で、いちずなきみを失ったら……。わたしは間違いなく、悲しくなって泣くよ」


「そんな」


「冗談ではないよ。……と悲しい想像をしたら、お腹も切なくなってきた。と言うわけでどこかへ入って、てきとうに何か食べよう。蜂蜜ちゃん」



・ ・ ・ ・ ・



 どこかで、適当に……。


 言いつつオードはしっかり目的を持った足取りで、つかつか歩いて行く。大路から東にそれた横町で、なんと臓物料理屋に入っていった。



「大将、いつもの二人前で~」


「へーい」



 おせじにも上品とは言えない、庶民向けの狭い店! 職人風の男性客がひしめく中、長台につめて座って、ぽんぽん慣れた調子でオードは注文している。



生姜しょうが丁子ちょうじ! 香辛料のきいたもつ・・ほど、元気の出るものはないねぇー。どんどん食べなさい、蜂蜜ちゃん。ここはおかわりもできるから」


「……」



 深皿に入ったうさぎと鶏の臓物もつ甘辛煮込みは、舌にまろやかでびっくりするほど美味しい。


 ……確かにおいしかったけれど、オルスカはなるべくオードのほうを見ないようにして食べた。


 昨夜みたいに髑髏どくろの顔になっているオードを想像してしまったら、絵的に怖くて食べられなくなりそうだ。内臓をたべてる骸骨??



「けふっ」



 付け合わせのゆで麦が、喉にはりつく。


 またしてもオードに背中をはたかれて、オルスカは巨大な湯のみから白湯さゆをすすった。



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