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13. 大路の上のオードとオルスカ

 オルスカが見上げると、市民大広場の白い石塔が、やわらかい青色の空の下に映えている。


 堂々とした建市碑の向こうには、公館街へとのびる路が続いているはずだった。


 しかし今、そこには低い板垣がいくつも置かれていて、紺色の上衣を着た公安職員たちが十数人も立っている。みな仰々しい革の防御鎧を上に着て、長短の警棒を手に武装していた。



「おやまあ。ものものしいこと」



 ゆったり年寄りくさい言い方で、オードは若い職員に何気なく話を振る。



「お勤め、ご苦労さまでございます」


「恐れ入ります、奥様。この先一般の方は立ち入り禁止なのですが、北区への迂回路をお伝えしましょうか?」



 意外に慇懃な言い方で、若い職員は答えた。



「いえ。何ごとかしらと、野次馬に寄っただけですのよ。……ああそうか、トレルアーカの国賓団が来ているのでしたね!」



 うなづいている若い職員に、もう一度ごくろう様ですと言ってから、オードは東向きに歩き始めた。



「トレルアーカの国賓団について。何か知っているかい、蜂蜜ちゃん?」


「いいえ、全然。でも、もうそろそろ出ていく頃なんじゃないかしら?」



 オードののんきな問いかけに、オルスカもたいして注意を払わずに答えた。


 五日ほど前……。ちょうど、ジルゼリー卿が青皿をこわしてしまった頃だ。北の隣国から王族の誰がしを含む一団が、友好的外遊に来ていると話題になっていた気がする。


 オルスカはそれどころでなかったけれど、市民にとっては大きな関心事だったはずだ。


 いま醜聞となりかけている青皿の紛失事件がなかったら、国賓団はさらに人びとの注目を集めていただろうか。



「基本的にのんきで平和な、この国と市に。こんな偶然が重なるのは、妙なことだよね」


「……? 偶然?」



 オードはオルスカを見下ろして、うなづいた。



「お皿は、別の時季に割れたってよかったんだ。どうしてまた、トレルアーカの国賓団が来た日にあわせて、ジルゼリー卿は国宝の確認をしようなどと思ったのかなぁ」



 と言うよりどうしてオードは、そんな細かい点が気になるのだろう……。オルスカには、そっちの方がよっぽど不思議だった。


 オードは立ち止まり、オルスカをまっすぐに見る。



「へんなの、という顔をしているね」


「ええ。あなたはどうでもいいような、ささいなことばかりをあげつらっているように見えます」



 意識したつもりはなかったけれど、オルスカは自然に挑発的な口調になった。


 落ち着き払って、のんき優雅にふるまっている大人のオードになぜか、一矢報いてやりたい気になって。


 途端、ぐうっとオードが顔を近づけた。


 怖いほどに真剣な、明るい褐色のまなざしがすぐ前に迫って、オルスカはびくりとする。



「……そのどうでもいいような、ささいな部分に。きみは自分の命をかけていた」


「……」



 オードは、オルスカをにらんでいたのではない。けれど今、オードの笑わないまなざしに射抜かれて、オルスカは動くことができずにいた。



「確かに、こまかいことではある。けれどその全てに、きみの人生と命とがかかっている以上、わたしは看過したくないんだ。オルスカ」


「……わたしの人生じゃないですか。あなたのじゃあ、ない」



 絞り出す声で反発してみる。自分がゼファン・ジルゼリーにすべてをかけていること……。それは何としても守らなければならない、オルスカの聖域だったから。



「きみは。守られて残った側の人生を、考えたかい? オルスカ」



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