第8話 「秘められた想い」
──創世神アリシアの祝福を受けた者は、
アリシアと同じ金色の髪を生まれながらに宿す。
この広大な世界において、その証を宿しているのは弟であり、
第一司教・教皇代理であるルマンと、
妹であり、聖騎士団総司令であるアリネと、
今は伯爵令嬢として、
髪の色も目の色も変えてしまっているものの、
もとの髪の色は金色である教皇アリアだけ。
今教皇であるアリアが辞めると宣言したならば、
次の教皇はルマンで確定なのだ。
そしてルマンが引き受けなかった場合は、
最終的に妹であるアリネが教皇となるしかない。
しかし、そうあってはいけない。
今までの2000年の間に時々一定の定期はないにしろ、
300年もの間眠ることがあったアリアは、
その間に代理を務めるルマンが、
どれほどの苦労をしているのかをもちろん知っている。
ましてや、たった三人しかいないの肉親の内一人が、
己の傍にいなくなれば、
永遠を生きるルマンにとっては哀しみに昏れることだろう。
300年だけ、といえば短く見えるかもしれないが、
その間にどこかの国は滅び、
どこかの地域は新しい王国となり、
誰かは亡くなって、誰かが生まれている。
文化も歴史も人種も法律も建物も規則も立場も、
数えればキリがないほどの『何か』が変わっていることだろう。
そんな中で、ルマンは眠っていない。
そう今まで1900年以上共にいたアリアとアリネには分かる。
教皇という仕事はどれほどに大切であり、
どれほどに大変であるのかも、
己がその立場にいる者だからこそ理解出来る。
ルマンはアリアにとって可愛い弟だが、
彼の知識量とその聡明さは認めている。
単純に可愛いと思ってしまうのは、
アリア自身よりも背が低いからなのかもしれないけれど。
今のところ辞めたいとは思ったりするものの、
それを実行に移すつもりはない。
まあ、辞めたところで行く先がないからでもあるが。
「昔の御伽噺にもあったっけ……。」
『創世神アリシアは寛大で偉大なる全ての産みの親。
その加護を受けたものは、
神の声をその姿を見聞きすることがこの世界で許された証となる。』
『しかし、その者は己の自由を許されないかもしれない。
この広大な世界で、窮屈な思いをするかもしれない。
しかしそれもまた、アリシアに選ばれた者のみの特権だ』
『金色に光り輝く髪を持つものには、
その特権も神に近しい力も手に入れることがこの世界で唯一許されるのだ』
「(今となってはどうでも良くなったことだけど……。
幼い頃の私は……そんな存在に憧れてたのかしらね?)」
そんなことを自問したところで、
もうそんな幼い頃のことなど霧となって消えていく。
永く生きるとはこういうことなんだと、
今でさえ滑稽に思いながら、考えてしまうものだ。
「(まあ、過ぎたことを気にしても仕方がない。
今は伯爵令嬢リアとして、この面白そうな日々を過ごすか)」
そう心の中で決めて、
案内をするとレイシアがアリアを呼びに来たものだから 、
今の今まで考えていたことは頭の端へと追いやって、
腰掛けていたベンチから立ち上がり、
まだ見ていない校内を探索することにした。




