第5話 「伯爵令嬢、リア」
ここは、アスカ聖女院学園。
アスカ国には、
古来より『聖女』と呼ばれる聖なる力を扱うことのできる女性が、
何年もしくは何百年に一度生まれるのだという。
その伝承にあやかり、
アスカ国をより豊かなものにする為に、
200年前に聖女・魔導師育成プログラムの元、
13歳~19歳の女性、12歳~19歳の男性が、
入学することができるという学園が建設された。
アスカ聖女院学園は、
実力主義の学園であり、
平民も貴族も関係なく、
テスト・試験において好成績を収めたものが、
特別扱いされるという仕組みになっている。
「ここが私の通っているアスカ聖女院学園です」
「へぇ……」
この学園は、アスカ国の王族も通っているということで、
国内に数ある学園・学校の中で、
一番知名度と偏差値が高いのだそうだが、
そもそも教皇であるアリア……
もとい、リアには期間限定でいるだけなのだから、
そんなものどうでもいいことだった。
「リア様、あちらに園長室があります。
まずは学園長のルナ様にお話をしに行きましょう」
共に着いてきていたのは、
レイシアの従兄弟、
弟のルドと兄のユージ、侍女のサナだった。
公爵家程の家式だと、侍女兼護衛役の者を、
学園に連れてきても良いという校則なのだと言う。
レイシアは公爵家の令嬢なので、
許されているというわけだ。
「あら、見た目は私より歳上なのだから、
様付けしなくてもよろしいのに」
「い、いいえ!」
───教皇聖下にそのような態度は取れない。
とは、既に学園内に入ってしまっている以上、
口に出すことはできないが、
アリアはこれでも2000年は生きているので、
ユージとルドの反応を面白がって見ている。
「学園長、失礼します」
「どうぞ〜」
園長室の前までやってきたレイシア達は、
部屋の中にいるであろう学園長に声をかけてから、
部屋の中に入る。園長室は思ったよりも質素な感じだった。
家具も来賓用のソファや机、
書類整理をするための大きめな縦長い机と、
棚といったものしかなく、他には特に何もない。
レイシア曰く学園長になった者が、
どんな趣味をしているかによって変わるのだそう。
「あらあら、いらっしゃい!!あなたがリア嬢ね?
私は、ルナ・プリエール。
アスカ国公爵家のひとつ、プリエール家の娘です」
「どうも、学園長。
リアと申します、よろしくお願いします」
すっと、先程までとは違い淑女らしい態度に変わるアリアを、
内心『表裏がすごい……』と思いながら、
レイシアは学園長に話をする。
アリアはそんなレイシア達の反応に気付いていたが、
特に何も言わない。詳しいことはアリア達に任せている。
ところどころ、事実とは違うことを言ったけれど、
どうやら説明を理解してくれたようで、
学園長はにこやかに微笑む。
「なるほど、三週間限定在籍ね~
うんうん、もちろん大歓迎よ!」
「「ありがとうございます」」
レイシア達と共にアリアも頭を下げる。
もしもこれでダメだと言われたら、
どうしようもなかったのでレイシアは内心ホッと溜息をつく。
学園長が気さくな方で良かった……。
きっと気難しい方なら、
レイシアの拙い説明では納得してくれなかったかもしれない。
「それじゃあ、三週間楽しんでちょうだいね!」
にこやかにそう告げた学園長にお辞儀をした後、
園長室を後にし、レイシアはアリアを案内することにした。
三週間だけとはいえ、知っておかないと困ることもある。
「この学園は貴族・平民問わず、
たくさんの子供が在籍しているから、広々としているのね」
「その通りです、リア様」
日が差す長い廊下をゆっくりと歩きながら、
この学園内にあるものをレイシアに説明してもらう。
図書室や保健室、準備室に理科室など。
レイシアにとっては前世でも、
馴染みのある教室ばかりあるけれど、
この世界に生きる人達にとっては初めて見たときは、
どれも新鮮に映るだろう。
とはいえ、レイシアが前世で通っていた学校よりも、
一つ一つの教室の広さが異常なほど広いけど。
「あら〜~、レイシア様じゃないの?」
園長室のある五階から階段を降りて、
一階にある食堂まで来ると黒のストレートな髪に赤の瞳、
そして大胆な態度を取る令嬢がレイシアたちの行く手を阻んだ。
「何、この小娘は?」
「その格好で言うことではないかと……。
コホン、彼女はアシア・テネシティ・リーベ。
リーベ伯爵家の令嬢です」
「なっ……小娘ですって?!
どう考えても貴女の方が歳下じゃない!!」
突然現れて、レイシアを小馬鹿にしたような態度を取る令嬢に、
つい素のまま小娘と呼んでしまったけれど、
アリアは訂正するつもりは一切ない。
アリアからすれば事実だからである。
そして顔を真っ赤にして激怒するアシアを見て、
アリアは一つの可能性はあることを考える。
これは予測でしかないけれど、
これから探っていけば、
アリアの予想通りの存在だろうと、目を細める。
対してレイシアは冷えた瞳で、
自分より少し背の低いアシアを見下ろしている。
その瞳には呆れの色が見えた。
「アシア伯爵令嬢。
あなたは、”伯爵令嬢”であって”公爵令嬢”ではないのよ?
なのに何故、身分が下のあなたが、
勝手に私に話しかけてきているのかしら」
「っ……!何よ、私は聖女候補よ!
お前なんかと違って、必ず聖女になる者なのよ?!」
「そうだぞ、レイシア。今すぐアシアに謝れ!」
騒ぎを聞き付けたのか、
いつの間にかアシアの隣に来て、
怒りを滲ませ震えているアシアをその男性は、
そっと腰を抱き寄せ、庇うような態度を見せる。
「ダリル殿下……!」
アスカ国の第二王子、ダリル・ハイス・ヴァルム。
その人だったのだ。
「(へぇ……この子がレイシアの婚約者、ねぇ)」
何ともまぁ、ある意味でお似合いなカップルだわ
とアリアはほくそ笑む。
レイシアの威圧から庇うように抱き寄せられたアシアは、
ダリルを瞳を潤ませながら見上げている。
「(ここから、どう出る?)」
今回もまた、頭の弱い奴らだと察したアリアは、
レイシアの次の一手を内心楽しみながら無言で見つめる。
正直なところ、貴族社会の常識において、
レイシアの言っていることは何一つ間違っていない。
地位としてはアシアの『伯爵令嬢』よりも、
レイシアの『公爵令嬢』の方が上だ。
何しろ王家の次が公爵家なのだから、当然のこと。
貴族の家に生まれておいて何で分からないのやら……。
「ダリル殿下、
婚姻を結んでいない令嬢に触れるなど、
お作法がなっていないと申し上げたでしょう?」
「ふんっ、レイシア。
お前如きが俺に口答えをするな!
それより、アシアをまた虐めたな?!
早く謝れ!この無能が!」
もうこれは救いようがない馬鹿だなと確信した。
いや、もうそう思うしかない。
はぁ……とその様子を見ていたアリアは深く、
そして周りさえも聞こえるほど隠すことなく溜息を吐く。
この二人は、見ているだけで不快にさせられるらしい。
本当にある意味で天才なのかもしれない。




