第3話 「理由」
アリア達がアスカ国へ向かう少し前。
レイシアが家族たちに今回の件を報告するため連絡を行っている間。
───アリア達は皇居に滞在している、
司教や新聖騎士団達に今回の一件を報告した。
「聖下自ら、
レイシア公爵令嬢について行かれると?」
「しかしながら、
それを各国の要人たちが許すとは思えません!」
普段から皇居の警護と神聖国の政治も担っている、
宰相ゼーンズと第二司教エルドリエはアリアの報告に反対の意を表明した。
「聖下のことですから、
何かお考えがあるのでしょう」
しかし、彼らとは違いアリアの言葉を反対することもなく、
冷静に事の顛末を聞いていた第四司教レナータは、
優雅に紅茶を飲むアリアに目線を向け、そう発言した。
現在、皇居の大広間に集まっているのは、
アリア、ルマン、アリネ、宰相ゼーンズ、
第二司教エルドリエ、第四司教レナータという面子。
主に発言を許可されているのは、
ゼーンズ、エルドリエ、レナータではあるが、
その他にも聖騎士団の第一部隊、第二部隊、
第三部隊の団長や副団長など、
この国の中枢にある人物達が固唾を飲んで、
その様子を見守っている。
第一部隊、第二部隊、
第三部隊の団長・副団長としては、
この国のトップである教皇が決めたことなのだから、
それに反対するつもりはない。
自分たちはただ彼女の意に従うまでなのだから。
上座に座るアリアをエルドリエは不安げに見上げている。
アリアを中心に左にはアリネ、
右にはルマンが座っており、
そこからコの字になるような形で長いテーブルが置かれている。
「えぇ、もちろん彼女について行くのには理由があります」
「それは?」
これはレイシア自身にも告げていないこと。
ルマンはレイシアとの面会時にも彼女とアリアの会話を聞いているため、
大体の予想はついてはいたが、
アリアの侍女からの報告で、
大広間に集まるよう指示されたアリネ達はその理由を知らない。
「あなた達は、『転生者』という存在は知っていますね?」
「えぇ、ごく稀にこの世界に生まれる者のことですよね。
こことは違う世界の知識や作法、
言語を生まれながら持つ……確か、アスカ国では、
そのような存在を聖女として崇める歴史があったはずです」
光の巫女レナータは、アリアの言葉に大きく頷く。
これからアリアが赴こうとしているアスカ国は、
今までにも多々〖転生者〗という存在が生まれる傾向にあった。
「レナータの言う通りですね。
私がレイシア公爵令嬢について行く理由は、
彼女が『転生者』であるからです。
私の役目のひとつ、転生者の身の安全の確保を遂行するために、
私が彼女について行くのです」
アリアの言葉に少しざわめきが起きたものの、
ルマンが片手をそっと上げたことですぐに静まり返る。
「教皇聖下の役目のひとつ……?
それが、転生者の身の安全の確保と保護であるということでしょうか?」
「その通りです、エルドリエ。
そして、アスカ国にあるもう一人の転生者の反応……。
彼女も、一体何を望んでいるのかを見出さねばなりません」
「もう一人、ですか?」
飄々とした顔で前を見据えるアリアの言葉に、
アリネが驚きの声を上げる。
まさかレイシア以外にもう一人いるとは思わなかったのだろう。
いや、気付いてはいたがアリネ自身は、
その魂の異質さを見抜くにはアリアよりも疎い。
確実に転生者だと分かるアリアの言葉の方が、
余程信頼感があるものだろうとアリネは考えていた。
そのため、今までも薄らと異質な魂の持ち主の存在を
察してはいたが自分から言い出すことはしなかったのだ。
「その、もう一人にも会いに行くために……ですか?」
「えぇ、そうです。
今回の件でレイシアがこの世界に生を受け、
何を望んでいるのか、彼女はどういった人柄なのか、
そういったことを知らなければ、
不幸にもこの世界に転生してしまった、
レイシアの願いを叶えられないのです」
ゼーンズは確認のためにアリアに疑問を投げかける。
アリアはそれに少し悲しげな表情をして答えを返した。
そう、今まで生きてきて、
〖転生者〗達を見てきて、アリアは知っていた。
彼らは死ぬつもりなどなかったと。
ただ以前の自分が生きた世界で不幸な事故に遭い、
まだまだこれからという未来に想いを馳せているところで死んでしまい、
右も左も分からない世界にただ一人ポツンと放り出されてしまったのを。
だからこそ、この世界に生きるには異質な魂を持つ、
転生者の身の安全と願いを叶えること。
それが、アリアの──教皇の役目のひとつでもあった。
アリアとしてはレイシアに接するのは仕事上のこと。
けれど、レイシアとしてはこれからの人生に関与すること。
「納得頂けたようですね」
「……はい。
聖下が望むのであれば私は付き従うまでです」
最後まで少し不満げな顔をしていたエルドリエだが、
アリアが決めたとなれば彼に止める権利はない。
ただ、アリアの仕事が、
───役目が上手く終えられるように
尽力することこそが己の役目であると胸に誓い、
エルドリエは真剣な眼差しで自身の師匠を見る。
その視線に気づいたルマンはこくりと小さく頷いた。
もちろんルマンだって教皇自らが
たった一人の人間のために動くということには不満はある。
けれど、自身の姉が決めたことである以上、
これ以上は彼からは何も言えない。
いつも通りアリアの代わりに政務を行う。
アリネも同じようにこの国を害悪から護るだけ。
やるべきことが変わることはない。
与えられた役目をただ、今まで通り遂行するだけ。
───そうして、レイシアと共にアスカ国へ赴く時間が来た。




