第2話「条件」
「その場を、”実際に見せてもらうこと”、よ」
ゆったりと、アリアは緊張したように、
顔を強ばらせているレイシアを見据えて、
にっこりと微笑んでそう告げた。
「実際に見せてもらうこと……。
では、その日に、
アスカ国の王の間にお越しになるということですか?」
「ええ、ただし”教皇としてではないけど”」
「「え……?」」
ニコニコと何かを企み、少女のような微笑みを浮かべてそう告げるアリアに、
ルマンとレイシアは疑問の声を上げる。
「そうね……。”アスカ国の令嬢として”というのはどうかしら?」
「どうかしら?……じゃありません、聖下!!
何を仰っているんですか?!!」
ポカーンと驚きのまま硬直しているレイシアに対し、
アリアは条件を投げかける。それはもう愉しそうに。
その言葉を聞いたルマンは、慌てて考え直すよう声を荒らげて、
にこにこと微笑んでいるアリアに言い寄る。
「別にこれといって問題はないでしょう?
そもそも今の若者達が私のことを知っているとも限らないし………。
だから、前々からあなたと面識のある令嬢ということで、
あなたが言うシナリオというもので定められている、
王子からの婚約破棄が言い渡されるその日まで、
アスカ国に留まってもいいかしら、と私は聞いているの」
「それは……聖下がそうお決めになられたのでしたら。
しかし、何故そのようなご決断を?」
レイシアは驚きはしたものの教皇であるアリアが、
既に決めてしまったのならば構わないと思い、
動揺に胸をハラハラさせながら疑問を問いかける。
どのような形であれ、自分が望むシナリオの塗りつぶしを、
教皇聖下が協力してくださるほど、
心強いものはないのだから。
「……理由としては、アスカ国は五百年前に一度、
大きな王族関係の事件を起こしたことがある。
今を生きる王族も同じようなことをしないとは限らない。
その事件は、国中を大きな混乱にどよめかせた事柄だった。
今は安定していたとしても、
ここがあなたの世界で言う”乙女ゲーム”の世界なのだと言うのならば、
先程話してくれた”シナリオ”とはまた違う問題も起きている可能性がある、
それがもっと混乱を招くかもしれない」
「つまり、実際に目で見て、
そのような問題が起きていないのかどうかを、
確かめたいということですね?」
レイシアの答えに、
その通りだと言うように深く頷くアリアを見て、
ルマンは一つ大きな溜息を吐く。
この方が心の内で既に決めてしまったのであれば、
後々からどんなことを言おうと、聞く耳を持たれない。
それを知っているからこそ、諦めるしかないと思いつつも、
相変わらず全て自分でしてしまおうとする姉の姿に大きく溜息を吐く。
「はぁ……聖下がお決めになったのならば、
仕方がありませんね。
しかし、限度は3週間だけですよ、姉上」
「分かっているわ。
終われば速攻で帰ってくるからその間の仕事は任せるわ。
ただし、教皇の印が必要な書類は置いておいて」
「はっ、聖下」
ルマンの言葉に少しほっとしたように微笑みながら告げる、
アリアの命令に、すっと頭を下げたルマンを見た後、
アリアはレイシアの方に向き直る。
「身分に関してはいくらでも偽装できるから構わないとして……。
アスカ国にどうやって留まろうかしらね」
「そうですね……。
では、従兄弟の家はどうでしょうか?
従兄弟には先程お話したことは伝えておりますので」
「あら、そうなの。……ならそうしましょうか」
アスカ国に行けるとしても、
留まれる場所がなければ流石に神聖国から遠い場所にある
アスカ国を行き来するのはアリアでも参ってしまう。
どうしようか、と悩んでいるところにレイシアからの意外な提案があり、
有難く頼らせてもらうことにしたのだ。
それにしては、レイシアの従兄弟達は、
彼女の話を聞き、信じたと言うのだから、
寛容性の高い人達なのかもしれない。
それから色々と話し合いを続けて、
話し合いが終わったのは夜が更けてしまった頃だったので、
皇居内にある一室をレイシアに貸し出し、
明日の朝にアスカ国へ向かうことにした。
■
次の日の朝になり、ルマンやアリネ達に見送られながら、
レイシアの乗ってきた馬車に共に乗り込んだアリアは、
少し悪戯な笑みを浮かべてこう告げる。
「ここからは、私はあなたと知り合いの令嬢のリアになる。
……良いですね?レイシア」
「ええ、もちろんですわ。リア様」
───こうして始まる、
アスカ国の貴族・王族諸共騙し切る、
偽りの令嬢と悪役令嬢の物語。




