第1話「アスカ国の公爵令嬢」
ここからは第二章になります。
この作品自体がふわふわな設定のため、
どこかおかしなところがあるかもしれませんがご了承くださいませ。
教皇アリアが300年の眠りから覚めて早一週間が経った。
一週間の内に、アリアは眠っていた期間の間に起こった出来事、
現在の知識などを全て覚え、
また教皇としての仕事をこなすことにした。
「姉上、ルマンです」
コンコン、と扉を叩く音と同時にルマンの声が聞こえる。
「どうぞ、ルマン」
「失礼します」
アリアの返事を聞いたルマンは、スっと扉を開き、
音もなくそっと扉を閉めてから、机に座り、
書類を手に取って眺めているアリアへ向き直る。
「姉上、アスカ国の公爵令嬢がこちらにお見えになりました」
「ああ、そういえば今日だったわね」
業務用の広々とした机の上には、
各国からの報告書が綺麗に整頓されて並んである。
アリアは自分の前の空いているスペースに肘をついて、
思い出したように目を見開く。
「はい。
しかし、アスカ国は少し遠い場所にあるというのに……。
わざわざここまで来る理由は何なのでしょうね?」
「そこは、聞いてみるしかないわ」
ルマンの問いかけに目を細めて答えたアリアは、
そっと腰掛けていた椅子から立ち上がる。
「待たせてしまっていては、無礼ね。
早く行きましょうか」
そうして、扉の方へと歩き出すアリアと共に、
ルマンは業務室を出ていき、
アリアを公爵令嬢の待たせている客間へと案内する。
アリアに対し、
何か無礼なことを言わないだろうかとヒヤヒヤしながら───。
■
「お待たせして、ごめんなさいね」
「いいえ、お忙しい中、
お時間を作っていただきありがとうございます。
私はアスカ国、アース公爵家の一人娘、
レイシア・アムール・アースでございます」
豪華な装飾のなされた客間へ赴くと、
広々としたソファの上に、
氷のような水色のドレスに身をまとい、
髪は青白く、瞳の色は淡い蒼色をした令嬢が姿勢よく座っていたのだ。
「さて、第一司教のルマンは知っていると思うけれど、
私は知らないでしょう……。
私はルマンの姉、
立場としては教皇の位にいるアリアと申します。
どうぞよろしくね」
「はい、聖下」
すっとソファから立ち上がったレイシアは、
ドレスの裾をつまんで頭をゆっくりと下げる。
「気楽にしてちょうだい。
……さて、どんな要件でこちらに来たのか、
聞かせてもらってもよろしいかしら」
「はい。では、僭越ながら…………」
レイシアは長々と説明をしてくれた。
彼女、つまりレイシアの肉体はこの世で生まれた本人だと言うが、
中身は異世界で生きた人間なのだと言う。
「つまり、貴女は異世界の住民であり
今あなたがなっているレイシアは”悪役令嬢”と呼ばれた、と」
「……はい、その通りです」
「そして、貴女の世界ではこの世界は
『乙女ゲーム』という玩具の舞台だった、そういう事ね?」
「はい。しかし、私はもちろん理解しています。
この世界もまた、ひとつの現実なのだと」
真剣な眼差しをアリアに向け、
必死に自身の置かれた状況を述べるレイシアを見て、
スッと見返していたアリアがふっ……と微笑む。
「なるほどね、理解しました」
「……え?」
「あら、どうかされたの?
自分から言っておいて、こんな突拍子もないお話は、
理解してもらえるとは思わなかったという解釈で合っているかしら」
「その通りです……」
驚いたように目を大きく見開くレイシアを見て、
アリアは楽しむかのように悪戯に、優しく微笑む。
「確かにこの話は、誰も信じられないでしょうね。
でも、語るときの貴女の顔はとても真剣だった。
ならば、私が信じるに値するわ。ね、ルマン?」
「はい、聖下」
斜め後ろで立ちながら話を聞いていたルマンにアリアは問いかけると、
当たり前だと言わんばかりに ルマンは即答した。
しかしその瞳には未だ疑問が残っているようにもアリアには見えたが、
彼ならばすぐに彼女の話を飲み込めるだろう。
何しろ、私の代わりにこの神聖国を纏めていた人物だもの。
こうして異世界の者に相見えることはそうそうない事だ。
これはこれで、長生きしてみるものだなぁとアリアは思う。
アリアは目の前に座る異世界からの転生者を見据えて、
不敵に微笑みながらこう告げた。
「その話を信じる……
そう言ったけどあなたに手を貸すための条件があるわ」




