ギルド『天上の牙』
視界が戻った時、目に映るのは見慣れた天井ではなく、あまりにも現代と離れた世界。
いうなれば中世ヨーロッパのような街並みだ。
「ソラさーん」
ここがFSOの世界の始まりの街。
そしてFSOの中での俺の名前はソラだ。本名丸出しだが別にいいんだ。
「ようルル」
俺を今呼んだのはルル。青い、腰まで伸びた髪が特徴の、どこかおっとりしたような人だ。
これでも生粋のゲーマーで、FSOのトップギルドの一人。
ロールは魔法職。
「今日は遅かったですねえ」
「ん?そうか?」
俺としてはいつも通りで来たはずなんだが......。
「はい、昨日と比べて3秒も遅かったですよ」
「それは誤差の範囲内だよな?」
「いいえ」
うふふとにっこり笑う姿は天使そのものだが、
この異常な細さにより、大抵の人から距離を置かれるのが彼女だ。
「ま、まあまずはギルドに行こうぜ」
「そうですね」
俺らのギルドは、外への門の近くにある。
「マスター、今来たぞ」
物騒に扉を開け、入っていく。
「もう少し丁寧に開けてくれないか......」
ギルが少し落ち込んでいる。
「ま、まあいいか。じゃあ、二人とも席に着いて」
俺の目の前、俺がマスターと呼んだ赤髪の青年が、俺の所属するギルド『天上の牙』のギルドマスター、ギルだ。
見る分にはただのイケメンなのだが、実際に話すとわかる。
こいつはシスコンだ。
ことある事に自分の妹の可愛さをアピールし、妹は誰にも渡さないと言う始末。
それ以外が完璧なだけに余計対処に困る人間だ。
ロールは前衛職。大剣で斬り込んでいき、孤立することがたまにある。
「今回の集まりはなんだ?」
ギルの隣、見た目から既に脳筋の大男、ランドだ。
『天上の牙』でのロールは前衛職。
見かけによらず細かい動きや作業が得意で、武器を持たず、拳で戦う。
そして、ランド以上に孤立しやすい......いや、孤立したがりだ。
「どうせ今日も妹の自慢話でしょ?」
ランドの隣、黒髪ショートで小柄な体躯、ミサ。
ロールは治癒職。
こいつは一言で説明できる。
大食い、以上。
おそらくこのギルドで唯一まともな人間だ。
「違うんだ。今日は、自慢話ではない。」
何時に無く真剣な表情に少し緊張する。
「じゃあ何さ...」
ギルのもう片隣、茶髪を綺麗に肩辺りで揃えたすこし気だるげな空気を纏う女性、ユキ。
ロールはルルと同じ魔法職。
醸し出す雰囲気同様、怠惰。その上強欲で負けず嫌い。
なのに不思議な魅力があって何百人もの男を堕としてきた。
七大罪の3つを一人で持っている凄いのかどうなのか微妙な人だ。実力は折り紙付き。
「......来たんだ」
ギルが拳を握りしめ、そう小声で呟いた。
「何だって?」
真正面にいる俺には聞こえなかったが、ギルの隣の二人は聞こえたらしい。顔を青くしている。
聞かない方がいいのか......?
いや、男として、友?の相談等には乗るべきだ。妹の自慢話でないなら、おそらく実生活での何らかの悩みだろう。
手伝えることならなんでも手伝うし、悩みなら一緒に解決策を考えよ──
「妹が、彼氏を連れて来たんだーーー!!」
う。
「珍しくまともな話かと思えば......」
「まあ、あれがギルだからな」
その後、ギルを全員でボコり、俺とルルは約束の場所へと向った。