19.休日・1
この学園に潜入して、一か月近くが経とうとしていた。
一か月。つまりは三十日間。
学園の授業カリキュラムは定期的に休みは訪れる。前の世界で例えれば、水曜日と日曜日の週二休日制だ。
けれど俺は、基本的にはダンジョン攻略にいそしんでいるため、あまりゆっくりは出来ていない。
そんなわけで今日は、久々の一日オフ日としました。
学園は休み。
だからついでにダンジョン攻略も行わない、完全フリーの一日なのだった。うーん、開放的。
「しかしラチカ……、良かったのか? わざわざ町までついてきて。別にお前まで俺に付き合うことは無いんだぞ?」
俺の問いに、いつものトレードマークを跳ねさせ、ラチカは答える。
「……べ、別にアンタについてきたワケじゃないわよっ! 私も町に用があっただけ! せっかくの休日だしね」
「ふうん、そっか。なら、俺はこっちの方に行くから。それじゃ」
まぁ、道の真ん中を馬車が通れるくらいに大きな町だ。ラチカもラチカで羽を伸ばしたいんだろうなぁ。そう思って俺はラチカへ軽く手を上げる。
「――――ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 正気!?」
……ん? 何か俺間違ったか?
ラチカに軽く別れを告げて、用事の場所まで行こうとしたのだが、何だか知らんが怒られた。
肩にぼすぼすと拳を打ち付けられる。まぁ、痛くはない。
「俺は正気だよ。……だって、お前は違うところに用事があるんじゃないのか?」
「そっ、そうかもしれない、けど……! それにしたってアンタ、もっとこう……、あるでしょ!?」
「うーん……、ちょっとよく分からん」
何もねえけどなぁ……。
あぁ、でもこういうことか?
「何かおごれってことか? まぁそれくらいなら良いぞ」
「そっ、そんなこと言ってんじゃなくて……、」
「最近お前、ダンジョンでも頑張ってるからなぁ。師匠面するワケじゃないけど、労いも兼ねてのご褒美だ」
「……ご褒美。そ、それじゃあ……、おごられて、あげるわよ」
おおなるほど。やっぱりこっちの感じであったか。
卑しきかなラチカ・トルヴィヤ女史。タダ飯にありつこうとするその精神、おじさんは嫌いじゃないですよ。
「若いうちにはいろいろ食っといたほうがいいだろうしな。よし、だったら飯にしよう」
「へ、へぇ~? 言ったわねアンタ。結構高いお店とか入っちゃうかもしれないけど、後悔しないでよね?」
「言ったわねって……。別に今はギアスとか使ってないだろ? それに大丈夫だ。金ならある」
「はぁ? 仮にも(中流だけど)貴族階級の娘である私よりも、お金持ってるっていうの?」
「え、うん。まぁ……、十億くらいは」
ぽつりと俺は言う。
あ、でもこれって言ってよかったんだっけ。まぁいいか。
それに総資産とかなら、シャルエールの実家のほうが全然上だしなぁ。今更って気もする。
「そんなワケだから行こうぜ。……衝撃を受けるのは分からんでもないが、そんなこともあるからさ」
金魚みたいにぱくぱく口を開閉するラチカを強引に引きずり、俺は飯どころ方面へと足を運んだ。
というわけでやってきたのは串焼きの店である。
……ラチカのやつめ、けっこう渋い趣味してるじゃねえか。
本来ならば串焼き系は、前の世界で言う居酒屋メニューであり、単品であれば、学生でも手が出るくらいの料金のものも多い。
が、今回は奮発ということで、高級串焼き店である。
串焼きがメインとは思えないほどの内装の店を、二人で貸し切っているかたちだ。
……別に貸し切りにした訳じゃないんだけどな。単にこの時間帯から串の店に入る人たちが少ないってだけ。
「へぇ、けっこうそろってるなぁ……。つーか、見たことも無いメニューまである。グリフォンの緑魔法焼き串なんて、初めて聞いたぞ」
「……グリフォン系の肉は、ちょっとした魔法処理が必要なのよ。だから調理場専用の魔法使いが必要になるの。授業でもちょっと触れたでしょ?」
「あぁ、魔法使いの派生職業のあたりか。……でもあんなの触りだけだっただろ? よく知ってるなぁ」
俺が感心していると、ラチカははぁとため息をついて言った。
「あのねぇ……。アンタはどうやら違う目的みたいだから分かんないかもしれないけど、私らはみんな、一流の魔法使いになりたくてこの学園に身を置いてるの。だから授業でやってなくても、興味があれば独学しちゃうのよ」
「はぁなるほど……。そういうもんか」
俺の言葉に「まったくこれだから天才は……」と悪態をつきながら、メニューへと目線を落とすラチカ。
まぁ呆れられても仕方がないか。
さて、俺も大人しく料理を選ぼう。
「俺は盛り合わせでも頼もうかな。――――メアは何か食べたいのあるか?」
あ。
しまった。
「……アンタ、またそれ?」
「あー……、ほんとすまん」
「私は見慣れたから良いけどね。その、メアとかいう人に話しかける癖、マジでどうにかしなさいよね」
ややぶすっとした顔でラチカは二重に呆れていた。
ううむ……、だめだな。この癖本当に抜けないわ。
一旦落ち着くため、手元の水を一気に飲み干す。あ、お代わりは、今は大丈夫です。
「う~む」
ラチカにも指摘されてはいるが……、学園でもたびたび、メアに話しかけてしまうという癖を出してしまっている。
主に出ちゃうのは飯のとき。
けれど一回。模擬クエスト実習のときに、横にいたクラスメイトをメアと呼んでしまったときはどうしようかと思った。どうにか誤魔化したけれど。
メアと一緒にいた時間が三か月か四か月ほど。
メアと離れている時間が一か月未満。
慣れねえなぁ……。
「……そんなに」
「ん?」
「そんなに親しかったの? ソイツと」
「親しかった? ……いやぁ、」
脳内でざっと、メアとの思い出を並べてみる。
邪悪に笑っているメア。
邪悪に攻撃してるメア。
邪悪に睨んでいるメア。
邪悪に企んでいるメア。
邪悪に絶叫して――――あ、これは何でもないです。
「いや……、親しくは、ギギギ……、無かったかな……、ブフゥ……」
「ちょっと大丈夫!? 顔が真っ青だけど!」
「ダイジョウブ・ダイジョウブ。……発作というか、精神的爪痕というか、アレルギーっていうか」
「それ全然大丈夫じゃないでしょ!」
ううむ。
可愛げのある外見よりも、恐怖体験のほうが勝ってしまった。
調子を整えて俺は続ける。
「親しいとかそういうカンジじゃなくてな……。うーん、なんと言ったら良いのやら……」
運命共同体? 殺し合った仲? ライバル?
うまい言葉が思いつかないな……。
「まぁ、それはとりあえず置いておこうぜ。俺も気を付けるからさ。
それよりも注文だ注文。俺は決まったけど、ラチカはどうするんだ?」
「……私も決まったわ。すみません、オーダー」
ラチカもいつもの調子に戻ったのか、姿勢を改めて店員を呼ぶ。
運ばれてきた料理は、ここ最近だと一番の味で。
この一か月と同じように、とても安全に食すことができた。
だからこの、「何かが物足りない」という感情は。
きっと、気のせいだと思うことにして。
いつものように、心の奥へとしまい込んだ。
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