20.休日・2
飯を食い終え、ラチカと少しだけ町をぶらついた後。
俺はラチカと別れて本屋へと向かうことにした。
「……途中ちょっとだけ雲行きも怪しかったけど、後半はラチカも機嫌戻ってたみたいだし、よかったかな」
串焼きは美味かった。それにはラチカも満足そうにしてたし。
……というか、どうして不機嫌気味になったのかは分からないんだけどな。メアの名前をふと出してしまったとして、ラチカにはあまり不都合はないだろうに。
「まぁ気を取り直そう。こっからは趣味の時間だ」
前の世界ではインドアな趣味をもっていた俺。
つーか引きこもり気味だったというか何というか。「ゲーム」だったり「本」だったり、そんなものが趣味だった。
こっちの世界にはもちろん電子機器系のゲームなんて存在していないので、当然選択肢としては「本」一択になる。
「つっても、漫画って概念はないんだよな……。あくまでも新聞みたいな、雑誌だけだ」
流石は大きな町なだけあって、普段使っているような書店とは規模が異なる、図書館レベルの書店へと入る。
これだけ大きければ、ほとんどの蔵書は揃いそうだなぁ……。
「あっ、メ――――ゴホン……」
メア暴れるなよと、またぞろ誰もいない空間に話しかけそうになり、何とか留める。
ううん、反省の色がありませんなリョウスケ選手。
しかし本当に。三ヵ月だかの間で、体に馴染んでしまった癖というものは恐ろしい。
「……離れることない三ヵ月だったからなぁ」
下手したら親兄弟以上に身近に置いていたのだ。
そりゃあ癖にもなる。
「なんかちょっとしんみりしてしまったな。
……ここからは趣味の時間なんだろ、俺。気を取り直していこう」
ぷるぷると小首を振って、俺は店内へ足を踏み入れる。
中へ入ると、思った以上に本の山だった。壮観なものだ。
「さてと」
俺がいつも見て回っているのは冒険者用の雑誌……ではなく、様々な地方のバラエティ的な情報誌である。
どこの店が美味いとか、どこの土地に綺麗なスポットがあるとか、そういうの。
職業(?)柄、様々な地域に赴くことが多いからなぁ最近は。
暇があればそういう娯楽誌を見ているのだ。
「なんか無いかなー……って、おわ!」
突然のことだったので思わず大声を出してしまいそうになり、両手で口を覆う。
一瞬だけ周りから視線を浴びてしまったが……、どうにか事なきを得た。
いや、だってびびるだろ……。
何せ表紙が、勇者メアだ。
「はは……。なんっつー、タイムリーな……」
ちなみに写真・カメラといったたぐいのものは存在していないが、魔法によって紙等への射影みたいなことはできるのだという。
俺もメアもそういう類の魔法は覚えていないから、細かい原理は分からないんだけどな。サリエナさんあたりなら使えるかもしれない。今度聞いてみよう。
その写真(面倒なので写真と言ってしまうけれど)に映るメアは、とても荒々しく、冷酷で、残忍で、……どこか美しかった。
孤独な美というのだろうか。
荒廃した原野に、一人佇む、金と赤の勇者。
「これ……、けっこう前の写真だな。髪も長いし」
もしかしたら俺と出会う前とか、魔王討伐に乗り出す前のものかもしれない。
よく見ると身体も一回り小さい気もする。これくらいの年齢の子供は成長しやすいので、八歳くらいなのだとしたら合点もいく。
「何だい学生さん、ソレ買ってくのかい? お目が高いねえ」
少しの間本を持って立っていると、店員さんからそんな風に声をかけられた。
「あぁまぁ……、そうですね。もらいます」
「毎度あり。いやぁ、勇者アールメイアって言ったっけ。この子が表紙だと、とても売れ行きが良いんだよねぇ」
「へぇ……、そうなんすね。というか、前にも表紙に?」
「あぁ、今回が二回目だね。最初のヤツが、勇者に任命されて間もなくの頃だったかなぁ……」
「ふうん……」
「この号より、更に半年くらい前だったか。王からの任命式で、勇者として旅立つ前のときのだよ」
カウンターの奥からホレと言って、その雑誌を見せてくれる。
豪奢な兵士たちに囲まれ、中央に堂々と剣を構えて立つ、勇者・アールメイア。
獰猛な顔つきに、どこか攻撃的な姿勢。
けれど何だろう。
俺が知っているメアよりも、少しだけ瞳に生気がない気がする。
……まぁ写真と違って、あくまでもインクで射影されたものだからな。そう見えることもあるのかもしれないな。
「それも売り物ですか? だったらいただきたいんですが……」
「あぁいいよ。毎度あり。……しかし兄さん、ミストリカの学生さんかい?」
「えぇまぁ」
「勇者・アールメイアにあこがれるのも悪かぁないケドね。やめときな。ありゃあレベルが違いすぎるよ。魔王以上に魔王みたいなやつだって噂になってるしなぁ」
「あはは……。そ、ソウデスネ」
だってよメア。
苦笑いをして会計し、その場を後にする。
しかし……、雑誌の表紙ねぇ。
まったくお前、そういうこと全然語らなかったじゃないかよ。
今度会ったら、そこらへん詳しく問いただしてやるからな。
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