21.休日・裏・1
……さぁ、どーしてこーなったぁ?
アタシ――――女神ルミエラは、自分でも分かるくらいに眉間にしわを寄せ、頭を抱えた。
大事に至ったのは、今から三十分ほど前。
アタシがダンジョンへと入ったところまでさかのぼる。
ここは、リョーチンが攻略を行っている最中の、ミストリカ魔法学園に発生したとされるダンジョンである。
そこに女神の権限を使ってお邪魔した。
間違って他の生徒が入ってこれないよう、しっかりとロックも施しておく。
ただまぁ、それが失敗だったかなとも思う。
けれどねぇ……。誰が想像しようか。
彼が攻略していったダンジョンの、浅い階層あたり。
そこが。
こんなにも魔窟になっているだなんて。
「つーか……、絶対コレ浅い階層に湧いていいモンスターたちじゃないっショ……。リョーチン、どうなってんのよ」
とはいえ。
これは彼のせいではない。
おそらく彼はまだ、改装作業に着手していないはずだ。
「ただ……、例外的にこういうことが、起こりえるんだよねぇ……」
ダンジョンの壁に肩を預け、嘆息する。
作り変えるための権限が移っていなくとも、攻略者の魔力に呼応して、権限を無視して姿を変えるというケースがあるのだ。
もちろんそれは、絶大な魔力の質が必要だ。
こんな事例そうそう起こることではない。
しかし。
ここを攻略している者は、例外中の例外だ。
イレギュラーなケースが多発していてもおかしくはない。
「ちょっと様子見くらいの気持ちだったんだけど……、見に来て正解だったわ」
気配を遮断する魔法を使い、自身の存在を消失させた状態でダンジョンを闊歩しながら、アタシは呟いた。
こういった、生成されたタイプのダンジョンは、いわゆるセーブポイント的なものをつけることができる。
たぶんリョーチンもそうやって奥へと進んでいってるんだろーし(というかそうでないと攻略スピードに説明がつかない)、攻略し終えた最初の階層がこうなっていることは、確認してないんだろう。
「……リョーチンめ。意外と内心穏やかじゃないな?」
元は綺麗に整頓されていたであろう壁。――――に、蔦を這うかのように脈打つ黒い魔力。
全体とはいわないが、ところどころにそれが現出している。
「ヤババのバ」
無意識下でダンジョンに変化がなされている場合。
大体の理由は、術者のメンタル的な部分に起因することが多い。
めっちゃハッピーなら、光系のダンジョンに。
超病んでてブルーなら、闇系のダンジョンに。
とか、そんなカンジだ。
「……なんだろうねェ。基本的には楽しんでるケド、無自覚なところで落ち込んでる……的な? いや、落ち込みじゃなくて、寂しがってる系かな?」
リョーチンの心根部分が赤裸々に分かってしまうというのは、ちょっとだけ申し訳ない。
ケド、これも仕事だし~?
いやいや、楽しんでないってば。
「しかしまぁ……、なかなかに面倒なメンタルしてますな」
エロいことしか考えてない、単純な思考回路だと思ってたんだけどなぁ。
「うわ……。しかもこの魔力を吸って、普通のモンスターもレベル上がってんジャンね~……」
アタシに気づかず目の前を通り過ぎるオークを一瞥する。
通常のオークとは一回り体のサイズが違うものが闊歩している。他にも、飛び交う生物なんかも同じような進化(?)を遂げていた。
「ますますリョーチンの中の『泥』は、放っておけなくなってきたなぁ……」
女神ルミエラの、使命の一つ。
今回アタシが地上へと干渉できている理由の一つが、これだ。
それが――――彼の中の『泥』の魔力である。
「ルーリーもとんでもないものを与えちゃったよネぇ……」
ダンジョンに入って、もう何度目になるか分からないため息を、アタシはつく。
「リョーチンたぶん……、ここで大暴れしたんだろうなぁ……。久々に制約を受けない、ほぼ十全な魔力だもんねぇ」
そしてそれが色濃く残ったがために起こってしまった、イレギュラーケースだ。
「ま、アタシがてきとーに治しといてアゲますか」
これも女神の務めだ。
リョーチンが無自覚なのが幸いした。
これくらいならば、楽に鎮静化できるだろう。
アタシは黒化した壁に手をあてがい、魔力を通していく。
「――――我が触感は深く」
うわ、こいつは結構な根ですなぁ。
表面を覆ってると思いきや、むしろ逆だ。根っこの部分が黒化していて、蔦状に奥から出てきているパターンだ。
とまりそれはどういうことかと言うと。
「リョーチンめ……、パワーアップしてンなぁ?」
この質のダンジョンを無意識で支配する魔力となると……、だいぶ強大なものになる。
魔力自体も強力になっているが、リョーチン自体も、魔力の使い方が分かってきているのだろう。
「まったく……、ただでさえチートなチカラ持ってンだから、これ以上成長しないでよネ~」
まぁそれは、こちら側の問題なんだけど。
いや、行く行くは人間界側にも影響はあるのかな? ……まぁいい。鎮静化を続けるとしまショ。
「――――鎮まる、鎮まる、」
原因となる、この階層を変貌させている魔力源へとたどり着く。
うん……、捕まえた。こいつだ。
「消失する、消失する――――」
毒針を抜いていくように、精密な魔力コントロールをもって、鎮静化を進める。
よし、これでもう一息――――ッ!? こ、これは……!?
ブン、と、一瞬だけアタシの魔力に異物が入る。
黒い魔力の源。それを完全に抜き去ることに成功する……と、思った直後だった。
アタシの魔力が一瞬だけゼロになり、全ての状態がリセットされる。
つまり――――気配遮断の魔法が解けた。
ただそれも一瞬のことだ。しかもここは目立たない路地の中。周囲に魔物がいないことは確認済みだし、それでなくとも、もう鎮静化の作業は終わる。
黒化した部位を元に戻すのが超精密作業なので、すぐには魔法を再使用することはできないケド……、このペースならものの一分足らずで終わるだろう。
気配遮断どころか、魔力による障壁すらも張れていない状態だが……、モンスターがいなけりゃあ平気平気……。
「ひぁぁん!?」
ぬと。
と、した、とてもぬちゃぬちゃとした感触が、背中に。
「あぶな……ッ! ミスるとこだった……!」
イメージとしては、ピンセットで針を抜く感覚に近い。そしてそれがちょっとでもズレたらアウト。下手したら魔力が暴走して、よりひどい状態になってしまう恐れもある。そうなったらほぼお手上げ状態だ。
「そんな繊細な作業をしてるってときに……ッ! ……ひゃふぅっ!」
再び背中に感触。
こ、このカンジは……。
アタシはおそるおそる、壁際を確認する。
黒化した壁にへばりつく、軟体生物。
普通は水辺にしか生息しないのに、魔力で変貌した環境のせいか、こんなところにいやがった。
「クラーケン……! ウソでしょぉ……!?」
禍々しい体から、とても長い触手をこちらへと伸ばすその生物は。
アタシの背筋を凍らせるには十分だった。
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