18.神が人を知った日
ルミエラのおっぱいを揉み損ねた日(誤解は無い)から一夜明けた次の日。
俺はサリエナさんに、女神ではなくなった件について話を聞くことにした。
「えぇ、私はもう神ではありませんよ?」
「あっさり!」
そんな風に、とても簡素に。
彼女は答える。
「はぁ……、わざわざ屋上にまで呼び出して、更には人払いの魔法まで使って何事かと思えば、そんなことですかリョー君。私はてっきり告白でもされるのかと思いましたよ」
メガネを上げつつ彼女は言う。
「心配せずとも大丈夫です。……ルミエラとは一応、きちんと話し合いましたから」
「はぁ……」
本当に大丈夫かと心配そうな顔をしていたからか、それを見たサリエナさんはふっと微笑した。
「ルミエラとは……、だいぶ長い付き合いになってしまいましたからね。悲しんでくれることもあるのでしょうけれど……、きっと大丈夫です。時間が解決してくれるでしょう」
「……そんなもんなんすか?」
「えぇ……。そんなものですよ、きっと」
サリエナさんは一瞬目を細めて空を見て……、また同じようなテンションに戻り言った。
「ミストリカ学園の学園長・エルネルちゃんは、私が昔助けてあげたことがあった子です」
「ルミエラさんもそう言ってましたね……」
「かわいい子でしたよ。今もですけれど」
俺が挨拶したエルネルさんは、美魔女といった感じの人だったが。
人に歴史ありって感じなのかも。まぁ当たり前か。
そんな風に、自分の若返った体を見て思った。
「やっぱり……、前に助けてあげたときも、こういうトラブルだったんですか?
もしくはモンスターに襲われていたのを助けたとか」
俺が聞くと、彼女はちょっとだけ懐かしそうに微笑む。
今日のサリエナさんは、静かだけれどよく笑うなぁと、ふと思った。
もしかしたら本人も、無意識に思うところがあるのかもしれない。
彼女は口を開き、俺の疑問に答える。
「……結果的に、助けられたのは私の方だったんです。
村がモンスターに襲撃されていて、天界から地上へと出撃許可がおりたときには、ほとんどの人間は残っていませんでした」
もう五十年以上も前になりますねと静かに語る彼女。
もしかすると自分のせいかもと、一瞬だけ考えてしまった。……俺のせいじゃなくて良かった。いや、良くは無いんだけどさ。
「リョー君は極力、人は殺さないように命令していたのでしょう? 村は襲っても若い女だけ連れ去るのがメインでしたし」
心を見透かしたかのようにサリエナさんは言葉を刺してくる。
まぁ確かに……。反撃されても極力殺すなと部下には言っておいたしな……。ほら、後味悪いし。
けどそれは、一部の――――いや、今はいいか。
「続けますね。
そして私が駆け付けたときには――――」
彼女の話を要約すると。
駆け付けたときには、ほとんど人間は死に絶えていた。
その村だけではなく、周囲の村や町も滅んでいたのだそうだ。
魔物による災害と言っても過言ではない。
まぁ、そうやって『災害』認定されたからこそ、女神たちが動けたというのもあるのだとか。
そしてそこで出会ったのが、学園長であるエルネルさん。当時まだ五歳とかだったそうだ。……ってことは、あの外見で五十五歳くらいなのか。すげえ美貌だ。
とにかく。
そうしてサリエナさんは、彼女を含む災害孤児となってしまった少女たちを救い出した。
「こんなことは、珍しくは無かったのです。
今もなお、冒険者のいない地域は存在していますしね」
「そうっすねぇ……。ユーガシュ地方の山奥なんかは、そもそもそういう文化すらも届いてないって聞いてますし」
世界にはまだまだ未開の地があって。
そういう土地や場所から発生・拡大するイレギュラーやトラブルも少なくないと聞く。
「……私は彼女を救い、時間魔法を使おうかと思いました。
当時、最高神の一人であった私であれば。彼女の記憶を、物心つくもっと前まで戻し……、記憶を無かったことにすることもできた」
「え、あなた最高神だったんですか!?」
「昔の話ですけれどね。というか、最高神はその時代の『便利さ』によってころころ変わるものです。ルミエラだって最高神だったこともあるんですよ?」
「そ、そんなもんなんすか……」
そして最高神の一人って表現もどうかと思うぜ。
複数人いるってことは、最高ではないじゃねえか。まあ良いけども。
「けれど彼女は言ったのです。弱々しい姿のまま、衰弱しきった呼吸で、……強い瞳で言いました。
これは、背負って生きていくものだから、と」
「――――は、」
五、六歳の幼女だぞ。
なんだ、その意思の強さは。
そもそもそんな語彙力が、窮地の事態であるものなのか?
メアも大概バケモノだと思うが。
学園長も大概、メンタルお化けだ。
「気持ちの悪い女の子だと思いました。周りの子は泣きわめくことしたできないのに。はっきり言って異常です」
「……そうっすね」
もしかしたら、彼女も順当に育っていれば、メアみたいな『選ばれし者の中の選ばれし者』のレベルで育っていたのだろうか。
そんな器の人間だったのだろうか。
「けれど私は……、そのとき救われた気にもなりました。理由はよくわかりませんが……、まぁ、幼女の瞳に弱かったということで」
いつものように茶化し(口調は平坦だけれども)、誤魔化すサリエナさん。
けれど俺はちょっとだけ分かる気がした。
きっと彼女は、人々を救いに行けないことを歯がゆく感じていたんだと思う。けれど、自分自身の感情に、気づけなかった。
女神として存在し続けた彼女には、どうしても。
強さの中に弱さがあって、その逆もある。
自分が時を戻さなくても、世話をしなくても、人は勝手に強くなってくれる。
そんな重圧から、重荷から、きっとその一言で解放されたのだ。
優しいから、
気づかなかった。気づけなかった。蓋をしていた、感情。
そんな恩義を感じた女の子に頼まれちゃあ――――女神が廃るってものだろう。
「さすがっすね、サリエナさん。
めっちゃ、……かっこいいっすよ」
「フッ……、そうでしょう? まぁ私は、カッコイイ女神でしたからね。もっと褒めてくださって結構ですよ?」
「よっ! 世界一の女神だった人・サリエナ!」
「ふふ、褒めてもおしっこくらいしか出ませんよ?」
「嬉ションじゃねえか!」
「外で出すときって、どうしてあんなに開放的なんでしょうね? こう……、心の奥底が、ちょっとずつ熱くなっていくような、興奮するような」
「性癖ですね! 間違いなく性癖としか!」
こうして。
人間となった彼女は、人間として生きる。
寿命があれば老いもする。致命傷を受ければ死に、希望を糧に生きていく、人間という生物に。
「……ちなみに、俺と別行動してた理由って?」
「えぇ。今は神ではありませんので、単純に眠くて。リョー君になら、大雑把な部分なら投げといてもいいかなって」
「神としての重圧から、解き放たれすぎでしょ!? 自由すぎる!」
「それが人間でしょう?」
「いや仕事はしてくださいよ! アンタも次回から、一緒に来てもらいますからねッ!」
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