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17.ある夜の話



 いつも通りの深夜。ダンジョン探索の時間である。

 ルミエラがこちらに来たからか、メア・シャルエール組との定期連絡はそろそろお休みとのことらしい。

 もしかしたらそれは、少なくともどちらかの案件が終わりへと近づいていることを意味しているのかもしれない。


 向こうは向こうで、どうやらシャルエールも強くなったみたいだし。

 こっちも順調にいってくれりゃあいいんだけどなぁ。

 そんな風なことを考えながらいつものダンジョンに続くゲートへと向かうと、そこにはルミエラが優雅に立っていた。


「やっほー、リョーチン。ありゃ、今晩はあの子は一緒じゃないの?」


 長い髪をなびかせる褐色長身美女。

 月夜に照らされる彼女は、立ってるだけで色気が漂っている。


「おうルミエラ。ラチカは、昼間のダメージ(?)が残ってるかもしれないからな。大事をとって休ませた」

「そっかそっかー、残念~。アタシも自己紹介したかったのにな~」

「ふうん……? ルミエラは生徒とか先生になったりして、潜入したりはしないんだな?」


 生徒になれば、日中でも紹介できると思ったのだけれども。


「無理無理。アタシが大人しくできるワケないじゃん~。

 それに人間側に干渉するときは、女神パワーは最小限になるもんだしねー。今みたいに、ちょっとだけ会話するくらいがギリギリかなー」

「ふうん……? そうなのか」


 色々と複雑で大変そうだなと考えたところで、ふと疑問が湧いてくる。


「あれ……? でもサリエナさんは、けっこうこの学園に関与してないか? 普通に生徒として潜入してるけど……」

「あぁ、なんだ。アイツ話してなかったんだ」


 ルミエラはやや神妙そうに腕組みをした。……けれどその空気も一瞬。

 軽い口調のまま、言葉を発する。



「だってアイツこの間――――、

 女神やめて、ただの人間になっちゃったし」



 だから今は、制限も何もないよ。

 と、

 そう、ルミエラは言った。


「は――――」


 ん? サリエナさんが神じゃなくなった? ……いや、なくなっていた(・・)って?


「……厳密に言えば、前回クリスタルの洞窟内から、リョーチンたちを逃がすために干渉(・・)したジャン? あれが引き金と言えば引き金かな~。しばらくは、誤魔化せてたんだけどネ」


 クリスタルの洞窟……。

 確かメアを先に外に向かわせて……、俺とシャルエールだけで来た道を戻ったんだったか。

 そしてピンチになったとき。通信をしていたと思ったら、突如俺の股間あたりから、まるでギャグみたいに出現して、出口までの道のりの間――――


「……手伝って(・・・・)、くれたんだったっけ」

「そ」


 腕を組んだまま、ルミエラは静かに返事をして続けた。


「あの時人間に干渉して……、リョーチンたちがあの土地を出た後くらいまでは、何とか他の神たちも誤魔化せてたんだけどサ~。でも、流石に無理過ぎたわ。戦闘するのはやりすぎだって」

「そんな……」

「責任は感じないで、リョーチン。全部サリエナが決めたことだから」


 口調はやや元気が無かったが、それでも明るく彼女は言う。


「……元々、サリエナは女神に向いてないんだよ。

 あいつは優しすぎるし、人っぽすぎる。ほら、愉快なやつじゃん? 普段はクールぶってるけど」

「まぁそうだな……。変なボケかますやつだしな……」

「人間、大好きなんだよねぇ……。

 ま、そんなサリエナだから、アタシも好きなんだけどさ!」


 ルミエラは大人の顔つきのまま、まるで少女のように表情で笑う。

 本当に本心から言っているんだろうなと、分かった。


「ぶっちゃけサリエナはめちゃくちゃ良い女だよリョーチン。抱いてみればわかるよ、うん」

「だ、抱いてって……。それじゃあまるで、ルミエラはサリエナを抱いたことがあるみたいじゃない、か……?」

「え、そこ聞いちゃうリョーチン?」


「えっ」

「えっ」


 ……ちょっとした沈黙が流れる。

 瞳と瞳が離れない。

 気まずくなって、俺から目を逸らしちゃったよね……。


「ま、……まぁ置いておこうかリョーチン」

「おう、人、それぞれだ。その、ハーレムとか唱えてる危険思想な人物もいるしなぁ!」

「へ、へぇ……。ソイツハタイヘンだぁー……」

「うん……」


 というか、薄々気づいていたけどな!

 サリエナさんはそもそも両方いけるっぽいし。ルミエラもルミエラで……、時々女性に対しても……。いや、変なことを考えるなかれ!


 気を取り直して。


「元々サリエナはさぁ、神の器から出たいって言ってたんだよねー……。強い力を持ってはいるけれど、自由が無さすぎる。

 ある意味ではルーリーと同じなのかもね~。人間とか、他種族に対して興味津々すぎたの」

「……ああ見えて好奇心旺盛な人なんだな」


 言葉を発しながら、俺は『人(神)』とは、もう頭の中で思い浮かべなかった。

 注釈するまでもなく、彼女はすでに人なのだから。


「この学園の学園長はね~。昔アイツが助けてあげた幼女なんだよネ。それが大人になって、偉くなって、サ」

「そうなのか……」

「そうなのよ。んで、この学園にダンジョンが現れてから、毎日のように女神に祈りを捧げてたんだよ彼女。……そしたらサリエナのやつ、もう一度応えてあげちゃった」

「女神信仰……ってわけでもないんだな。

 あくまでも、『あの時助けてくれた女神』に、もう一度祈りをささげた……と」

「そゆこと」


 言ってルミエラは、「ん~」と伸びをして立ち上がる。

 闇夜を静かに見上げて、彼女は続けた。


「まぁ前々から相談されていたコトとはいえ、やっぱ突然すぎるよね~。アハハ……」


 そう口にしたルミエラの顔は。

 笑っているのに、どこか悲しそうで。

 片翼をもがれた鳥みたいに、俺の目には映った。


「……原因が俺たちではないっていうのは分かった。けど、それでも、気にするよ」


 つぶやいて、俺はルミエラへと顔を上げる。



「女神かどうかは、ぶっちゃけ関係ない。

 あの人は俺やメアに良くしてくれた――――仲間だからな」



 仲間のことは、気に掛けるさ。

 それは魔王時代からもそうだったし。



「へっへっへ……。リョーチン、ありがとネ。……だから好きだよ」



 そう言って、顔をずいっと寄せてくる、ルミエラ。

 俺の両肩に、彼女の両手が置かれている。


 月の光で丁度逆光になっていて、表情が読めない。

 何でゆっくりと顔が近づいてくるのだろう。

 吐息が近くでめっちゃいいにおいがして頬が柔らかそうで――――


「ル……ッ、ルミエラ……ッ! 俺……、」

「ん? 何~?」


 ぱっと手を離したと思えば、神妙なテンションから元に戻っていた。

 な……、何なんだよいったい……!


「なにリョーチン、キスでもされると思った~? やだやだ、これだから童貞は。話を聞いてもらっただけで、トキメクわけないジャン~?」

「うぐっ……! そ、そんなこと、思って、ないやい!」

「ホントかな~?」


 くそう……! スーパーモデルみたいな長身だから、絵面がめっちゃオネショタみたいになってるじゃないか! しかもからかわれてあしらわれる系。

 ……意外とスカされたとき、ダメージあんなコレ。


「まぁ……、その言葉は嬉しかったけどネ~」

「うん? ……どの言葉?」


 俺がきょとんとして質問すると、ルミエラも同じようにリアクションが止まり……、ぷっと噴出した。


「アッハッハ、マジウケるわリョーチン。

 それじゃあ……、それ当てたらおっぱい触らせてアゲる」

「ま、マジでか……!?

 うおぉぉぉっ! 思い出せ俺……! 今が人生の大一番だ! 推定Gカップはあるであろうおっぱいを揉める機会なんざ、この先そうそうないぞ……!」

「残念、もうワンカップ上」

「マジかよッッッ! うおお、俺の脳みそ頑張れええええッ!

 ルミエラなら、こういう賭け事でマジで触っても、許してくれそうなんだぞ! 頑張れッ!」

「うんうん、リョーチンがアタシのことどんな目で見てるか、なんとなーくわかったよ。けどそんな正直なリョーチンも、嫌いじゃないよ」


 脳を必死で回転させる俺に、もうルミエラの言葉は聞こえていなかった。

 ……まぁ結局、考えに考え抜いたんだけど、わかんなかったよね。

 つーか自分の発言なんて、いちいち細かく覚えてないわ! ほとんど本能的に話してるだけだからな。


 そう伝えた後のルミエラは、よりいっそうにこにこ(ニヤニヤ?)してたので、……まぁ、良しとしよう。





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