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12.レッツダンジョン無双・裏(かわいそうなラチカ)



 超速で駆ける。

 自身の体を一つの砲弾としたような速度に、眼球運動が追い付いてこない。――――が、まぁ、問題はないだろう。

 移動に使った魔力の残滓(・・)で、追い抜いた魔物らはとうに細切れている。


 このままストップ・アンド・ゴーを繰り返しているだけでも、このフロアにはびこる様々な魔物は破壊しつくせるだろう。が、もうちょっとだけ試してみたいこともある。


「付き合ってもらうぞ……!」


 言って俺は、両手に魔力の塊を走らせる。

 雷のように両腕を纏ったソレは、行き場をなくし、周囲へと放出されていく。


「メアがやってたように……、できる、ハズ、なんだよなっ……!」


 あふれる魔力をどうにか体内へと抑え込む。

 放出するための魔力を使った、自己強化。

 雷の属性を身にまとうことで――――、肉弾戦もできるようになるのではないかと考えたのだ。


「慣れればいけそうだけど……、うーん、今はまだダメっぽいな」


 雷の魔法を解き、とりあえず目の前の巨大コカトリスへと放つ。

 電撃が走ると同時、その身は焼ききれ、消し炭となった。


「こんな時間か……。セーブポイントでも作って、今日は終了かもなぁ」


 セーブポイントとは俗称だ。俺が勝手にそう呼んでいるだけ。

 自身の魔力の残り香をここにため込み、そこをアンカーとして次回の時に一気にワープする魔法。もちろん出口にも使える。

 自然に作られた洞窟と違い、魔法要素の大きいダンジョンではこういうことができるのがありがたい。


「今の階層は、四十階か……。なんとなくだけど、まだ底がありそうな気がするな……」


 ただの勘だけどな。

 こういうのは、もっと最悪の事態を想定していたほうが、後々ショックの度合いが少なくて済むし。


「さすがに千階層とかあったら、ちょっとカンベンだけども」


 つぶやいて。

 俺は、ちらっと後ろのほうを見やる。



 ……これは。

 誰かいる(・・・・)



 やべえな。

 仮に学園内にいる誰かにつけられているとして――――このダンジョンのことを明るみに出されでもしたら、かなりマズい。

 そもそもこの学園にダンジョンが発生しているということ自体が、秘密事項なのだから。


「……そして、セーブポイント(この場所)から俺が帰ったとしたら、ポイントは閉じてしまう。

 つまり追手は、ここに閉じ込められちまうわけだよな」


 ぼそりと考えを口にする。

 うーん……、それはまずい。


 俺に手を出して来ないということは、敵意があるかどうかはさておき、俺よりも実力が低いとみていいだろう。

 予想されるのは、この学園の生徒だろう。可能性が非常に高い。もしくは教員とか。何にせよ関係者だ。

 ……ってことは、閉じ込めることはできないよなぁ。

 最悪の場合、行方不明者が出たとして、騒ぎがでかくなっちまいそうだ。


 そこまで考えたときだった。



「ふぅ……、危ないですね。どうにか事なきを得ました」

「むぐむぐッ……! むぐッ!」



 背後からよく知る声が一つ。……もう一つは、何か、口塞がれてる?

 恐る恐る振り返ってみると。

 そこには少しだけ着崩れたサリエナさんと、光魔法でぐるぐる巻きにされているラチカが横たわっていた。


「えっ! 何があったッ!??」


 ツッコミどころが多すぎる!

 いつもは首元までしっかりと襟を止めているようなサリエナさんは、今は第二ボタンくらいまで外れているし、ラチカは苦しそうにしているものの、語尾にハートマークがついてそうな、……ギリギリの吐息だ。


「こんなこともあろうかと、別行動と称してあなたの後をつけていてよかったです」

「そ……、そんなこと考えてたんですね……」

「えぇ。リョー君は強いですが、索敵なんかへの意識はまだ薄いですからね。そのあたりが、アールメイアとの違いです」


 確かに。メアはああ見えても、結構繊細にレーダーを張っている。おかげで何度も敵の強襲に備えることができたっけ……。


「まぁその……、俺の尻ぬぐいを陰ながら行ってくれたのは分かりました。ありがとうございます。

 ……で、ソレ、どうしたんです?」


 冷や汗と共に俺はラチカを指さす。


「あぁ、色々とあったのですよ。えぇ。

 詳細は割愛させていただきますが、色々あって彼女は現在ノーパンノーブラです。謎の光(魔法)により絶対的に隠しておりますが」

「絶対割愛しちゃダメなパートっぽいですよねえソレ!?」

「プライバシーの問題ですよ。

 異性に知られるのは恥ずかしいと思いましたので」

「異性に知られて恥ずかしいと思われることをするなよ!」


 何をして、ナニをされたのかは言及すまい。

 大体察してはいたけれどもラチカ……、まさかとは思うが、毎回こんな目に遭う星の元に生まれてるんじゃないだろうな……。そうだとしたら守ってやれんぞ。このフロアには触手的な生物もいるかもしれないんだから。


「ぷはぁっ!

 はぁ……、はぁ……っ! お姉……、さ、まぁぁ~……」


 縄から解かれたラチカが、甘い吐息と共にサリエナさんの足にすり寄る。


「おっといけない。調教が甘かったですね」

「調教って言っちゃった!」


 それを一瞥した彼女は、美しい人差し指をすっと立て……、かがんで、まるで犬に餌をやるかのように彼女の口内へと突っ込んだ。

 それをラチカは幸せそうに舐めていた。


「はぁッ……、はぁッ……! お、お姉さま、の! 指! 人差し指ッ……!」

「ホントに何があったんだああああ!!!?」

「そうです……。歯は立てないように。

 そろそろ上あごをこすりますから、大人しくしているのですよ……?」

「こっから先は十八禁だろおおおおッ!!?」


 つーかサリエナさん。

 ぼんやり分かってはいましたけれど、やっぱりアンタ()男女両方イケる口なんですね。







 まぁその。

 その、なんだ。

 いろいろあったよ、うん。

 現在地上に戻ってきました。

 いつもよりもちょっと遅くなってしまったためか、空は若干白み始めている。

 これは……、普段より睡眠は短めになりそうだな。


「何だか……、どっと疲れた気がする……」

「学業の後にダンジョンへ潜る生活も、もう二週間くらい経ちますからね。

 疲れも出てくる頃でしょう」

「いや……、俺が疲れたのはそれが原因じゃないっす……」


 げんなりしつつ、俺はすっかり元の状態に戻ったラチカを見た。

 学園のベンチに座り、優雅に頬杖をついていやがる。すっかりいつも教室で見ている感じに戻っていた。


「何よ?」

「お前……、大丈夫なの? その、色々……」

「別に。それにコレはお姉さまと私の問題だから、アンタにとやかく言われる筋合いは無いわ」

「お前が良いならそれで良いけどさ……」


 地上へ戻って来てから話をまとめると。

 どうやらサリエナさんは、ラチカの記憶を奪うのではなく、協力者として動いてもらいたいと考えていたらしい。


「つまり、俺たちのことは話したってことですか?」

「これからの学園生活で必要なことだけですよ。

 アールメイアやあなたの過去、ルミエラやシャルエールのことなんかは、情報が多すぎるので話していません」


 意味もないですしねと軽く続ける彼女。

 なるほど……。俺たちが秘密裏に任務をこなしているという事実だけを、ぼんやり伝えたってことか。


「彼女の才能を鑑みるに、こちら側に引き入れ、レベルアップしてもらったほうが好都合だと考えました。

 幸いにも、秘密をバラすような人間でもなさそうですしね」

「まぁそうっすね。……裏の顔があるっていう秘密を、俺も握ってますし」


 ちらっと二人でラチカを見る。

 お姉さまに褒められてる! と嬉しそうにはしゃぐ彼女。……まぁそうね。そもそも今の状態は、サリエナさんに絶対服従っぽい感じだし。あれが演技でないのであれば、裏切るようなことはなさそうか……。


「彼女の目的も、どうやら冒険者のようですしね。でしたら、実戦経験を積ませるというのもアリでしょう」

「つまり、俺のダンジョン攻略任務に同行させるってことですか……?」

「えぇ。まぁ体力的にきついでしょうから、三日に一度くらいのペースで」

「なるほど」


 しかしこれで。クラス内でもそこそこ地位を確立したヤツが、協力者になってくれたわけだ。

 これでより一層、俺もサリエナさんも動きやすくなってくるだろう。


「私が助けられるのは、この一度きりだけです。さすがにこれ以降は、私も違う調査のほうに移らせていただきますので」

「ええ~! そうなんですかお姉さまぁ!」

「しっかりとリョー君の元で勉強するのですよ、ラチカ。……強くなったら、また可愛がってあげますので」


 言ってサリエナさんは、人差し指と中指を意味ありげに動かした。

 それを見てラチカは「はうっ……」という息を漏らし股座を抑える。……本当に、ナニしてんだよアンタ!


「それでは、今日はこれにて解散です。

 リョー君、ラチカ。明日からまた、日常を頑張ってくださいね」



 こうして。

 ラチカ・トルヴィヤが仲間になった。


 ……俺の仲間になったっていうよりは、サリエナさんの仲間を一時的に預かってるみたいな感じだけどな!






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