13.昼休み事変
編入してから二週間あまりが経過した。
俺が学園で過ごした結果をまとめますと――――、
どうやら俺は、特殊な感じに一目置かれているらしかった。
その特殊な感じの内訳っていうのが……。
圧倒的に好成績・高成績を納めているわけでもない。
が、どうやら時々爆発的に出力される魔力数値は高いみたい。
とてつもない才能を秘めているみたいだけど……、何分詳細が分からない。
突然編入してきた、田舎上がりのアンノウンな魔法使い。
それが、リョウスケ・セキウチの周囲からの評価だ。
「まぁだからってわけじゃあないケド、あんたのこと気になってる女子もいるっぽいわよ」
「え、マジか! 俺、モテ期到来!?」
「外見的にはアレだけどねー。ほら、男は見た目だけじゃないし。
あとところどころキモいかったり、女子の胸とか足とかチラチラ見てたりもするところとかマジで無理だけど、……まぁ、強いってのはステータスだしねぇ」
「キモいとかマジ無理とか言うなや!」
「だってホントのことだし」
そんな風に俺はラチカから、周囲からの評価を聞いた。
現在校舎裏のベンチにて、二人揃ってランチ中である。
コイツ……、本性を隠さなくて良いからって、教室と態度が違いすぎるだろう。
「まぁぼんやり女子の噂になっていたのは知っていたが……、そういう理由だったんだな」
デキる男扱いということか。
ふふん、……なかなか悪くないじゃないか、ソレ。
「チョーシ乗らないでよね。というかアンタ、お姉さまにはあんまり目立つなって言われてるんでしょ? 今みたいな中途半端な悪目立ちって、大丈夫なの?」
「うっ……、それは確かに。
でもまぁ、どうにかなるだろう。これくらいなら」
それにヤバそうならラチカがフォローしてくれるだろうからな。言ったら怒りそうだから、口にはしないでおくけども。
「……それにしてもアンタ、魔力の質もそうだけど、実戦経験が凄いわよね。全力を出さない状態で、よくもまぁ小器用にこなしてると思うわよ」
「ん? あぁそうか……。ラチカは俺の全力を、ダンジョンで見ちゃってるからなぁ。
確かにアレ見ちゃうと、チカラをセーブしてる状態の俺には違和感をおぼえるよなぁ」
今日の午前中に行われた実戦練習もそうだ。
想定はゴブリン十体に対して、チーム三人一組。戦士として戦うべき前衛職が死んでしまい、魔法使い職のみでどう窮地を脱するかという訓練だった。
「本来なら、アンタ一人で魔法ぶっ放せば終わりでしょ? けどアンタは、そうしなかった」
「そりゃそうだ。……その、強いことがバレれば、今以上に目立っちゃうからな」
それこそ死活問題だ。
本来ならばとっくに冒険者レベルのチカラがあるとバレてしまえば、じゃあどうしてわざわざこの学園にいるのかという疑問が湧いてしまう。
俺は、そこまで強くあってはいけないのだ。
「結局アンタの班は、誰も最適解を見つけることができないまま終わった。パーティはあえなく全滅。……けれど、アンタは無意識だろうけど、随所で致命傷だけは避けていた」
「え、嘘!?」
「やっぱ無意識かぁ……。戦闘勘も働きすぎると、こういうときには厄介よね……」
ううむ……、できるだけ頑張ってダメージも受けたりしていたのだが。
そうか。本当に致命的な部分の一線だけは守っていたのか……。言われるまで気づかなかった。
「アンタは最低限どこを守れば無事なのか、きちんと分かっていた。……気持ち悪いほどに分かっていた」
「気持ち悪いとか言うな」
「茶化さないで。気持ち悪いが嫌なら、気味が悪いでもいいわよ」
そこまで言わなくてもいいだろうに。
……ただまぁ、そうかもな。
メアと一緒にいることで、どうにか生き延びる癖みたいなのは鍛えられたのかも。
油断して何回か死にかけたこともあったけどな……! 過去の俺、しっかりしろ!
「とにかく。……それは、とても歪で。
だからまぁ、才能だけがある感じに、周りからは見えちゃうのかもね」
歪かぁ……。
まぁ確かに。ラチカには全部話していないからな、俺の魔力が『後付け』のチート魔力だっていうことは。
俺は前の世界では、『弱い側』だった。
しかしこっちの世界に来るや否や、急に『強い側』になれる権利を与えられたようなものなのだ。
だからもう一度、『弱い』フリをする。それが今回の仕事の一つなわけで。
どういう状態が『弱い側』なのか。それは十分に理解している。それを再現しようとすれば良いだけだ。
……元から強い力を持って生まれてたら、たぶんメアみたいに振舞っていたと思うし。
あぁ……、だからたぶんアイツのこと、根っからは嫌いになれないんだろうなぁ。強い力を振るいたくなる気持ちが、理解しようと思えば理解できちゃうからか――――
「っと、いかんいかん、思考が逸れた」
強さとかの話だったな。
俺はラチカに向き合って、あらためて礼を言う。
「まぁ、もう少し気を付けるてみるわ。指摘ありがとうな、ラチカ」
「別に。お姉さまのためよ」
ソウデスカ。
……それはそうとお前、何があったんだよホント。
「なぁラチカ……、サリエナさんに何されたんだ?尋常じゃないぞ、その崇拝の仕方」
「なっ! ナニされたってアンタ……、い、言える訳ないでしょッ! 常識で考えなさいよ!」
「だから常識的に言えないようなことをしてんじゃねえよ! いや、お前に言っても仕方ないのかもしれないけどさ!」
ホント、あの人何やってんだ……。
「私はただ純粋に、お姉さまに『女性』のすばらしさを教えてもらっただけよ。……主に、指とかで。それ以外はその……、あ、でも、唇とかも、……うん、すごくはあったかな」
「知らんよ! いいよ詳細は語らなくて! オジサンが悪かったよゴメンな!」
「オジサン……?」
「あ、いや……。言葉のあやだ」
……サリエナさんがどこまで語って良いかを言っていないから分からんが、たぶん若返ってるとかの情報は伏せたほうが良いんだろうなぁ。
たぶん彼女も、女神とかいうことは話していないだろうし。
「プレイ内容は、じゃあ……、言わないで良いてことね?」
「そもそも『プレイ』を『した』ってことになるが……、あぁいや、もうこの話題は終了で良いわ」
俺の後をつけたのが、マジで運の尽きだったなラチカも。
人生観変えられちゃってんじゃねえかよ。……本人が幸せそうだから、別に良いけども。
そんな辱めを――――ん?
「あれ、ラチカさぁ……。お前、恥ずかしい?」
ふと、疑問がわいた。
「はぁ!? はっ、恥ずかしいに決まってるでしょ! そんなことを話すだなんてっ!」
「わ、分かった分かった。声が大きい。ちょいボリューム下げて」
人があんまり来ないような場所だとはいえ、さすがに声がでかすぎる。
ラチカもはっと気づき、意味はないがちょっと身を潜めた。
そしてやや小声気味に言う。
「――――恥ずかしいでしょ普通は」
「そうだよな……。
そう、だよなぁ……、恥ずかしいよなぁ」
これは……。
これは、とんでもないことだぞ!
「ラチカ、ちょっと実験しても良いか……?」
「え、何……?」
俺は真面目な顔をして、改めてラチカの顔を見る。
彼女も何かを感じ取ってくれたのか、気持ちを改めてしっかりとこちらを見返してくれた。
「『●●●●●』って言ってみてくれ……!」
「いっ、言える訳ないでしょそんな単語ッ!」
赤面すると共に、グーが顔面に飛んできた。
見えてはいたが、感激のあまり甘んじて俺は受ける。
鼻血がぼたりと地面に垂れると同時、俺は感激で声を出していた!
「そうだよなぁ! 言えないよなァ普通!」
「は……、はぁ……ッ!?」
「そうだよ、普通は『●●●●●』なんて、恥ずかしくて言えないんだよッ! そうだ、お前が正しい! 正しいんだッ!!」
「ちょ、声が、……声が大き、」
「『●●●●●』なんて普通は言えない! 女子は恥じらって言えないんだ! それがノーマル! それこそが正常! なんて素晴らしいんだラチカ! いや、『ノー●●●●●・ラチカ』ッ!」
鼻血をだばだばと垂れ流しつつも、俺は感動のあまり両手を上げていた。
どうだ! この恥じらい! 恥ずかしいという感情ッ!
「俺の周りにこんな女はいなかった!
みんな『〇〇〇』だ、『●●●●●』だと、恥じらいもせず口にする! いや、口にするっていうのはそういう意味じゃなくて、言葉に出すって意味ね!」
「口にって……、~~~~~~ッ!!?」
「ありがとうラチカ! 素晴らしい恥じらいを、本当にありがとう! お前が『●●●●●』と言わないだけで、今日、俺という存在は救われたッ!」
「……るさい」
彼女の肩をがしっと掴み礼を言う俺に対し、ぷるぷるとラチカが震えていた。
うん? どうかしたのだろうか。
彼女も俺と同じように、感激に打ち震えているのだろうか。恥じらいという部分を褒められたことに対して。
「うるさいって言ったのはアンタでしょうがッ! 大声で『●●●●●』『●●●●●』やかましいのよッッ!!」
本日二発目のグー。
油断していたとは言え、今度は目で追えなかった。それに威力も十倍くらい違っていた。
もしかしたら今この瞬間、彼女は自身の限界を超えたのかもしれない。
「めっちゃ人が集まってきちゃたでしょッ!
わ、私はコイツとは、一切関係ないからッ! そ、それじゃっ!」
見ると、遠巻きに生徒がこちらを見ていた。
……あぁ、そりゃあ大声でそんな単語連呼してたら、そうなりますよネ。
そうして俺の噂は、『クラスの中心人物にヤバい単語を言わせた人物』として、ちょっとだけ広まってしまった。
噂になるのも、俺がヤバい単語を言ったということではなく、ラチカに言わせたというところが広がっているあたり、ラチカの人気の高さが伺える。
……うん、ダンジョンに潜るさいは、背後からの刃に気を付けよう。
そんなことがあった、昼休みであった。
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