11.ラチカ・トルヴィヤ
唐突だが、私、ラチカ・トルヴィヤは優秀な魔法使いだ。
自他ともに、そう、評価されている。
ミストリカ学園へと魔法を習いにくることは、いわば既定路線だった。
優秀な家柄、優秀な習わし、優秀な私。
必然ともいえる、優秀な道程に身をゆだねる。
これからわたしはゆうしゅうになっていく。
けれどこわいから、まわりにほけんをかけるんだ。
私に最も才能が発露したのは、攻撃系や補助系ではなく『制約』系の魔法だった。
概念に作用する魔法は使いこなせれば強力だが、前線へと赴く魔法使い――――例えば冒険者の職業に就いたときには適していない。
もっと即効性のある、攻撃的なものが好まれる。もしくは回復や蘇生とか。
制約――――相手に決まり事をかけ、行動を少しずつ封じていく、どちらかと言えば日常の中で相手を騙すような、そんな系統の魔法。
……まぁ、才能に恵まれないよりかはマシだけれど?
けれどその……、もうちょっとこう、性格良さそうな、ねぇ?
あるじゃない。
どうしても冒険者という職業に就きたかった私は、この学園を優秀な成績で卒業することに決めた。
そうすれば、どんなに冒険者向きでなくとも、旅に出ることができる。
どうやってゆうしゅうさをアピールしようか。
そのためには、だれからもじゃまされてはいけない。
ギアスや、概念に働きかける魔法を、最大限に駆使して学園生活を送る。
バレないよう、露見せぬよう、発覚しないよう。
少しずつ少しずつ、制約というギアスを撒いていく。
完璧だ。
完全だ。
私の計画は、少しずつだけど前へ進んでいる。
クラスの中心に位置し、全員からの好感度を高く保つ。
教員からの信頼も厚く、どんなときでも優秀さを保つ。
この日々に、ヒビは入れさせない。
あぁ、神様。
願わくばこのまま、順風満帆にいきますように。
悪いことをしているわけではないんです。
保険をかけているんです。
――――そう。だから、罰が当たったのかもしれない。
バ――――
バケモノじゃないのよぉぉぉっ!!!????
何アレ、何アレぇぇ!?
私が知ってる『魔法』じゃないんだけど!
そんな風に私は、情けなくもダンジョンの壁にもたれかかり、腰を抜かす。
強い強いとは思ってたけど……、規格外すぎるでしょあんなの!
「というか……、人間なのかしら。ヤバすぎない……?」
口をついてしまった疑問の声は、目の前で起こる魔法の爆発音にかき消される。
リョウスケ・セキウチ……。編入初日に、私を打ち負かした強者。
呪い返し、魔力反射、それとも術式解析・および改竄だろうか。ともかく……、そんなことができる人間が、冒険者として第一線で活躍する魔法使いの中にも何人いるだろうか。
「興味本位で、後をつけなきゃ良かった……」
深夜に校舎のほうへと向かう彼を発見したのが三日前。
次の日も続けて向かっていたので後をつけてみると、何やら光るゲートの中へと入っていったのを目撃したのが二日前。
ヤバいものを見てしまったのではないかと、悶々と考え込んだのが一日前。
そして。
ゲートの中まで後をつけ――――危険極まる光景を目撃してしまったのが、今である。
…………。
……。
私の、アホウ~~~~ッ!!
学習機能がついていないと言われても仕方がない。
つい先日、リョウスケに痛い目を見せられた(自爆)のを忘れたというのか。
けれどどうしても気になってしまった。
あんなにも強い力を操る彼の秘密に、もしかしたら迫れるかもしれないと、間違って思ってしまった。
本当に間違いだった。
学園にて。
リョウスケ・セキウチは、普通の優秀さを見せていた。
編入から二週間あまり。その期間において、彼が強いという事実を知っているのは私だけ(のはず)で。それもそのはず。彼は『目立ちたくない』という文言通り、とても強い魔力をひけらかす様な成績を収めていなかった。
魔力測定器でも、歴代で『やや優秀』程度。
魔法実習でも、『もう一歩で冒険者に届く』程度。
実戦演習でも、『もうちょっと応用が出来れば一級品』くらいの評価だ。
そんなものではないことは、私が身をもって分かっている。
私の魔法を見破れる……、それも本人の意図しないレベルで破れるほどの魔力量というのは、絶対におかしいのだ。
私は私が優秀であることは知っていて。
だからその優秀なモノよりも、遥か上を行く彼の秘密が知りたかった。
「…………、」
気づかれないよう、壁からこっそりと相手を見やる。
学校の感じとあまり変わらない、冴えない顔つきと雰囲気。
それは異常ともいえる。
そんな普遍的な、まるで一般人のような空気のまま、バケモノのようなチカラを振るっている。普通なら力みや凄み、下手をすると殺気などが垣間見えるものなのだが。
今私が彼の元に出ていき、「おはよう」の挨拶をかわせば日常通りに返事が飛んでくるような、そんな空気。
魔物を倒すという意思は、勿論ある。
身体を動かすという思惑も、あるだろう。
あの破壊行為ともいえるような戦闘状況は、確実に彼の意志で行われているハズなのだけれど……。
「そこに、人間性みたいなものを感じないのは……、どうして?」
恐怖の存在だ。
畏怖の対象だ。
それなのに、そのアンバランスさが。
気持ちの悪い不自然さから、目を離せない。
神経を。
より一層、隠匿魔法へと注力させる。
概念ごと、自身の存在を『無』に。
周囲への強制契約だ。ラチカ・トルヴィヤを、『無視』、『無視』。
今日ほど自分の魔法が、こういう陰湿なことに優れていて良かったと思ったことはない。
奇跡的に、私が彼を追っていることはバレていない。
あそこまで破壊力の高い魔法を操っているというのに、周囲の感知魔法などは使用していないのだろうか。理由は分からないけれど。――――幸い、まだ、私は彼を追える。
この好奇心の正体が、いったい何なのかが分かるまで。
そして、彼から少しでも『強さ』を学ぶため。
私はリョウスケという男を、追い続けることに決めた。
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