9.潜入任務
そろそろ深夜零時を回ったころだろうか。
俺は誰もいない、校舎の裏手にやってきていた。
「さてと――――今日も、潜るとするか」
学園中に満ちている魔力を収束させ、【鍵】を開ける。
眼前にほの明るい光が現れ、人ひとりが入れるほどのゲートへと変化。そこへと足を踏み入れ――――、俺はいつものようにこの学園の『地下迷宮』へと潜っていく。
「まさか潜入って……、ダンジョンと学園のダブルミーニングだったとはなぁ……」
この二週間ほど。
昼は学生。夜はダンジョン攻略と、二足の草鞋を履く生活を送っている。
「まぁサリエナさんの協力もあってか、睡眠は三時間くらいでも十分な体になってるからな。
本当に便利なことだ」
彼女の操る魔法は、『時間』全般らしく。
現在は俺の体内時間なんかに作用して、睡眠時間が少なくても済むようになっている。素晴らしきかな魔法。
「そのお陰で……、昼間に授業で習った魔法のことを実践で試せるんだから、便利なもんだよな」
今日習ったのは……、魔力の放出理論だったか。
手先から発射され、ダンジョン内のモンスターに当たっていく魔力弾を眺めながら、俺は頭の中で復習を行う。
うむうむ、良い感じだ。少しずつではあるが、俺も自身の中の魔力を、丁寧に扱えて来ている気がする。
「おっといけねえ。任務遂行のほうが優先だ。
確認もいいけど、先へ進まねえとな」
ある程度のモンスターを無視しつつ、俺は歩みを進める。
現在、ダンジョンは三十階。
最下層が何階なのかも分かっていないダンジョンの攻略という、途方もない作業が今夜も始まる。
およそ二十日ほど前――――なので、学園に潜入するさらに前か。
行きがけの道すがら。俺はサリエナさんから、任務の説明を受けていた。
明るめな魔法で彩られたダンジョンを進みつつ、のんきにあのときの会話を思い出す。
互いに姿は若返る前である。何だか懐かしくも思えてくる。
「……学園の、地下ダンジョンですか?」
「えぇ。そこへと潜っていただきます」
メアたちと一旦別れた後。
サリエナさんは俺に、そんな風にざっくりと説明してくれた。
「学園の地下にダンジョンが発生してしまったので、それをどうにかしてほしい、と。それが学園長からの依頼です」
「はぁ……」
その学園長が何で神であるサリエナさんと関りがあるのかとかが気にはなったが、それよりももっと気になるワードが。
「ダンジョンが……、『発生』?」
「えぇ。
……もしかして魔王をやっていたのにも関わらず、知らないのですか? 発生ダンジョンのことを」
「あー……、まぁ。
本格的に魔王になってからは、世俗とは関わってませんでしたし」
そもそも外に出てなかったからなぁ。無駄に広い城の中をうろうろはしていたけれども。
「はぁ……。これだから温室育ちのクソ魔王は」
「いや、言うほど温室育ちでもないですよ! 俺の境遇知ってるでしょ!?」
「ギャギャギャ」
「何でメアみたいに笑うんですか!」
「そろそろこの音が恋しいと思いまして。……あんまりやりすぎると喉を傷めますねこの笑い方は。勇者はよく無事でいられますね」
「あいつのは、魔力の発生源が主に喉からだから、その塊が引っかかってあんな笑い方に……、って、そういう話は今は良くてですね」
ダンジョン発生の話である。
「……ダンジョンって、生物みたいに湧き出るもんなんですか? そりゃあ、普通の洞窟との違いくらいは把握していますけど」
例えば。
伝説の剣の『祠』とクリスタルの『洞窟』は、違う。
前者はダンジョン。
伝説の剣を取得するにふさわしいかどうかを図るため、神官さんたちが作成した……、分かりやすく言うと、人工的な洞窟だ。
だから祠内にも、様々な仕掛けが施せる。
魔物が無限に湧き出るとか、概念的に破壊されないような空間とか、色々だ。
後者は洞窟。
人工的なものではなく、自然のままの場所だ。
ただこの間のクリスタルの洞窟の例でいえば……、洞窟内にあったクリスタルの盾の魔力により、あの洞窟内の様々なものに変な影響が出ていた。
だからそれを回収し、通常通りの自然な『洞窟』へと戻したというところだ。
「ダンジョンを『作る』のは分かります。
かくいう俺も、魔王時代にはそれっぽいものを生み出したこともありますし……」
自分でもお粗末な出来だったと思うけどな!
部下も気を使って、「逆に前衛的ですよ」とか「逆に単純なほうがまどわせますよね」とか「逆に……、あの、とにかく大丈夫だと思います」とかいうコメントを残していた。
良いよ気を使わなくて!
「けど……、自然発生するっていうのは知らなかったっすねぇ」
「自然発生もするんですよ。……主に、武器・防具のせいですが」
サリエナさんが言うには。
この間の『クリスタルの盾』みたいな、伝説・魔的な武器や防具が、何かのタイミングでこの世界に『発生』することで、その武器自体がダンジョンを形成するというケースが起こりえるのだそうだ。
そもそもの前提条件がよく分からないのだが……、まぁそこはいいか。
「この地上にたびたび発生するダンジョン。それらの多くは、この強力な武器・防具のせいですね。
だからこそ冒険者という職業もなくならないわけですが」
「なるほどねぇ……。そんな仕組みになってたんすね」
あれ、でもそれじゃあ……。
「学園にその、『強力な武器』が発生して、ダンジョンを形成しちゃったんだろうってのは察しました。
けど、『潜入』っていう行為とはつながらない気がするんですけれども」
ダンジョンが発生したのであれば、それこそ冒険者に任せればいいだろう。
普通の学校ならまだしも、魔法学校なのだから。
生徒側にとってもプロの冒険者を見る良い機会になるんじゃないか?
「まぁその……、そこはホラ、まぁまぁ、良いじゃないですか、えぇ」
「アンタ何か隠してるだろ!?」
冷静な顔つきのままではあるが、サリエナさんは汗をだらだらかいていた。
この人ポーカーフェイスだけど、嘘つくのに向いてねえな!?
「ちょっと! きちんと説明してくださいよ!」
「いえ、貴方の修行になるというのは本当ですよ。それに、発生したダンジョンは、間違いなくいわく付きの武器がらみです。えぇ」
「メガネを高速でくいくい動かすな! 動揺を隠しきれてないんですよ!」
「くっ……、仕方ありませんか……」
俺に問い詰められるかたちとなったサリエナさんは、何故かくっころみたいな空気を出しつつ答えてくれた。
「実は魔王には……、そのダンジョンを、生徒の教材になるレベルのダンジョンへと作り変えて欲しいのです……」
ダンジョンを……、
作り変える……?
「そ、それって、……可能なんですか?」
「まぁ、理論上は。魔王の全盛期のチカラを取り戻し、かつ、魔王が魔力のことをきちんと学ぶことができたのであれば……、朝飯前でしょう」
「そうなんすか……」
まぁ元々俺も、魔力のことについてはきちんと知っておこうと思ったから別に良いのだけれども。
「学園長になったあの子は、昔一度お世話になりましてね。
ダンジョンの発生を、更なる教育に繋げられないかと……、この間相談を受けまして」
「そうだったんすね……」
って……、ん? この間?
確か神とか女神とかって、気軽に人間界に関われないんじゃなかったか?
それとも、縁ができれば意外と話にいけるのだろうか。
ルーリーも俺とよく連絡とりあってたしなぁ。そういうもんなのかもしれない。
「で、報酬は何なんです? いかがわしいこととか?」
「仕方が無かったのです。あんなにも幼女だった彼女が、あそこまでの爆乳美魔女にまで成長するとは、誰が予想できましょうか」
「もう大体察しはついたよ! 分かりましたよ! いいよ全部言わなくて!」
まだ会ったことすらない学園の学園長の情報を入手してしまった。
乳の話題を出したということは、まぁそういうことなのだろう。ううん、この節操なし。真面目そうに見えて意外と貞操観念がアレだよなこの人(神)……。
……とまぁ、そんな感じの会話があり。
いろいろな理由があり、俺は一人でダンジョンの奥底を目指すことになり、最終的にここを『安全かつある程度の難易度』のダンジョンへと作り変えるという任務を請け負うことになったのだった。
まぁ……、久々に魔力を制限なしで使えるフィールドだからなぁ。
腕試し(あと憂さ晴らし)のつもりで、存分にやらせてもらうとしようか。
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