6.初日終了!
一息ついて。
落ち着いて。
謝り倒して、殴られて、
もう一度落ち着いて。
俺はラチカに、改めてことの経緯を確認した。
「しかしまさか……、イカサマの魔法を使っていたなんてなぁ……」
俺があのとき抱いた、『こいつらに対する裏切りだ(キリッ)』という気持ちは何だったのか。まぁ良いが。
「そうかなるほど……。公平に六本勝負にしたのも、たまたまラッキーパンチを食らっても挽回できるようにするためか。
一戦目で相手がラッキーでジョーカーを揃えて負けてしまっても、二戦目、三戦目で挽回すればいいんだし」
「ぐっ……」
「それに相手が二ターン目くらいで大きな数字を二連続で引いても、自分がジョーカーを引ければ追い付ける可能性だってあるしなぁ。
うん……、よく考えたもんだ」
腕を組み感心していると、ラチカの表情がどんどん沈んでいっていた。
せっかく復調したというのに、これではまた元の木阿弥である。
「あぁいやすまん。別に追い詰めたり問い詰めたりしたいわけじゃないんだ。
ただ、普通に関心してたんだよ」
「……関心」
「あぁ。すげーよなぁ。
こういう、学校機関の和気あいあいとした空気を武器にして、ルールの中に罠を仕掛けるんだ。俺じゃあこういうのは思いつかないからなぁ」
「……アンタ、責めるとかしないの?」
ラチカは怯えながらも、俺に言葉を投げてくる。最初はちょっとだけ強めに感じた目つきも、今は少しだけなりを潜めていた。
責める……。責める、ねぇ……。
「ラチカ、質問だ。
……これによって、今までどれくらいの人を不幸にしてきた?」
「ふ、不幸って……。
――――わかんない。だってこの『いうことを聞く権利』は、まだほとんど使ってないから」
「ふうん、そうなのか?」
「うん。……私が負かしたやつらに対して、最後の切り札を植え付けたかっただけ。
いざというときに手足として使えるやつらが居たほうが、何かと便利だから」
なるほど。
これが嘘ではないんだとしたら、ラチカはそこまで悪いやつでもないんだろう。
……仮に、これが原因で学校を去ったやつとかがいたのであれば、俺は彼女を許すことはできなかっただろう。
けれども。
「いじめとか、パシリとか、人生が曲がった対象はいないってことだな?」
「あ、当たり前でしょ! そんなことしない!
……私はただ、不安要素は一つでも消しておきたかっただけ」
不安、要素……?
俺が疑問に思い口にすると、ラチカは「そうよ」と短く続けた。
「……私は元々、魔力はそこまで高くはないの。でも勉強は続けたし、努力もした。社交的に、できるだけ友好的にふるまってもいる。
けど……、結局のところ、この場所は実力主義。寝首をかかれるとは思っていないけれど、……それでも、単純なチカラだけで言えば、私より上はいっぱいいる」
だからと、少しだけ言葉を切る彼女。
「私がこの学園で一秒でも長く生き残るには、少しでも何かを『仕掛けて』いくしかないって……、そう……、思ったの」
怯えた瞳。
けれどその中には、確かに戦う者の意思が、見て取れた。
……すげえよなぁ。
弱い自分をきちんと認めて、こうして努力して、あがけるんだから。
「――――いいよ、ラチカ。
俺は今回のこと、口外はしないし水にも流す」
「……え?」
「だって、これによる被害は今のところ出てないんだろ?」
「そ、そうかもしれない。けど……」
そもそも、俺に騙されたっていう実感は、未だに無いしな。
……さっきやっちまったギアス解呪のときの、罪滅ぼしとでも思ってくれれば幸いだ。
「一応確認なんだけど、ラチカがその命令権を使ったのはどんな内容なんだ?」
「え、えっと……、
私が致命的なケガしたときに全力で治癒魔法をかけさせたり、実習訓練のときに盾になってもらったり、あとは一回だけ……、外からほ、本を買ってきてもらったことがあったかな」
ふむふむ……。
聞いた感じ、そこまで凶悪なものはなさそうだな。
「盾になってもらったっていうのは……、シールド魔法とかを張ってもらったってことだよな? 肉体的な壁じゃなく?」
「あたりまえでしょ! そんなことさせたら死んじゃうじゃない!」
「ははは」
なるほど、めっちゃ常識人だ。
やってることも自衛のためだったわけだし。
「大丈夫大丈夫。それくらいで怒ったりはしないさ。
程度の大小はあれど、それくらいのことは、人同士の戦闘だと日常茶飯事だからな」
「戦闘……?」
「あぁいや、何でも……。
……とりあえずみんなには、急な体調不良ってことで説明しておこうぜ。そのほうがラチカも都合がいいだろ?」
俺の言葉を受けても、まだラチカはあっけにとられていた。
……まぁこのくらいはなぁ。元魔王にとっては、子供の悪戯と大差ない。
メアとかもっとエグいことしてくるからな。何度も言うがアイツは、パワープレイを好むというだけで、からめ手を使えないわけではないのである。
それで魔王軍にどれだけの被害がでたことか……。思い出しただけでも背筋が凍る。
「俺さぁ、あんまり目立ちたくはないんだよ。
だからその……、教室ではあんな感じで接してくれるとありがたいかな」
「わ……、わかったわ」
ラチカはそう言って、屋上から去ろうとする。
俺の脇を通り抜けようとした直後、立ち止まり、こちらを見ずに言う。
「私……、さ。本当はけっこう、性格悪いんだよね」
「ん? まぁ、イイ性格してるとは思うけどな」
「うん……、その、だからさ」
「うん」
「その――――、アンタの前では、時々、こんな風に開けっぴろげに話しても、いいかな?」
「あぁ。仮面被ってると疲れるだろ?俺で良ければ、話し相手になるよ」
そう答えた俺のほうを、少しだけ振り返ろうとして。
けれどやっぱりやめて、小走りで今度こそ屋上を去る彼女。
うん……、何だか彼女も、肩の荷が下りたみたいで良かった。
「そして……、俺も、な」
どっと疲れがきた。
うおー! 危なかったああああ!
仮に……、ラチカが俺の中の強大なチカラに怯えまくった結果、パニックのあまり俺を、『かなり強いヤツが編入してきた』なんて騒ぎ立てられていたら、たまったものではなかった。
「サリエナさんからは、極力目立つなって言われてるんだよなぁ……」
何せ今回の任務は、潜入調査なのだから。
潜入って、目立っちゃダメなんだよねぇ……。だからこそ、メアやシャルエールではなく、俺が向かうことになったんだし。
「……なんとか事なきを得たかぁ。いやー、こいつは先行き不安ですなぁ」
「本当ですよ全く。バレたりしないでくださいね」
「うおわビックリしたぁっ!」
安堵のため息をついた直後、背後から声がする。
俺の背中ゼロ距離の位置に、麗しき眼鏡を光らせたサリエナさんが立っていた。
い……、いつの間に……。
「しっかりしてくださいね、リョー君。次にヘマをしたら、きついお仕置きを行いますので」
「お、お仕置き……?」
「えぇ。超興奮状態にしたのち、触手の群れに放り込んで、その手の快感でしか達することができないように開発をして差し上げます」
「怖ッ! そしてエグい!」
それはマジで困る。
……頑張って隠匿しなければ。
「冗談はさておき……、どうです? この学園ではうまくやれそうですか?」
「え、えぇまぁ……。何とか、ですけれど。
ただその……、正直不安のほうが大きいですけれどね」
頭を掻きながら、俺は彼女へと答える。
「……まぁ、そうですよね。本来ならば実力者であるあなたが、敢えてチカラを抑えて生活しなければならないというのは――――」
「あぁいや、そっちじゃなくて……」
「はい?」
「だって若い子の中に、本来ならばオッサンの俺が入るんですよ!?
空気感とか、全然わかんないっすわ! ここ笑っていいところ!? そこ反応しないほうが良いの!? どこがツッコミどころ!? ……ノリがわかんなくて不安もいいとこですよ!!」
俺の熱弁に対して、
サリエナさんは一瞬見せた心配そうな表情を元に戻し、いつものように静かにメガネを上げた。
「……ふぅ。大丈夫そうですね。
そうですよね……、なんだかんだ、あのアールメイアと旅を続けているんでしたね。メンタルはとっくにイカれていますよね」
「いやいや、不安っすよ!」
「心配して損しましたので、ルミエラにはバレそうになったことをありのまま報告をします。ちょっとした罰でも食らってくださいね」
「ちょっとした罰ってなんです!?」
とまぁ。
こうして、俺の学園生活一日目が終了した。
後に確認したところ、俺がラチカのギアス魔法を見破ることができたのは、サリエナさんが保険としてかけてくれていた洗脳系魔法のアンチ魔法だったのだそうだ。
新たなるチカラが目覚めたのかとわくわくしたんだが……、うん、そんな簡単にこの魔力は取り扱うことはできないっぽいですね。
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