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3.カードゲーム・1



 午後の授業もつつがなく終わる。

 編入期間が良かったのか(サリエナさんが調整してくれたんだろうか)、今は基本的な魔力の仕組みあたりを説明している時期なので、授業自体にはついていけている。

 道中にサリエナさんから聞いた魔法学のことを、更に更にゆっくりと説明されている……みたいな内容だ。ぶっちゃけちょっと退屈。


「ただ……、これきちんと復習しとかないと、後でついていけなくなりそうだよな……」


 一抹の不安を抱えつつ、帰り支度を進める。そんな折、


「ねぇねぇ編入生くんさぁ。このあとちょっと暇?」

「ん?」


 声の方向を見ると、そこには上品な金髪ツインテールの女子生徒が立っていた。

 周囲には男女ともに五名。フレンドリーな笑顔をこちらに向けている。


「歓迎会としてさぁ、ちょっとゲームでもしない? 一緒に遊ぼうよ!」

「は……、はぁ」


 す、すげぇ……。これぞまさにリア充的なイベント!

 前の世界では日陰者だった俺にとって、こんなにも嬉しいことはない。


「い、いいよ」

「やったぁ! それじゃあこっちこっち」


 嬉しそうに笑う彼女たちとともに、俺は教室の真ん中へと移動した。

 ありがとうサリエナさん、いや、サリ姉! 俺をここに連れてきてくれて、ありがとう!


 俺はここで……、経験できなかった青春を取り戻しますねっ……!








 そして。

 きらびやかな教室の真ん中にて、十数名の生徒が見守る中歓迎会が行われる。


 茶菓子やジュースなどがテーブルに広げられている……、あの、ザ・リア充というような空気だ!

 前の世界では、自分とは一切関係ない空気だったからなぁ……。いざその輪の中に自分がいるとなると、いささか緊張するな。

 楽しいんだけど、空気に慣れないせいかちょっと冷や汗が出るぜ。


「日中はみんな真面目に授業受けるんだけどね、終わったら結構フリーダムになるんだー」

「そーそー。本当はもっと早く声かけたかったんだけどね。でも勉強もきちんとしたいしさ」

「とっつきやすいヤツで良かったぜ。よろしくなリョウスケ!」


 和気あいあいとした空気に囲まれ、俺はやや不慣れながらも挨拶を交わしていった。

 しかしなるほど……。

 この学校は前の世界と違って、みんな望んで勉強しにきてるんだよな。

 授業に集中するとか、真面目にやるっていうのは当たり前なのか……。そりゃ、俺に構ってる暇なんてないよな。

 けど、一日の『集中タイム』が終わったあとは、きちんと仲良くしてくれるのか。

 ……なんつーか、すげえ大人な子供たちだなぁ。俺なんかよりよっぽど人間出来てるというか。


「それじゃあ改めて、ゲームをしましょうか!」

「あ、あぁうん。よろしく、ラチカさん」

「呼び捨てでいいわよ。これから、仲間なんだから。ね、リョウスケ!」

「おう。……よろしく、ラチカ」


 俺の言葉に明るく笑うツインテールの美少女。

 みんなの中心人物といった風の彼女は、笑って俺に握手を求めた。


「……、」

「なに?」

「あぁいや」


 一瞬、手に触って良いのかどうかを躊躇したのだが……、ここで変にかしこまると変な空気になるかなと考え、俺も握手を返す。

 前の世界では、俺に触れられるとげんなりとした顔をする女子ばかりだったが……、気持ちのいい、更なる笑顔を返してきた。

 すっげえ……。周りもそうだが、この子は特にリア充オーラがやばい。

 魔力があろうが無かろうが、そういうのってやっぱり感じ取れるもんなんだな……。どこの世界でも、そこは共通ってことか。


「それで……、カードゲームって言ったよな」

「えぇそうよ。

 ジャーウェイル地区がいくら田舎のほうだって言っても、カードゲームくらいはあるわよね?」

「はは、もちろん」


 嫌味にならないような、冗談めかした言い方に俺は応えた。

 元気だが、はしゃぎすぎず上品な空気が残っている。やはり良いところのお嬢様とかだったりするのだろうか。

 ……まぁ。最近会ったお嬢様というものがアレ(マーゴットさん)だったから、俺の中であまりおしとやかなイメージとかは無いんだけどな。


「さて、ルールは簡単よ」


 言って、彼女はルールを説明してくれる。

 それは簡単に要約すると、ババ抜きに点数が加えられた感じのゲームだった。


 それぞれ互いに、手札として1から15までのカードを持つ。

 それを順々に、互いの手札から引いていき、ババ抜きのように合わさった数字を捨てていく。

 その場に出たカードが自分の点数となるのだが、その点数がターン数の文だけマイナスされるというもの。


 例えば俺がラチカの手札から9を引き、捨てる。

 第一ターンなので、9-1で、俺の点数は8点ということになる。


 そして次にラチカが俺の手札か引く。それが13だった場合、13-1で12点。

 第二ターン、第三ターンと、それを続けていき……最終点数の多いほうが勝ちというゲームだ。


「例えば6ターン目に3を引いても、マイナス3ってことにはならないわ。マイナスの超過はなしで、0点になる」

「なるほど……。点数はだいたいわかったよ。あとはこの……」

「分かってる。ジョーカーカードね」


 カードの種類は1~14までの十四種類と、ジョーカーカードの一種類の、計十五枚だ。


「このジョーカーカードは、オマケみたいなものなの。

 三ターン目までに引ければ、ターンの合計に書かかわらず、引いた側に20点入るわ」

「20点か。ということは、引いちゃえば勝利にかなり近づくね」


 俺がふむふむと頷くと、ラチカは更に楽しそうに説明を加えた。


「そして超特例として、一ターン目に引けば、その勝負は無条件で引いた側の勝利!

 まぁこのルールに関しては、ミラクルなことへのご祝儀ってカンジかな」

「即勝利になるルールもあるのかぁ……。ジョーカーがとにかく肝なんだな」

「えぇ。……ただし、四ターン目以降は、ただのくずカードになっちゃう。

 引いても強制的に0点になるから、そのターンは無為に消費しちゃうってことになるけどね」

「はぁー……。オッケーだ。なんとなく分かったよ」


 ややルールに慣れるまでは時間がかかりそうだけど……、やっていけばそのうち把握できるだろう。


 まとめると。

 ターンの少ないうちに、大きな数字を狙う。

 ジョーカーをできるだけ早く引いて、大きい数字を確保する。

 後は……、ターンの分だけマイナスの数値が引かれていくわけだから、後半はとにかく巻き返しがむずかしくなる。

 ……ってところか。

 細かい点数計算とかは難しそうだけど……、まぁ余興だから別にいいだろう。


 チュートリアルとして一戦だけ、ジョーカーをいれないオーソドックスなゲームを見せてもらう。

 結果は、32対35で男子生徒の勝ち。

 ラチカは「あちゃー」といった表情を見せていた。


「それじゃ、ジョーカーありの玄人ルールではじめますかな、リョウスケくん?」

「よし、やろうか」


 やや気取ったお芝居をして、楽しそうに笑う彼女。

 うん……、俺はこの学校で。

 楽しくやっていけそうだ。


「ときにリョウスケ、盛り上げるためにちょっとだけニギらない?」

「へ? ニギる?」

「賭けっていうレベルじゃないんだけどさ。『負けた人は、勝ったほうの言うことを一つきく』の」


 勝ったほうのいうことを聞く、ねぇ。

 いかにも若いノリだ。女神あたりとこんな約束をしようもんなら、一生奴隷とかにさせられそうな気もするが。


「負けたほうが後で、勝ったほうにご飯おごるとか。軽いものだよ~。どう?」

「……ご飯ね」

「食堂のものだから、そこまで高くはならないと思うけど……。嫌ならやめとくけど?」


 いかんいかん、変な間が出来てしまった。

 さすがに勘繰りすぎだな、俺も。

 今まで散々、辛苦を舐めさせられてきたからか。


「いや、いいよそれくらいなら。やろうか」

「ホント!? やったね! 燃えてきた!」


 俺の応じに「成立ー」と言って、再び握手を交わしぶんぶんと手を振るラチカ。

 先ほどチュートリアルを行った男子から「俺に負けた後なのによくやるよ」と茶化されていた。


「……」


 まぁ……。それくらいなら問題ないだろう。ここで無碍にするほど、空気の読めない俺ではない(昔は読めなかっただろうけど)。

 それに負けたとしてもどうにかなる額だし。……仮にここにいる全員におごることになっても、どうにかなるだろうしな。


「それじゃ……、ゲームスタートだね」

「うん……」


 ん……?

 なんだか一瞬だけ、ラチカの表情と声が鎮まったような気がしたけれども。

 まぁ……、気のせいだろう。


 俺はそうして、手札を手に取った。







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