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1.いざミストリカ学園へ



 メアたちと別れ、修行編が開始すると聞いていたのだが。

 結局は、いつものように任務をこなしながら行うとのことだった。


「う~ん」


 天界にて。

 ルミエラとサリエナさんが言っていた……『守れる力』とやら。

 俺の中にはすでに、前使っていた『泥水』の魔力が入っているわけで……。

 コレを使いこなせるようになることが、当面の目的になるわけだ。


 メアらと別行動をしてからここに来るまで、一度も戦闘は行っていない。

 魔法もすべてサリエナさんが使っているという状況だ。

 今は完全に小康状態に入っているから、あまり実感がわかないんだが……、けっこう危険な魔力なのだという。


「…………」


 一時的に若返った自身の掌を見て、動かしながら、そんなことを反芻させる。

 ……姿かたちが若干変わるのは、魔王状態のときで慣れているとはいえ。

 やっぱしちょっと抵抗あるよな。


「どうしたのですか、リョー君? 置いていきますよ」

「あぁすみません。今行くっす」


 応えて、俺は彼女の呼びかけについていく。

 今はすでに森の中は通り過ぎており、ミストリカ魔法学園へと続く立派な坂道を、俺たちは歩いていた。

 普通の学校なら下校の時刻である。――――が、


「全寮制で、用がなければほとんど学園外へは出ないってのは、本当だったんですね」

「えぇ。ですので、人っ子一人居ませんね」


 俺の隣で、俺と同じように(・・・・・)魔法で若返った(・・・・・・・)サリエナさんが説明をしてくれた。


「学園の規模としては、一学年につき十三から十五組。一クラスが大体三十人前後ですので、おおまかに千四百人くらいの生徒が在籍していることになりますね。

 例外的な、更に上の研究科クラスもあるにはありますが……、とりあえず今は省いていて良いでしょう」

「はぁ……。なんつーか、マンモス校って感じですね」


 マンモスってのがこの異世界にいるのか(いたのか)は分からないので、この表現で通じるのかは分からないが。

 ただまぁサリエナさんはじめ、神の方々は、たぶん前の世界の単語とかも知っているだろうから通じるとは思うけど。


「リョー君は一年生のクラスへ。私は三年生のクラスへと潜入します」

「その……、それは別に、良いんですけど。

 どうしてサリエナさんまで生徒側に? 教師側として入ったほうが、色々と動きやすいんじゃないですか?」

「それが、教員は募集していなかったんですよ。しかし、生徒であれば、すぐにでも入れるのです」

「へぇ?」


 サリエナさんの説明によると。


 元よりこのミストリカ魔法学園は、魔法学校系の中でも超トップクラスの施設らしい。

 新たに入ってくる生徒はもちろん、学業についていけず途中で辞めたり、逆に突如才能が覚醒し、早期卒業するといったような事例が珍しくないところなのだそうだ。


「だからこそ……、生徒は入れ替わりが激しく、教員は逆に、固定が多いってことなんですね。なるほど……」

「ご納得いただけて、何よりです」

「いやぁ実のところ、わざわざ若返ったりせず、普通に教師として潜入すれば楽だったのに~、とか思ってたんッスよねー。

 ただまぁ、そんな理由なら納得です」


 そんなふうにちょっとだけ俺が軽口を叩くと、サリエナさんの眼鏡が冷たく光った気がした。

 そして少しのため息のあと、言葉が続いた。


「魔法のことを分かっていないリョー君が、この優秀な学園の生徒たちに対して何を教えられるというのでしょうか?」

「へっ!? あ、あぁ……、それは確かに」

「大体それだけの年齢生きてきて、誰かに何かを教えるということを経験してきましたか? 悠々自適に魔王生活を送り続けてきたあなたに、何か教えられることがあるんですか?」

「うっ……! い、いや、すみません。そこまで深く考えてたワケでは……、」

「最終的には感覚で行わなければならないことを、理論立て、誰にでもわかりやすく、理解できるよう理路整然と、且つ授業時間内に収まるようスムーズに行わなければならないのですよ? そんな技能を、果たして貴方が持ち合わせていると?」

「わかった! わかりましたから! 俺が悪かったですよ!」


 まったく。

 俺を攻め立てているときの、この嬉しそうな顔よな!

 メアみたいに不機嫌で暴言を吐いてくるのではなく、完全に自分の趣味で行ってくるのだから性質が悪い。

 さぞや楽しいだろうなぁチクショウめ。

 俺がやや憤慨していると、彼女は「それはそうと」とつなげて。

 突如として俺に顔を近づけ、身を寄せて、小さな声で囁いた。


「魔王や神しか知らないようなことを、これから先、……あまり大きな声で語らないほうが良いですよリョー君」

「うおわっ! ……ち、近いですって、サリエナさん」

「イイから」

「い、イイって……」


 ふわりと、何やら若い女の子の香りが漂ってくる。

 元々このサリエナさんは、美女タイプなのだ。それが若返り、現在は才女めいた美少女の面立ちをしている。

 そんなものに近寄られて、ゼロ距離で囁かれてみろ。興奮するだろ。


「……ここは魔法学校ですよ? ドコでナニを盗聴されているか、分かりませんから」

「な……、なるほど……」


 俺がごくりと唾を飲んだのは、間違いなく盗聴による恐怖ではなく、色香によるものだ。

 瑞々しい肌、白い首筋、薄い唇を、意識せずにはいられない。


「まぁ今は、結界を張っていますし、あたりを感知魔法で探りましたからね。盗聴の心配はありませんが」


 そう言って、先ほどまでの調子に戻りすっと身を引く彼女。

 ……ううむ、からかわれている。

 俺がぐぬぬと悔しい表情をしていると、サリエナさんはそのまま続ける。


「そういえば。アナタは私の『弟』ということになっていますので、よろしくお願いします。

 私のことは学園内では、『お姉ちゃん』、『姉上』、『お姉さま』、『サリ姉』など、姉とわかるような単語で呼ぶように」

「は、はぁっ!?」

「編入にあたり、貴方の名字を使わせていただきました。

 リョウスケ・セキウチと……、その姉、サリエナ・セキウチです」

「……なんつー勝手なことを」

「これも任務のためですので。よろしくお願いしますね、リョー君?」


 にまりと、わずかに目元と口元を歪ませる彼女。

 ったく、そんなかわいらしい顔で頼まれたら。

 断ることなど、できないだろうが。


「……さて、それでは気を取り直して行きましょうか。

 いざ、ミストリカ魔法学園の教員室へ!」

「気合いの入らないオープニングだぁ……」


 こうして。

 やや不健康な体つきの十五歳男子と、クールな面持ちの十七歳女子が、魔法学園へと潜入する。


 はてさて。今回も無事に済むといいのだが……。








 あっさりと編入手続きを終えた、その夜。

 全寮制とのことだったので、同居人とかいるのかと緊張していたのだが、まさかの全生徒個室という、とてつもなくブルジョワな待遇だった。

 ちょっとした高級ビジネスホテル(といってもイメージだけれども)みたいな部屋で、普段メアと寝泊まりしているような宿屋よりも、かなり快適な部屋である。


「すげぇな……。ん? まてよ?」


 ってことはだ。

 これと同じような部屋が……、少なくともあと千四百部屋くらいあるってことか……?

 俺が生活する区画に来るだけでも小一時間くらいかかったからな。学園の土地をトータルで考えると、小規模な国くらいはあるんじゃないのか……?


「なんか……、やべぇところに来ちまった気がする」


 場違いと言うか身分違いというか。

 年齢どうこうではなく、根本的に、ここまで豪華待遇をされる立場でもないのですが……。


「まぁいいや。寝るに限る」


 気持ちがやや切り替わらないまま布団に入り、次の日を迎える。

 玄関も廊下も教室も、これまためちゃくちゃ豪華に彩られていた。そんなきらびやかな教室へと足を運ぶ。

 今日から本格的に、学生・リョウスケの、学園での生活が幕を開けるのだ。


「ジャーウェイル地区から、魔法使い職を目指しこの学園に編入しました、リョウスケ・セキウチです。よ、よろしくお願いします!」


 そんな与えられた設定の自己紹介を行い、俺は一年三組へと編入。

 この学園はありがたいことに、俺が前にいた世界と同じような学年の分け方・呼称をしているみたいだった。

 新しい文化だと、慣れるまでに地味に苦労するからな……。正直助かった。


「そしてこれも……、話には聞いてたけど、ちょっと肩透かしだな……」


 授業を何コマか受けていく間、休憩時間というものが存在する。

 その間……、編入性という存在に寄ってくる人は、特にはいなかった。

 サリエナさんから聞いていた通り、編入生というものは珍しくはないとは言っていたけれども。

 だからまぁ簡単に言うと……。

 誰も俺に話しかけてくれないので、編入早々ぼっち飯です。


「もそもそ……、もそもそ……。ごくん」


 そこには。

 パンとシチューのセットを持った、孤独で哀れな男子生徒がいた。

 というか俺だった。


 うん……、まぁ、イイけどネ……!

 俺も薄々は予感していたさ! 中学・高校の頃の二の舞になるんじゃないかってな! イイけどね! 今は心も鍛えられているからネ!


 怒りと悲しみを抱え、俺はやたら豪華なシチューをすする。

 クラスもかなり多いので、学食に一人でいても誰も気にしない。

 ……飯はうまいが、なんかこう、ちょっと期待していた展開とはチガウ感じ、するよネ。


「……まぁ、極力目立つなって言われてはいるしな。良いと言えば良いんだけど」


 秘密裏に調査を行うには、目立つ人物になってはいけない。

 例えば放課後に校舎をうろうろするにしたって、印象に残らないほうが良いのだ。


「作戦通り作戦通り……。だからほら、全然寂しくないやい……」


 俺の独り言は、活気のある食堂の喧騒に紛れて消える。

 み、みんな楽しそうだなぁ……。

 そういえばこっちの世界に来てから。

 魔王時代は部下に囲まれてたし、メアのお目付け役になってからは一緒に食わなきゃいけない生活だったから、一人で飯を食うのって本当に久々な気がするな。

 懐かしさと共にパンをかじり、俺は午後の授業へと備えるのだった。


 ……美味いんだろうが味がしねえ。

 さ、寂しい……。






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