EX.女子会・2
前回までのあらすじ。
女子会ならぬ、卑猥なコイバナの続きが行われています。
シャルエール、乙る。
「……そもそもからして、ですわよ?」
「うん?」
黄色い花が咲き誇るガーデンにて。
マーゴットは顎に手を当てて彼女らに問う。
「リョウスケ氏のどこが良いのですの? いえ勿論、愉快な方ではあると思いはしますが」
同じく席についている、アールメイアとシャルエールは、同時に目を見合わせた。
そして「なるほど」と頷き合い――――口にする。
「姉上は心配をしてらっしゃるのですね。僕があの男に……、性的な酷いことをされやしないかと」
「えぇまぁ、そういうことでしてよ? とにかくシャルエールは、騙されやすそうですのでね」
「拾っていただいた貴女に言われると、ぐうの音も出ませんね」
ハッハッハとかっこうよく笑う彼女。
そんな二人を見て、頬杖をついていたアールメイアが口を開く。
「師匠の良いのところねぇ……、そんなんこっちが聞きてェくらいだ」
「あら、そうなんですの?」
「アァ。あの豚の良いところを挙げろっていうほうが難しいくらいだな」
足を組んで目を瞑るメアに対し、シャルエールは言葉を投げた。
「良いところならあるだろう。その……、優しい、とか」
「あぁいうのは臆病ってンだ」
「ふむ、まぁ、ある意味チキンではあるね」
「どんだけチャンスがあっても、ワタシにもシャルエールにも手を出さないチキンだからなァ」
方眉を上げてニヒルに笑うメアに対し……、マーゴットは「それは」と発言した。
「それは単純に好みではないからではなくて?」
「いや、それはないな」「ありえませんね」
そんな発言を即座に否定されるマーゴット。
「そもそもの前提条件として、リョウスケは性欲の塊です。その証拠に、僕も四回に一回くらいの頻度で胸に視線を感じます」
「……胸って、あなた、ほぼフルプレートではありませんこと?」
硬い金属を見やり、マーゴットは言う。
しかしそれに対し頭を横に振るシャルエール。それに合わせるように、アールメイアが補足した。
「ギャギャギャ。師匠の性欲を舐めんじゃねェぞマーゴット。
あの豚は、そこに胸があるというだけで見てしまう……、いわば、常時発情人間なんだ」
「そうです。おっぱいという概念に惹かれ、そこにおっぱいがあると分かっていれば、そこを見ずにはいられない。乳房というものへの執念と探求心を併せ持つ男と言って差し支えないでしょう」
と、散々な言われようではあったが……、でもまぁ、大体合っていることではあった。
「フッ……、なるほど。
スケベと童貞を己が内に飼うことで、一歩上のランクへと駆け上がっているお方ですのね」
面白いお方ですわと、何故かマーゴットの中で株が上がったリョウスケであった。
その解釈はさすがに間違っているなぁと、アールメイアとシャルエールの両名は思いはしたが、こうも思った。
「ただまぁ、そこらのごろつきよりかはマシだよなァ。
女体ってもんを、ある意味神格化してやがる。……必要ねーのによォ」
「確かにそういうところはあるね。
明らかにリョウスケのほうが疲れているだろうときにも、無意識でこちらを心配しているというか……」
「余計なお世話だってのにな。どっちかっつーと、自身のことを心配しやがれってんだ」
「同感だ」
うむうむと頷きあう二人。
アールメイアはともかく、シャルエールのほうはまだ出会って日が浅い。にもかかわらず、性欲の部分だけは完璧にリョウスケを捉えている。
とても単純な思考回路だった。
「女体への神格化……。
なるほど。シャルエールに好かれている理由が、分かった気がしますわ?」
マーゴットはふむと顎に手をあて、シャルエールへ投げかける。
「え、好き……? 僕がリョウスケを……?」
「あら、違いまして?」
シャルエールは少しだけ口元に掌をあてがい、考え込む。
そして、口を開いた。
ここに。
ラブコメの波動を感じたものはいるだろうか。
本来ならば、そうなる流れである。
通常通りのヒロイン像であれば、自身の気持ちに整理がつき、自覚し、赤面し、慌てふためく。アールメイアからのイジられなどがあればデザートとして完璧だっただろう。
しかしそこはそれ、何のかんの意思をしっかり持ったシャルエール・ミスリルファヨンである。
自身の気持ちへの折り合いは、とうに済ませられていた。
「まぁ好きですね。
その……、性欲的な意味でですが」
「あらまぁ……。わが妹ながらコレはひどい」
「絶好調だなシャルエール」
二人してシャルエールの発言にバツを示す。
性的な事柄に正直なのは、彼女もであった。
「性欲的に……ですか。しかしシャルエール。あの方は別に、イケメンというわけでもなければ、イケオジという感じでもありませんわよね? いったいどこに惹かれたんですの?」
リョウスケ・セキウチは、決して褒められた容姿ではない。
それは自他ともに認めるものだ。
内面の良し悪しはひとまず置いておき、単純な外見的な評価という面においては、そこまで高いとは言い切れないだろう。
同じ年代などで例に挙げるならば、邪神を召喚していた邪教団の一員・ジャファリーなどは、高水準なイケオジに当たる。
「そうでしょうか? むしろ性格的なものは置いておき、外見はかなり好みなのですが」
そんな発言をするシャルエールに、マーゴットも、そして惚れていると自覚しているアールメイアも、首をかしげる。
外見に惚れたわけではないアールメイアからしてみたら、この発言が一番の衝撃だった。
「ほら……、僕はオークとかゴブリンとかも好きですから」
その発言で二人に一本衝撃が走る。それと同時、真意が完全に理解できた。
「あぁそうか……、お前人間種じゃねェもんな」
「なるほど盲点でしたわ。感性が人間とは違いますものねぇ……。
人間として格好よくはなくとも、違った種族から見たら格好いい、と。そういう理屈ですか……」
マーゴットの発言はもちろん、リョウスケを貶める発言ではない。純粋な納得によるものだ。
何度も繰り返すように、外見だけを切り取ってみたとき、リョウスケは決してモテるほうではない。
惚れられうることがあるとしても、それは内面から醸し出される『やさしさ』や『おおらかさ』などだと思っていたからだ。
「師匠の……、身体目当てで惚れるというヤツがいるとはなぁ……。これだから世界は面白ェ……!」
「このマーゴット。感服いたしましたわ……!」
二人の力強い視線に、「なんだか分からんが僕は良いことを言ったみたいだ!」と、謎の自信をつけるシャルエール。
こうして少しずつ、彼女はまた変な方向に突き進むのだった。
「で、色々話してみたわけだが……」
シャルエールが優雅に、本日何杯目かの紅茶を新しく煎れつつ言う。
「結局アールメイアは、リョウスケに惚れているということで良いのかい?」
マーゴット、アールメイアの順に紅茶を差し出し、最後に自身のものを注いで席へ戻る。
「アァそうだぜ。
ワタシは師匠が好きだ。抱かれてぇ」
十歳の幼女だということを忘れそうになるくらい、あっさりと言う彼女。
さっぱりさ加減は、百戦錬磨の恋愛経験者のようだった。
「むーん……、そうかー……。だったら僕は、さすがに身を引いたほうが良さそうだなぁ。さすがにパーティ同士で、恋愛関係のドロドロを行いたくはないものだし」
「まるでパーティ内でなければ行いたいみたいではないですの」
「ちょっとだけ面白そうだなとは思います。この泥棒ドラゴンがッ! ……なんて、ちょっと言ってみたいですね」
「それだと捕食対象をとられたみたいになっちゃいますわよ」
面白いから良いですけれどと紅茶を飲む。
その会話に。
アールメイアが悪だくみをした表情で、割り込んだ。
「……ンでよ、シャルエール。
これからがワタシの提案なんだが――――」
そうしてアールメイアは、自身の考えをシャルエールに話した。
ハーレム作成のこと。
リョウスケへの恋愛感のこと。
これまであったことで、そういう考えに至ったということを。
…………。
……。
「……なる、……ほ、ど」
シャルエールは口を押さえつつ聞いた考えを脳内で反芻する。
超絶戦闘力を持った者を集めた、リョウスケだけのハーレムを作る。
そしてそのかじ取りを行うのが、現在、人類最強である勇者。
うまくいく算段は……、分からない。
ウマの合う者だけが集まれば話は早いが、賛同できない者にこの考えを聞かせると、下手をすれば危険視をされてしまう恐れがある。
そんな風にシャルエールは考えた。
しかし隣で。
珍しく神妙な顔つきをしていたマーゴットが、静かに凛とした声で言う。
「――――面白いんじゃないですこと、アールメイア?」
そう。
どこか慈愛に満ちた表情で、口にした。
「分かってくれるッてのか? マーゴット」
「えぇ。もとより何人も婿・嫁を囲うのは、貴族の間でも行われていますもの」
そう言って、何でもないことのようにさらりと言ってのける彼女。
そのあと軽く「ただ」と呟き、続ける。
「その道は、思った以上に過酷な道だと思いますわ。
危険視され、何かに潰されても……、文句は言えませんことよ?」
短期間とはいえ、友人になったと認めたからこその忠告だった。
「そんな危険なものに……、シャルエールを巻き込もうというの? 貴女は」
「……オウ、そうだぜ」
ぱちりと。
二人の視線が交わる。
互いに意思が強く。
そして、どこか遠くを見据えている。そんな瞳だった。
そんな、十秒にも満たない視線の合わせ。
それを先に打ち払ったのはマーゴットのほうだった。
視線を切り、静かに微笑む。
「……まぁ決めるのはシャルエールですものね。私には関係ありませんことよ?」
「ギャギャギャ。別にワタシはいいんだぜ? 師匠の童貞をアンタがもらってくれてもよ?」
「私は好みではありませんもの。
その――――、もっとこう、筋肉が発達している系の強靭な体が好きですわ」
「姉様それって、グルダルさんたちのことなんじゃぁ……」
「えぇその通りですわ。
私はあの方々にいつか、主従の垣根を超え乱暴に扱われたいのです!」
「……ここに男性がいなくて良かったと、僕は今心から思っているよ。今更ではあるけれどね」
出立するまで聞かなければ良かったとシャルエールは後悔した。
それはさておき、シャルエールはアールメイアに向き、言う。
「……考えさせてくれ。
ただそうだな……。僕は、きみのことも好きなんだ、アールメイア」
もちろん、変な意味ではなくてねと、シャルエールは付け加える。
それを受け、アールメイアは逆に赤面していた。
性的な好意を向けられることには慣れていても、人間的な好意を向けられることには慣れていなかったためである。(そしてそれを見てマーゴットは一人微笑んでいた)
「一緒に冒険には行く。一緒に旅をするんだ。当然『そういう』ハプニングもあるだろう。……何せ初回の冒険で裸を見られているくらいだからね」
「ありゃあ全面的にあの豚が悪い」
「ハッハッハ、そうだね」
言ってシャルエールは、アールメイアの瞳を覗き込むように言った。
「僕がハーレムに入っても、入らなくても。……一番にリョウスケに選ばれるのは、キミが良いと思っている」
その発言は。
聞くものが聞けば、とても滑稽な発言だろう。
頭の悪い発言。
色ぼけた発言。
ハーレム思想を肯定するという、気持ちの悪い発言。
けれど、その瞳や言動に、先ほどまで行っていた頓珍漢な空気は一切纏っていない。
比喩でもなんでもなく。
リョウスケに抱かれるのはキミのあとだと。
シャルエールは真摯に、そうアールメイアに告げたのだった。
それが、騎士と勇者の、友愛の証だった。
「――――ギャギャッ、オッケーオッケー。
だったら大変だぜ師匠も。こんな美巨乳を前にして、童貞を失えねェんだからなァ!」
「オホホ、そうですわねぇ。女性から見ても相当羨ましいバストの持ち主のシャルエールを抱けないとあっては、拷問以外の何物でもありませんわ?」
「おほめにお預かり、光栄です二人とも」
言って。三人で笑いあう。
「大体師匠は、おっぱい好きすぎンだよなァ」
「さっきもちょっと触れましたが、基本的には、お尻や足などよりはおっぱいだね」
「すぐに巨乳と比較しやがるしなァ……。これだから巨乳は嫌いだ」
「それは僕のことも指しているのかい?」
「難しいところだ……。
ワタシもでかい乳は触りたい……。が、巨乳が存在しているってこと自体は我慢がならねェ……」
「難しい問題だね。……二律背反ならぬ、二律パイ反というわけだ」
「最低な会話ですわね貴女たち」
そんな風に。
日が暮れ始めているというのに、会話は踊る。
マーゴットは。
この三人の空間が、とても好きになっていた。
リョウスケのことを仕方のないやつだと話す、アールメイアとシャルエールの、なんと嬉しそうなことか。
そう話す二人の広角は、当然のように上がっていて。
まるで恋人ののろけ話を聞いているようだと、マーゴットは微笑んでしまう。
彼女は気づいている。
シャルエールはともかく――――、このアールメイアという人間は、本来ならばそこまで他人に友好的ではないのだろう。
こうしてここで紅茶をたしなみ、戯言に興じてくれていることが、彼女にとってかなりのイレギュラーなケースなはず――――だったと。
ただ。
リョウスケ・セキウチと関わることで、彼女は少しずつだが変わったのだ。
関与できる門戸が、少しずつ広がり。
楽しいことを楽しいと思えるようになり。
その場のノリに興じ。
自身の人生に他人が介することが、だんだん普通となりつつある。
その普通を、リョウスケ本人が実践できているかどうかは別の話だが、
アールメイアをこう変えたのは、間違いなくリョウスケなのだと。
マーゴットは、シャルエールを通して理解した。
「本当に、愛されてますわねぇ……」
ぽつりとこぼして、目を一瞬伏せる。
良かった、これなら。
シャルエールを任せても、大丈夫そうだと。
「……ふぅ、いけませんわね」
涙を流すのはここではない。
今は、笑うことこそ、許された感情。
湿っぽいターンは、後でもできる。
こんなかけがえのない時間に、そんなことをしている場合では無いのだから。
そんな風に考えて、
アールメイアとシャルエールに、更なる話題を提供する。
「それでは次は、行ってみたいプレイ――――」
コイバナという名の猥談は、まるで永遠かのように続く。
旅立ちの日は近い。
激闘の日々も、すぐそこだ。
それでも今は。
このかけがえのない、最低な話を。いつまでも。
END
勇者のしつけも大変です!
第二章、終了
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