EX.女子会・1
時は戻り、某日。
お日柄の良い、今日この頃。
本日は中編という名の、女子会である。
「しかし……、リョウスケは本当に誘わなくて良かったのか? アールメイア」
「ギャッギャッギャッ! いいんだよ、別に。師匠は師匠で、デリカシーがねェからなァ。こういう場にはふさわしくねえだろ?」
「デリカシーが無いとか……、キミは言われたくないだろうね……」
城内をすでに我が物顔で歩くアールメイアに、シャルエールは呆れてため息をついた。
アールメイア、シャルエール、マーゴット三名の、女子会という名目のティーパーティ。
リョウスケ・セキウチは、本日は宿にてお留守番。
これまではリョウスケがいなければ町を歩くのに不便をしていたアールメイアだったが、シャルエールが迎えに来てくれたことで、その不便さもある程度緩和される。
ここに。
男どもを一切排除して……、黄色い花咲き乱れる庭園に、三人の女傑が集う。
左回りに、女勇者、女騎士、女当主だ。
見る人が見れば、異種格闘技でも始まるのかと言わんばかりだ。
女傑ではなく女怪と言う者もいるかもしれない。
そんな一癖も二癖もある三名が集まったこの場が。
まともになろう、ハズもなく。
「ギャギャギャッ! お招き感謝するぜ、シャルエール、マーゴット!」
「いやいやアールメイア。むしろ良く来てくれたと感謝をするのはこちらさ」
「そうでしてよ、勇者・アールメイア。
よもやそんな伝説めいた存在と邂逅できることになろうとは、人生とは不可思議なものですわね」
ギャッギャギャッ!
ハッハッハッ!
オーッホッホッホッホ!
と。
三者三様の笑い声を上げる獣たち。
今この時より、平穏は失われた。
まぁもっとも、この三名。もとより平穏という単語とは、無縁の人生を送っているのではあるが。
「――――で、マーゴットって言ったかァ? あと二日ほどに出立が迫った今日この頃、いったいぜんたい何の用だよ?
まさかシャルエールを本当に連れ立てるやつらなのかっていう、見極めをしたいワケじゃああるまいなァ?」
「ホホホ、そんな無粋なことは致しませんわよ。
この子が決めたんですもの。私に止める権利は存在しませんわ」
優雅に笑い足を組み替えるマーゴット。
アールメイアとはまた違い、攻撃的ではない金の髪が上品に揺れた。
「私が貴方がたと最後に行いたいのは……、そう! コイバナですわ!」
女が三名で、姦しい。
姦しさは、恋を呼ぶのだ。
その言葉のトリガーで。
ピンと、場に緊張感が走る。
「……ほう? それはまさか……、分かって言ってンだよなァ……?」
「姉様……。フフフ、これはまさに、われら二人に対する、宣戦布告と見て間違いないですね?」
「オホホ、そうよ、シャルエール。そしてアールメイア……。私は分かっているのです……。
貴女方が……! まだ未通の処女であるということをっ!」
声高に(さっきからずっと声は大きいが)そう言って、二人に強い視線を送る彼女。
――――チッ! コイツ! ……出来やがる!
――――さすがは姉様だ。この一言で、われらの優位に立つことに成功した!
コイバナ。
古来より恋の話とは、経験をより多く持っている者が勝者とされる(諸説あり)。
誰と誰が付き合っているらしいという、他者同士の話より、その者自身が現在付き合っている者がいるという事実のほうが、優位に話題を運ぶことができるのである(伝説によれば)。
強き者。
マーゴット・ミスリルファヨンは。この場における、唯一の恋愛経験者のようだった。
「苦節……、二十八年。私は貴女方より、四歩ほども先を歩いておりますのよ?」
苦しみがあったかどうかはさておき、マーゴットは遥かなる高みから告げる。
膝をつく手前までいったアールメイアが、日ごろからは想像もできないほどに優雅な手つきで紅茶を持ち、お嬢様姿勢になりつつ言う。
「……ギャギャ、やりやがる。けどなァ……、こちとらそれしきで、負けるわけにはいかねえんだよ……!」
「なんですって?」
マーゴットの眉がピクリと揺れる。
――――これは。殺気だ。
姿勢を正し、背筋のピンと伸びた体制で紅茶を持つ彼女からは、人を殺せる上品なる気質――――略して『上ーラ』が発されている。
周囲の黄色い花々も、醸し出される上ーラに圧され、ざわざわと揺らめきをみせていた。
「ワタシはなァ……、遠隔で痛めつけられるという特殊プレイを行っている! というか、ほぼ毎回そうだッ!」
「な……、なんですって……! そんな高度なおプレイを!」
「あぁまぁ……、そうだね。
リョウスケはそういうことするね……」
というかソレ、恋愛経験のカテゴリなのか? と、穏やかにシャルエールは思いつつ紅茶をすする。
ノリでシリアスになってみたはいいものの、どこまでそのテンションでいようかとちょっと迷ったのだった。
しかしバトル中のマーゴットは穏やかではない。
カタカタとカップを持つ彼女の手が震えていた。
「私ですら、未だ『手をつなぐ』という階段を上ったばかりですのに……!
素晴らしい武器ですわね! アールメイア!」
「姉様……、それくらいで僕たちにマウントを取るつもりだったのですか? 随分小さい四歩分ですね」
シャルエールがいち早く悪ノリのテンションから離脱した。
そう……、ぶっちゃけ疲れたのだ。
マーゴットのこのノリは、自身をはるかに凌駕するということを長年の付き合いで知っている。ので……、まぁその、ゆるやかにツッコミに回ることにした。
自身も変人であるということは、一旦棚上げにして。
「ギャギャギャ! あの男はロリコンではない! ゆえに、時々容赦がねェんだよ! 幼女という身体を、全然理解していないもんでなァ!」
「くっ……、なんて羨ましい……、じゃない、羨ましいんですの!」
「姉様、言い直せていない」
クッキーがおいしいと思いながら、シャルエールは要所で言葉をはさんでいく。
今日のクッキーはレモンと蜂蜜を練りこんである、風味の利いた一品だ。グルダル氏、絶妙の仕事ぶりだった。
「……ちなみに、具体的にはどんな感じに?」
「……ンとな。
( 括弧内にはお好きな単語をお入れください )で、( )なるだろ? ……それで( )みたいな感覚がキて……」
「あらあら……。
あらあら、まぁまぁ……」
「姉様、股をもぞもぞしないで」
ちょっとだけ汗ばんだ瞳を見せるマーゴットは、一度冷静になりコホンと息をつく。
「ふぅ。……引き分け、ですわね」
「圧倒的敗者だと思うのですけれども」
優雅にたたずむ彼女を見て、メアは楽しそうに笑う。
「ギャッギャッギャッ! あァ面白ェ。こんなにもブレが無いヤツ、初めて見たぜ。
アンタ……、殺される間際になっても、そういう感じなんだろうなァ」
「もちろんそうありたいものですわね。
このマーゴット・ミスリルファヨンは、どんなときでも己として朽ちていきますわよ」
芯の強さはやはり、かなわないとシャルエールは内心思う。
ブレなさ。
自身の考えを強く持ち、それを実行できる心を、何よりも尊敬している。
「まぁそれとこれとは話が別だけどね、姉様。
十歳の幼女に恋愛マウントをとろうとしたり、女児でも経験がありそうな部分で勝とうとしたり、挙句の果てに、どう言いつくろってもボロ負けなのに引き分けだと言うのは、正直どうかと思うよ」
「ウフフ、大丈夫ですわよシャルエール。
誰が負けと言おうとも、心が折れなければそれは負けではないのですわ?」
「オイ大丈夫かコイツ。愉快ではあるけれど、時折話が通じてねえぞ」
この愉快なキャラクター性の前では、アールメイアでもツッコミに回る(回らないと場が成り立たない)。ある種、強者の姿であった。
「それで……、シャルエール」
「何でしょうか姉様」
「結局貴女は……、どこまでナニをしたことありますの?」
「ナっ、ナニをっ!?」
隣に静かに座るマーゴットから、特大の爆弾が飛び込んできた。
どうやら閑話休題と見せかけて、まだコイバナは終わっていなかったらしい。……まぁ、先ほどのものをコイバナとカウントしていいかは置いておいて。
「どこ、までと、言われても……、その……、えぇ、」
鎧の下が汗で濡れていくのを感じる。
滝のように体にまとわりつく汗は、とどまることを知らずあふれ出てくる。
「普段からパンツパンツって言ってンだから、さぞや特殊なプレイをしたことあンだろ?」
アールメイアのこちらのセリフは、シャルエールにとっては性質の悪いことに、煽りの発言では無かった。
彼女はある意味でどこか純粋。ゆえに、この年齢の女性ならば多少の経験は当然あるものだと思っての発言なのだ。
あ、先んじて言っておくとシャルエールは生娘です。
「アールメイア……ッ! う、うぐ……、それは……、」
どんどん額から零れ落ちる汗をハンカチでぬぐう。
これまでのどんな死地よりも、追い詰められている気がした。
「貴女先ほどさんざん私にツッコミを入れておいて……、よもや自身もそこまで経験がないとは……、言いませんわよ、ね?」
耳元に、甘い息がかかる。
――――くそう、男性経験が乏しいくせに、どうしてそんなにもアダルティな吐息が出るのだ! これが生まれ持った者の差なのか!
などと見当違いな敗北感を受けているのはさておき。
シャルエールは苦し紛れに、二人に言う。
「ビッ、」
「び?」
「ビー(?)までならッ! あります!!!(?)」
「……あらまぁ」
「おお、そうなのかシャルエール」
「ま、まぁね……。僕ももう立派な淑女なのでね」
立派な淑女はきっとそんな隠語を使わないとされるのだろうが、ここではそれは置いておこう。
彼女は立派に『B』と発音した。
そしてその発言の、責任をとらなければならない。
彼女の中に、その知識や経験が無くともだ。
「と言っても私、『B』とはどこまでを指すのかを詳しく知らないのですわよね…。先ほどの『手をつなぐ』ということは、入るのかしら?」
「入るわけねえだろ。Aがそもそもチューだぞチュー」
「あらまぁ」
頬に手を当て優雅な所作を行うマーゴットを見て、シャルエールは「やってしまった」と後悔する。
――――『B』、ビーって何だろう。
当然のことながら、マーゴットが先ほど発言した『手をつなぐ』ことすらもしたことが無い彼女は、性的な前戯行為などしたこともないわけで。
――――こ、これは! 仕方がないが……、憶測で発言して場を誤魔化すしかない!
騎士道精神にあるまじき思考回路だったが、何故かこの姉に負けたくないという謎の意地が出てきてしまう。
彼女は意を決して、言った。
「ま、まるで……、マグマのように体が火照るのです!」
「ふむ」
「はぁ」
――――違った、か? ……い、いや、入りの単語としては、間違っていないはずだ!
――――そ、それに。あのときにリョウスケにされたアレは……、そんな、感じだったし、……あれを誇張させれば、たぶん、そんな感じになるよな?
眉を顰めるリアクションをとる二人を前に、シャルエールはなおも説明を続ける。
「え、えーと……、パンツを、かぐと、ですね。鼻を抜けるようなツンとした匂いがあり……、何とも興奮していくというか……。そう、布地越しにか、カレを感じると言っても過言ではありません。そうすることで僕は、まるで溶岩がごとき体温を――――」
ここから先は一旦カットさせていただきたい。
この小話が無事掲載されるための、救済処置ともいえる。
なんたってコイツら、直接的な単語を配慮なしに使うのだから。
どこまでも攻めた発言を繰り返す彼女を、サイレントで想像いただければ幸いです。
~見守ろう、銀片翼のシャルエール~
……、…………! ……ッ!
………………! ……、……ッ! ……!
……………………ッ、
…………ッ! …………ッ!
「――――それが男性の、ソレでそういうアレ、だったのですッ……!
はぁ、はぁ……、い、以上、僕が行った? ビ、『ビー』についての説明です……。ご清聴、感謝……!」
「……なる、ほど? ですわね……」
「うーん……、ちょっとよく分からんところもあったが、なかなかエロい体験してんなシャルエール」
「そ、そうだろうか……? ハ、ハッハッハ! 騎士ともなれば、それくらいは、ね……」
そもそも今話したようなことが人体に可能なのだろうかとシャルエールは疑問を持ちつつも、一旦自身の(創作)話を終了した。
彼女には強く生きてもらいたいばかりである。
まぁ前提条件として。
お前そもそも羽とか羽毛の件があるんだから、人前で裸になれないじゃねーかというツッコミは置いておくことにしよう。
そんなこんなで汗だくとなったシャルエールの回復をもってして。
この女子会は、まさかの後半戦へと突入するのだった。




