32.熱き羽(後)
「うぉぉぉんんッッ!!」
シャルエールが大きな羽をばたばたさせながら、今日も盛大に男泣きをかましていた。
あの町を旅立って三日目。
現在、次の目的地へ向かう道すがら、野営中である。
そんな中彼女は、未だに故郷の家を思い返しては泣いている。
まぁ……、気持ちは分からんでもないけどな……。
「というかシャルエール……。そこまで悲しいんだったら、やっぱ家に帰ったらどうだ?
いや、新しい仲間が増えるってのは、嬉しいっちゃ嬉しいんだけどさぁ……」
なんつーか、めっちゃ後ろめたい。
というか申し訳なくも思えてくる。
「だいたいシャルエールさぁ。その……、どうして俺らに着いてくる気になったんだ?」
「うん?」
泣き崩れているシャルエールは顔を上げ、俺に向き直る。
「さっきも言ったけど、仲間は歓迎だ。メアが言うように、シャルエールは強いから、自衛もできる。その……、ハ、ハーレムとやらの要員条件に、当てはまってるとも思うけどさ」
平たく言えば。シャルエールが俺たちに着いてくるという、メリットがよくわかっていない。
もっと言えば、これまでの生活と俺たちとの生活を比べた時。
圧倒的に前者のほうがシャルエールにとって都合がいいのではないかと思う。
恩ある家の元で強さを探求する。
これまでどおりが、シャルエールにとって最良の人生な気がする。
「マーゴットさんも、そのお付きの人たちも、気がよくていい人達だったし……」
俺がそう言うと、今まで興味なさそうに静観を決め込んでいたメアが、テントの中から顔を出した。
顔が焚火に照らされて、ジト目がちだが瞳が輝いて見えた。
「そりゃ違うンじゃねえか? 豚ァ」
「おう? ……メア、どういうことだ?」
「順序が逆だろ、順序が」
順序……?
なんの順番が違うってんだ?
「着いてくることは……、シャルエールの中では決定済みだったんだよ。
だから……、これまでの生活を捨てて外に出ることは、もうコイツの中では変わらない」
「い、いやだからだな……。どうしてそこまでの決定が出来たんだって話をしてんだよ」
さすがに口には出さないけれど……。あんないい人たちに拾ってもらったのだ。
俺だったら恩義を感じて……、出たくても出られなくなっちゃいそうだけどな……。
そこが少しだけ引っかかってはいた。
シャルエールだって、恩義や忠義に熱いタイプだと思うのだけれども。
「……僕は、ね。貴族・シャルエールの前に、武人・シャルエールなんだ」
涙をぬぐい。
彼女は強い目をこちらへ向ける。
「……強くなると、マーゴット姉様に誓ったんだ。僕は。可能な限り……いや、可能な領域を超えて、更に強くなると」
伏していた身体を起こし、彼女は言う。
「戦う者として……、これ以上強くなる道が目の前に広がっているのに。
それに向かっていかないのは、――――姉様に対する裏切りになる!」
硬く握られた拳は。
焚火に照らされ、赤く燃えているようにも見えた。
静かな闘志が沸き立っていた。
決意を決めた、真の意味で戦う者の、瞳。
そして……、森の静寂を切り裂くような声で、彼女は声高に言う。
「それでも寂しいものは寂しいんだあああああああっ!!
二律背反が憎らしいのさあああああああっ!!」
「あーやっぱうるせえな! わかった! わかったからシャルエールッ!」
だから落ち着け。
あんまり騒ぐと周囲の魔物が寄ってきてしまう。
今回借金はチャラになったけど、その分余計な金もあんまり持たせてもらえなくなってしまって、安物の魔除けしか買えてないのだ。
コボルトの大群なんて呼び寄せたら、たまったもんじゃ……な、い?
「グルルルルッ!」
「ほら囲まれてんだろぉぉっ!?」
喉を鳴らす、人狼種と魔狼の群れ。
周囲八方を完全に包囲されていた。
「僕の悲しみに付け込んだか、邪悪なる者たちめ……!
いいさ、受けよう! 悲哀を力に変えて見せる!」
「悲しんでるのはお前だけだから!」
「ギャッギャッギャッ! 暴れてもいいのかァ!?」
「良くない! 森がなくなっちまうから!」
…………。
……。
こうして。
彼女は悲しみを少しずつ振りほどきながらも。
俺たちのパーティに、正式に加わった。
翼の武人・シャルエール。
麗しき出で立ちからは想像できないほどに、熱く、闘志溢れる剣戟を見せる者。
その情熱はいつか、勇者と共に並び立てる強さに、
届くのかもしれない。
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