29.感想戦
「人……、なのか、アレは」
シャルエールは誰に言うでもなく、そんな言葉を漏らした。
アールメイア・エトワールは、間違いなく人間だ。
けれど。
あまりの強さに……、つぶやかずにはいられなかったということか。
まぁ無理もないよな……。
心の奥ではもちろん、人間種として認めているのだろうけども。
彼女は特に、メアの安全な部分しか見ていないからなぁ。
メアが俺に惚れたと自覚して以降の、ちょっと丸くなった部分しか見ていなかったから……。
ただ……。
残念なことに俺は知っている。
アールメイア・エトワールという勇者は、世界を救うなら何でもする……、割と悪逆な部分も持っているということを。
乱暴とか、粗野とか、そんな平和な単語で片づけて良いものではないということを、嫌というほど知っている。
けれど知ったうえで――――あんな姿を見たうえで、俺は思うのだ。
それでもアイツは、人間だと。
俺だけは。
少なくとも俺だけは、認めていなければならない。
そうでなければ。
過去に俺に付き従い、そして勇者に負けていった元・部下たちに、示しがつかないから。
バケモノ側っていうのは、魔王だった俺や、俺の部下たちのことを言うのだ。
人間外だということに、誇りを持っていたやつらだったから。
だからメアは。勇者・アールメイアは。
人間だ。
絶対に。
「あいつは人間だよ……、シャルエール。
その証拠に……、あぁやっているアイツは、楽しそうだろ?」
「え……?」
シャルエールは疑問のまなざしを俺に向ける。
だって、そうだ。
あいつは今、心の底から楽しそうに笑っているのだ。
「さっきもちょっと触れたけど……。
俺と連れ立つ前のアイツはさ……、こんなボーナスステージを用意してなくても、あぁやって暴れまわっていたんだ」
「あぁ、そうだったらしいな」
「うん。だけど……、ちょっとずつ。俺も気づかないうちに変わってくれいたみたいでさ……、メアは」
だからこそ、最近はあぁやって力をここまで振るうことは無かった。
俺が止めてたからというのもあるだろうけれど。
きちんと、チカラを振るっていい場所でしか、全力を出していなかった。
久々に暴れられて気持ちよさそうにしているからこその、心底の笑顔。
「言いつけを守ろうと、努力してくれてたんだよ、あいつは。
考えてみりゃあ、クリスタルゴーレムを本気で破壊しようと全力を出したら、クリスタルの洞窟自体が崩壊してたかもしれないからな……」
そうならなかったということは、きちんとセーブをしてくれていたということで。
ちょっとわかりにくいんだけどなー……。
「だからキミは……、私のあんな姿を見ても、驚かなかったのだな」
「ん? あぁ、そうだな。これでわかってくれたか?」
一応説明はしていたが……、まぁ角や牙が生えた状態を目の当たりにしたのだ。
これで信憑性は上がったかな。
「まぁね。……ただ、キミが僕の裸を二度も見たという事実は消えないけれども。若干のドヤ顔は、少しイラつくね」
「す、すみません……!」
「フフ、まぁいいさ」
しかしと続け。
彼女はちょっとだけ遠い目をして。
つぶやいた。
「強さの差に……、絶望している場合では無いな、コレは」
「ん?」
俺が疑問を飛ばすと同時。
彼女はすぐに視線を上げて言った。
「決めたよリョウスケ。僕はキミたちについていくことにする。
戦闘面の強さを、アールメイアから。そして――――」
シャルエールは、絶望の中に、希望を見出したような瞳で。
俺をしっかりと見る。
「心の強さを、キミから学ぶことにするよ」
はっきりと言葉にした彼女は、どこか、輝いて見えた。
「……おう。
けど俺、そんなに心根の部分、強くないぞ?」
「キミ……、割と空気読めないところあるよね。
そう思っていても、今この空気で言わなくても良いだろう」
そんな風に彼女からツッコミを受ける。
空は昼から夕方に差し代わろうとしていた。
いやいや、本当の話。
だって表面上は驚かなくなっただけで、あんな魔獣みたいな姿した人間と常に近くにいるのだ。
内心ビクビクですよ。
そんな。
血みどろの勇者様が、まるで砂場でめいっぱい遊んだ子供みたいなテンションでこちらへ近づいてくる。
「メアーっ! お前、やりすぎだー! 上のルミエラを見てみろ! 魔力の出しすぎでボロボロになっちまってるだろうがー!」
「うるせええ! 気持ちよかったンだから、良いだろうが! 多少は大目に見やがれってんだッ!」
やれやれ。
本当に全く、困ったやつである。
大変だけれど……、俺は今日、一つだけ。
少しだけ、報われた気がしたんだ。
サリエナさんとの洞窟での会話を、思い出す。
『しかしまぁ魔王、流石ですね。本当に……、よくしつけが行き届いていると、感心しました』
「へ? どういう意味です?」
突然の俺への誉め言葉に、少しだけ驚きの声を上げてしまう。
『勇者はこちら側に、何かの思惑があると考えていた。
そして私の言葉を聞いた瞬間に――――、その思惑が善意であると瞬時に理解した。これを素晴らしい成長と言わずして、何と言いましょう』
「善意を……、メアが感じ取った……?」
そうか。
そうなの、か……。
『これまで様々な逆境と共に生きてきた彼女にとっては、勇者に対しての善意など、ありえないものでした。
常に一人。常に孤独。一人で戦う者にとって、他人から向けられる善意など、思考の邪魔でしかない』
そう。それがアイツの、生きる上でのスタンスだった。
だから俺も、最初驚いたのだ。
コミュニケーション自体は、わりととれるという事実に。
けど……、俺も忘れてたな、そんなこと。
『善意を感じ取るということは……、その人物を表面上だけででも信用しなければ成立しません。
自身にとって、無償で有益を提供してくると理解しなければ、善意を受け取ることはできませんから』
アールメイア・エトワールは人間だ。
もちろんそんなこと、俺が一番理解している。
理解してやりたいと思ってた。……けど、俺もやっぱりまだまだだった。
「あー……、なるほど。そうっすねぇ。
……悔しいな。それに対してきちんと、気づいてやれれば良かった」
他者に言われるよりも前に。
この事実に気づいてやりたかった。
恋愛感情とか一先ずは抜きにして……、
どうやら俺はあいつのこと、きちんと、人間的に好きみたいだからな。
「俺も精進しますわ、サリエナさん。
もっともっと、アイツの手綱を握れるように」
『えぇ、期待していますよ、リョウスケさん』
そんな風に。
微笑をしたサリエナさんは、どこか慈愛に満ちていたなと、思い返す。
「しかしメア……、増えた腕とか、角とか尻尾とか……、コレどうすんだ?」
「まぁそのうち元に戻るだろうぜ。羽はホレ、もう消えてるし」
「なるほど……、なら大丈夫か」
そうやってそのまま帰路につこうとする俺たちを、シャルエールが呆れてついてくる。
「これは……、僕の姿程度じゃあ、驚かないわけだ」
本日二度目の感想を口にして、彼女はため息をついたのだった。
こうして、この荒野にはまた、伝説が生まれた。
どうやら勇者と呼ばれる者が、村に襲い来る魔物を未然に打ち倒したという、捏造された伝説が。
孤軍奮闘した勇者は、あの伝説の、クリスタルの盾を装備していたという……。
そのクリスタルの輝きは、全ての魔物を消滅させるほどの輝きを持っていたのだとか……!
みたいなテンションの……、噂話。
協力者は、ミスリルファヨン家のマーゴットさんです。本当にありがとうございました。
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