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28.勇者無双・2



 防御魔法の(へき)に、弾けた魔物の体液がかかる。

 それを呆然と眺めるシャルエールを、俺は背中で感じ取っていた。


「あれは……、とんでもないな」

「あぁ……。すごいやつだよ、あいつは。恐れ入る」


 結界を緩めないよう注力し、俺は彼女の言葉に応える。

 感嘆のため息を漏らす彼女の視線は、もうメアを追って離さない。


「この距離だからまだ目で追えるが……、間近で見ていたらとんでもない速さなんだろうな、アールメイアは」

「おう、すげえぞアイツの速さは」


 と言っても、単純な最高速だけなら、シャルエールのほうが速いかもしれないけどな。

 ただまぁ、メアは物理速度に加えて判断速度もすごいので、総合的なスピードパラメーターも、メアに軍配が上がるかもしれないか。


「リョウスケ……、改めて質問がある」

「ん? なんだ?」


 結界を張る俺に対し、シャルエールは邪魔にならないよう声をかけてきた。


「洞窟内で、サリエナさんに説明を受けていただろう? 今回の、ことの顛末を」

「あぁ、そうだな」

「僕はきみたちの事情があまり伝わっていなかったため……、正直薄くしか理解できていなかったんだ。できればその内訳を、あらためて聞かせてはくれまいか」

「あぁ……、なるほど」


 確かに。

 俺もメアも、あの水場では。あまり詳しい部分までは説明してなかったもんなぁ。


「まぁそうだなー……、どこから話すべきか」


 うーんと考えて、

 ひとまず俺は、ちょっと前の話をすることにした。


「前までのメアはさぁ。あんな風に、ところかまわず暴れまわってたんだよ。どこに行くにしても」

「ふむ……。確かに、普段の態度を見ていると、なんとなくわかるな。今はマシになった……、みたいな風に話していたが?」

「あぁうん。マシになった。なったんだけど……、」


 そう言って俺は言葉を区切り、

 今のメアの表情を見て、また言葉を続ける。


「最近のメアは……、やっぱりどこか大人しすぎたからなぁ……。知らず、ストレスがたまってたみたいなんだよ」

「ストレス……か」

「あぁ。聖剣の祠(はっさん)にも全然行けてないし」


 元々が、地層を変えるほどに大暴れしていたくらいには乱暴者だった。


 思い通りに魔力を発射し、

 気分通りに魔物を殺戮し、

 感情通りに殲滅せしめる。

 そんな生活(せんとう)送って(おこなって)いたのだ。


「俺っていう枷がついてからはさ……。チカラにリミッターはかけられるわ、魔法は思い通りに打てないわ、一人では生活できないよう制限されるわ、挙句には、一度チカラを奪われるわでな……」


 そんなもの。

 ストレスを溜めないほうがおかしい。

 しかも神側からの命題は、『世界を平和にすること』というざっくりしたものだ。

 ゴールすらもわかっていない。



 だからまぁ……。この、『結界を張った戦闘行為』は。

 天界側からの、メアへのご褒美なのだそうだ。



 文化はちょっと違うんだけど……。

 俺は昔の格闘ゲームの、車を破壊していくボーナスステージを思い出していた。


 相手を倒すか倒さないかではなく、どれだけ破壊することができるかのステージ。

 うん。あれはあれで、ストレス発散になったりするのだ。

 今のメアが……、まさにソレだ。


「道中に配置された、明らかに強すぎるクリスタル・ゴーレムとかも、天界側からの差し入れ(・・・・)だったっぽいしなぁ……」


 強敵に対して、あいつは喜びを覚える。

 命がけの状況にこそ、燃え上がるのだ。


「悪かったなシャルエール。そういうのに巻き込んでしまって」

「フッ……、構わないさ。

 ……こちらもこちらで、収穫はあったのでね」

「……? そうか?」


 と。

 まぁつまるところ……。

 最初から、仕組まれていたということだ。

 魔力分配のチュートリアルで、無事新たなるルールを敷くことに成功した天界側は、その労い(・・)として、こういう場を用意した。


 この洞窟内の魔物たち、および、現在メアが暴れまわっている件に関しては。

 完全に女神二人の、『思惑』通りなのであった。


 彼女らからの、メアへのプレゼント。

 わかりやすく言うと。

 女神ルーリーの件で迷惑をかけたという彼女への、『好きに暴れてもいい券』なのである。


 善意だ。

 だからこそメアは。

 それを感じ取り、評価を改め、ルミエラを名前で呼ぶようになった。


「ルミエラも、どこから計算していたかは分からないけどな……」


 元々彼女は、メアにどうにかして暴れまわってもらいたかったのかもな……。

 だからこそルミエラ自らが地上に降りて、結界を大々的に展開しているのだろうし。


「ほんとに……、分かりにくいよなあ女神って……」


 ルールで自由に動けないのも関係しているのだろうか。

 そこらへんは俺には分からない部分だけれども。


「さてそれじゃあ後半……、気合い入れていきますか!」



 ――――しかしまぁ魔王、流石ですね。本当に……、よくしつけが行き届いていると、感心しました。



 その言葉を思い出し、

 俺は、テンションが上がった。


 結界に力を込め、暴風雨を眺める。


 あぁそうさ。

 こんなに、

 嬉しいことは、ないのだから。












 オーガの腕が飛ぶ。

 ワーウルフの足がちぎれる。

 ガーゴイルが細切れになり、グリフォンが消滅した。


 地獄のように燃え広がる戦渦。

 空は凍てつき、地は燃え、岩は砕け、生命が次々に終了していく。


 延々と沸き上がる魔物の群れを、凄まじい速度で蹂躙する影が一つ。

 勇者と呼ばれる少女は、これでもかというくらいに、自由だった。


 自身の身体に流れる魔力や、それ以外の何かのエネルギーを、躊躇することなく垂れ流していく。

 これが全力の遊び場(サーキット)。全霊の箱庭(グラウンド)


 この領域を破壊一色に染め上げる、悪魔なる幼女の声が、こだまする。


「ギャギャギャッ!」


 笑う口元から生えた牙は、明らかに伸びている。

 そんな牙を生やした口から。

 眼前に迫るスケルトンの群れを、炎を吐き出し焼き尽くす彼女。


 更にその残骸を――――背中から新たに生えた二本の長い腕で、粉々に砕いた。


 動作が終わると同時、高く高く飛翔し……、ハーピィの群れへと突っ込んでいく。

 ぐるりと回転しつつ、尻から生えた巨大で長い尻尾を振り回し、この群れを一蹴。

 八匹の鳥獣族は胴から真っ二つに切り裂かれ、自重に任せて地面へと落ちていった。


「翼……、綺麗だよなァ……」


 つぶやくと同時、背中の腕の更に内側から、大小の羽、合わせて四枚の翼が生えてきた。

 天使のように綺麗な羽は……、魔物の集団に再び突っ込むや否や、即座に血に染まり赤くなる。


 どこまでも膨れ上がる魔力。

 行き場をなくした魔力が飛び出たかのように、今度は額から鋭い角を二本出現させた。

 まがまがしくドス黒い角の根元は、どくどくと薄く脈打っている。


 そして身体には様々な紋様が浮かび上がり、おどろおどろしさを増していた。


 手も足も、爪は伸び放題で。

 すでに彼女が初期にまとっていた鎧は、局部をわずかに隠す以外に、ほとんど残ってはいない。


 そんな頼りない装甲だとしても、彼女を貫ける生物はこの空間には存在しないだろう。

 生命種の頂点に、現在のアールメイアは君臨している。


 洞窟内で短くなった髪は逆立ち、赤いメッシュの部分が発光していた。

 右目は竜をも石化させる瞳。

 左目はどんな霊をも見ることができる瞳。


 それぞれを起動させ、無限にも思えるチカラをその身で振るう。


「アァ――――楽しい、楽しい、楽しいィィィッッ!!

 ギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッッ!!」


 笑い声が響き渡ると同時、その声からあふれ出る魔力の残滓だけで、数体の魔物が消滅していく。



 そんな風に。

 死の中を自由に泳ぐ幼女。


 全ての生物を破壊しつくす人類。

 勇者、アールメイア・エトワールの破壊活動は。

 この後二時間ほど続き――――



 およそ二千八百体の上級モンスターを、殲滅せしめたのだった。





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