26.サリエナでいこう!!
「元々私は、あなた方の上司に当たりますからね。
あなた方がピンチに陥り、その場を目撃しているのであれば――――、介入することは可能です」
いつの間にか重い盾を持ってくれているサリエナさんは、襲い来る動く鎧を細いおみ足で蹴っ飛ばしながら言った。
意外と動きが暴力的だなこの人……。ちょっとメアの動きを思い出す。
「シャルエールが私と通信をしていたいと言い出すのも偶然の産物。それでたまたまあなた方のピンチの事象を見てしまった。
ここで魔王を殺させると、天界側にとっての明らかな損失となる。よって、救出せざるを得ないという、大義名分が生まれたわけです」
「は、はぁ……」
分かるような分からんような。
まぁ元々、天界側のルールは概念的な部分が多い。
ルールの穴や抜け道も、用意しようと思えばできるのかもしれない。
ルーリーが俺たちにやったときも、確かルールの穴ギリギリをついてのことだったみたいだしな……。
「ただ通常どおりに地上へ向かったのでは、おそらくこの地下ではなく、洞窟上部などに出現してしまうおそれがあった。
ですので、『天罰大痛輪』の魔力が蓄積される部位にチャンネルをつなぎ……、無理やり召喚されるかたちと相成ったのです」
「うん、そこも良くわかんないっすわ」
ただもう、理解できるような概念ではないのかもしれない。
この場にメアが居たらわかりやすくかみ砕いて……、くれないかぁ。
あいつだったら俺そっちのけで、更に小難しい質問をして一人で納得していてそうだ。
「まぁ……、機を見計らっていてくれたみたいで、何よりです。
助かりました」
「いえいえ。召喚のさいに魔王の性的なエネルギーを使用させていただきましたからね」
もう何度目になるか分からない、モンスターからの強襲を難なく防いでくれるサリエナさん。
盾使いがうまい。神々しいデザインも相まってか、元々この人専用防具みたいにも思えてきた。
「あなたの日ごろの性欲がなければ、もしかしたら不完全なままに終わっていたかもしれません。強き性欲に、感謝を」
かっこよく変なことを言うな。
ほんと、ルミエラよりも扱い方が難しいわ。
ちなみに次のサリエナさんのセリフは読み飛ばしてくれ。
「そもそも魔王の性的エネルギーと魔力は切って切れないものとなっており、そこに一つの『孔』を開け、私という魔力を通していきます。その過程で重要だったのが、元々女神が与えたとされる『他者へと強制的に痛みを与える』という魔法。それと同時に、男性の性的エネルギーを減退させるという魔法。これらの『元』を道線とし、そこを道となぞらえることにより、私という神を通すことが可能になるわけです。つまり魔力と神通の複合的なものととらえていただけばよろしいでしょう。女神ルーリーのとんだ置き土産といったところですね。今だけは彼女に感謝を表してもいいのかもしれません。そして、その魔力と神通を複合させたことで、人間界へと関わることのできないフィルターめいたものを、女神である私が一時的に通り抜ける状況をつくりだすことができます。フィルターは神通・神聖めいたものを通さない。けれど、混ざり合ってあいまいになったものなら通してしまいます。概念的に、神と地上人の間の存在となってしまえば、あとは現出するタイミングのみ。運命に関わることのできる、コンマ数秒のタイミングを見計らうだけです。戦力的に見てもリョウスケ・セキウチが確実に絶命・もしくはそれに準ずる害を被るというタイミングでしか、私たちはあなたの運命に関われないわけですから。まぁ、ギリギリ召喚の道を作ることのできる魔力量を貴方が保持していたことと、絶体絶命であるというタイミングの比率により、私の身体は一本の線となりあなたの魔力とリンクを果たし――――」
「長い長い長い長い!」
そして分からん!
シャルエールに至ってはもう諦めて戦闘しかやっていない。
なまじ俺は、今は非戦闘員なので、話に耳を傾けないわけにはいかないし。
「まぁ簡単に言えば……、」
サリエナさんは言葉をそこで区切り、かっこうよく言った。
「あなたのお●●●様は、大丈夫です」
メガネを光らせ、無表情で親指を立てる彼女。
真面目な顔で変な単語を使わないでほしいぜ。
「それでは……、現在全く使えないただのオッサンと化してしまった元・魔王のため、まるで奴隷のように働くことに致しますね」
そう言ってシャルエールよりも前に立ち、華麗な蹴り技で魔物たちを一蹴していく彼女。
辛辣な物言いは相変わらずか……! 事実が心に痛いぜ。
「それにしても何かノリノリすぎません……?」
「……さて、気のせいでは?
まぁ元々私は、そこまで物静かなほうではありませんからね。テレビも叩いて治すタイプです」
「それで治らないことはオッサンの俺でも知ってますからね。ただ単に気性が荒いだけなんじゃないっすか!?」
「安心してください。ベッドの上では物静かですから」
「聞いてねえよ!? あんたの性事情なんて聞いてねえよ!?」
「それはもう毎日スヤスヤですよ」
「ただ単に寝つきが良いだけじゃねーか! ベッドの上っていうか布団の中だろそれ!」
走りながら行われる俺たちの会話に対し、「仲良いなぁ」とつぶやくシャルエール。
いや実際。
軽口を叩きあってはいるが、これでも出会ってまだ、体感二日間くらいが良いところだからな。
喋り口調が丁寧なだけで、かなりフランクだよなこの人(神)。
「ちなみにメガネは伊達です。
真面目に見えるという理由のみで着用しています」
「そんな中学生みたいな理由だったんです……?」
「先ほどから、てれび? やら、ちゅうがくせい? やら、僕の知らない単語ばかりが出てくるね」
「あぁまぁ……、そこはお気になさらず……」
その後もサリエナさんはいろいろと絶好調だった。もちろん表に出るテンションは変わらず。
うん……、もうなんか、好きに生きろ。
そんな風にげんなりすることを繰り返し、走り抜け……、
そして。
一階層目へと戻ってくることに成功したのだった。
「しかし……、ほぼ一日だけで、クリスタルの洞窟を走破してしまったな……。他の冒険者が聞いたら卒倒しそうではあるね」
「言われてみれば、……確かに」
そうか、一日……か。
メアのチカラがあったとはいえ、とんでもないことをやってしまった感がある。
かかった時間は約一日分。これに関してはいつも通りだが……。
「濃い一日だったなぁ……!」
なんか疲労度がいつもの非ではない。
アレか。
体中の魔力量とかが安定していなかったからというのもあるのか。
強くなったり弱くなったり(そしてそのせいで落命しかけたり)したせいか、安堵と共に一気に疲労が押し寄せてきた。
「…………、けど」
俺たちは。
これから更に、濃い状況を目の当たりにしなければならない。
勇者の戦いの元へと、駆け付けなければならないのだ。
「――――さて、名残惜しいですが私はここまでです。またどこかでお会いしましょう、魔王」
天界への扉を作り、そこへと歩みを進める彼女。
俺はそれを呼び止め、頭を下げた。
「ありがとうございました!
その……、助けてもらったことも、ですけど」
俺は一瞬言いあぐねて、
「メアのことも――――」
と、続けた瞬間。
深い深い、地鳴りのような振動が起こる。
少し離れた荒野にて。
轟音が鳴り響いていた。
「礼ならあとで結構ですよ、魔王。
それよりも早く……、ルミエラを手伝ってください」
「……っ! わ、わかりました!
よし、それじゃあ行くぞ、シャルエール!」
「あぁ、了解した」
サリエナさんと分かれて、俺たちは荒野へと急ぐ。
そしてそこにある光景を、見やる。
俺は……、どこかいつもの光景だと納得し。
シャルエールは。
戦慄し、その場に立ち尽くしていた。
魔物の軍勢は、広い平原にところ狭しと、敷き詰められているように発生していた。
数はもう、どのくらいなのか分からない。
数百か、もしかしたら千体くらいいるのかもしれないな。
――――そしてその中央で、暴れまわる。
暴風雨の化身がごとき、人間が一人。
「なん……、だ、アレは……」
あんなの……。
僕の知っている『強さ』ではない。
そんな風に。
彼女は二言だけ、力なく漏らした。
「見ておくといいさ、シャルエール。世界は……、残念なことに広い」
遠視の魔法越しに、俺たちはアールメイア・エトワールを見る。
それでもまだ、九割。
あれでもまだ、あの頃には足りない。
膨れ上がっていく魔力。
繰り出される数々の暴力を見て、
俺はどこか懐かしそうに、口にした。
「そうだ。あれが……、メアの」
対、集団戦時の、姿だ。
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