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25.出現!



 アールメイア・エトワールという勇者が、何を感じとり、何に納得し、飛んで行ったのか。

 その内訳は――――至極簡単なことだった。


『こちら側の思惑に、いつ勇者が気づいたのか。それは分かりかねますがね。しかし当然のように、今回の一連には違和感を覚えていました。素晴らしい』


 そんな風にサリエナさんは言う。

 まぁ……、かくいう俺も。

 全く気にしていなかったわけではない。


 シャルエールの件が挟み込まれてきたことと、思った以上にクリスタルの洞窟自体へ簡単に来ることができたことで忘れかけていたけれど……、

 最初から。いろいろと疑問点はあったのだ。


 そもそもこの天界側からのクエストに、何の意味があるのか。


 今までの、邪神討伐だったり、様々な悪の組織めいたものを潰したりするというのは、世界平和のためなのだから理解できる。

 先ほども話題に挙がった『伝説の剣』も、邪神に対するためのものだから向かうのもわかる。


 しかし今回の盾の件……というよりもクリスタルの洞窟の件自体。

 向かう理由付けが、世界を平和にするというものと、直接は関係がなさそうなのである。


「というかきみたち、予想以上にとんでもないものと戦っていたんだね」


 という風にシャルエールはリアクションをした。

 言われてみれば確かにとんでもなかったなぁ……。


 まぁでも、その発言からもわかる通り。

 今回はスケールが小さすぎる。


 世界が滅ぶような、危機的な状況というものが存在しない。

 国家転覆でさえないレベルだ。


『なるほど。きちんと違和感を持っていたのですね。意外でした』

「まぁ……、これまでのことを考えた結果ですけどね……。ただまぁ不思議なことに、スケールが小さい案件だってのに、死にかけましたけれども」

『そこは反省してください』

「……俺のせいじゃないところもあるんですが」


 とまぁ、そんな風に俺にだって知能はあるんだぞというところをサリエナさんに見せたところで。

 説明の結論が、口に出されたのである。



『まぁつまりは……。

 今回は我々からの、ちょっとした――――』










 二時間が経過して。

 理由の説明を受けた後、盾を台座からとり、俺たちは洞窟を最短距離で駆け上がっていた。

 ……これで今頃は仕掛けとやらが起動しているはずだが。


「ホントに大丈夫なのかな……」

「そこは、アールメイアを信じよう」


 少しだけ魔力を帯びた盾は、現在は俺が持ち運び、シャルエールには身軽な状態でモンスターを蹴散らしてもらっている。


「しかし盾って、持ち慣れていないと普通に邪魔ですね! 片手が塞がるのが苦痛で仕方ないっすわ!」

『つまり本格的に不要というわけですね。それでは、やはりこちらで回収しましょう』


 まずは出口へ向かってくださいねと、冷静な声でもってサリエナさんは続けた。

 ……『不要な伝説の武器、回収します!』みたいな業者さんとかいたりしないだろうか。前の世界の不用品回収みたいな感じで。それはそれで面白そうではあるし、割と金も回りそうではある。

 あぁでも、パチモンとかも出回りそうだなぁ……。ただでさえ贋作とかは結構出回っていると聞くし。そもそも伝説の武器なんて、普通の人には持てないか。


「そういえばこの盾、俺でもシャルエールにも持てるっぽいですよねぇ」

『えぇまぁ。厳密に言えばこの盾は、伝説になってしまっているだけで、きちんとした伝承が元になった武具ではないですから。

 誰かが作った凄い武具の延長でしかありません』

「なるほど……。邪神のときにメアが持っていた剣みたいに、選ばれしものしか持てないっていうものではないんですね」

『そういうことです』


 うわさがうわさを呼び、伝説の盾と『呼ばれていた』だけということね。


「明確に言えば伝説の盾じゃなくて、クリスタルの盾だしなぁ」


 俺が納得すると同時に、シャルエールが眼前の敵を撃破する。

 一割の力しか出せない俺と彼女とでは、すでに戦闘力が逆転していた。しかも更に、俺の一割しかない魔力の半分以上をシャルエールに譲渡しているしな。

 そのお陰で、俺はラットに襲われたとき以上に一般人である。

 ちょっと力が強いだけのオッサン状態だ。

 今なら殺し放題ですよーって感じなんで、す……が!?


「って、うおわあああっ!」

「しまった、リョウスケ!」


 一瞬の出来事だった。

 赤く光り輝く、熱いぬめぬめしたものが俺を包みこもうとしている。

 ファイアエンシェント・スライム。

 気配無く冒険者の足元へ忍び寄って来てはその体を包み込み、飲み込んで体内で炎系魔法をゼロ距離で放ち焼き尽くすという……、レア個体、兼、極悪な生物だ。


「またしても俺の命終わったー!?」


 ほんと、俺も学習しませんよね!


 情けなく俺の声が響く――――と、同時。

 俺の腹部あたりが光り輝く。


「は……?」



 いや、腹部ではない。

 ――――下腹部(・・・)だった。



 明確に言えば、俺のまたぐらの部分の薄皮一枚前方に、魔方陣が描かれている。

 光り輝くその部位から、物理法則を無視して白い指先がにょきりと生え、スライムの動きを防護魔法で留める。

 そしてそのまま、腕が出てきた勢いに任せ、全ての部位がこの場に顕現する。


「『包むと消える(ディスペアー)』」


 その人物が細い指をパチンと鳴らすと同時白い膜状の防護魔法(バリア)はそのままスライムを包み込み――――、中空に光の泡となって消え失せた。


「サ……、サリエナさん……!? え、ど、どうしてこっち側に!? というかアンタ、今どこから出てきて!?」


 無事なの!? 俺の下半身……っつーか、ソコのあたり無事!?

 ついに女神を召喚できるような部位になっちゃったの!? 『天罰大痛輪(ペインズヘブン)』によって縮みすぎたから!? どういう退化!?


「リョウスケ、困惑のところ悪いのだが……」

「え……? お、おわぁ!?」


 先ほどの衝撃のせいか、俺の股間の部分が破れてしまっていた。


「ふむ、パンツは無事だな。良きかな良きかな」

「何を言ってんだシャルエール」


 顎に手を当て、ガン見をやめないシャルエールから股間を隠す。

 そんなことをしていると。サリエナさんは腰に手を当てて綺麗な姿勢で立ち、こちらを見やる。


「ふぅ……、危ないところでしたね、魔王。

 シャルエールも、まだまだ鍛錬が足りません。もっと最悪の事態を予期して動けるように」


 メガネを白い指でついっと上げながら、彼女は冷静に言う。


「は、はぁ……。それは確かに……。も、申し訳ない」

「えぇ。……では行きましょうか」


 いやいやいやいや!


「ちょっと待ってくれませんかねぇ!? ど、どういうことなのか、せ、説明を……!」

「良いですけれど、もうあまり時間もありませんよ?

 一応時間差があるとはいえ、そろそろ魔物が地上へと進行していてもおかしくありませんから」

「い、一個だけ! 一個だけ質問が……!

 な、なんであなた、俺の……、俺の、コンナトコロから出てきたんですか……!?」


「コンナ、トコロ……? あぁ、☆☆☆☆☆ですか」

「言葉をもっと選んでほしい! そこはもっと、恥じらいをですね!」

「何を言うリョウスケよ。★★★★★は★★★★★ではないのか? ほかにどう言えと」

「シャルエールはちょっと黙っとけ! というかお前、曲がりなりにも貴族なんだろ!? そんな単語使ってていいのか!」

「姉様がよく使っていらっしゃる」

「クソッタレめっ!」


 よく使ってんじゃねえよ!

 俺の周りの女性陣って、名前しか出てきてないやつを含めても変なやつしかいねえ!


「それでは上へ向かいながら説明致しましょう。急いで立ってください。……あぁ勿論、立つと言っても、」

「わかってるから! じゃ、じゃあ走りながら説明してください!」


 さっきまでのシリアスは綺麗に吹っ飛んだ。

 女神サリエナ。まさかの介入だった。






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