24.覚悟はない
そこには、
神々しくも頑強なる、神秘の盾が存在していた。
様々な鉱物よりも強固であると、見ただけでわかるほどの神秘を内包しているソレは、クリスタルの輝きに負けずとも劣らない光を放っていて――――
「伝説の剣に引き続き……、伝説の盾ときたか」
「あぁ……。もう飽きたなこの展開」
「キミたちはいったい、今までどんな旅路を送ってきたというのか」
もうちょっとありがたがりなよと、シャルエールは俺たちのコメントに対してツッコミを入れた。
まぁ察してくれよ。
なんたってこちとら……、伝説の剣をもう一回封印しなおしてるからなぁ。不要っていう理由で。
基本的にメアは、剣はおろか武器を使わない。
メアの使い方に武器のほうがついてこれないのだ。コイツが物を大事にしないというのもあるのだが。
『まぁ用途に関しては何でも大丈夫ですよ』
ご自由にどうぞと続ける通信越しのサリエナさん。
この人、俺たちの活動自体に興味がないのかな? まぁ……、ある意味管理職に向いているのかもしれないけど。
『ルーリーの一件もありますからね。基本的には貴方がたに対して、興味を示さない神が選ばれているのです』
「そ、そうっすか……」
内心を読み切ったかのように言うサリエナさんに、俺は答えて落胆した。
こうもはっきりと興味がないと告げられては、モチベーションも下がるというものだ。
『まぁただ……、全くの無関心というわけでもありません。特に、この先のことに関しては』
サリエナさんはそう言うと、画面越しにすっと指をさして言った。
『この盾をここから運び出せば、クリスタルの洞窟の表側に、モンスターが大量に沸くことになります』
「なっ!?」
「は!?」
「……ギャギャギャ、面白ェ」
彼女の言葉に、三者三様のリアクションを見せる。
モンスターが……、沸く? それも、洞窟の表側……、出入口あたりに……?
「そ、それってどういうことなんです……?」
俺の質問にサリエナさんは冷静な口調で答えてくれる。
『伝説の剣の洞窟と逆のからくりですよ、魔王。剣を抜くと試練がなくなるというシステム――――とは逆。つまり、盾を取得することで試練が発生します』
「それは試練ではなく、災いというのでは」
『そうとも言いますね。もっとも災いが降りかかるのは、こちら側ではなくこの洞窟周囲の方々ですが』
確かにそうだ。
どれほどの魔物が出現するのかは分からないが、離れているとは言え周囲には町だってあるのだ。
衛兵もいるだろうが、この洞窟レベルのモンスターが襲い来るとなれば被害もそれなりに出るかもしれない。
そしてそれを平左の沙汰で言わないでほしい。危機的なリアクションをしていることに疑問を感じてしまうので。
ヤバいんだよね? 俺のこの感情、合ってるよね?
混乱と思考整頓を行っている俺を他所に。
サリエナさんは、静かに言い放った。
『さてそれでは勇者よ……、洞窟の出口へ向かいなさい。あなたの実力であれば、一人で戻ることは難しくないでしょう?』
サリエナさんの言葉に。
メアの身体がピクリと揺れる。
「あぁ……、あーあーあーあー、……なるほどな?」
かくかくと小刻みに首を振り。
メアは、何かの納得を繰り返している。
「……こっちからも一つ質問だが、色黒ゴミ女神も、噛んでくれてるのかァ?」
『えぇもちろん。
喜んでソチラに向かいましたよ』
そんな風に。
謎の会話を行い、通じ合ったようにしている二人。
な、何なんだ……? メアは何を納得したってんだ?
「ギャーッギャッギャッギャッギャ!」
メアはいつもの調子で。
嬉しそうにひとしきり笑う。
邪悪で無邪気でギザギザした大声が、洞窟内に響き渡った。
「――――なるほどなるほどォ! ありがとうよ、サリエナァ!
……ルミエラにも、礼を言っといてくれ。アァいいや……、こっちにいるんだったら直接言っとくわ」
『干渉はできませんので、直接は会えませんよ。伝えておきます』
「そうかいそうかい。
ンなら、いっちょよろしく頼むわ」
言ってメアは準備運動よろしく身体を軽く動かしていた。
俺がどうしていいか分からずにいると、通信のサリエナさんが言う。
『魔王。勇者への魔力配分を、九割にしてあげてください』
「きゅ、九割ですか……?
さっき言ってたように……、先にメアを外に出させるってことですよね?」
『えぇ、勇者はそのつもりみたいですね』
まぁ確かに……、方法はそれしかないだろうな。
先にメアを外に向かわせるということは、一人で発生したモンスター群を相手取るということなのだろうし。
問題があるとすれば、俺(チカラ一割)とシャルエール(一応経験を積んで強くはなっている)でこの洞窟を抜けられるかが心配ではあるけれど……。いや、贅沢は言ってられないか。
「前提としては……、そもそもこの盾を取得するということをしなければ良いだけの話なんだけど……」
もうメアは。おそらく。
既に、取得した後のことを考えているようだし。
たぶん――――、この装置を発生させないという選択肢は、メアも、女神側も、想定してないのだろう。
この行動にどんな意味があるのかが分からないけれど、そういえば今までもそこまで大して行動してなかったなと、半ば思考を諦めた。
「まぁ……、なるようになれ、だな」
「おう豚ァ。決まったら早くしろ」
「……あぁ。お前に任すことにしたよ」
俺はまだ、今のこの状況がよくわかっていないけれど。
コイツが納得してるってんなら、もういいんだろう。
一蓮托生。
せっかくだから、付き合ってやるさ。
なんたって、とうの昔に。
覚悟を決めることなんて、諦めてんだからな。
「振り回されんの上等だ。
それじゃあ……、ヤるぞ……、メア」
とりあえず。
魔力配分を終えた直後、メアはかなり上機嫌だった。
ただ、通常の上機嫌ではない。
なんというか……、誕生日プレゼントを買ってもらえると分かった時の子供みたいな。
表情はいつもの好戦的なソレのままだが、なんとなく、そんな印象を受けた。
「んじゃァちょっくら行ってくるぜ、豚ァ。
――――二時間だ。二時間経ったら、盾をどっちかが取れ。それで……、全部の決着がつく」
そう言い残してメアは、格好よく笑って洞窟を飛び上がっていく。
まるでロケットのように発射されるメアの姿はぐんぐん小さくなり……、あっという間に視界から消えていった。
「……あの、結局どういうことだったんです?」
特に現状でデメリットが無かったので、なし崩し的に魔力を分け与えたけれども。
不可解なことが多すぎる。
メアの納得の理由。
メアの感謝の理由。
メアがあれだけ嫌っていたルミエラを、名前で呼んだ理由。
「せっかく二時間あるんですから、話してくれますよね?」
『えぇ。お話しますよ。
しかしまぁ魔王、流石ですね。本当に……、よくしつけが行き届いていると、感心しました』
「へ?」
突然の賛辞に、俺はきょとんとする。
メアが機嫌よくなったことに、俺の何が関係してるっていうんだ?
『それではお話しますね。
この一連の騒動の、こちらの思惑を――――』
メアとの会話を知っていてか、サリエナさんは『思惑』という単語を使って。
説明を、開始する。
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