19.閑話
クリスタルの輝きと焚火に照らされ、俺たちは一息つく。
「結界魔法はきっかり四時間。
それまでは、どんなモンスターだろうがこの空間には入れない――――ことになっている」
水場を含むこの一帯を、俺たちは休憩スペースとした。
地下も六階くらいと深いのにも関わらず、水が溜まっている場所があって助かった。
俺、メアは普段通り。
そして、少し離れた場所に座るシャルエール。
上下ともに衣服を纏っているが、鎧はつけていない。
だから、やや盛り上がっている羽の部分や足先の爪の形など、人間と違う部分も俺たちに見えていた。
けれど。シャルエールはそれを隠そうとはしない。
というよりも、メアがさせなかった。
「見せていろ、シャルエール。
……大丈夫だ。ワタシらは――――師匠は、それを不気味がらない」
なァと顎で振られたのであぁと返事をする。
だんだん俺のほうが立場弱くなってませんかね。尻に敷かれるタイプなのか、俺。
「師匠は元々……、魔族の頂点に立っていた、魔王ってヤツだからなァ」
「……!?」
「ちょ、ちょっとメア!?」
突然のメアからのカミングアウトに、戸惑いを隠せなかった。
驚きの色を示しているのはシャルエールも同じだ。が……、すぐにその硬直は解いてくれた。
「魔王……。魔王、か」
二、三度ほど呟き、事実を確認するシャルエール。
「……なるほど、ね。うん……。キミの強さの理由がわかった気がするよ。まさか……、魔王、だとは」
「ごめんな……、シャルエール。隠してて……。その……、怖い、よな?」
俺の言葉にシャルエールは「いいや」と首を横に振る。
「怖くないよ。僕のために戦ってくれたんだ。キミを恐れる必要なんて、ないさ」
「シャルエール……」
ほっとして俺は彼女にちょっとだけ身を寄せる。しかし何故か、同じ距離体を引かれてしまった。
「あ、あの……? シャルエール、さん?」
「い、いや! すまない! その……、わか、分かってはいるんだ、が……!」
「や、やっぱり、怖い?」
「ちが、違うんだ……、が、……その」
その様子を愉快そうに眺めていたメアが、横合いから口を出す。
「ギャギャギャッ! 『さっきの』を思い出しちまってンだろ? 許してやれ、豚ァ」
「さっきの……って、……あー、なるほど」
「う、ぐぐっ……」
なるほどね。完全に理解したわ。
これは俺が悪いな。謝りを入れておかないと。
「すまんかったシャルエール! そ、その……、さっきのにはきちんとした理由が……!」
「だ、大丈夫だ! なんとなくだが……、ぼんやりとは分かっている!
それにアレは、慣れてくるととても気持ちが良かった気がする! まるで疑似的な、」
「もうそのネタはやめろ! 聞いてるこっちが頭おかしくなるから!」
「その、感覚としては似ている気はするよ。まぁ僕は経験が無いから、詳しくは分からないんだけども」
「悲しい自己紹介をどうも」
回復直後の会話では無かった。
まぁいい。
それから。
少しだけ時間をおいて。
俺たちはこれまでのいきさつを、軽くだけれど話した。
シャルエールは現状の俺たちのことを理解してくれたようで。
「――――なるほど。それが、きみたちの『これまで』というわけか」
「あぁまぁ、……簡単に話すと、な」
これまでの道のりをざっくりと話す中で、シャルエールには俺のことも伝えた。
魔王時代、むしろ人間の配下のほうが少なかったこと。
ハーレムを作っていて、十年間やりたい放題していたこと。
そしてそんな王国を、メアに打ち滅ぼされたこと。
そのあと罰として、更なる強敵を倒す旅に同行させられることになったこと……。
「だからこの豚は、お前みたいなのは見慣れてんだ」
「そういうことだったのか……。それは、少し安心した」
焚火に照らされた彼女の横顔は、安堵が見てとれる。
亜人種はまだまだ受け入れられない土地のほうが多いからな……。ここでも、やはりそうなんだろう。
ファンタジーな世界にも、そういうのは存在する。
こっちに来て……、ずっと魔王やって……。最近は近くにメアがいるもんだから感覚マヒ気味だったけど。
そうやって困ってる人もいる、か。
「ワタシの失敗は、先にそのことについて師匠に話さなかったコトだなァ」
唐突にメアは、足を組んで横になりつつそう言った。
「……気づいていたのかい? アールメイア」
「何の亜人種かは分からなかったぜ? けど、人間とはパーツの動かし方がほんの少ぉぉぉぉしだけ、違ったからなァ」
「マジかお前。すげえな」
「むしろ師匠が先に気づいてやれよ。周囲にいっぱいいたんだからよォ」
「無茶言うなよ!」
そんな風に言い合っていると、シャルエールは「フフフ」と笑う。
「ありがとう、リョウスケ、アールメイア。
キミたちに出会えて……、良かった」
言って彼女は。
最初に会ったときのような。
凛々しい笑顔を、俺たちに見せたのだった。
一息ついて、温かい飲み物を入れる。
もうすっかりテンションも元に戻ったシャルエールに、俺はほっと胸をなでおろしていた。
リラックスして横になった状態で、メアはシャルエールに言葉を投げる。
「だいたい、翼くらいワタシも生えるぞ」
「え、そうなのかい?」
「そういえばそうだったな。角も生えたっけ?」
「形態による。勢いで尻尾のほうが先に出ることもあるかなー……って感じだな」
「懐かしいなぁ……」
「…………、」
そんな発言に、シャルエールは唖然としていた。
「特殊だってこと、気にしすぎなんだよお前」
「そ、そうなのだろうか……」
「メアは気にしなさすぎだけどな。もうちょっと慎ましやかに生きろ」
「これでもだいぶ我慢してる方なんだが?」
「そりゃお前、我慢って意味を間違って捉えてるだろ」
がやがやと。
先ほどまでのピンチが嘘だったみたいに会話は踊る。
「そういえばアールメイア、髪が短くなったね。呪いの髪だと言っていたけれども」
「ん? アァ。こんなことがあってだな……」
「ふむ……、そんな戦術が……? 嘘だろ?」
「ギャギャギャ、自由に動く武器ってのは便利だぜ?」
女子は女子で戦闘談義を開始している。
……メアが楽しそうに他人と喋っているのは、何だか新鮮だ。
そういえばサリエナさんとも意気投合してたっけなぁ。
――――それじゃあ、本物の魔王とかになったらどうです?
――――いっそのこと世界を統治しちゃうとか!
――――だったら俺ら、美女とかあてがいますぜ?
――――いるだろ、美女。女は楽しいッスよ?
喧騒に紛れて。
そんなことを思い出す。
愉快だった仲間たちと、こんな風に話をしていたことを。
「……あったな、」
……いかんいかん。魔王時代のことは忘れよう。
世界的に見ると、アレは。……悪いこと、だったのだから。
「……」
シャルエールの背中の羽が、目に入る。
人間外の……生物か。
どんなやつらでも。
俺みたいなヤツでも。
自由に生きられるようになればいいのになと、あの頃のように――――いつの頃のように? ちょっとだけ、思った。
「おい豚ァ、話聞いてんのか?」
「そうだぞ、リョウスケ。キミにも意見を聞きたい」
「おっとすまんすまん、ぼんやりしてたわ」
二人の声で意識をこちらに戻す。
「何の話してたんだよ?」
「うむ。ワタシが巨乳になったら、どんな下着が合うかを話していたんだ」
「僕はアールメイアには、攻撃的な赤や派手なオレンジが似合うと思うんだが……、ぜひキミの意見も聞きたいな」
「ほんとに何の話してんだよ!?」
まったく。
こっちの世界にきてから、今も昔も、
俺の周りに集まるのは愉快なやつらばっかりだ。
呆れながらも俺は、謎の女子トークに付き合うのだった。
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