20.彼女の足跡・1
シャルエール・ミスリルファヨンは、ハーピィと人間との間に生まれた、ハーフの亜人種である。
中途半端な人間の身体。
中途半端な羽毛。
美しい銀の羽は、両翼とはならず。
片方だけしか生えなかった。
同じハーピィ族からは迫害を受け、縄張りの森から追い出された。
戸籍のない人間種として暮らし、学もない彼女が就ける仕事は……、少なくともこの付近では、冒険者という職だけだったという。
どこかに雇われるわけにはいかない。
身分が証明できなくとも、低ランクの依頼であれば一応は受けることができる。
そうして細々と生き延びていた彼女だったが、――――とある日。
依頼の最中の、水場にて。
身体を洗っていたところを旅人に発見され、この周辺に、片翼を持つ人間がいるとの噂が流れてしまった。
幸いにも、すぐには彼女だとはバレなかったようだが。
静かに静かに、じわじわと噂に首を絞められる恐怖と戦う毎日だったという。
そしてそんなある日。
この土地を収める名家の一つであるミスリルファヨン家長女の師団に、秘密裏に囚われることとなる。
噂の真偽を平和的に確かめようとしたらしいのだが……、当の本人からしてみれば、そんなもの恐怖以外のことはなく。
けれど。
抵抗むなしく、捕獲され、取り押さえられる結果となったのだった。
「まぁあなた……、本当に片翼がありますのね?」
師団は全部で六名。
それぞれがそれぞれ、腕の立つ猛者ばかりだった。
捉えたシャルエールに対し、ミスリルファヨンの長女・マーゴットは、麗しき声でそう言葉を投げる。
「殺すなら……、殺せ……。僕はもう……、どのみち生きてはいけないのだから……」
自身の舞い散る羽を、どこか他人事のように眺めつつ、
彼女は息も絶え絶えにそう言った。
死を決意した言葉にしては、とても美しく響いたという。
現時点で。
彼女は不幸の連続であった。
けれどその中で、唯一幸運だったのは――――
「気に入ったわ、あなた!」
この、マーゴット・ミスリルファヨンと出会えたことである。
彼女はそんなシャルエールを見て、何故だか嬉しそうに笑う。
貴族にしては、あまりにも屈託のない、あどけない笑顔だった。
この長女。
マーゴット・ミスリルファヨンもまた、変わり種であった。
事情を聴いた彼女は、シャルエールを美しき領地内へと招き入れる。
不思議と抵抗しようという気にはならなかった。
周囲の武力も多少は付随してはいるものの……、マーゴットの慈愛に、少しずつ絆されていったのだ。
人生に。雪解けが訪れる。
彼女を守る六人の騎士も、元はどこかの荒くれものだったという。
一人、一人。
また一人と。
彼女の持つ、謎のカリスマ性と面白さに、惹かれていく。
「俺たちもそうなのサ。マーゴット様に、拾っていただいたんだ」
元・荒くれものの一人は言う。
粗暴なままでは、あの剣戟は振るえない。そう思わせるまでの実力を、彼らは確かに秘めていた。
マーゴットの元で、彼らはきっと……、変わったのだ。
「目も、声も、髪も、――――生き方も、とっても綺麗よ、あなた」
黄色い花に囲われた庭園にて。
彼女は傷ついてしまったシャルエールの羽に触れ、言う。
柔らかだが、強かな、『これに触れるという』芯を持った指先だった。
今まで自身に対して行われたことのない振る舞いに、シャルエールは動揺を隠せない。
そんな心の動きを見透かしたかのような瞳で、マーゴットは美しい言葉を口にする。
「貴女。
面白いから……、ミスリルファヨンになりなさいな」
マーゴットがそう言って笑うと、周囲の師団らは呆れ、笑っていた。
あっけにとられるシャルエールを、置き去りにする明るさ。
「またお嬢様の悪いクセが出やがったぜ……!」
「ぎゃっはっは! でもまぁ、どうせいつもみたいに、飼いならしちまうんだろ?」
「そりゃそうだ。俺らを見ろよ! 野良犬みてえだった俺らが、今じゃ立派な忠犬だぜぇ!?」
「バカか。お前は忠犬ほど頭良くないだろ? もうちょっと考えろ」
「お前もバカかよ。コイツにそんな良い頭が備わってるワケねえだろ?」
「それもそうか」
「てめえらふざけんなよっ!」
「じゃれあうのもそこらへんにしとけ、狂犬ども」
「一番の狂犬が何か言ってやがるぜ」
「あぁ、狂ってるかもなァ……? マーゴット様! 俺はあなたに狂いまくってますからッ!」
「てめ、抜け駆けはなしだぞ! 俺! 俺のほうが狂ってます!」
「いや俺のほうが!」
「俺は狂ってなくてもあなたが好きでーす!」
「俺のほうが好きです! 特におっぱいとか!」
「俺もおっぱいが好きです!」
「むしろおっぱいが好きです!」
「「「「「「おっぱい! おっぱい! おっぱい! マーゴット様のおっぱい! フゥーッ!!」」」」」」
「お黙りなさいな馬鹿ども」
……。
ともかく。
マーゴット・ミスリルファヨンは貴人で、奇人で。
変人で。
そういった『人間』に、彼女は一度助けられた。
高貴な姿が映えた彼女は――――
表向きはミスリルファヨンの三女として。
裏ではミスリルファヨン家に使える兵士として。
生きることとなった。
生きることを、許されたのだった。
「マーゴット姉様。ありがとう……」
「よくてよ、シャルエール。わたくしを常に想い、わたくしに恩義を感じ……、自分のために生きなさいな」
服で隠れた彼女の羽が、ぴくりと揺れる。
そうして――――
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