14.時系列、戻る
こうして。
時系列は、最初に戻ることとなる。
天界にて女神二人から新要素のチュートリアルを受け、その過程でメアがいらん借金を作り、町に戻りったと思ったらギルドにて変なヤツらに絡まれ、紆余曲折あってシャルエールと共にクリスタルの洞窟に赴き、彼女とのトラブルを起こしてしまって――――今に至る。
「さっさと帰って師匠とラブラブエッチしてェェェェェッッ!」
こんなことをメアが叫んだのも、これまでのストレス発散のせいだ。
メアにしては……、我慢してたほうかもな、確かに。
ただ。
分かってはやれるけど、それでもそんなこと大声で叫ぶんじゃねえ。
――――そもそもメアにとって。
借金返済という名目のためのクエストということ自体が、知らずストレスになっていたのだとは思う。
そこから更に、シャルエールの離脱。
不用意に覗いてしまった俺のせいだと思うのだが。
メアは何故だか、頑なに自分のせいだと言ってきかない。
一度立ち止まり、周囲を確認する。
「しかし……、だいぶモンスターも強くなってきたなぁ……。シャルエールのやつ、無事だといいけど」
「下手したらワタシより速度が出るんだろ? だったら、逃げ続けることは出来るんじゃねーかァ?」
「けど、囲まれたりでもしたらアウトだろ」
「まぁなぁ……。それじゃ、アウトになる前に、早ェとこ見つけて保護しねえとなァ」
走るぞ豚という彼女の言葉で、再び俺たちは駆け出した。
今俺たちが向かっている先は、地下六階ほどの深さにある場所。
現在がだいたい五階層くらいの深さなので、もう一階層下らなければならない。
岩場を跳ね、魔物群を蹴散らしながらそんなことを俺たちは話す。
爆発魔法の派手さも相まって、ちょっとしたテロリストみたいだった。
「しかしさすがだなメア。抜け目ない」
「万が一のためだよ。あんな逸材、亡くすのは惜しいからなァ」
逸材……か。
まぁ確かに、すげえ強くはあったけれども。
メアがそこまで言うのは、本当に珍しいな。それほどまでの才能と、伸びしろを感じたということか。
「一応、場所を確認しておいていいか、メア。
シャルエールが思ったよりも速いから、目測狂ってるかもしれん」
「いいぞ。……情報はきっちりと共有しとかねえと、後で面倒になるからな」
俺は走りながら、メアにもう一度感知魔法の説明を受ける。
まぁ簡単に言えば――――魔力によるGPSだ。
メアはあらかじめ、万が一彼女とはぐれてしまったときのために、魔力を辿れるように細工をしていたのだそうだ。
しかもご丁寧に、鎧などの装備品ではなく、髪の毛の中に仕込んでいたらしい。
多少の水浴びくらいなら取れないとのことで……、俺たちはその魔力を感知し、追跡を行っている。それに……、
「道中に、わずかにだが銀色の羽毛が落ちてやがる。コイツが何よりの証拠だな」
おそらくこの感知魔法を頼りに進んでいけば、シャルエールを発見することが出来るだろう。
「しかしメア……、よくそんな魔法使えたな?からめ手的な魔法って、興味ないだろ?」
「まぁなぁ。
ただ……、師匠とこの先も、ずっと旅するってなるとよぉ、あったほうがいいかなーって、思ってたんだよ」
「メア……」
「『メア……』じゃねーよ。言っとくが、これは師匠を好きとかそういうのとは関係ねーからな! 無いと不便、マジでそれだけだ」
「お、おう……。お前が言うなら、マジでそうなんだろうな」
何か感動した俺が馬鹿みたいである。
ツンデレ的なデレではなかったみたいですね。
「だいたいデレるってんなら……、真正面から『好きだ』って何回も言ってンだろーが。耳ついてんのか? 一旦殺すぞ」
「キレ方が怖いんだよなぁ……。というか、そこまで言わなくてもいいだろ。デレながらガチ怒りするって、どういう技法のヒロインだよお前」
こういうのも素直デレキャラに当たるのだろうか。
だとしたら、もうちょっとまともなデレが出来るヒロインをよこしていただきたい。
「――――っと、メア。坂道だ」
「お、ようやくか。
……魔法の感知じゃあ、この下で一旦止まってるみてえだなァ」
「止まってるって……、それは、」
「豚ァ、……余計なことは考えンな。ワタシらは迎えに行く。ただそれだけだ」
そうだろ? と、幼女に似つかわしくないニヒルな笑みを見せるメア。
……っとに、カッコイイやつだよなぁ、コイツは。
「うし、行くかぁっ!」
「おう、その意気だぜ豚ァ!」
五階層目の坂道を降りて、六階層目へ。
クリスタルの輝きは、増していく。
不安は、大きくなる。
シャルエールの無事を祈りつつ、俺たちは落下するように下を目指した。
周辺はこれまでと同様、クリスタルによって光り輝いている。
ただしこれまでとは違い……、どこか神秘さが増しているような。そんな気がする。
「気ィつけろ豚ァ……。居るぞ!」
「あぁ……! しかし、なんだ、この気配……?」
モンスターとも違う。
何か……、イヤな気配だ。
魔王をやっていたこともあったからか、それなりに危険察知のハナは効くようになってきた。虫の知らせというか……、悪い予感は割と当たるほうなのだ。
闇落ちしたルーリーのときと、似たような邪悪さ。
そして、異質さ。
全身の毛がぞわりと奮い立つ。
「これ、は……」
俺たちの目の前には、大きなクリスタルの壁がある。
ずっと――――そう思っていたのだけれど。
「メアッ! こいつ……っ!」
「……チッ! 避けろ、豚ァ!」
相手のアクションよりも早く、俺たちはその場から散開する。
それと、同時だった。
「なぁ――――!」
一直線の輝き。
レーザー砲のような、魔法による一撃だ。
それが、俺たちの居た地点へと。瞬きにも満たない速さで放たれていた。
特殊な硬度を持つはずのクリスタルが、跡形もなく砕け散っている。
「……動いてなければ直撃してたな」
「ギャギャギャ! 面白ェ!」
……アレが何なのかは分からないが、とにかく危険なものには変わりない。
十メートルくらいあるこのフロアの天井。それと同等くらいの巨大さが聳え立っている。
「そうだメア、シャルエールの反応は!?」
「曖昧にしかわかんねえが、反応は……、あの壁の向こうからだなァ」
指を差し、忌々しそうな表情を見せるメア。
しかし珍しい。メアがこんなにも味方というものに執着を見せるなんて。
「それじゃあ……、あの『壁』が、シャルエールを取り込んだってことか?」
「どうだろうなァ……。ただ単にあの『壁』が、通路を邪魔してるってだけかもしれねェ。生物には変わりなさそうだしな」
「え、生物なのかアレ?」
俺が尋ねると、メアはあぁと頷いて続けた。
「さっきワタシがぶっ飛ばした、ゴーレム。それの派生だよありゃあ」
「はぁなるほど……。超巨大クリスタルゴーレム、ってところか……。移動するまで待つ……、ワケにはいかないよな」
「あぁ、時間がねえ」
俺たちは目も合わさず、即決する。
アレがどれだけヤバいものでも、関係ない。
シャルエールが危険に晒されているかもしれないのだ。
一刻を争うのであれば……、躊躇している場合ではない。
「壊すぜ、豚」
「おう、任せる」
魔力を、分け与える。
メアの背中に手をあてがい、『天罰大痛輪』の要領で魔力を注入・分配していく。
今までの状態が五十だったからな……、七十、いや……。
「メア、八十だ。良いか?」
「おう……、来やがれ豚ァ!」
俺は更に力を込めていく。
メアの背中に、身体に、熱が満たされていくのが分かる。
少しだけ、短く身震いをして。
ふうと息を吐く。
「……ったく、自分の力を戻してもらうだけだってのにな。
血液に異物が入ってくるみたいな感覚が、まァだ慣れやがらねェ」
「ハハハ……。まぁ、いっちょ頼むぜ、メア」
「任せろ、殺す」
そいつは頼もしい。
ぱきぱきと指を鳴らしたメアは、無防備にもクリスタルゴーレムの前に勢いよく飛び出した。
――――それと、同時。
がさがさと俺の周囲を、先ほどのラット型と同系統のモンスターが包囲する。
「なっ!?」
「豚ァ!」
「こ、こっちは大丈夫だ! お前はゴーレムに集中しろ!」
心配そうなメアの声を、俺は素早く遮る。
ここらへんの捌き方が、以前とは違うところだ。
メアと俺は、互いに魔力を分け合っている。
つまり、メアが強くなればなるほど……、俺の方は弱くなるということで。
「まぁ元々はメアのチカラなんだし。文句は言わねえけどよ……!」
ルーリーから与えられた力を没収された時点で、本来ならば俺は、こんな力を振るえることも無かったのだ。
そう――――これは、俺への恩情でもある。
天界側はメアを野放しにできない。だから俺という枷をつけた。なるほど、そうだろう。
けれど同時に、俺の中に入っているチカラも、没収しなければならない。
これまで自由に振るえていたはずのものを、奪う。
メアの力をコントロールする代わりと言えば聞こえは良いが、要はこの分配による俺の中の魔力というものは、副産物のようなものである。
「それで上等だ……っ!」
この洞窟中で散々見てきたむき出しのクリスタルが、今は何故か冷たく見える。
ふぅ……、大丈夫。大丈夫だ。
これくらいの魔物の数、魔王ならものともしないハズだろ?
息を吸って。
吐き出して。
剣を構えて。
魔力を流す。
「――――さぁ来やがれ」
アイツは今、ちょっとした大仕事中だ。
「勇者の元へは……、この魔王が行かせねえよ!」
そうして魔王は、勇者の背中を守る。
戦闘、開始だ。
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