13.翼
気になってシャルエールの後を追う。
岩場の方へと向かってみると……、途中に、銀色の羽が落ちていた。
それが少量ではあるが、岩場から、水場のほうへと続いている。
「いけね……、そういえば身体を洗ってくるとか何とか言ってたな……!」
よく見ると岩場には、鎧や剣、その下に纏っていたであろう衣服類が乱雑に脱ぎ捨てられていた。
「引き返すか……。このままだと鉢合わせることになる」
パーティを組んで間もないのにも関わらず、ノゾキで解消とかイヤすぎる……。
俺に興味があろうがなかろうが、裸を見られるのは抵抗あるだろうからな。
「……ッ!?」
そんな、呑気な考えを思い浮かべた矢先。
洞窟の天井に、『何か』がいることが分かった。
俺の頭上ではなく、少し先。
まさに、水場があるところの上。
岩に隠れてちょうど見えないが、水の波紋により、そこにシャルエールがいることが予想できた。
「まず……」
ぱちゃぱちゃと、水を肌に当てる音がする。
天井からのクリスタルの輝きもあってか、水面に人影らしきものも確認できた。おそらく、彼女だろう。
……剣はここに置いてあるということは、シャルエールは今、完全に丸腰ということだ。
武器なしでも自衛できる可能性もあるが……、だめだ、危険は無視できない!
「ノゾキに、なっちまうかもなぁ……」
でも仕方ない。
俺が嫌われて、彼女の命が助かるのなら、……それでいい!
どういう理屈かは分からないが……、逆さの状態で天上を歩き、下を眺めているラット型モンスター。
その、真下にいるシャルエールへと、完全に狙いを定めたのか。
身体を一瞬収縮させたかと思うと――――弾丸のように一気に身体を地面へ向けて発射した。
「くっ!」
落ち着け。
大丈夫だ。この距離なら間に合う――――
そう思い、俺が彼女の元へと飛び出した直後だった。
「はぁぁっ!」
澄み切った掛け声と共に、何かがラットの身体を両断した。
そうして。
その姿を、俺は目の当たりにする。
銀の――――翼だ。
それにより、ラットは二つに分かたれ、水面へと落下した。
流れていく血の先に、俺は人影を見た。
「……シャルエール?」
「……ッ!?」
背中越しにこちらを見る、猛禽類を思わせる瞳。
水に濡れた美しき白い肌は、戦士の筋肉をうっすらと帯びている。
その背中には、大きな銀色の、片翼が一つ。
細い腰、の下。
本来ならば尻の割れ目があるであろうその箇所は、銀色の羽毛で覆われていた。
「有翼人種……、か?」
俺は疑問と共に、
顔を上げる。
もう一度、視界は上へ。
顔を見やる。
それは先ほどまで共にいた彼女。
間違いなく、シャルエールの姿だった。
「……シャルエール?」
俺の言葉が彼女に届くや否や……、彼女は胸を隠した状態でこちらを見る。
鎧の上からでは分からなかった、割とボリュームのある半球形の胸が、両腕に押しつぶされていた。
鋭く大きな片翼が、ピクリと揺れる。
細い腰に、白い肌。腰まわりの羽毛も水に浸り、どこかフェチズムを刺激、す、る……って、しまったぁ!
「あ……、いや! すまん……! の、のぞくつもりは……、」
無かったんですと俺が続けるよりも先に。
「み……、」
「うん?」
シャルエールは、鋭く言葉を紡ぐ。
「……見たなッ! この、姿を……ッ!」
瞳から、怒りと……、何かの感情が伝わってくる。
俺がたじろいでいるいると、彼女は激しく水流を起こし――――その場から勢いよく飛び去って行った。
「わぷっ! ……え!? シャルエール!?」
「…………ッ!」
洞窟の奥へと、驚くべき速度で跳ねていくシャルエール。……って、速っ! 何だあの速さ!?
「もしかして、鎧か!? 鎧が無いから、あれだけの速さが……?」
何にせよ速すぎる。
もしかしたら最高速は、メアをも凌駕するかもしれない。
「って、関心してる場合じゃねえ!」
俺は急いでシャルエールの装備を回収し、亜空間魔法の中へと収納する。
うん、相変わらず便利だ。……じゃなくてっ!
「メア大変だ! 起きろ!」
俺はどたどたとメアの寝ていた岩場に戻り、体を揺り起こす。
「ンだよ豚ァ……。どうしたァ? 婚前交渉に失敗でもしたかァ?」
「どこで覚えてくるんだそんな言葉っ! いや違うよ! その……、シャルエールがさ……!」
そんなこんなで、俺はメアに事情を説明する。
「はぁ……、あのクソバカ騎士め。
チッ、こんなことなら、さっさとそのことについて話しておけば良かったぜ」
そんな風にメアは言って、起き上がる。
乱雑な口調で言った後、さらにつづけた。
「奥に行ったんだろ? 追うぞ、豚ァ。
これは……、ワタシのミスだ。きっちりと、責任持って見つけてやる」
顔を歪ませ笑う姿は、どこか、怒りのような感情を孕んでいるようにも見えた。
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