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12.強さと陰り



 なだらかな坂道を降りる。現在、地下三階あたりだろうか。

 天井は一フロアごとに高く、まるでシャンデリアでも取り付けられているかのように、むき出しになったクリスタルの光が天上から降り注いでいる。


 なるほど……、少しずつではあるが、クリスタルの輝きが増してきているなぁ。

 最下層はどれほど輝いているのだろうか。楽しみにもなってきた。


「しかし……、強いよなぁシャルエール」

「ん? そうだろうか?」

「十分だと思うぞ? 俺が見てきた中では、メアを抜かせば人間で一番の強さだ」


 俺の元部下の魔族たちを合わせても、相当上位に入るだろう。

 そう俺が言うと、少しだけシャルエールは表情を曇らせて、ありがとうと続けた。

 ん……? 俺、何か変なこと言ってしまっただろうか。

 ……ちょっと上から目線っぽい言い回しだったから、気分を損ねたかな? 気を付けねば。


「道中でも何体もモンスターを倒してたろ? 動きが速いのもあって、集団を制圧するのに適してるよな」

「そうかもしれないな。フフ……、リョウスケに褒められると、悪い気がしないな!」


 ハッハッハと、今までの調子を取り戻して笑う彼女。

 ふぅ良かった。変な地雷を踏んでしまったかと思ったが、そんなこともなかったようだ。


「ただまァ、まだ動きが滑らかじゃァねーな」


 俺たちよりも先を歩くメアが、そんな風に言葉を投げてきた。


「次の動きは頭にあるんだろうが、実行に移すのが遅ぇ。だからワタシらに比べて、ワンテンポ動作が遅れる」

「なるほど……。ありがとう、アールメイア」

「ギャギャ、精進しろ」

「うむ」


 ……ふ~む。

 自分よりも明らかに年下の幼女にダメ出しをされるということに対して、少々心配ではあったけど……、どうやら大丈夫そうだな。


 年齢による上下を気にするのは、もしかしたら俺がオッサンになってきたからなのかもしれないと、ちょっとげんなりしてしまうが。

 何にせよ、メアとシャルエールが良い関係になっていてよかった。


「アールメイア……。良ければ地上に戻ったら、一晩デートしないかい? なあに……、悪いようにはしないさ。悪いようには、ね……」

「ギャギャギャ、へぇ……? ワタシを誘うか、シャルエール……?」


 イイカンケイってそういう方向かい!?

 い……、いやいや、さすがに心配しすぎだよ……な?

 あぁでも。女性同士でも、別にいいと言えばいいのか……。メアも何かよく、多人数プレイがどうのこうのと言っていたような気もするし……。


「おい豚ァ。何をにやついてやがるよ? えっちな妄想かァ?」

「ふっ、いやらしい妄想をしているのかい? イイね、話題を広げていこう!」

「何で食いついてくる方向なんだ。お前らまともじゃねーよ」


 羞恥心が欠如してんのかこいつらは。

 こんなやつら(俺もだが)が強者だなんて、この世界は間違ってるなぁとかつくづく思うぜ。


 …………。

 ……。




 そのあとも俺たちは洞窟を進み、出てくるモンスターたちを倒していく。

 メアは相変わらず、大魔法をぶっ放す。

 俺は適当なところで追撃魔法を入れたり、剣で戦ったり。――――だったのだが。

 洞窟に潜り、四時間ほど。

 そんな中でシャルエールは……、驚くほどの成長を遂げていた。


「おぉ……」


 こんなにも。

 こんなにも急成長するものなのか、人は。

 学習能力が高い……というよりも、状況適応が高いのかもしれない。

 もうすでに彼女は、俺たちと比べても遜色ない動きをマスターしつつある。

 元々の強さに加えて、更に動きが洗練されてきている。そんな気がした。


「多少動きを合わせているとは言え……、すごいなシャルエール」

「はぁ、はぁ……、いやいや、必死さ……、これでも……、ね……。はぁ、はぁ。

 ふぅ……。息も、整えた。先へ進もうか」


 目覚ましい成長速度に、少なからずメアも驚きの表情を見せていた。


「うーん……、いや。ここらへんで休憩にしよう。

 ちょうど水場もあるみたいだし、一息入れていいんじゃないか?」

「まぁ、そうだな。ちょっと魔力分配も調節していいかもしれねーし」


 腰の剣を地面に置き、俺は手ごろな岩に腰掛ける。

 メアも岩をベッドにし、ごろりと寝転がった。


「おいメア……、髪の毛ほどけるかもしれないからな。気をつけろよ?」

「わかってるよ……。ンなヘマはしねー」


 そう言われはするが、やはり心配にはなる。

 固くリボンで封印(・・)してあるとはいえ……、何かの衝撃で取れでもしたら大ごとだ。


「髪の毛……? 髪の毛がどうかしたのかい?

 そういえばアールメイアは、やけに目立つ髪の毛をしているが」


 シャルエールが疑問を浮かべて聞いてくる。


「あぁその……、メアの髪の毛は特殊でなぁ。魔力の高い場所で封印が解けると、その魔力に反応して暴走状態になっちまうんだよ」

「ワタシの全力でも止められっかどうかわかんねーからなァ。……ったく、我がことながら、面倒くせェぜ」

「普段の街中とか、宿でシャワー浴びるときとかに外してる分は大丈夫なんだけどな。えーっと……? 自分自身の魔力には反応しないんだっけ?」

「あぁ。周りの魔力を食いまくる、無限の蛇に変わっちまうんだ」


 ギャッギャッギャと、メアは笑う。

 まぁ俺も一回しか見たことないけどな。それも、魔王時代のときに。

 いやあ……、あれは大変デシタネ……。

 魔王城の防壁の一画が、ものの一分ほどで食い破られたのだから。

 過去を伏せた状態で、ぼんやりとそんなことを語ると、シャルエールは息を飲んで驚いていた。


「そ……、そんな物凄い呪いを、身に宿しているのか……?」

「呪い……、呪い、ねぇ?

 ――――まァ、慣れれば平気だぜ、案外な」


 そう言ってメアは。

 何かを見透かしたかのように、シャルエールを見て、やや笑った。

 ……何だ?


「慣れ……、か」


 シャルエールはそう言って、俺たちのようには座らず、向こうへと歩き出した。


「少しだけ身体を洗ってくるよ」

「一人は、」

「何、すぐそこさ。遠くへは行かない」


 その後ろ姿は、どこか哀愁を纏っているようにも感じた。


「メア……。シャルエールに、何かあるのか?」

「さぁな~……? ギャギャギャ、ちょっと寝るぜ、師匠。その間に魔力配分いじるなら、好きにしろ」

「えぇ……。だってそんなことしたら、お前結構感じちゃうじゃん……」

「感じねぇよ。その設定は、取っ払ってもらったろ?」

「あぁそうだったな」

「まったく、合法的にエロくなれるところだったのによ。余計なことしやがるぜ」

「……してほしかったのかよ」

「今ならスケベし放題だぜ。……んじゃ、寝る」


 そう言って、本格的に目を閉じて仮眠に入るメア。

 ……まぁこいつのことだ。

 寝込みを襲われても自力でどうにかするだろうけど。


「ちょっとだけ、シャルエールのところに行ってくるな、メア」

「ん」


 メアはそう、息だけで返事をする。

 彼女の態度……、気にかかる。

 基本的には凛々しい変人女騎士だが、強さという話題で見せる、曇った陰り。

 あれは。いったい……。





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