10.銀片翼のシャルエール・2
先んじて言っておけば。
俺たちは彼女のおかげで、楽にクリスタルの洞窟へと向かうことができた。
「ここが……、その場所か」
「あぁ」
町から三時間ほど(シャルエールに移動速度は合わせた)のところにあるクリスタルの洞窟は、その名の通り、岩々の隙間からクリスタルがむき出しになっている場所だった。
薄く光り輝く洞窟の入り口。
地下の奥……の奥まで続く崖のような坂道が、俺たちを手招きしている。
「きらきら光ってるな……」
「奥はもっとすごいと聞くよ」
「そうなのか」
この分なら松明や光魔法いらずでありがたい。しかしその分、緊急時に岩陰とかに身を隠すことができないかもしれないので気を浸けなければいけない。
奥から漏れているであろう輝きに目を奪われていると、メアが「楽しみだぜ」とつぶやく。
「何がだ?」
「ここに来るまでの道中、モンスターの気配を感じなかっただろ?」
「そうだな……。それがどうした?」
「まァ衛兵らが整備してンのもあるかもしれねぇが……、もっと単純な話さ」
邪悪に笑うメアとは裏腹に、シャルエールが神妙な顔つきでそれに続いた。
「この辺りに近づきたくないのさ。モンスターたちも、ね」
「……! なる、ほど。危険すぎて、か」
俺の言葉を受けて、メアはさらに上機嫌になる。
うーむ、この戦闘狂ちゃんめ。
くれぐれも無茶を強いないでくださいね。
「とりあえず……、進むかぁ」
奥へと続く階段の手前に立つ、数人の憲兵さんたちに挨拶をして、俺たちは奥へと歩いていく。
お気をつけくださいシャルエール様と、敬礼までされていた。……有名人だな、ほんと。
「……その、シャルエール。本当に良かったのか? アンタの家柄の力を借りるかたちになっちゃって……」
坂道を降りながら、俺は一応の確認を行う。
まぁこれも、出立前に散々書類で確認はしたけれど、一応な。
「勿論、構わないさ。
それに元々、僕の実績ならばこの洞窟に入るのには申し分ないのでね。きみたちが僕とパーティを組んでくれている以上、この権利はきみたちにも与えられる」
堂々としていればいいのさと姿勢よく胸を張り、俺たちの一歩先を行くシャルエール。
ううむ、まともなことを喋っていれば、めちゃくちゃかっこいい。
男女とか関係なく、見惚れてしまうカリスマ性を持っている。
「ただし――――、きっちりとパンツはいただくよ?」
そんな風に。スタイリッシュなままヤバいことを言って、こちらにウィンクを飛ばす彼女。
後ろでメアが愉快そうに笑っていた。
くそう、メアめ……。
もう自分が関係ないからって、余裕こいてやがる。
「あぁ分かってるよ……。きちんとくれてやる。
……こんなオッサンのパンツで良ければな!」
謎の単語が洞窟に響く。
あぁ……畜生。自分で言っていて頭がおかしくなってきやがる。
シャルエールが俺に(正確に言えば俺とメアにだが)望んだのは、あろうことか、俺が履いているパンツだった。
「僕はきみに興味がわいた、リョウスケ。
ぜひとも、君のパンツのにおいを嗅がせておくれ」
変態だ。
紛うことなき変態だ。
この間のギャル系女神といい、眼鏡女神といい……、俺の周囲にはギャップを生じさせる天才しかいねえのか。
「良いじゃねぇか、豚ァ。お前に興味深々だぞ、女が」
「…………」
こいつもこいつでなぁ。
俺のこと好きなんだよなぁ? 俺に好意を寄せてくる異性がいるとなると、普通は嫉妬とかするものなんじゃないのか?
まぁ百歩譲って、惚れているのは事実だとして。
そこだけが、理解できない。
これも一種のハーレム思想……、ということなのだろうか。
いや、今は良いか……。
「少しずつ奥のほうが見えてきたね……。そろそろ一階層目だ。準備はいいかい?」
「あぁ……。分かってる」
返事をして、俺は片手剣を抜き構える。
ぶっちゃけ有り合わせのてきとうな剣だが、無いよりはましだ。
ほどなく坂を下った先に、少し広めの小部屋が見えてきた。階下へ降りるための、第一階層階段の扉だ。
「そして……、あれが門番か」
ここには地形的なもののせいか、倒しても倒しても鬼型モンスター・通称オーガが住み着いてしまうらしい。
まるでこの、クリスタルの洞窟への侵入を拒むための、門番のようであると揶揄されているとかなんとか。
遠目から、大型のシルエットを確認。
周囲のクリスタルのわずかな輝きに照らし出された邪悪な姿。
ただまぁ……、俺もだいぶ見慣れたかな。最初はすごいびっくりしたもんだけれども。
「フ……、やはりあれだけの強敵を見ても、動じないねきみは」
「あぁ、いやその……。はは……」
まさか元部下に、アレの上位種がいたからとは言えまい。
懐かしいなぁ、イノレッドくん。四つん這いなら何でも好きと豪語する、ちょっとだけアレなやつだった。手足があって、四つん這いならOKっすととても良い笑顔で笑う元部下のオーガを思い出し、ちょっと和んでしまった。
「って、いかんいかん」
今から俺は、試験官となるのだ。気を引き締めなければ。
それは四時間ほど前。
俺とメアへとシャルエールがパーティを申し込んできたときの話だ。
「方法は問わない。僕を鍛えなおしてくれないだろうか」
そう言って。
おそらくここの辺りでは相当な権力を有しているであろう、ミスリルファヨン家の三女シャルエールは、俺たちにあっさりと――――深々と頭を下げた。
「勘違いしないでくれたまえ。誰にでもこんなことをするほど、私の身体は安くはない」
「言い回しがちょっと引っかかるけれども……、いや、大丈夫。分かってますよ、シャルエール……、さん?」
「呼び捨てで結構だ、リョウスケさん」
「そうか……? なら俺も、呼び捨てでいいよ。固くるしいのは苦手だし」
そんな会話をしつつ、話を統合すると。
彼女はどうやら、武人として己に行き詰まりを感じていたらしく。
簡単に言うと、新たなる刺激と猛者を探していたということだった。
「本当はきみたちに勝負を申し込もうと思ったのだがね。レベルが違いすぎるだろうから、やめておいたよ」
優雅に紅茶を飲みつつ敗北宣言をする彼女。
「……」
そんな彼女を見て俺は思う。
あぁ……、こいつは強くなる。
自分の力量を隅から隅まで把握しているやつは、強い。
魔王時代に、幾多の無謀なやつらを見てきたから、ぼんやりと分かる。
退ける、逃げられる者の、強さを。
「ギャギャギャ、事情は分かったぜシャルエール」
メアは笑い、彼女に応じた。
「なら条件がある。ワタシらと共に、クリスタルの洞窟に着いてこい」
「クリスタルの洞窟だって……? きみたち、あんなところに近づくつもりかい?」
「まぁな」
そんな風に挑発的な態度をとるメアを、シャルエールはじっと見ていた。
「虚勢ではなさそうだね。……確かに、あんな場所でなければ、僕も成長することはできないのかもしれないな」
「強さってのは、死にかけて、全力を振り絞ったときにこそ成長する……らしいぜェ?」
「なるほど。肝に銘じておくよ」
メアの言葉を正面から受け止め、真摯に頷く彼女。
発言がヤバいだけで、基本的にはまじめな人なんだな……。
「あの洞窟の奥には、どんな攻撃にも耐えることができるという、伝説の武具が眠っていると噂にはある。
……ただ、最深部までたどりつき、帰ってこれた者はいない」
「命がけってことか……」
「帰ってきたヤツがいねえのに、なんで噂が立つんだろうなァ」
それは言わない約束だ、メア。そもそもそれも本当かどうかわからないんだから。
そういえば俺たちも、クリスタルの洞窟に向かえとは言われているが、具体的に何をしろとは言われていないな。
その伝説の盾とやらを持ち帰ればいいのだろうか。それともその噂の真偽を確かめる……とかか?
ま……、俺たちには借金があるからな。どのみち行ってみるしか無いんだけども。
「んじゃ、俺にどれだけ教えられることがあるかはわからないけど、利害は一致ってことで」
「あぁ、よろしく頼むリョウスケ。アールメイアも、よろしく」
「オゥ、頼むぜシャルエール。せいぜい強くなって、ワタシを楽しませてくれ」
そんな、ラスボスみたいなセリフと共に、俺たちはパーティを組むこととなった。
銀片翼のシャルエール。
さて、その実力やいかに。
オーガへと。
彼女が迫る。
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