9.銀片翼のシャルエール・1
短い銀の髪を、イケメン風にまとめた女騎士。どこからか吹く風に、前髪がさらりと靡く。
宝塚の男役みたいで、華のあるイケメン美女だなと思った。
彼女は、上から下まで銀に光り輝く鎧をまとっていて。
それはつまり、その重さを纏っていても動くことができるほど、肉体も相当鍛えられているという証でもある。
「どうだろう? パンツを売ってくれないかな、幼女よ」
そんな、明らかに実力者なはずの彼女だが……。
「…………、」
物腰は、うん、イケメンだ。
その証拠に、ギルド内に備え付けられているバーカウンターの女給たちからは、桃色な視線を向けられている。
そしてそれは男性も同じくだ。その所作や優雅さに見惚れていた。
ただ――――言ってることがヤバかった。
パンツを売ってくれときたか。
しかも幼女の。
なるほど、こいつは変態ですね、間違いない。
「うおお! 久々にシャルエールの頭の悪い発言来たなぁ……!」
「おう、シャルエール節炸裂だぜ!」
「何言ってもかっこいいわぁ……。あぁ、クラクラしちゃう……!」
「お前ら変だよ」
なんというか、『ただしイケメンに限る』という言葉を体現したような人物だ……。
「さぁ幼女……、パンツを……!」
「死ね、イケメン女」
「キミのパンツをいただくまでは……、死ねないかな。
ふっ……、いや……。いただいたらむしろ……、死ねないね」
なんだろうな。
喋りにタメがあるねこの人。
あれカッコイイのか……? 確かに初見では、俺もちょっと見惚れてしまったけれども。
「豚ァ! ボケっとしてねェで、取り押さえろッ!」
「え、取り押さえる!? な、何で!?」
「面倒だからに決まってンだろ!」
言うや否や、メアは変態女騎士に対して走り出す。は、挟み撃ちってこと……、か? よし……、やってみるか!
現在メアと俺の魔力配分は三十と七十。
町にいるときは俺がメアを制御できるようにと、サリエナさんが提案してくれたのだ。
メアも渋々とではあるがこれを承諾。
なんだろうな……、借金をしてしまったという負い目がある以上、言うことを聞く態勢になっているのだろうか。まぁ俺としてはありがたいことこの上ない。
なんにせよ、今現在のメアと俺では、若干俺のほうが出力面では高いわけだが……。
ただまぁ、メアの優れているところは、類まれなる『戦闘感(勘)』だ。
俺よりも魔力の出力は低くとも、こと戦闘に限っては向こうのほうが上だろう。……足を引っ張らないように頑張るぞ。
「うぉらァッ!」
「ふっ!」
「どりゃあっ!」
三者三様の叫びが、ギルド内にこだまする。
それぞれのアクションが完了した。
えー。
……先んじて言っておくと。
なんか俺、指示を勘違いしたみたいでして。
「あァ!?」
「……ん!?」
「……え?」
先ほどとは違い、三者三様の疑問符が口に出された。
メアは、周囲のダヴァン一味の残党を蹴散らしていた。
変態女騎士・シャルエールも、一味を攻撃しようとして、動きが止まっていた。
俺は、シャルエールを捕まえていた。
……。
……あー。
「え、だって取り押さえろって言ったじゃんメア!」
「そっちじゃねーよ豚ァッ! クソ残党のほうだよッ!」
「この流れだと普通、騎士のほうだと思うだろっ!?」
ペアを組んで一か月半ほど。
残念ながら、まだツーカーの仲とはいかないんだよなぁ……。
「名称で言ってくれよ! だったら俺も、きちんと違う行動取れたわ!」
「うるっせえ! いいから蹴散らすの手伝え!」
「ちょ……、キ、キミ……、離すんだっ……!」
言い合いをしながらも、俺はシャルエールを羽交い絞めにしたままだった。
あ、いけね。つい夢中だったもんだから……。
「す、すみません、どうも……」
ぱっと俺が手を離すと同時。
俺たちの目の前に、残党の八人あまりがどさどさと倒れこむ。
VSダヴァン一味は、メアの完全勝利だった(あたりまえだけど)。
「……まァ、結果的に横やりが入らなかったから、スムーズに片づけられたぜ」
パンパンと手を払い、首をゴキリと鳴らすメア。
まったく……、これじゃあどっちが悪者かわからねえなあ……。
「……っ!」
シャルエールが、驚きと困惑の表情を見せている。
……? 何だ? 話を統合すると、コイツ、さっき一度メアに撃退されてる(?)んだよな。だったら、ここまでの強さを見ても、驚かないんじゃないのか?
それとも想定以上の強さだったのだろうか。
「え、な、何……?」
疑問を口にした瞬間、その驚きの理由が判明した。
周囲からのざわつきが俺の耳に届く。
「……い、今の動き、何だよアイツ」
「シャルエールさんが、一歩も動けなかったぞ……?」
「見えたか今の動き?」
「幼女の方もヤバかったけど……、もしかして保護者っぽいアイツはもっとヤバい……?」
あ。
これ……、俺に驚いてんのか!?
なるほど。
ここ最近は、邪神だの闇堕ち女神だの天界でも上位の女神だのと争っていたもんだから、感覚がマヒしていたけれど……。
一般的な強さとは、枠外にいたんだったな、俺ら。
この地域周辺で、どうやら相当の強さを誇っているこのシャルエールさんだが。
そんな人物を一気に羽交い絞めできるとなると……、そりゃあ驚かれるわな。
しかしながら、『強さ』への驚きは大体メアのほうが注目されていたため、俺に注目が集まるというのは……、何とも慣れていないなぁ……。何だか気恥ずかしくもあるし、申し訳なくもある。
「えーと……、と、とりあえずこの場は、失礼しますねー……。
お邪魔しましたー……」
行くぞメアと、手を引いてその場を後にする。
シャルエールはその場に立ち尽くし……、俺たちを取り巻く喧騒と奇異の視線は、しばらく止みそうになさそうだった。
ギルドでの悶着から逃れた俺たちは、人の少ない路地裏へと入る。その奥にある食事処へと入り、改めて依頼内容を確認することにした。
「一応の確認だがよぉ、師匠。勝手にクリスタルの洞窟に向かうわけにはいかねえのか?」
「ぶっちゃけ俺もそれ考えたんだけどなぁ……。どうやらそういうわけにもいかないみたいでさ」
注文した特産コーヒー(正確にはコーヒーのような豆飲料水)を飲み、俺はメアへと答えた。
他の地域でもそうなのだが、基本的に冒険者は、特殊な区域以外へのクエストへは勝手に赴けないようになっている。
特殊な区域というのは、この間の『聖剣の洞窟』とかだ。あそこは、神々などの管轄なので、メアみたいな勇者は行くことができる。逆を言えば、どれだけ強かろうと――――仮にメアよりも強くても、『選ばれし者』でなければ立ち入ることはできない。
「まァそうだな」
「だろ?」
今回俺たちが向かおうとしているのは、聖剣の洞窟よりも遥かに危険度の高い場所ではあるのだが……、カテゴリとしてはギルド管轄の場所である。
残念ながら、ルールには従わなければならない。
「まぁメアや俺なら、力ずくで入れないこともないんだけどさぁ」
ただソレをやると、十中八九、神様サイドから怒られちゃうし。
規律を乱したけど許されましたという前例を……、まさか勇者側が作るわけにもいくまい……。
「人間のルールは本当にめんどうだぜ……」
「それを人間のお前が言うなよ……。一時期魔族サイドだった俺が言うならともかく……」
俺が不可能な旨を説明すると、そんな風にメアは嘆息した。
「なんにせよ……、やや面倒だけど、べらぼうに時間がかかるってほどじゃないからな。地道にやっていくしか――――」
言って、俺が椅子にもたれかかると、背後に気配を感じた。
ん……? 誰か立っている……?
「……今の話は本当かい、きみ?」
「え……?」
見るとそこには、先ほどのギルド施設で遭遇した、変態女騎士が立っていた。
存在感抜群なのに、視界に収めるまで気づかなかった……。
俺と隣り合って座っていたメアも、少しだけ驚いたような(そしてちょっとげんなりしているような)表情を見せている。……気を抜いていたとはいえ、メアでも気づけないなんてな。
「あんたは確か……、シャルエールさん、だっけ」
「正式に名乗ろう、豚の人よ。
僕の名前はシャルエール。シャルエール・ミスリルファヨン。誇り高きミスリルファヨン家の三女だ」
豚の人って……。あれか。メアが豚って叫んでたからか。
それにしたってもっと言い方あるだろう……。
「えーと、俺はリョウスケ。んで、こっちがアールメイア。
土地には定住せず、世界中を旅するタイプの冒険者をやってる」
対外向けに自己紹介をするときは、だいたいこの文言を伝えている。
ザ・普通の冒険者だ。
基本的にはこれで疑われることもない。ギルドにも一応加盟して、証明書も発行してもらってるしな――――
「嘘だね」
そんな、むしろ疑いなど全く持たれないであろう俺の自己紹介を。
目の前のシャルエールは、切って伏せた。
「いや、正確に言えば……、冒険者という職以外にも、何かに関わっているだろう?」
「……」
「例は出てこないが……、何か、アンダーグラウンドなこととかに」
おしい。地下ではなく、天上だ。
ただまぁ、良いセンはいってる。
実力があるだけではなく――――いや、実力があるからこそか。
本質を見抜くだけの心眼があるということか。
「……そうでなければ、僕を取り押さえることなど、ありえないからね」
なるほどな。
どうやら俺はあのとき、最悪の一手を打ってしまったのか。
指示の聞き間違えだとはいえ、シャルエールを取り押さえたという事実はなくならない。
周囲からの評価などから鑑みても、彼女は相当な猛者のようだからな……。
「その顔は、理解してくれたという顔だね……?
そうさ。自他ともに認める、実力者であるはずのところの僕が、一介の冒険者に取り押さえられるということは、ありえない」
自信満々に、彼女は声高に言う。
クールさの中にも情熱が籠った声が響く。
店内には人が少ないというのもあり、余計目立っていた。
「っと……すまない。僕としたことが白熱してしまった。
今更ではあるけれど、僕はきみたちに難癖をつけにきたわけでは無いんだ」
掲げようとしていた拳を下ろし、冷静さを取り戻してシャルエールは続け、こう言った。
「僕とともに――――パーティを組んでほしいんだ、リョウスケ、アールメイア。
頼む。悪いようにはきっとならないさ」
掲げられた提案に、俺は困惑し。
メアはかすかに笑って、方眉を上げた。
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