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8.どこでもトラブル



 クリスタルの洞窟と言えば、ここいら一帯では有名な危険区域の一つである。

 冒険者たちの間では、度胸試しに関わるのも恐ろしいとされる、A級を通り越したS級地帯。

 階層は五十ほどに分かれた、洞窟というよりもダンジョンめいた場所である。


「……許可できない?」

「そりゃあそうだろ、兄ちゃん。

 もうちょっと考えてから発言しなよ」


 そんな危険区域に行くには、ここらを管理している冒険者ギルドへと報告が必要なのだが……。


「許可、降りませんか」

「降りねぇな」

「うーん……」


 ……降りなかったでは済まされないんだけどなぁ。俺らの場合、任務だし。

 ただまぁ……、女神から直接依頼を受ける立場なんですよと明かすわけにもいかない。

 感覚がマヒしているが、本来なら天界に行ったりとか、神々と直接会うとか、普通の人はできないからな。一国の王が超緊急時のときに、魔法映像越しに会えるくらいである。

 それに、郷に入っては郷に従え。ルールには従わないとな。

 無法をして、この地域の規律を乱すことはしちゃいけない。


「それじゃあ……、条件とかあります?」

「まぁな。一応定めてはあるさ。ただなぁ……、こんなん誰もクリアできねえと思うぞ?」

「一応教えてください」


 ギルドのおじさんに詰め寄り、交渉する。

 おじさんは「ちょっと待ってな」と言って奥へと引っ込んでいった。


「まるで真っ当な冒険者みたいだな……」


 天界側からの依頼は、その国の王様などの許諾を得ているものもあれば、秘密裏に動かなければならないものもある。

 今回は秘密裏側。……というか、邪神討伐も本当は秘密裏だったんだけど、メアの大暴れであの有様である。


「メアを外で待たせてて良かったな……」


 このギルドは他と比べて、かなり大きい。

 名だたる冒険者たちが集まってくる、この大陸でも相当上位のギルドだ。

 さすがにそんなところで大暴れでもしようものなら、どんなに実力があろうが、どんな事情があろうが、依頼を受けられなくなってしまう。


 出禁、ダメ、絶対。

 ことは穏便に済ませなければならないのだ。


「これだ。ほらよ」


 奥から戻ってきたおじさんは、リストを手渡してくれた。

 誰もあんなところに行きたくないのか、リストの紙は少しだけ誇りかぶっていた。


「……A級任務三回に、B級八回。そして……、ドラゴンの牙を十本持ってくること、か……」

「おい豚ァ。受け付けは終わったのかァ?」

「おわぁメア……! 外で待ってろって言っただろ?」

「豚がグズグズしてるから、外で変なヤツに絡まれたんだよ」

「変なヤツ?」

「オウ。鎧の下のパンツ売ってくれたら三万ペイルとか言ってきたから、軽く殺しといた」


 おい名だたる冒険者……!


「って殺すなよ!」

「いなしただけだよ。命まではとってねえ。

 幸せそうな顔してたから、たぶん大丈夫だ」

「あん? 何でだよ」

「何も履いてねーよって言ってやったからな」


 ……ソイツは幸せそうですネ。

 あと、大切なところににゴミとか入っちゃうかもしれないからね、パンツは履こうね。


「で? 何すりゃ良いんだァ?

 どーせクリスタルの洞窟に行くには、てきとーな依頼をこなさないといけねーんだろ?」

「おっしゃる通りだ、メア。

 とりあえずこんなところみたいだな」


 俺はリストをメアに渡す。

 上から下まで軽く目を通して、メアは言った。


「時間はちょいかかるが、楽勝だな」

「まぁそうだな。ちゃっちゃと済ませちまおう」


 俺がそう返すと、ギルドのおじさんが口を開けたまま固まっていた。

 ……いけね。メアとの会話で、ちょっと気が緩んでた。

 超人常識トークみたいなこと、あんまりしないほうが良いんだったわ。


「あーいや……、今のはその……、ははは、こ、こいつに付き合っての冒険者ごっこみたいなモンで……」


 俺がしどろもどろ言い訳をしていると、背後からドでかい声が聞こえてきた。


「オイオイオ~イッ! そこのデブぅ! A級のクエストが楽勝とか抜かしやがったかあ?」

「聞こえた聞こえたぁ! どこのどいつだオラ!」


 どかどかと階段を降り、ガラの悪そうな集団が二階から降りてきて、あっという間に俺たちを囲った。

 全員屈強な戦士のような体躯をしており、みな二メートル近い身長がある。

 手には鈍器や大剣など。力自慢のような方々だ。


「なぁオイおっさん……、気のせいかぁ……? 俺の耳が遠くなっただけかな? A級のクエストが……、何だって?」


 胸倉を掴まれ、顔を引き寄せられる。

 何というか……、前の世界にもここの世界にも、分かりやすいガラの悪いのって存在するんだよな……。

 強くなった今でも、タイプとしてはすごい苦手だ。

 ただまぁだいぶ慣れたかな……。その……、主にメアのおかげですけど。


「あはは、す、すみませんね……。子供とのごっこ遊びに付き合っていて……」

「あぁ!? 聞こえねぇな? ハキハキ喋れや」

「おいおい、あんま虐めるなよォ!?」

「ギャハハハハハッ!」


 うーむ、この人たち、絶好調である。

 俺がこうして絡まれていると、周囲からひそひそ声が聞こえてくる。


「またアイツらだよ……。ダヴァン一味」

「マジで性質悪いよな……。新参を見つけては暴力振るって……」

「ただまぁ仕方ねえよ。実際強いしな……」

「十人で五体のドラゴン倒してんだろ……? 敵わねえよ……」


 ……ふむ。

 どうやら、嫌われてるっぽい、な?

 嫌われてるというより、煙たがられているって感じか……。けれど、強さも実績もあるから、下手に手出しできない、厄介な一味だと。


 だったら、問題なさそうだな……。

 降りかかる火の粉は、早めに振り払ってしまおう。


「あはは、軽口叩いちゃってすみません……。手を放していただけるとありがたいっす……、はい」

「ハァ!? オイ、何か言ってるぜ?」


 えーと、今のうちに睡眠魔法を……、と。

 眠らせたのち、てきとうに簀巻きにして外に放置しておけば、ちょっとは威厳も失われるだろう。


「ギャハハハハッ! ()が何やらブーブー鳴いてるぜ!」

()のオッサン、きちんと人語喋れや――――」



 ドンッ、と。

 そう言葉にした男の体が、音とともにその場から消え去る。

 ギルドの高い高い天井に、彼は体からめり込んでいた。



 その男が元いた地点には、小さく、金髪の鬼神が一人立っている。



「メア……、ストッ」


 プ。と、言い終わるよりも早く、更に脇の二人が左右の壁へと飛ばされる。

 スマッ〇ュブラザーズみたいな速度で飛んでいったな……。一撃で何パーセント溜まってんだアレ。


「師匠を……、豚って呼んだな……? ワタシ以外が……ッ!」


 俺の胸倉を掴んでいたであろう男に、ゆらりと詰め寄る。

 瞬間、メアの体は消え――――、気づけばそいつも壁へと殴り飛ばされていた。

 人間を弾丸にしたビーム兵器みたいだ。そんな軌道が見えたぞ……。


「師匠を豚って呼んでイイのは、ワタシだけだッ! それ以外が蔑称で呼ぶことは許さねェッ!」


 怒りポイントがおかしいだろ。

 せっかくなら、俺が絡まれたことに怒ってくれよ。


「豚を豚って言ってたのは、お前もかァ……?」


 殺すぞと、殺気を膨らませる。


 残った男たちは、ただただたじろぐことしか出来ず、少しずつ後ずさっていた。


「メア、ストップだストップ! 畜生……、だから来るなって言った……、いや、今回は俺も、ちょっと軽はずみだったか……!」


 なんにせよ、止めなければまずい。

 理由はどうであれ、基本的にアレは、怒りが収まるまでは暴れ続ける生物だ。


 衆人環視のど真ん中だが――――、最悪『天罰大痛輪(ペインズヘブン)』を使うことも視野に入れて……、


「ん?」


 そう俺が考えたときだった。

 やたらと派手な装飾の騎士が、メアへと近寄っていく。



「アッハッハッハッハ! やはり君は最高の幼女だね! 僕が睨んだ通りだったよ!」



 上から下まで銀の鎧。しかしそれらが、やたらと磨かれ、光り輝いている。

 身長は俺よりも高く、百七十五センチほど。

 腰には剣を携え、優雅な足取りだった。


 華奢。スマートだ。

 ぱっと見だと分からなかったが……、今の声の感じからすると……。


「女性……、か?」


 俺が疑問の声をぽつりと漏らすと同時。

 周囲が更にざわつく。


「シャルエールだ……! 銀片翼のシャルエールっ!」

「うわ、マジだ! 戻って来てたのか……?」

「王家から直々に依頼を受けてたっていう、あの伝説の女騎士……!」


 シャルエール。

 そう周囲から告げられた彼女は、優雅な足取りでメアの前に立つ。


「テメエは、さっきの……ッ!」

「やあ、そこの幼女。もう一度お願いするよ?」


 彼女は、静かに、誰よりも通るクリアな声で、

 こう告げた。



「キミのパンツ、売ってくれないかい? 五万ペイルでどうだろう?」







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