6.チュートリアル・終了
メアの放った魔力弾が、盛大に爆発した。
闇の魔力を内包した、黒い煙が巻き起こる。
「いつにも増して、すげえ一撃だ……」
「そうですね。流石は勇者。恐ろしい力です」
「うおわビックリしたぁ!」
見ると俺の横に、いつの間にやらサリエナさんが立っていた。
高速はもう解いていて、目隠しもされておらずメガネが復活している。
「もうあの二人の勝負っぽいですからね。人質は必要ないでしょう。暇だったので抜けてきました」
「あなた本当に、硬そうに見えてユルユルですね!」
「まぁ失礼な。キツキツですよ?」
「何の話ですかな!?」
「そんなことよりも、あの二人の戦いを見届けましょう」
「は、はぁ……」
何だか本当に掴めない人だ。
発言もちょいちょい危険だし。俺の元部下の変態性と良い勝負なのではなかろうか。
さて。
俺たちがそんなやりとりをしている間にも、メアとルミエラは地上から飛び立ち、中空で踊るように肉弾戦を繰り広げていた。
あまりにも力技すぎる、魔力を帯びた格闘術。
まともに直撃すれば体の一部が楽にぶっ飛ぶ威力の一撃を、互いにいなし続けていた。
「ルミエラは、あぁ見えて天界でも上位の戦闘力を持つ女神です。それを六十パーセントで相手取るとは、素晴らしい格闘センスですね」
「……そうっすねぇ。末恐ろしいというか何というか」
「えぇ。――――とても危険ですね」
そう言うサリエナさんのメガネの奥は、驚くほど冷たかった。
いやもちろん、今までも冷静な瞳だったのだけれども……。今のはどちらかというと、冷徹に近かったような気がする。
「しかしながら。勇者が子供で助かりました」
「へ? まぁ子供っていうか幼女っていうか……。ただ……、あんまり子供っぽくないですよ? 頭もめっちゃ良いですし」
そう俺が返すと、サリエナさんは目を伏せて、静かに言った。
「いえいえ、それはどうでしょうね。
博識、知性や知能が高い、明晰である、利発であるということと、精神の達観は、また別問題です」
眼を再び開け、サリエナさんは続けた。
「売られた喧嘩はいつでも買ってしまう。これが勇者・アールメイアの弱点です。
あれだけ分かりやすい挑発に乗ってしまうとは、ね」
「ど、どういうことです……?」
俺が質問をすると、サリエナさんは種明かしを始める。
「ルミエラが示した、賭け事の様々な条件……。あれらはすべて、『この状況』を作り出すための、彼女のトラップです」
メガネをくいっと上げ、冷徹な目を忍ばせる彼女。
「勇者・アールメイアは……、真っ向勝負を好むように見せかけて、実は本質の部分は違う。
完全なる勝利。それを望む」
「完全な……」
敵は、消滅させるまで叩く。
アジトは草の根も残らないレベルで壊滅させる。
「ルミエラがああやって条件を言い終えれば、すぐさまアールメイアは言質の裏を取りに来る。
レートアップを一番最後に持ってきたのは、彼女の計算でしょう」
会話が思い出される。
『レートアップはいつでも受け付けるから~♪』
『なら今、この瞬間から……、三倍だッ!』
売り言葉に買い言葉……とは、また違うか。
しかし。メアは頭が回る。
何をすれば相手が一番嫌がるのかを、わかっている。……だからこそ、その人間性を利用された!
「っ! ……メアッ!」
ばっと、空中を見る。
そこには、全身に魔力を帯び、今にも必殺の一撃を放とうとするメアの姿があった。
「メア……、ちょっと待、」
「もう遅いですね。魔力砲がキャンセルできない、最高のタイミング。相手を挑発し、『これで決める』と思わせることが得意なルミエラの――――、術中にハマりました」
メアだけではなく、周囲の魔力までもがザワついているのがわかる。強大な魔力に、呼応しているのだ。
「この一撃で――――ッ! 終わりだァァァァァアッ!!」
死ねぇぇぇぇええっ! という怒号と共に。邪心を葬ったときのような威力の、超火力魔法をぶちかますメア。
先ほどとは比較にならないレベルの黒い魔力の塊が、ルミエラへと飛んでいく。
その、瞬間だった。
「『返る』」
そう短く。
ルミエラが唱えると、彼女の背後に巨大な魔方陣が出現した。
「アレ、は……!?」
彼女の呼び声に呼応して、中空にパキパキと、魔方陣で何かが象られていく。
それは、メアが放つ魔法弾と、同じくらいの面積の鏡だった。
神聖さ、綺麗さという装飾の中に、どこか『棘』のようなものを感じ取れる。そんなデザイン。
状況が全く理解できていないのに、アレがやばいものだと予感できる。
そしてそんな俺とは裏腹に、メアは。完全に理解したみたいだ。
「ギッ……!」
だが――――、もう魔力の大砲は止まらない。
状況は既に完了し、進行してしまっている。
「『災厄は、夜から返る――――』」
ルミエラの呪文と共に、巨大な魔方陣が、その攻撃を阻む。
反転・反射魔法。
相手の魔法を、そのまま反射させるというカウンターマジック。
ただし俺やメアの放つ威力であれば、そんなことをされる心配がない。――――本来ならば。
魔法を反射するにはまず、その魔法自体を吸収する必要があるのだ。
吸収し、その中で反転させ、反射して放つ。これが大前提だ。
しかし吸収するには、その威力に耐えうる『器』を用意しなければならない。ここが一番難しい。
生半可な『器』では、反射する前に壊れてしまう。
「……っ!」
だから。俺も、メアも。
俺たち相手に反射魔法を使われるだなんて、微塵も考えていなかった。
「この――――ッ」
「じゃあね、メアっち♪
料金はきちんと請求するから、ヨ・ロ・シ・ク」
セクシーなウインクと共に、
ルミエラは神の一撃を放つ。
「――――、」
中空に一時的に留められたメアの魔力砲が。
その脅威が。
まったく同じ威力で、天から降り注ぐ。
「この……、ゴミ女神があああああああああっっ!!」
そんな風に。
三下のようなセリフを残し、メアはその身を焼かれ、吹き飛ばされた。
ぜいぜいと、息も絶え絶えなメアが、はるか遠くに見える。
どうしたものかと考えていると――――、怒りの形相で、血と魔力をどばどばと放出しながらこちらへと走りこんできた。
着くなり俺は胸倉を掴まれる。
「豚ァ! 魔力だ! 百パーセントをよこせェッ!
あのゴミ女神、ぶち殺してやるッ!」
ついさっきまでの友好的な態度はどこへやら。
もう完全に敵対心丸出しだった。
「え~? そこまでボロボロになったのに、メアっちまだヤるのぉ~? マジぃ?」
更に挑発するような態度をとるルミエラに、メアの顔は更に紅潮した。血液も噴水みたいにすげー出てる。
ま……、無事だったようで何よりだ……。
「チュートリアルだからってぇ、舐めてかかっちゃったぁ? 地上で最強だからって調子乗っちゃったかなぁ? それともぉ、圧倒的に圧勝してぇ――――、
リョーチンに良いトコ、見せたかったァ?」
ルミエラの挑発行為は、もう絶好調だ。
その証拠に魔力がすごい。なんか目の前が暗黒だ。
「ぐぬぅ~……! はやく……、はやくしろ豚ァ!」
小さな両腕でぶんぶんと体をゆすられる俺。
不良のカツアゲ風景みたいだ。
「あー、メア、落ち着け。……落ち着けって」
「これが落ち着いていられるかァ!
借金しようが何だろうが、あのゴミ女神を消し炭にしてやるッ!」
彼女の言葉を思い出すと。
……もともとからして。こちらは初手で二十パーセント増しの状態で相手を倒さなければ、儲けが出ないシステムなのだ。
二十五パーセントで、とんとんか。
こちらの支出が上回ったところで、レートを上げ続ければ上げ続けるだけ借金が増えるのだから。
「えー……」
現在は三倍だったか。
そうすると……、五パーセントで三億金貨だから……、メアのチカラを百パーセントにもっていくためには三十億(プラス魔力分配で三億)必要で。
相手を倒したところで五億の三倍、十五億しかもらえないわけだから、これはもう意味がない。
加えてあの反転・反射魔法。
メアの百パーセントで、アレを抜けるかというと……、ちょっとわからない。
ルミエラだって、もしかしたら本気を出してないかもしれないしな。
「おら豚ァ! はやくしろ! 師匠から先に殺すぞッ!」
しかしながらここまで尊敬の念が籠っていない師匠呼びもなかなかなものである。
最近はデレ期だったからなー……。久々の邪悪節、炸裂である。
「いや、もう終わりだよ、メア。……あーその、サリエナさん、すみません」
「え? ……あぁ、なるほど。この状況では、仕方ありませんね」
隣にいるサリエナさんに謝罪すると、彼女も快くそれを受け入れてくれた。
いやホント、ごめんなさい。
この役目はメアにする予定だったんだけれども。
「じゃあ、失礼して……」
ぱふん。と。
俺はサリエナさんの、その慎ましやかな胸に、タッチした。
「これでサリエナさんと約束したほうのルールは、守っただろ? 俺たちの勝利ってことで、終わりだ」
人質解放だ。
見事ルミエラの攻撃をかわし、彼女のおっぱいにもう一度触れた……というわけだ。
「……ぷっ! あっははははははははっ! リョーチン、マジかよ~! やるジャン! あはははははっ!」
「~~~~~~~~ッッ!」
笑うルミエラ。
憤り、その場にうずくまり項垂れるレアなメア。
ふぅと呆れるサリエナさん。
戦い終わって、三者三様といったカンジか。
「……あー、メアがこしらえた三倍の借金は、どうにか地上で工面してみるよ。
えっと……、五パーセントで一億で……、十五パーセントで三億だから……、それの三倍で、九億」
九億かー……。
手持ちが七億だから……、細かい資産を手放せば八億ほど。それでも一億足りないか。
どうしたもんかな。
「まぁでも……、契約しちまったからな。守るよ」
「オッケーオッケー、さっすがリョーチン。
その件に関しては、後で追って連絡差し上げるんで☆」
何故かアヘ顔ダブルピースを決めつつ言うルミエラ。
……使うタイミングを確実に間違ってるぞ、ソレ。
俺がげんなりとしていると、
「さて、ルール上はこれでチュートリアルクリアですね。
お疲れさまでした」
「あぁいえいえ……、その、助かりました」
ぺこりと互いに例をする。
やんちゃな子供を持つ、二人の保護者同士の挨拶みたいだ。
「さて、それはそうと魔王」
「はい?」
「一応女性として、おっぱいを触られた恨みを晴らしておかなければなりません。
覚悟はよろしいですか?」
「え、嘘。さっき仕方ありませんって言ったじゃ……へぶはぁッ!」
ぱしーんと乾いた音が荒野に響く。
彼女の鋭いビンタが、俺の左頬を襲った。
女心は分からんなあと思ったが、そういえばこの人のことを、そもそも分かってないんだったわ。
…………。
……。
こうして。
チュートリアルは終わり、
俺たちは借金を抱えることになった。
借金総額・九億円の、勇者と魔王の旅路は続く。
【読者の皆様へ】
広告の下側にある評価欄(☆☆☆☆☆のところ)を押していただけますと、作品への大きな力となります! とても嬉しいです!
感想・ブックマーク・レビュー含め、ぜひともよろしくお願いします!




